氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

61 メイディー公爵家のお仕事①

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Side:アシェル12歳 夏



あれからシオンと別れたアシェルは昼食を摂り、クリストファーとのことを踏まえ放課後を待ち【生徒会執行部】の教室を訪れていた。

制服で来ようかとも迷ったのだが、放課後は私服での学院内の移動が許可されているので、顎先までの詰襟になっている首が極力隠れる服装だ。

少しゆったりとしたそのノースリーブの黒タートルネックに、黒のスラックス、腰には革製のベルトホルスターというラフな格好で教室の扉を叩く。

「あら、アシェル君、こんにちは。アルフォード様に用事かしら?」

出迎えてくれたマチルダに「はい。」と頷く。

「そう、すぐにお茶は出せないけど、ソファで待っててくれる?もうすぐ会議が終わるから。」

「また出直しますよ。」

会議の内容を聴いたり邪魔しては悪いと思い、そう申し出る。

「あらダメよ。アシェル君を帰したりしたら、後が大変だわ。」

そう苦笑したマチルダの向こうに、こちらをじっと見つめるアルフォードの姿を見つけ、その誘いを受けることにしたのだった。





勝手にお茶を淹れる許可だけとり、一人ソファで紅茶を飲んでいると、隣にアルフォードが座った。

「悪いな、待たせて。」

「いえ、僕も急に来ましたし。」

本当は昨日訪ねて来たのだが、そんなことは言わずに言葉を続ける。

「明日から少しお休みしようと思ってます。それだけ一応、アル兄様には言っておいた方が良いかと思いまして。」

「本当にごめんな。俺もできる限りと思ってるんだが……。」

アシェルの言葉にしゅんと眉を下げるアルフォードに、首を振って笑う。

「アル兄様は授業だけでなく、生徒会のお仕事もあるでしょう?」

夏季休暇明けの後期には学院祭がある。

その話もしなくてはいけないのに、先日の結界学で起きた衝動暴発の事件である。
教師も対応に追われているようだが、それは生徒会執行部も例外ではないようだった。

特に今年の一年生には多くの加護持ちが居たこともあって、今この王立学院には王家、四大公爵家、四大辺境伯爵家の加護持ちが勢揃いしている状況である。

ナイトレイ王家の第三子・アークエイド、中等部一年生。

メイディー公爵家の第三子・アシェル、中等部一年生。
コンラート公爵家の第一子・ダリル、中等部三年生。
テイル公爵家の第一子・マリク、中等部一年生。
デイライト公爵家の第四子・シャーロット、高等部一年生。

ウェンディー辺境伯爵家の第一子、高等部三年生。
ウェンディー辺境伯爵家の第二子、中等部三年生。
フレイム辺境伯爵家の第二子・ユリウス、高等部二年生。
アスノーム辺境伯爵家の第一子・ノアール、中等部一年生。
シルコット辺境伯爵家の第一子・リリアーデ、中等部一年生。

合計10名の加護持ちがこの学院内に集結しているのだ。

例年であれば加護持ちが5名もいれば多い方だというのに、倍の人数である。
そこに教師が事件を起こしたので、学院が一般開放される学院祭は特に準備に時間がかかるようだ。

「そうなんだけど、気持ち的にな。」

「アル兄様が気にしなくて良いんですよ。それに僕はお薬作るの大好きなので。堂々と大量のポーションを作れるなんて腕が鳴りますよ。マナポーションだけでなく、ついでに王宮と病院の不足薬剤の材料とレシピ付きですよ??わくわくするなって言う方が無理です。」

キラキラと瞳を輝かせグッと握りこぶしを作るアシェルに、アルフォードは苦笑する。

メイディー家の加護持ちが作る薬は効果が高かったり、改良を重ねたレシピにも価値があったりする。
積極的に実験・研究し様々なレシピのレポート提出や、作った薬剤を提供しているアシェルの名前は、薬剤を扱う仕事に就いている人間はほぼ知っているといっても過言ではなかった。

