氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第二章 王立学院中等部一年生

107 パーティーの後①

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Side:アシェル13歳 冬



アシェル達の自室がある邸の玄関ホールに、お祝いパーティーを終え移動してきた面々が集まった。
ここから宿泊のための部屋に案内されるはずだ。

「さぁ、皆お疲れ様。今日はアシェのために集まってくれて本当にありがとう。客間は十分な数を用意してあるが……誰かと同室が良いとかの希望はあるかい?あればなるべく希望に添えるようにさせてもらうが。」

アベルの言葉にリリアーデが反応する。

「わたくしはデュークと同じ部屋にして欲しいですわ。お食事や飲み物のお願いしたものを頂いたら、使用人も要りませんので。」

「確か姉弟だけれど婚約者同士だったね。分かった。他には?」

家族で何やら話していたテイル一家は、ニクスが代表で話すようだ。

「うちは家族三人で一部屋にしてもらってもいいかな。君達はまだ飲むんだろうけど、私は明日も仕事があるからね。キルルは飲みたいなら、アベルたちと飲んでいても良いよ?」

「あたしもニクスとマリクと一緒に寝るよ。毛皮が恋しいでしょ?」

「そりゃあ、キルルの毛並みはとても気持ちいいからね。」

ニクスがキルルの三角耳のあたりを撫で、頬を染めたキルルの尻尾がぶんぶんと揺れている。
アシェルがテイル邸に泊まった時にも、ニクスはキルルの頭や尻尾を撫でていた。
毛並みの手触りが大好きなんだそうだ。

「とーさんも、かーさんも、そーいうのは部屋に帰ってからねー。っていうか、俺別の方がいーんじゃないの?」

「三人で寝たら良いだろう。マリクもたっぷり撫でたいしね。」

「じゃあ、テイル家は一部屋。寝台も大き目の部屋を用意してるから、二人が獣化しても問題ないと思うよ。」

この言い方的に、キルルとマリクは獣化して寝ることは考慮していたのだろう。

「わたくしはノア様と一緒が良いけれど、流石に駄目よね。」

しょんぼりとしたアビゲイルに対して、ノアールは顔を真っ赤にして「駄目です、無理です!僕はトワと一緒の部屋で!」と慌てている。

それにアンジェラが苦笑した。

「そういうのは婚約の承諾を貰ってからにしなさい。アークもよ。全く。王家の一目惚れって本当に厄介なんだから。ノアール、アシェル。ちゃんとお部屋の戸締りはしておかないと駄目よ。わたくしは前例を知ってるから、忠告しておくわ。」

それはグリモニアが夜這いに来たということなのだろうか。
婚約の承諾をしていないアンジェラの元へ。

「ふふ、流石にアシェと一緒の部屋にアークエイド殿下を入れるのは……と言いたいところなんだけど、警備的に部屋をどうするか一番悩んでいるんだよね。あぁ、解っていると思うけれど、モニア達は私の部屋で飲むか寝るかしてもらったら良いからね。とりあえず、ノアール殿とエトワール殿は一緒の部屋だね。」

グリモニアとアンジェラがアベルの部屋で過ごすのは決定事項らしいが、他の王族の部屋割りが問題なのだろう。

「グレイは僕の部屋で良いでしょ?」

「私に聞いてはいるが、拒否権はくれないだろう?」

「そうだね。僕の近くに居てくれないと、おちおち仮眠もとれないからね。」

これで王族はあと二人だ。

「アビーは俺の部屋の続き部屋だな。」

「わたくしにも、いつもの部屋ってことは分かってますわ。ちょっと言ってみただけだもの。」

そもそもアルフォードの部屋に続き部屋があったことに驚きだ。
でも確かに、アルフォードの部屋の隣は空き部屋だったとアシェルは記憶している。

アビゲイルが宿泊した時用に、アルフォードの部屋から直接入れる部屋を割り当てているのだろう。

「というわけで、どうしようかと思ってね。アシェがアークエイド殿下の告白を断っていなければ、一緒の部屋に押し込んでも良かったんだけどね。」

ちょっぴりアークエイドの扱いが雑な気がするのは気のせいだろうか。
どうする?とアベルに聞かれるが、アシェルに選択肢はない気がする。

「わたくしの部屋で良いですわ。でも、男装に戻してもいいでしょうか?女装は疲れますの。」

「うーん。我が家の可愛いアシェは、すっかり男の子の生活に慣れてしまったみたいだね。そんなアシェも可愛いから、私としては全く問題ないんだけどね。じゃあ、アークエイド殿下はアシェの部屋で過ごしてもらおうか。どこでどう寝るかはお任せするよ。それと、アシェは自分で自分の部屋だけは警戒しておきなさい。」

