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第四章 エレナと桃色の聖遺物
85:大爆発
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「──聖遺物の気持ちを汲み取ってくれる優しい人間よ。どうかその大槌で、リリィを破壊してください。もうリリィが、大切な家族を傷つけることがないように……」
「……覚悟を決めたのか」
サラの言葉にリリィは頷く。サラは大槌の長柄に巻かれていた黒い布を己の太ももに結ぶと、立ち上がった。しかしその前にアスモデウスがリリィの前に立ちはだかる。
「どいて、アス。リリィは君も傷つけたくない」
「いいやどかないわ。今頃エレナや陛下が誰の為に必死になってるか分かっているの? アンタの為よ。アンタの気持ちも分かる。でも約束の時間まで待ってやりなさいよ。アンタの家族をもう少し信じてあげたら? ……それとも、実はアンタはエレナや陛下の事を鬱陶しく思っていたのかしら?」
「っ! そんなわけないっ! 出来る事なら、このテネブリスで皆と一緒にいたいに決まってる!! でも、駄目なのアス。リリィみたいな化け物には、優しい皆といる資格なんてない……。今まで知らないフリをしていたけど……時々、リリィの中で沢山の声が聞こえていたの。それらが何を言っているのかは分からないけれど、リリィの中には沢山の何か恐ろしいものが眠っているんだって分かるの! 今も、だんだん声が大きくなってる。もうすぐリリィの中で何か恐ろしいことが起こるかもしれない。だからそうなる前に、リリィは──死にたいのっ!!!」
「っ! アンタねぇ!! 馬鹿じゃないの!!」
アスモデウスが両眉を吊り上げる。しかしアスモデウスの振り上げた右手がリリィの頬を打つことはなかった。何故ならその前にアスモデウスの身体が宙に舞っていたから。
──は?
アスモデウスの視界が反転する。気付けば木に衝突していた。リリィが目の前に突然現れた男二人に顔を青ざめる。男の一人は獣の丸い耳が生えた──悪魔ベルゼブブ。もう一人は赤と黒のオッドアイ──悪魔ベルフェゴール。二人とも、例の婚約式に姿を現した悪魔であった。アスモデウスの身体を吹っ飛ばしたのは悪魔ベルゼブブの鋭い蹴りによるものだ。ベルフェゴールは小さなリリィを見下ろし、不気味な笑みを浮かべる。
「──そうですよ。吾輩達としても貴方に消えてもらうのは困ります。せっかく対デウス用の貴重な魔力リソースを見つけたというのに……」
「あ、あな、たは……誰?」
そう尋ねるものの、リリィは直感で目の前の男が自分にとって害悪であることを悟った。
「これはこれはお初にお目にかかります聖遺物様。吾輩は怠惰の悪魔ベルフェゴール。以後、お見知りおきを。……とは言っても貴方はすぐに自我を失うことになるでしょうがね」
「!? あ──っ、」
刹那、ベルフェゴールがリリィの頭を掴む。そしてリリィが怯んでいる隙にその額に深紅の宝石を埋め込ませた。リリィの瞳が真っ赤に染まる。そしてその場で倒れ、ビクンビクンと大袈裟に痙攣を始めた。
「おい! リリィに何しやがった!」
「おや?」
サラがベルフェゴールに大槌を振り上げる。しかしそれがベルフェゴールに触れる前に──
「う、うわあぁぁぁあああああ──!!」
リリィの叫びと共に、衝撃波が周囲を襲った。リリィを中心に大爆発を起こしたのだ。その大爆発に巻き込まれたサラは勿論無事ではないが、ロイが彼女を庇うように前に出たことでなんとか全身黒こげは免れた。
「う……っ、」