「本当にアシェは好きだよな。兄上でもそこまでじゃないぞ?」

「アン兄様も結構好きなほうだと思いますけど、多分他にやることがいっぱいあるから、のめりこめないだけですよ。」

「それもあるだろうな。でも……授業は大丈夫なのか?」

「……アル兄様、それ本気で言ってます?」

授業の心配をするアルフォードにジトっとした目を向ける。

「そりゃ必修程度なら問題ないだろうな。でも武術系や特殊系の授業はそうじゃないだろ?」

「幸い、僕の受ける授業は幼馴染の誰かが必ず出席してるので、授業内容は聞けるんです。……一人迷子になったら困るので、休んでる間も生物学だけは出席しますし。」

本当は生物学の授業も休んでしまうつもりだったが、最近実技でリリアーデとペアを組んでいるし、実は方向音痴だと聞かされている。
授業を確実に受けてもらって内容を知るためにも送り迎えが必要だと考えたら、その授業だけでたほうが早かった。

「武術は出てないと、後で苦労しないか?周りと差が開くだろ。」

「そりゃあ力負けする時もありますけど、これに関しては筋肉が付きにくい家系なのが悪いと思ってますから。それに僕、これでも結構強いほうですよ?少なくとも同級生で、スピード勝負で負けるのはマリクにだけです。見えてるのに捌けないって悔しいですよね。」

そんなアシェルの言葉に反応したのは、いずれ第一騎士団団長か近衛騎士になるだろうと言われているダリルだ。
ソファの向かい側に座り口を開く。

「へぇ、マリクってテイル家のハーフだよな。それに眼がついていくのか。是非アシェルに手合わせをお願いしたいな。」

エラートと家族ぐるみで仲がいいダリルも、根っからの脳筋タイプな戦闘民族だ。

特にコンラート公爵家の直系は魔法が使えないという特徴がある。
その代わり、体内の魔力は全て身体強化に使われることになるので、幼少期は力を抑えることをまず学ぶらしい。それが出来ないとあらゆるものを破壊してしまうからだ。

さらに武芸に於いては天賦の才を持つと言われており、あらゆる武器を使いこなすそうだ。
そこに努力や駆け引きが加わるので、まさに戦う為の血筋と言えるだろう。

アシェルは簡単に剣を飛ばされる未来を思い描く。

「ダリル先輩……冗談ですよね?僕、エトにも勝てた試しがないんですけど。」

常に力負けだ。
いい線をついても、なかなか勝たせてもらえない。
ものすごく悔しい。

「いやいや、それって授業中の話だろ?身体強化以外の魔法を使ってもらってもいいからさ。」

強い相手と聞けば戦いたくて仕方ないらしい。
そんな様子に、魔法ありならどうにかなるかも、と思ったアシェルの後ろから声がした。

はやめた方が良い。」

短いアークエイドの声に振り返れば、その隣にノアールも立っていて、うんうんと頷いて補足を入れ出した。

「ダリル先輩、僕もアシェとで戦うのはお勧めしないです。少なくとも、幼馴染である僕達は誰一人でアシェと戦いたくないです。勝てる勝てないっていうか、そもそも戦いになりませんから。」

