氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

50 ”授け子”の伝えた創作物②

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Side:アシェル 夏



ざっくり兄達の棚を見ていったので、またアシェルは元の本棚の方へ行く。

この向かい合う本棚はアシェルとアークエイドの棚だと言っていたが、二人をモチーフにしたものが多いのでそう言ったのだろう。
だがアシェルと誰か、アークエイドと誰かを対象にしたものはちゃんと本棚が分けられていた。

二人をモチーフにしたものでも、どちらの名前が前に来るかで本棚を分けているようで、かなりキッチリ分けられていると言えた。ティエリアは几帳面な性格なのだろう。

アークエイドとの絡みの本を見たせいで、閲覧が途中までになっていた棚からまた順番に見ていく。
壁際はアークエイドが主体のようで、日常から普通の恋愛もの、そしてBL。

相手はアシェルに始まり、グレイニール、エラート、マリクときて、マイナーなものだとエトワールとのものまであった。

それぞれ作者が違うようだが表紙に書かれた名前を見ていくと、とある作者が描くアシェル以外の幼馴染相手4人分のものは体術の授業風景が描かれていることから、恐らく作者が男性であることが見て取れる。
非公式お茶会の模擬戦で感じたそれぞれの癖も上手くとらえた描写があって、作者も武術に秀でた人間であろうことが伺えた。

(凄いな……体術の授業も取れば良かったかな。)

是非一度作者と手合わせしてみたいと思うが、確実に男性より筋力や体格が劣るアシェルでは相手にならないだろう。
武術系は剣術だけ受講していて、身体の距離が近くなる体術は女性であることがバレないように受講するのを止めたのだ。

まだ空きの多い本棚をさらっとだけ見終わり、今度はアシェルの棚であろう本棚に向き直る。

ぱらぱらとめくれば、やはり予想通り。アシェルの日常物から始まり、女主人公と恋に落ちるものとそのR18、そしてアシェルがメインのBLものへと移り変わっていく。

他の本棚と違うところがあるとすれば、圧倒的なまでに女主人公との恋愛ものが多いことだろうか。
小説も漫画も、アシェルの棚にある半分はそれだ。

漫画のアシェルが美化されすぎてて笑いそうになる。
まさに王道ラブロマンスと言った、甘い展開の作品が多いようだ。

BLの棚にはアークエイドとの物が並び、同じくらい何故かマリクとの物がある。
そして少しずつ幼馴染の男性陣との物があり、そして一冊だけシルコットの双子との三角関係物があった。

幼馴染との絡みのある本の表紙を見ていけば、やはり先程見かけた作者がいて、中身は剣術の授業風景が描かれている。
ということは、一緒に授業を受ける中に作者がいるのだろう。

剣術もちょっとした癖や特徴が描かれていて、客観的に見られた自分の癖はこんな感じなのかと思う。
隙になりそうな癖は治さなくては、と漫画の趣旨とは違うことを思った。

じっくり椅子に座って読むならば、アシェルをモチーフにした恋愛小説……それも純愛ものであれば読みやすいだろうかと思う。
主人公の名前を脳内変換すれば、普通の恋愛小説として楽しめるはずだ。

「ティエリア先輩、ここ辺りの棚の中でおすすめの本をいくつか見せてもらってもいいですか?」

目星をつけたエリアを示せば、迷いなく伸ばされたティエリアの手がどんどん冊子を取り出していく。

薄い本なので一冊一冊はすぐに読み終わると思うのだが、20冊程積み上げた塊を渡された。

「上半分が小説で、下半分がイラストで描写している漫画ですわ。侍女にお茶を用意させて持ってきますので、ゆっくりお読みになってくださいませ。」

そう言ってティエリアは宝物庫を出て行ったので、アシェルは壁際の椅子に腰かけ上から順番に読み進めていく。

(これは非公式お茶会が始まりなんだ。数か月前なのに朝の差し入れ風景が懐かしいな。)

ぺらぺらと数冊読み進めると、出会いが王立学院に変わった。

(これは、重たそうな荷物を持ってた子を助けた時かな。身体強化が使えない子なんだなって思って手を貸したけど、それがこんな風に描写されるんだ。)