数十メートル吹き飛ばされたサラはアスモデウスと同じように木に衝突する。薄れていく意識の中で目にしたのはまさに地獄ともいうべき光景だった。禁断の大森林が一瞬で炎の海へと化していたのだ。そして原っぱの中心ではリリィが宙に浮いており、その美しい桃色の髪が徐々に黒へ染まりつつあった。二つの瞳が強い赤の輝きを放ち、その異形さを醸し出している。バキ! ビキ! と骨が軋むような音と共にリリィの身体が徐々に肥大化していた。先程の爆風を回避したベルフェゴールとベルゼブブが再度リリィの傍らに着地する。
「はは、素晴らしい! 神の魔力とあの御方の魔力は相反するもの。今の大爆発はそれらが拒絶し合っている故の反応なのでしょう! いやはやここまでの魔力量を秘めているとは、一体どの神の聖遺物なのか不思議でたまりません! この絶望的とも言える強大な力!!! うーん、吾輩、興奮してきましたっ!」
「うわっ、マジで興奮してんじゃねぇ気持ちわりぃ死ね!! ……で、この後こいつをどうするじゃん? セロの下へ連れて来いっていっても俺っち達の言う事聞きそうにないじゃん」
「この聖遺物に埋め込んだのはセロ・ディアヴォロス様の血の結晶です。もう少し待てば彼の魔力回路をあの御方の魔力が隅々まで侵食するはず。その時になったら晴れて彼は我々の仲間です。大罪を背負うものとして我々の言う事を聞いてくれるようになりますよ」
「ふーん、でもそれまで退屈ってことじゃん?」
「いえいえ、そんなことはありません。ほら、貴方の遊び相手が来たようですよ」
ベルフェゴールがチラリと振り向けば、そこには魔王とエレナを始めとする魔族一行が魔法陣から飛び出してきたところだった。変わり果てたリリィの姿に一行は唖然とする。
「──リリィ!!!」
「っ!」
エレナの叫びにリリィが反応した。エレナとリリィの視線が重なり合う。リリィは苦しそうに痙攣しながらも、必死に叫んだ。
「ううっ、来ないで!! ここから離れてよエレナぁ!!!! あああああ!! 痛い、苦しいよっ、ああ、あ──っっ!!!」
ビクンッと仰け反るリリィの身体。リリィはこれでもかというほど目を剥き──再度炎の津波を全方位へ放った。その爆風は当然、容赦なくエレナ達にも襲い掛かったのだった……。
「……覚悟を決めたのか」
サラの言葉にリリィは頷く。サラは大槌の長柄に巻かれていた黒い布を己の太ももに結ぶと、立ち上がった。しかしその前にアスモデウスがリリィの前に立ちはだかる。
「どいて、アス。リリィは君も傷つけたくない」
「いいやどかないわ。今頃エレナや陛下が誰の為に必死になってるか分かっているの? アンタの為よ。アンタの気持ちも分かる。でも約束の時間まで待ってやりなさいよ。アンタの家族をもう少し信じてあげたら? ……それとも、実はアンタはエレナや陛下の事を鬱陶しく思っていたのかしら?」
「っ! そんなわけないっ! 出来る事なら、このテネブリスで皆と一緒にいたいに決まってる!! でも、駄目なのアス。リリィみたいな化け物には、優しい皆といる資格なんてない……。今まで知らないフリをしていたけど……時々、リリィの中で沢山の声が聞こえていたの。それらが何を言っているのかは分からないけれど、リリィの中には沢山の何か恐ろしいものが眠っているんだって分かるの! 今も、だんだん声が大きくなってる。もうすぐリリィの中で何か恐ろしいことが起こるかもしれない。だからそうなる前に、リリィは──死にたいのっ!!!」
「っ! アンタねぇ!! 馬鹿じゃないの!!」
アスモデウスが両眉を吊り上げる。しかしアスモデウスの振り上げた右手がリリィの頬を打つことはなかった。何故ならその前にアスモデウスの身体が宙に舞っていたから。
──は?