「そうなのか?」

「いやいや、そんなことありませんよ?ちょっとノア、よく分からないこと言わないでよね。」

抗議すれば呆れ顔の幼馴染二人の顔が見える。

「分かってないのはアシェだけだ。」

「僕達が見たものを見て、同じこと言わない人が居たら見てみたいよ。あれって、アルフォード先輩だったら出来たりするのかな?」

「どうだろうな。」

「同じものって何?ノアが見たってことは秋のお茶会でしょ。何かあったっけ?」

幼馴染二人にしか分からない会話をしている。
と思ったが、もう一人分かる人がいたようだ。

「アルにもは無理じゃないかしら?少なくともあの歳の時には出来ないわよ。今から違いを体感しましょうか……まだ誰も魔力を使ってはダメよ。」

話に参加したアビゲイルが、小さな紙を乗せたティーソーサーを配り出す。

「さぁ、全員ティーソーサーの前に座って頂戴。」

そんなアビゲイルの言葉に、生徒会メンバーは応接セットに着席する。
アビゲイルとダリルの前にはティーソーサーが置かれなかった。

「今からソーサーの上に乗っている結界を解除して頂戴?紙に書いてある術式も籠めてある魔力量も皆一緒よ。解除が完了すれば紙に書かれた術式は消えるし、紙も持ち上げられるようになるわ。」

そう言ってアビゲイルはティーソーサーの前に座る9人の顔をぐるっと見渡した。

「では、はじめっ!」

手合わせの開始のような言葉を合図に、それぞれ目の前の小さな結界に集中し始める。

何人かの「『探査魔法サーチ』」という声がする。
結界の解除には魔法を使うので、ダリルの前にはそもそも用意されなかったのだろう。

アシェルも『探査魔法サーチ』を使い、魔力を操作しながら組み上げられた結界を解く。
大した強度もなく隙間も大きいその結界は、あっという間に解けた。
解除キャンセル』で結界そのものを消してしまうと、術式は紙に溶けるように消えていく。

それを確認して、終了の合図代わりに紙だけを拾い上げアビゲイルを見る。
アビゲイルがニコッと笑った。

それから少ししてアルフォードが紙を拾い上げる。

そのあとは5分以上が経過してから、アークエイド、シャーロット、ノアールが。
また10分以上おいて、マチルダ、シオン、クリストファー、ユリウスの順で紙を拾い上げた。

その長い間、じっと黙って状況を見ていただけのダリルが声を上げる。

「で。これが?」

恐らく何人かはそう思っているだろう。
アシェルにも魔力操作精度の課題だとは解るが、その意図が解らない。

「さっき詠唱をした人としていない人は判るかしら?」

「あぁ。」

「まずその時点で、戦いになったら詠唱をする時間がないと魔法を使えないか、詠唱がなくても一瞬で魔法を使えるかどうかが分かれるわよね?」

あまり魔法に馴染のないダリルにも解るようにアビゲイルが説明する。
頭が縦に揺れ、同意を得たのを見て続きを話す。

「次に紙を拾い上げるまでにかかった時間だけれど、早く終わった人ほど魔力を上手く扱うことが出来るわ。他の人よりも一度に沢山の魔法を使えたり、相手の魔法を阻害できるの。」

「それは解ったんですけど、結局コレに何の意味が?」

「あら、解らなかったの?ダリルはこの中で一番魔法を扱うのが上手い相手に、魔法を使った戦いを申し込もうとしたのよ?」

その言葉を引き継ぐようにアークエイドが続ける。

「しかもアシェが得意なのは、直接的な攻撃になる属性魔法よりも、汎用性の高い無属性魔法や一部の闇魔法だ。」

「アシェより上手に魔力を使えないと、動くことすらできなくなると思いますよ?だから戦いにならないんです。」

そうノアールが締めくくる。

明日からポーション作りの為に学院を休むことを、アルフォードに伝えに来ただけのはずだったのだが、なんでこうなったんだっけ?と思いながらアシェルは口を開いた。

「いやいや。手合わせなのに相手を動けなくしたら意味ないじゃない。そんなことしないよ?」

それは魔法ありの手合わせでは全力で相手しない、と言っているのと同じなのだが、言った本人とアルフォードだけが気付かなかった。

「解りました。アシェル、もし手合わせする時は授業のルールにしよう。その方が良いようだ。」

いきなり聞き分けの良くなったダリルに首を傾げつつ、アシェルは「もしその時がくれば。」とだけ答えたのだった。
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