「……分かりましたわ。」

アベルはにこにこと笑っているが、つまりアシェルの部屋は覗かないから好きにしろと言ってるのと同じだ。

アベルはアシェルを嫁に出したくないと言ってたから、アークエイドとのこともどちらかと言うと反対なのかと思っていたのだが。
この言い方は早くくっつけと言外に言われているような気がする。

そもそもアシェルがアークエイドからの告白を断っていることも知っているし、果たしてどこまでアシェル達のことを知っているのだろうか。
いつものように柔らかい笑みを浮かべるアベルからは、全く伺い知ることが出来ない。

「さ、これで部屋割りは決まったかな。じゃあ、それぞれ使用人に案内させるからね。用があれば、部屋にあるベルで誰かを呼んで言いつけておくれ。明日の朝は、ゆっくり目の8時に朝食予定だよ。ニクスはそれで間に合うかい?」

「あぁ、大丈夫だよ。仕事と言ってもお昼前からだからね。」

「良かったよ。じゃあ、今日は皆ゆっくり休んでおくれ。おやすみ。」

アベルがそう言い、皆で口々におやすみの挨拶をする。

「アシェ、おやすみ。気に入らないことをされたら、適当に転がしておくんだよ。」

いつもと違って、少し背伸びしたアレリオンがチュッとアシェルの頬におやすみのキスをくれ、アシェルも返す。

「ふふ、大丈夫ですわ。アン兄様、おやすみなさい。」

「父上の言う通り、俺達もアシェの部屋は外すからな。あと、全員の部屋の中に護衛は入らないから、変なのがいたらそいつは黒だからな。おやすみ、アシェ。」

「分かりましたわ。おやすみなさい、アル兄様。」

アルフォードからも背伸びをしながら頬にキスをもらい、アシェルも返す。

自室で警戒するように言われたので、現状を知るために密度を上げた『探査魔法サーチ』を使っているのだが、びっくりするくらい誰も居ないのだ。
見た目に分かる護衛がロバートだけで、姿を隠している護衛くらいはいると思っていたのだが。
警備が薄いようにも感じるが、逆に有象無象に紛れ込まれにくい分、この方が警備も楽なのかもしれない。

アビゲイルと国王夫妻は一人ずつ使用人を連れてきているので、護衛の代わりも兼ねている可能性はある。

次はアシェルがおやすみのキスをしに行く番だ。
メルティーの元へ、アレリオン、アルフォードと順番におやすみのキスをしていく。

「今日はたっぷり踊って疲れたでしょう?マルローネにしっかりマッサージして貰うと良いわ。あぁ……可愛いメルと踊れなかったのが心残りだけど、仕方ないわね。おやすみ、メル。」

メルティーは小柄なので、膝を折りチュッと頬にキスをして、お返しのキスをそのままもらう。

「アシェ義姉様は、わたくしより歩きにくいヒールで踊ってたのに元気そうですわ。ダンスはアシェの時に申し込んでいただけたら、喜んで踊りますわ。おやすみなさい、アシェ義姉様。」

それぞれ自室に帰ったり部屋に案内されていく中、エラートとアークエイドだけが残る。

「なんていうか……アシェの兄妹ってすげぇな。おやすみのキスなんて、おふくろがしてくれてただけだぞ。」

「王家はそもそも、親兄弟とおやすみを言い合う習慣もないな。」

「我が家は小さい時からお兄様達がしてくれてるし、習慣になってるわね。ところでエト。案内の使用人が居なかったかしら?」

何故エラートも残っているのかアシェルが首を傾げていると、エラートが手を振る。

「いや、案内はそこに居て貰ってて。警備だけど、俺も一応見張りくらいはできるぞ?必要なら扉の前で待機しておくけど、どうしたらいい?親父は扉の外じゃなくて、中に入って一緒に過ごすらしいけどな。」

わざわざ警備員として名乗り出るために残ってくれていたらしい。
正義感と責任感の強いエラートらしい行動だ。

「ふふ、大丈夫よ。下手に部屋を出てるほうが良くないわ。今日の我が家は全員警戒態勢だから、これを掻い潜れる人間がいたら相当な手練れよ。魔法を使えないエトじゃ太刀打ちできないわ。」

