氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

47 ファンクラブ【シーズンズ】②

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Side:アシェル12歳 春



翌日。

アシェルは放課後の指定された時間に大講堂に来ていた。
メイディー三兄弟とアークエイドのファンクラブ【シーズンズ】の集会に参加するためだ。

大講堂付近に着いた時点で近くにいた女子生徒達に囲まれ、あれよあれよという間に大講堂の教卓付近まで誘導されてしまった。

座席には学年も様々な沢山の女子生徒達。
そしてそこに混じるようにチラホラ男子生徒がいた。

(アル兄様のファンかな。)

4人の中で女顔なのは、ぱっちり垂れ目の可愛い次兄のアルフォードだけだ。

アシェルの中で、アルフォードは確実にアシェルよりドレス姿が似合うと踏んでいた。
ドレスを着てくれと言っても拒否される未来しか見えないので言ったことは無いが。

「アシェル様、本日はご足労頂きありがとうございます。」

上級生が入れ替わり立ち代わり前まで来て、そう言っては着席していく。

個別に返事を返す暇もないので、アシェルは大人しく椅子に座ったまま微笑んでいた。
自己紹介されなくて良かったとほっとする。
何人かは貴族名鑑で覚えた顔もいるが、今挨拶をしてきた上級生だけでも全員の名前を聞いたところで、覚えられる気がしないほどお礼を言われたからだ。

これでまだ集会開始前である。

続々と大講堂には人が集まり、一学年ではゆとりのある座席がどんどん埋まっていく。
その人の動きも、開始時間よりきっかり5分前にはすっかりなくなっていた。

(まさかの全員が5分前行動……!学生時代を思い出すなぁ。)

密かに感動するアシェルの隣に一人の女性が立つ。
そしてアシェルに向かって綺麗なカーテシーを披露して言った。

「アークエイド殿下とメイディー公爵家の三兄弟を愛でるファンクラブこと【シーズンズ】の会長を務めさせていただいております、ティエリア・アーバンレイですわ。本日以降も是非仲良くしていただけると嬉しいわ。」

黒のリボンから最上級生と分かる女性は、風魔法で声を『拡声』しているのだろう。
大講堂内の隅々までその声が届いているようだ。

会長だと挨拶したティエリアは、琥珀色の髪の毛を綺麗に結い上げまとめている。茶色の瞳からは優しそうな印象を受けた。

「こちらこそよろしくお願いします、ティエリア先輩、そして会場にいらっしゃる皆様。……といっても、私は【シーズンズ】がどんな活動をしているのか知らないんだけどね。」

アシェルの声も『拡声』してくれているようだ。魔力を使わなくていいのは助かる。

微かにざわめく会場に、ティエリアが「静粛に。」と声をかけるだけでシーンと静まり返る。
ファンクラブと言っているが、よく教育が行き届いているようだ。中には中等部一年生も多く混じっているのに、入学から一月程度でここまでとは、と感心する。

「もちろん、本日説明させていただきますわ。そのためにご招待いたしましたの。」

そう笑ったティエリアは続ける。

「わたくし達【シーズンズ】の活動は、基本的にアークエイド殿下、アレリオン様、アルフォード様、そしてアシェル様を愛でることが目的です。その麗しいご尊顔を、美しい所作を、綺麗な美声を!この視界に、耳に入れるだけで幸せなのでございます。」

どこか悦に入ったようなティエリアの声に、会場の生徒達がうんうんと頷いている。

……ちょっと怖い。

「その中で少しばかり創作活動をさせていただく場合もございますが、基本的に四方にはご迷惑をお掛けしませんわ。製作物はひっそり、こっそりと【シーズンズ】会員のみで共有させていただいてます。」

「創作活動?」

「えぇ、細かい内容は割愛させていただきますが……小説や漫画と呼ばれる娯楽書物ですね。漫画とは文字ではなく絵で情景を描写したものになりますの。”授け子”の持ち込んだ知識らしくて一般普及はしてませんが、一部界隈では需要がありますのよ。」