10冊の小説を読み終えて一息つくと目の前に紅茶が置かれていて、向かい側の席には冊子を読みふけるティエリアがいた。
アシェルが顔を上げたことに気づいていないようで、恐らくアシェルやノアールと同じで、一旦集中すると周りの声が聞こえなくなるタイプなのだろう。

一口紅茶を頂き、後半の漫画を読み進めていく。

(漫画なんて久しぶりだな。娯楽書物は小説ばかりだもんなぁ。内容がどうであれ、漫画が読めるってなったらリリィがすごく喜びそう。)

満面の笑みを浮かべるリリアーデを想像し、ふふっと笑みがこぼれる。

キラキラした描写など全てが手書きで、手間暇をかけて一冊一冊描かれたことが伝わってくる。

(トーンみたいな便利なものも、イラストを描くソフトとかもないもんね。それにしても凄いな。)

ふわふわの甘い綿菓子のようなラブロマンスが描かれていて、いつぞやのお茶会でアークエイドに耳元でささやかれたセリフの『どうしたの可愛いレディ。』と『君から凄く美味しそうな香りがしてる。』が使われている作品があり、ドキンと心臓が跳ねる。

(僕のセリフを言われただけとはいえ、あの時のアークにはビックリしたなぁ。色気のある声だった。あれだ、前世の親友曰く耳が孕むってやつだ。)

よく考えたらレストランの事件以前にもドキッとすることが何度かあったな、なんて思ってしまうが、アークエイドは仕草も王子様なんだなぁと思う。

なんていうか、物語の王子様って感じがするのだ。
相手がアシェルなせいで絵面が悪いが、深層のお姫様という感じのご令嬢相手だと思うとすごくピッタリではないだろうか。
それこそ婚約者候補のシャーロット・デイライト嬢は、ふわふわした正統派お姫様といういで立ちだ。二人で並び立てば絵になるだろう。

(綺麗な方だったな。王家は一目惚れ体質っていうけど、アークはそんな相手いないみたいだし、あんな綺麗なご令嬢なら喜んで結婚したくなる気がするよ。)

アシェルのクラスの担任であるクライス先生はデイライト公爵家の次男らしく、シャーロットとは10歳離れていると聞いた。
愛らしいシャーロットはさぞ可愛かっただろうし可愛がっただろうと、メルティーへのアシェルの感情も踏まえて思う。

(そういえばアル兄様とアビー様との三角関係はあったけど、アークとシャーロット様との三角関係はなかったなぁ。女主人公のキャラ設定がシャーロット様と被るからかな?)

本当はほぼ常にアシェルと共に行動しているアークエイドが、シャーロットと喋っている姿を誰も見かけないことが理由なのだが、一緒に居るはずのアシェルは気づかなかった。
生徒会執行部の教室には一般生徒は立ち寄らないので、二人は同じ生徒会役員だが様子が解らないのだ。

そんなことを考えながら最後の一冊を読み終え顔を上げると、真剣な顔でこちらを見ながらノートにペンを走らせているティエリアと目が合った。

「あ、すみません。アシェル様の私服姿を参考までに記録に残そうと思いまして。」

そう言われ、そういえば学院内では制服で移動するし、最近の休日は実験部屋に籠っているか討伐に出ているかのどちらかで、私服で学院内をうろうろしていないなと思う。

とはいえ、特別な格好をしているわけではない。

今日のアシェルは自分で髪を結んだため、髪の結び目は真後ろではなく片側に寄せて、あまり型がつかないように緩く結んでいる。

6月から制服は夏服になったので半袖か長袖かの差はあるが、白の長袖シャツにベスト姿だった。
ホルスターはベストの内側についているので、外側から見ればいつもとあまり変わりない姿にみえるはずだ。

「少しベストに刺繍が入ってる程度で、普段の私の恰好と変わりないと思うのだけれど?」

「それでも、いつもの制服ではないことに価値があるのです!」

ハッキリと言い切られてしまった。
デッサンしているなら席を立つのもと思い、ティエリアが読み終えた数冊の冊子に目を向ける。

「先輩の読み終えた本を見てもいいですか?」

「えぇ。是非感想を聞かせてくださいませね。」

そういうティエリアはペンを動かすことに忙しいようだ。

数冊の冊子を手元に寄せ、一番上から読み進めていく。

(うわー凄く過激……アークが男同士のこんなの書かれてるって知ったら、ブリザードが吹き荒れそうだな。)