アスモデウスの視界が反転する。気付けば木に衝突していた。リリィが目の前に突然現れた男二人に顔を青ざめる。男の一人は獣の丸い耳が生えた──悪魔ベルゼブブ。もう一人は赤と黒のオッドアイ──悪魔ベルフェゴール。二人とも、例の婚約式に姿を現した悪魔であった。アスモデウスの身体を吹っ飛ばしたのは悪魔ベルゼブブの鋭い蹴りによるものだ。ベルフェゴールは小さなリリィを見下ろし、不気味な笑みを浮かべる。
「──そうですよ。吾輩達としても貴方に消えてもらうのは困ります。せっかく対デウス用の貴重な魔力リソースを見つけたというのに……」
「あ、あな、たは……誰?」
そう尋ねるものの、リリィは直感で目の前の男が自分にとって害悪であることを悟った。
「これはこれはお初にお目にかかります聖遺物様。吾輩は怠惰の悪魔ベルフェゴール。以後、お見知りおきを。……とは言っても貴方はすぐに自我を失うことになるでしょうがね」
「!? あ──っ、」
刹那、ベルフェゴールがリリィの頭を掴む。そしてリリィが怯んでいる隙にその額に深紅の宝石を埋め込ませた。リリィの瞳が真っ赤に染まる。そしてその場で倒れ、ビクンビクンと大袈裟に痙攣を始めた。
「おい! リリィに何しやがった!」
「おや?」
サラがベルフェゴールに大槌を振り上げる。しかしそれがベルフェゴールに触れる前に──
「う、うわあぁぁぁあああああ──!!」
リリィの叫びと共に、衝撃波が周囲を襲った。リリィを中心に大爆発を起こしたのだ。その大爆発に巻き込まれたサラは勿論無事ではないが、ロイが彼女を庇うように前に出たことでなんとか全身黒こげは免れた。
「う……っ、」
数十メートル吹き飛ばされたサラはアスモデウスと同じように木に衝突する。薄れていく意識の中で目にしたのはまさに地獄ともいうべき光景だった。禁断の大森林が一瞬で炎の海へと化していたのだ。そして原っぱの中心ではリリィが宙に浮いており、その美しい桃色の髪が徐々に黒へ染まりつつあった。二つの瞳が強い赤の輝きを放ち、その異形さを醸し出している。バキ! ビキ! と骨が軋むような音と共にリリィの身体が徐々に肥大化していた。先程の爆風を回避したベルフェゴールとベルゼブブが再度リリィの傍らに着地する。
「はは、素晴らしい! 神の魔力とあの御方の魔力は相反するもの。今の大爆発はそれらが拒絶し合っている故の反応なのでしょう! いやはやここまでの魔力量を秘めているとは、一体どの神の聖遺物なのか不思議でたまりません! この絶望的とも言える強大な力!!! うーん、吾輩、興奮してきましたっ!」
「うわっ、マジで興奮してんじゃねぇ気持ちわりぃ死ね!! ……で、この後こいつをどうするじゃん? セロの下へ連れて来いっていっても俺っち達の言う事聞きそうにないじゃん」
「この聖遺物に埋め込んだのはセロ・ディアヴォロス様の血の結晶です。もう少し待てば彼の魔力回路をあの御方の魔力が隅々まで侵食するはず。その時になったら晴れて彼は我々の仲間です。大罪を背負うものとして我々の言う事を聞いてくれるようになりますよ」
「ふーん、でもそれまで退屈ってことじゃん?」
「いえいえ、そんなことはありません。ほら、貴方の遊び相手が来たようですよ」
ベルフェゴールがチラリと振り向けば、そこには魔王とエレナを始めとする魔族一行が魔法陣から飛び出してきたところだった。変わり果てたリリィの姿に一行は唖然とする。
「──リリィ!!!」
「っ!」
エレナの叫びにリリィが反応した。エレナとリリィの視線が重なり合う。リリィは苦しそうに痙攣しながらも、必死に叫んだ。
「ううっ、来ないで!! ここから離れてよエレナぁ!!!! あああああ!! 痛い、苦しいよっ、ああ、あ──っっ!!!」
ビクンッと仰け反るリリィの身体。リリィはこれでもかというほど目を剥き──再度炎の津波を全方位へ放った。その爆風は当然、容赦なくエレナ達にも襲い掛かったのだった……。
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