「あー、そっか、全員……。そうだよな。わりぃ、余計な事だったな。じゃ、おやすみ。」

「ううん。気持ちだけでも嬉しいわ、ありがとう。おやすみなさい。」

「おやすみ。」

エラートも客間へと案内されていく。

アシェルもアークエイドを連れて、階段を上がった先にある自室へ戻った。
客間は全て一階だ。

「アシェル様、お部屋でお風呂の支度はしておりますが、どうなさいますか?」

部屋に戻るとイザベルに聞かれるが、まずはアークエイドだろう。

「アークに先に入ってもらってちょうだい。それより、わたくしはドレスを脱いで化粧を落として、ズボンをはきたいわ。」

ソファに座ってヒールの高いミュールを脱ぐ。
すっとイザベルがスリッパを差し出してきた。
裸足でも構わないのだが、怒られる未来しか見えないので大人しくはいておく。

ドレスも一人で脱げるのならさっさと脱ぎたいが、流石に簡単に脱げるものではない。

「せっかく綺麗なのに、もう脱ぐのか?」

お風呂に先に入ってもらおうと思っていたのに、なぜ隣にアークエイドが腰掛けているのだろうか。

「当たり前でしょう。今日だって着たくて着たんじゃないもの。お父様から言われたから、仕方なくよ。必要がないのに家の中でドレスを着て過ごしたくないのよ。」

はぁと溜め息を吐くアシェルの背後では、イザベルとサーニャが壁際に控えたまま心配そうな表情をしている。しかし背を向けているアシェルは気付かない。

「もしかして、今日も義母親からアシェの嫌な眼を向けられたのか?」

アークエイドはアシェルがした男装の理由をしっかりと覚えていたらしい。
アシェルが人から向けられる視線に敏感なのも知っていた。

この話をする時にはあまりお嬢様言葉で話したくない。
自室だしイザベルも多めに見てくれるだろうと、勝手に決めつけて普段通りに喋る。

「うん。アークが言ってた嫉妬混じりの眼。あぁ、でも、どんな感情を持ってるのか解ったから、少しマシなんだよ。でもやっぱり、僕の時のようにはいかないかな。もう背もメアリーお義母様を追い越したし、子供っぽくはないはずなんだけど。大人から見たら、僕らはいつまで経っても子供なんだろうなぁ。」

もしそうなら、いつまで経ってもアシェルがドレス姿だと、あの嫉妬混じりの眼を向けられるということだ。
でもそう考えると、兄達との違いが目につく。
身体が大きくなったので子供嫌いは問題なくなったはずだが、一体何に嫉妬しているというのだろうか。
心当たりが無さ過ぎて、全く改善できる余地が見当たらない。

「今日もほとんど会話してなかったな。」

「皆が来る前に少しだけ話したよ。それ以外はあんまり気にしないようにしてる。さ、アーク、早くお風呂に入ってきてよ。お湯が冷めちゃうでしょ。」

「そうだな。ただ……ドレスは脱がないで待っててくれ。髪と化粧は崩してもらっても良いが。」

すっと腰を引き寄せられ、チュッと唇にキスされて離れていく。
アークエイドは実はキス魔なのかも知れないと思うくらい、ことあるごとにキスをされている気がする。

「どれだけこのドレスが気に入ったのさ。ドレスだけ脱がないでおいてあげるから、早くお風呂にいってきなよ。」

アシェルが了承したのをしっかり確認してから、アークエイドはサーニャに連れられてお風呂へと消えていく。

「アシェル様。先にお化粧と御髪だけ綺麗にしてしまいましょうか。」

「お願い、ベル。化粧台に行った方が良い?」

「いえ、こちらで結構でございます。……旦那様が、アシェル様の部屋にアークエイド様を入れるとは思ってませんでした。」

目を閉じたアシェルの顔に、ぴとっとひんやりしたコットンが当てられ、丁寧にメイクが落とされていく。

「仕方ないよ。ベルだから言うけど。アークを僕の部屋にって言うから観てみたら、今日の護衛、カドラス卿だけなんだもん。下手に色々連れてこられるよりは観やすくて良いけどさ。」

「それは……旦那様は最初からこうするおつもりだったんですね。」

「だと思う。ねぇ、お父様にアークとのこと、報告したりしてる?」

「紅を落としますので少し口を閉じていてくださいね。旦那様へ報告書はあげてますが、細かいことは書いておりませんね。報告書も変わりがあった時だけですので、この一年、数回しか書いておりません。はい、良いですよ。」

