氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

49 ”授け子”の伝えた創作物①

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Side:アシェル12歳 夏



季節は6月に入り、学院生活の授業サイクルにも慣れてきた。

あれから【シーズンズ】の集会には参加していないが、そろそろ創作物だけは見に行ってみたいなと思っている。

だが、平日には幼馴染達との夕飯もあるし、あまり遅い時間に訪問するのは失礼だろうと思うと、なかなか行きださなかった。

じゃあ休日は?という話なのだが、大量に消費される食料——主に肉を採りに魔の森に毎週のように出かけていた。

王都組4人とシルコットの双子の6人パーティーで、時折アークエイドが生徒会役員の仕事で抜けていく。
アークエイドが抜けた時にはエトワールが臨時で入ってくれるのだが、基本的に陸上戦は不得手とのことだった。領地では船の上で戦闘するらしい。

単純計算で剣士一人と魔法使い一人が増えたことになるので、一の森で小手調べした後、今は二の森をメイン活動場所にしている。
安全マージンをとっているので、トラブルを考えなければ三の森でも行けそうな気はしているが、大怪我をしないためにも冒険をしない冒険をしている。

大型のベアやオークは一の森でも出たが、二の森にはバッファローが出るのだ。美味しい牛肉のためには積極的に討伐したい魔物である。
あとは鳥系が数種類飛んでいるところを見るが、襲ってこないので今は手を付けていない。
6人でぞろぞろ歩いていると先に逃げられてしまうのだ。

そんな討伐漬けな休日のお陰で、丸一ヶ月分くらいのお肉を確保することができた。
ついでに薬の材料になる熊胆も初採取した薬草なんかも集まって、アシェルは上機嫌だ。



そしてようやく丸一日暇な日がやってきた。



女子寮の2号棟前にやってきたアシェルは、さらさらっと便箋に部屋を訪ねたい旨と、都合が悪ければ返事を書いて送り返すために行う手順を記し、折りたたんだそれを風魔法で『配達』した。

4号棟と作りが一緒と言っていたので、部屋を間違えることは無いだろう。

魔力を通した手紙を意識しながら、寮の玄関横の壁に背中を預けて瞳を閉じる。
この方がより明確に、魔力を通して動かしているものを知覚しやすいのだ。

こんこんと手紙を何度か扉にぶつけると、開いた扉にぶつかったみたいで一瞬コントロールが難しくなる。安定してきた辺りでふわふわと顔位置あたりかな?という場所まで動かした。

流石に女子寮で探査魔法サーチを使うのは憚られるので、大体だ。

舞う手紙に気づいたのか、誰かが触れたことが伝わってくる。
そして凄い勢いで移動を始めたのを感じ、アシェルは魔力制御を切った。

もうすぐ出てくるはず、と思っていると予想通り、肩で息をするティエリアがそこにいた。

「あしぇ、る様、はぁ、はぁ。……こほん。ようこそいらっしゃいました。」

その明らかに寝間着のままで出てきましたという様子に、アシェルは上着を脱いで肩にかけてあげる。

「おはようございます、ティエリア先輩。他の人に見せるのは勿体ないくらい魅力的なお姿ですよ。早くお部屋にいきましょう?」

自身の姿に気づいたティエリアに「ありがとうございます。」と言われ、2号棟へ招き入れられた。

鏡移しになっている状態なので若干違和感はあるものの、本当に4号棟と一緒の間取りだ。

「ここですわ。いらっしゃいませ【シーズンズ】の宝物庫へ。」

部屋に入り少し応接間で待たされた後、ワンピースに着替えたティエリアに案内されたのは応接間を抜けてすぐの部屋。
廊下の右手にある部屋は図書館のように天井まで伸びる分厚い本棚が入っており、本棚の前面はスライド式で沢山の本を収納できるようだ。
手前に見える本棚はそのほとんどが埋まっていた。

「宝物庫……確かに、これだけ一面に書物があるのは圧巻ですね。」

ほとんどが冊子のような本なのだろう。背表紙と呼ぶべきものは見当たらない。

「ふふふ、この一番右手の本棚がアレリオン様関連、そこに向かい合う本棚がアルフォード様関連ですわ。そしてその後ろの本棚と一番左奥にある本棚がアシェル様とアークエイド様関連のものですわ。」