つまるところ、アシェル達を題材にして小説や漫画を描いているということだ。
自分が題材になっていると聞くと。いや、秘密にされると内容が気になってしまうのは人としての性だろう。

「ちなみにその書物を観ることは?」

アシェルの言葉に会場が一瞬ざわめいた。
驚きよりも感動した声が多かった気がするが作者だろうか。

「そうですね。本来なら題材にした本人に見せるのはご法度ですが、内容については口外しない、創作活動を辞めさせないことを契約魔法で了承いただけるのでしたら、いつでもお見せできますわ。ですが……アシェル様には少々刺激が強いかもしれませんわよ?」

契約魔法で縛らなくてはいけない過激な内容とは。
思い出してきた前世の記憶のお陰で、なんとなく該当するものを思い浮かべながら、アシェルは苦笑した。
なんとなくだが、思い浮かべた数種類のカテゴリのものが取り揃っている気がする。

想像通りの代物だとすると物凄く気になるけれど、本当に見てしまって良いのか悩むところだ。
だが、面白いもの見たさの方が勝った。

「えっと、契約魔法が必要ならするよ。その上で見せてもらうにはどうしたらいいの?」

今度はすぐには落ち着かないざわめきと歓声が会場を満たした。
ボルテージが上がった会場には、感極まりすぎて泣き出す者までいる——カオスだ。

「まぁ!本当ですの!?わたくしティエリアか、妹のカナリアの寮室を訪ねていただけましたら。もちろん、襲ったりはしませんわ。ご安心くださいませ!」

「それって、ティエリア先輩が心配することなんじゃ……。」

なぜアシェルが襲われることが前提なのだろうか。

「あら、襲っていただけるのは女性冥利に尽きますけれど、ファンクラブ会長として愛でる対象とそういう関係にはなりたくないですわね。あくまでも傍観者でいたいですから。」

「お互いの同意なく襲ったりしないよ。」

ファンクラブとして、本当に対象者を愛でることが目的のようで安心する。

「妹はアシェル様と同学年ですしAクラスですから、一緒の授業に出ることもあると思いますわ。わたくしは2号棟の415号室、妹は416号室で隣の部屋ですので、どちらかを訪ねてくださいませ。4号棟と間取りは同じなのですぐに分かると思いますわ。」

「分かった、ありがとう。」

未だ興奮冷めやらぬ会場を鎮める者がいないまま話は続く。

「あぁ、素晴らしいですわ!集会に顔を出していただけただけでなく、創作物のことも気にかけていただけるなんて!!アシェル様、早速ではありますが、本日契約魔法を使わせていただいても?魔力残量は問題ないでしょうか??」

そう言いながらティエリアは『ストレージ』から術式の刻まれた羊皮紙と万年筆を取り出している。

「えぇ、大丈夫ですよ。契約内容を読み上げてもらえますか?契約内容を書く時の魔力はこちらで込めますよ。先程からずっと声を拡声していただいてますしね。」

集会が開始されてからずっと魔法を使っているので、あまり魔力を使わせない方がいいだろうと思い提案した内容は「ありがとうございます。」と受け入れられた。

「そうだ、先にこれ飲んで下さいね。仮に魔力を使いすぎても、今飲んでおけば回復が早いですから。」

ホルスターから取り出したマナポーションをティエリアに手渡すと、その瞳から涙が零れた。

「あぁ、お恵みをありがとうございます!後生大事にさせていただきます!!」

「ふふ、それじゃ意味ないでしょ。今飲んでください?」

「ありがたくいただきますわ!」

ティエリアはゆっくりと味わうようにマナポーションを飲み干す。

正直美味しいものではないし、マナポーションで飲みやすいか飲みにくいかを分けるのは渋みえぐみだ。
効果を高めるためにも渋みえぐみを極力抑えているため、比較的美味しいほうだとは思うが、それでも味わうものではないと思う。