メイクを落とし終わったのか、次はしっとりしたコットンがぴたっとしばらく張り付いてから離れていく。

「そうだよね。ってことは、アークの方の侍女に混じってるのか、キルル様の時みたいに密偵が居るのか……。どっちにしても、お父様は思ったより事情を知ってそう、ってことだけは確かだよね。お父様は僕とアークを結婚させたいのかな?……いや、王家と縁続きになるために結婚させたいって言うより、護衛の都合が良いから結婚すれば良いんじゃないかなくらいの、軽い考えな気がする。」

「わたくしも、後者の方かと思います。旦那様は権力などには無欲の様ですから。」

「そんなものあっても、責任が増えて疲れちゃうだけだよ。」

しっとりしたイザベルの手に顔を包まれる。
美容液や乳液を塗ってくれているのだろう。
そろそろメイク落としは終了だ。

「お顔は宜しいですよ。髪を解きますね。」

イザベルの手が離れたのを感じて目を開く。
結い上げた髪に飾られた装飾品や、ピアスなどが外されていく。

「ピアスはいつもの黒と、もう一つはどうしますか?」

「いつものアメジストのやつで。お守りピアスの為に、左にもう一つ穴開けようかな……。着飾る旅に外してたんじゃ、お守りピアスの意味ないよね。」

男性は装飾品でピアスやイヤリングまでは着けないが、女性だとほぼ必須だ。

新しく開けたホールをアークエイドのくれたお守りピアス専用にして、今開けてる二つのホールをおしゃれ用や魔道具様に使った方が良いかもしれない。

「ピアッサーの手配をしておきますか?」

「うん、一つだけお願い。ベルは二つのままで良いの?」

イザベルも左耳にはいつもお守りピアスが付いている。
サーニャとイザベルの眼の色にそっくりな、若草色のピアスだ。

「そうですね……私ももう一つ開けようかと思います。」

「じゃあ、二つ用意しておいて。ちゃんと僕が渡してるお金でね。」

「ですが……。」

「これくらい良いから。その代わり、用意だけはお願いね。」

「ありがとうございます。本日の夜はどうなさいますか?仮眠をとられるだけですよね?」

イザベルが言ってるのは、アシェルがドレスを着た日の夜は必ず飲むものを持ってきてくれる話だ。

「多めにしてもらっていい?」

「かしこまりました。そろそろ上がってこられますね。」

イザベルの言う通り、脱衣所の方で声がしている。

少しして、頭にタオルを乗せたバスローブ姿のアークエイドが出てくる。
髪が濡れている間は寝間着を着るなと、サーニャが言ったに違いない。

ソファの隣に腰掛けたアークエイドの頭を、サーニャが丁寧に拭いていく。

「先に湯をもらった。ありがとう。やっぱりアシェは綺麗だな。アシェの意思じゃないとしても、俺の色を身に着けてくれているのは嬉しい。」

「悔しいけど、僕の好きな色合いやデザインなんだよね、このドレス。ちょっとキラキラさせすぎてて、お高そうなところが難点だけど。」

このドレス一着で、学院での食事代が何食分賄えるんだろうかと思ってしまう。
しかもドレスに合わせた装飾品から靴まで一式揃ってるのだ。

「公爵家なんだ。これくらいどうってことないだろ。それに安っぽい恰好をしてると、口さがない奴らの恰好の的になるぞ。それにしても、この前のドレスは深みのある青をキラキラさせていたよな。青色とキラキラしてるのが好きなのか?」

「キラキラがっていうより、ラピスラズリや星空みたいで綺麗じゃない?特に今日のドレスは、夜と朝焼けの間って感じがする。間が赤みに寄ってたり紫っぽいと日の入りって感じだけど。青とか紫とか黒とか。そういう落ち着いた色が好きかな。」

「そうか……覚えておく。」

「アシェル様、お湯の張替えが終わりましたがどうしましょうか?」

イザベルにお風呂に入るように促されているが、アークエイド次第だ。

「お風呂に入ってきていい?」

「あぁ。立った時に一回転だけしてくれるか?スカートのグラデーションも綺麗だから、広がったところを見ておきたい。」

「確かにこのドレス、綺麗な色合いだよね。」

アークエイドの希望に応え、少し広いスペースでくるりと一回転すると、スカートがふわりと花開く。
やっぱりこのドレスは、しっかりアシェルの好みを抑えていて好きなドレスだ。

「ありがとう。疲れを癒してきてくれ。」

「うん。何かあればサーニャに言ってね。あと、アークは部屋を出ないでね。」

「分かってる。」

アークエイドはサーニャに化粧台の前に促されているようなので、今から髪を乾かすのだろう。

アシェルも脱衣所へと向かい、イザベルのお世話を受けるのだった。
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