沢山ある冊子はそれぞれ分けて並べられているらしく、そう説明を受ける。

そういわれ覗いた左奥で向かい合う本棚も、スライド式になっている手前の棚はそれなりに埋まっている。

「私達関連の物も結構な数があるのですね。」

素直に驚いてそういえば、きらきらとした表情のティエリアが説明してくれる。

「元々アシェル様たちの入学前からいくつかあったのですが、一気に増えたのは以前出席していただいた集会のあとからですわ。アシェル様の眼に触れるかもと頑張った作者が沢山いましてよ。」

「それは喜んで……いいのかな?手に取ってみても?」

「えぇ、勿論です。本棚の段だけ間違えずに戻していただくか、数冊まとめてテーブルに持って行っていただいて、読み終えたものはそのまま積み上げて置いておいてもらっても構いませんわ。」

そう言って、本棚の間の一番奥にあるテーブルを使うように言われる。

適当な段から一冊取り出し、ぱらぱらと捲っては戻していく。

(これは……“授け子”の教えた文化だとしても、すっごく偏ってるよね。)

思わず苦笑しながらその中身を確認していけば、ジャンルごとに分けられている。

日常と思われるほのぼのとした友情を描いた小説や漫画。
読者が恋愛対象の主人公として出てくる恋愛小説や漫画、それのさらに官能小説や漫画のようにR18なったもの。
そして同性が恋愛対象として出てくる恋愛小説や漫画と、さらにR18版だ。いわゆるBLというやつである。

アシェルがR18エリアの本に手を伸ばすたびに「アシェル様には刺激が強いかもしれませんわ。」とティエリアが言っていたが、アシェルとしてはなんとなく予想していたことなのでそれほど衝撃はなかった。

あの集会で創作物の話を聞いた時に、思い出したことがあるのだ。

施設の友人とキスその他もろもろをするに至った原因。
——とあるオタクで腐女子な親友の発言がきっかけだったと。

もちろん孤児である親友達も前世のアシェルも、人の温もりや愛情に飢えていたというのもある。

アシェルと親友だった男と女の三人で、与えられた部屋で小説や漫画に描かれていることをあれこれ試して体験して、それを女の親友が創作意欲が沸いたと絵として描写する。

日常を描いたものからそれこそエッチなものまで、色々な小説や漫画を読んだ。
商業誌から個人製作のものまで。
それまで勉強漬けだった気がするアシェルに、娯楽の本を読む趣味が出来たのはその時だ。

それは中学生くらいから高校を卒業するまで続けていた。
そのせいでリリアーデとアークエイドにキスに慣れてるなどと言われてしまったわけだが。

そんなことを考えながらページをめくっていると、アシェルとアークエイドがモデルと思われる漫画のキスシーンがでてきて、思わず顔が赤くなる。

(アークはもっと初心な感じだった……って違う、そうじゃない!)

慌ててあのレストランでの事件を頭から振り払う。
ここ最近は思い出さずに済んでいたのに、まさかこのタイミングで思い出すなんて。

アシェルが頬を染めたことに、そして手に持つ本の内容を察してティエリアは眼を輝かせる。

「まぁまぁ!アシェル様は純情でいらっしゃいますのね。殿方同士の情事には興味がありまして?」

「興味というか。幼馴染の一人が“授け子”だからね。こういったものがあるっていうのは聞いたことがあるんだよ。ボーイズラブ……だっけ?見るのは初めてかな。」

なんとなくリリアーデをだしに誤魔化すと、ティエリアの顔が少し不安そうになる。
——実際に前世の話で少し話題に上がったことはあるので嘘ではないはずだ。

(変な印象がついたらごめんね、リリィ。)

そっと心の中で謝る。

「そうですのね!実際に見てみて……どう思われますか?」

「うん……あくまでもこういうのは絵空事として娯楽になっているのは分かるから、別に良いんじゃないかと思うよ?実際にはありえない関係だからこそ妄……想像して楽しめるんだよね?実害がない限りどうこう言うつもりはないし、こういった創作物への偏見もないから安心して。」