飲み干した後の薬瓶は、蓋をしっかり閉められティエリアの『ストレージ』に消えた。
——いつの日か家宝とか言われたらどうしよう。

「ごちそうさまでした。では、契約内容を口頭で言わせてもらいますわね。」

『ストレージ』から己の万年筆を取り出して、その中のインクに魔力を流す。

契約魔法は術式が書かれた羊皮紙に、魔力を通しながらインクで契約内容を書き、その下に契約者がそれぞれ魔力を通しながら記名し、契約コントラクトすることで契約した内容を破ることができなくなる。
契約を破棄するにはそれぞれが魔力を通しながら署名し、解除キャンセルすることで契約魔法を終了することができる。

「どうぞ。」

「契約者、ティエリア・アーバンレイとアシェル・メイディーはここに誓う。

ファンクラブ【シーズンズ】の創作活動について、活動の停止・発行書物の破棄を進言・強行しないこと。

ファンクラブ【シーズンズ】の創作活動で発行された書物について、閲覧し知りえた内容をそれを知る者以外に他言しないこと。


以上を契約内容とし、双方同意の上、名を記載するものとする。」

「……創作物があること自体は発言してもいいんですか?」

「えぇ、それ自体は秘匿するものでもないですし、わたくしにも適用されますからね。興味がある方がいれば、お誘い合わせの上お越しいただいてもいいですわよ?」

クスリと笑ったティエリアは、アシェルが書いた羊皮紙の内容を確認する。

「えぇ、これで大丈夫です。」

そう言ってティエリアはさらさらっと名前を書いた。
その下にアシェルも記名して「『契約コントラクト』。」と声を出す。

羊皮紙はキラキラとした輝きに包まれ、四方を囲むように書かれていた術式が羊皮紙に溶け込むように消えた。
契約魔法が成立したのだ。

「あぁ、本当にありがとうございます。まさかこんな日が来るなんて思いませんでしたわ。」

「喜んでもらえたようで良かったです。……ところで、私から一つお願いがあるんですけどいいですか?」

「えぇ、わたくし達に叶えられることであれば、何でもおっしゃってください!」

ふんっと鼻息荒く気合の入った眼で見つめられる。

「入学してからよく差し入れの申し入れがあるんだけど、今はお受けしてないんだ。王宮でのお茶会では頂いていたから、その名残かなとは思うんだけれど。断り続けるのも心苦しいから、私とアークへの差し入れは止めて貰えると嬉しいかな。皆のその気持ちだけで十分だから、ね?」

「皆様、聞きましたわね!アシェル様からのお願いですわ、しっかり守ってくださいませ!!」

『はい!』と元気のいい返事が会場中から響く。

なんていうか、統率が取れすぎててやっぱりちょっと怖い集団だ。

「あ、あと、話しかけてくれる時はせめて1人ずつでお願いね。アークは基本的に返事しないから、どっちも私が聞いて返答しているから……同時に話しかけられると反応できないんだ。ごめんね。」

アシェルが困ったように眉を下げれば「勿論ですわ!」とティエリアの力強い声とそのあとに続く『勿論です!』という声。

「ありがとう。今日この集会に参加できてよかったよ。」

にこっと会場を一通り見渡すように微笑みを振りまけば、ほぅっとため息を吐く声や顔を赤くする生徒がそこかしこに見受けられる。

(ちょっと怖いけど、聞き訳はいいし、実害はない……のかな。)

「いいえ、こちらこそ有意義な時間をありがとうございました。是非また集会に顔を出してくださいませ。」

「もしまた機会があれば。それではお先に失礼しますね。」

そろそろ良い時間だろうと、そう言って頭を下げたアシェルが大講堂出るまで、「ありがとうございます。」という言葉が口々に響いたのだった。


——そのあと大講堂の中では盛り上がりに盛り上がった事は言うまでもない。
ある者は感動にむせび泣き、ある者はアイディアが湧いたとノートに何かを書き走り、ある者はうっとりとした表情で同志達と語り合う。
そんな状態が、大講堂を借りたいっぱいいっぱいの時間まで繰り広げられたのだった。
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