ティエリアはアークエイドとアシェルのR18漫画を読んでいたようで、かなり激しく濃い内容だった。

デフォルメされているし、これは別の人が主人公だと頑張って思い込もうと思うが、激しい絡みと展開に顔が火照るのを感じる。

(これって周りから見たら、僕らがこういう風に見えてるってこと?いやいや、マナポーションの口移しはアークにはしたことないからね。あ、でもキスマーク付けるのは好きそうっていうのは分かるかも。媚薬が利いてた時のアークすごかったもんな……だめだ、どうしても思い出しちゃう。アークはそんなつもりなかっただろうし、なんだからいつまでも引きずってると気持ち悪いよね。気持ち切り替えないと。)

一人百面相しながら全ての冊子を読み終えた。

(あぁ、リリィと語り合いたい。この漫画の氷の王子様のツンデレ・クーデレ具合が好みすぎる。リリィならこの気持ちを分かち合ってくれるはず。特にこの最後の一冊……!すっごい氷の王子様がイケメンだし、ギャップのデレ具合がすごくイイ。)

読み終えた冊子を積み上げたアシェルは、平然としたふりで紅茶を飲みながら心の中で絶賛した。
久しぶりに自分の嗜好に合う娯楽書物を見つけた気がする。

一般的に出回っている恋愛小説はどうしてもラブロマンスという感じで、優しくてカッコイイ王子様と恋に落ちるの。新しい一面が見られるギャップ萌えなアシェルの好みとは少しずれているのだ。
娯楽として楽しむ分には問題ないが、ここまでぴったりと好みにハマることはなかった。

「どうでしたか?少し刺激が強いですが、おススメの漫画ばかりですわ。」

「とても綺麗に描かれていて、ストーリーもしっかりしていて素晴らしいですね。確かに刺激が強いので少し恥ずかしいですが、特にこの本が気に入りました。」

「その本の作者はとてもイイ漫画を描きますのよ。絵も描写も丁寧で作品に引き込まれてしまいますわよね。ふふふ、アシェル様にお褒め頂いたと伝えたら、きっと泣いて喜びますわ。」

作者が誰だかわからないが前回の集会を思い出し、文字通り本当に泣いて喜ぶんだろうなと思った。

「……もし“授け子”の友人が興味を示したら案内してもいいですか?」

「えぇ、契約魔法は必要になると思うけれど、それでも良ければ構いませんわよ。同じことを語り合える作品の愛好家が増えるのは大歓迎ですもの。」

誰、とは言わなくても契約魔法が必要というあたり、誰なのかは伝わっているのだろう。

リリアーデとティエリアは気が合うかもしれない。
妹のカナリアがクラスに居ると言っていたし、もし似たような性格なら妹の方とも気が合うだろう。

「そうですか。では近々伝えてみますね。」

そう言って椅子から立ち上がるアシェルに、帰る気配を感じたのかティエリアも立ち上がる。

「今日は突然の訪問にも関わらず、歓迎していただきありがとうございました。」

「いいえ、こちらこそ有意義な時間でしたわ。」

ティエリアの手をとりキスを落とせば、にっこりと笑ったティエリアと目が合う。

「次の訪問の時は、出迎えはゆっくりで構いませんからね。では襲われてしまいますよ。」

寝間着で寮の外まで出てきたことを揶揄うように言えば、正しく伝わったようでティエリアが少しむくれて見せた。

「もう、意地悪ですのね。注意しますわ。」

そして互いに笑みを浮かべ笑いあった。

流石に女子寮内を一人で歩くわけにはいかず、ティエリアに寮の玄関口までついてきてもらう。

お昼頃に来たのに、空は茜に染まっていた。
思ったよりも長居してしまったようだ。
食堂に人が集まり始めているからかちょっとした騒ぎになったが、「静かに。」と唇に人差し指を当てて見せれば皆大人しくなってくれたので、素直なご令嬢が多いのだと思う。

見送ってくれたティエリアに礼を言い、アシェルは向かいに建つ4号棟の自室へ帰ったのだった。
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