危うく前世の親友の言葉を丸っと言いそうになって言い直す。

「……えぇ、そうですわね。そう言っていただけて嬉しいですわ。」

「少しお兄様達の方も見てみていい?」

「どうぞ、ご自由に過ごしてくださいませ。」

怖いもの見たさに兄達の本棚の前へ移動したアシェルの耳には「あの感じだとアシェル様は同性婚についてご存じないのね。何も知らない初心な微笑みの貴公子を監禁して快楽堕ちさせるダークな氷の王子様……イイ!イイですわっ!!」とティエリアがぶつぶつガッツポーズで呟いた声は届かなかった。



アレリオンの本棚には、圧倒的なまでにグレイニールとの色々が書かれた本が多かった。
相手が現生徒会長のユリウスのものまであり、僅かながら自己紹介の時にアシェルを冗談で口説こうとしたクリストファーのものまである。

更にはアレリオンとアルフォードとのものまであり、さすがにちょっと複雑な心境になる。
せめて仲のいい兄弟の日常という形で収めてほしかったし、何ならアシェルまで参戦した3Pものまであってカオスだ。
恐らく兄弟物BLが納められているその棚は、二度と見ないことにしようと心に決める。

圧倒的にBLが多いのだが、しっかり女性と恋愛する激甘アレリオン描写が多い本も多数存在した。

(うんうん。アン兄様は優しいけど、キリっとしたときの顔もかっこいいよね。)

格好良く描写される長兄に満足しながら、背後の次兄の本棚を見ていく。



アルフォードの本棚は、アビゲイルと思われる婚約者と女主人公の三角関係物が恋愛小説や漫画として多数見受けられた。婚約者を恋の障害扱いしていたり泥沼な展開の物が多い。

(これは王族への不敬扱いにならないのかな。)

苦笑しながらも違う本棚から本をとると、女体化されたものや、BLでも複数人に襲われるようなハードなものが多く見受けられた。

そういった内容が好みの人がアルフォード推しだったのだろうか。
それともアルフォードのぱっちり垂れ目な女顔が与える印象のせいだろうか。
あの快活な次兄を屈服させたい感じの内容が多かった。

そしてもう一つ。

「ティエリア先輩。クリストファー先輩とアル兄様の本が沢山ありますけど、こんなに本になるくらい二人は仲がいいんですか?」

クリストファーはアシェルの一歳上なので、アルフォードとは3歳差のはずだ。
授業でたまたま一緒になることもないだろうし、接点は去年の生徒会くらいだと思うのに、やたらと二人が絡む本がある。

「あら、ご存じありませんの?お二人の仲がいいと言うよりは、クリストファー様が一方的にアルフォード様に言い寄っている形ですわね。食堂などでも堂々と口説いてたりしますし、割と学内では有名な話ですわよ。」

「へぇ、そうなんですね。」

そういえば生徒会執行部でも、誰もクリストファーの発言に突っ込みを入れなかったなと思う。

「元々社交界でも、ミルトン侯爵子息の噂は有名ですしね。」

「噂?」

「えぇ。兄弟揃って来るもの拒まず去る者追わず。兄の方は美人で勝気そうな男が大好物。弟の方は美人で優しそうな男を引っかけるのが好きって。」

「……それって、私は美人で勝気そうって思われたってことか……。」

勝気そうとはこの吊り目のせいだろうか。
冗談で口説かれたと思っていたが、そんな噂を聞くとほんの少し本気だったのだろうかなどと思ってしまう。

「まぁ、アシェル様も口説かれましたの?挨拶のようなものですし、真に受けない方がいいですわよ。」

キャーと騒ぐかと思っていたのに、ティエリアは冷静にアシェルにアドバイスをくれた。

「えぇ、そうします。生徒会執行部で言われたので、アル兄様が対応してくれましたしね。」

「ふふ、メイディー家は兄弟愛が強いというのは本当ですのね。あぁ、是非その場面に居合わせたかったですわ。」

ティエリアは妄想の世界に一人旅立ってしまったようで、アシェルは苦笑する。
これで頬を撫でられたことが知れたら、それこそクリストファーとアシェルの薄い本が量産される気がした。
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