氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

113 三の森は【朱の渡り鳥】と共に①

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Side:アシェル13歳 春



「待たせたな。」

最後に到着したアークエイドがテーブルに着席する。

「僕はさっききたところだよ。」

「俺とマリクもそんなに待ってねぇよ。」

「きょーは先にテーブルにいるのって、アシェがお薬くれるんだよねー?」

マリクの言葉に頷いたアシェルは、『ストレージ』の中からそれぞれに渡すための薬瓶を括り付けたホルスターを取り出す。

「マリクは動きを阻害しないために腰に付けるタイプのホルスター。エトとアークには太腿に付けるタイプのホルスターを用意してるよ。薬を使う時にややこしいから先に手渡した方を、飾りが真後ろを向くように右の太腿に。後のを左の太腿に付けてね。僕の太腿にも同じものを同じ並びで付けてるから。」

それぞれ手渡し、装着しているのを見ながら説明をする。
今日は王都の北東にある魔の森に討伐に行くために集まっている。

「今日は三の森に入るんだけど、一の森と二の森とは違って虫系の魔物が群れで出てきやすい。僕が夏に入った時と、ギルドの資料室でも確認したけど。大まかにポイズンビー系の毒だけで3種類、アント系で2種類、スパイダー系の毒だけで5種類ある。まぁ、もっと細かくいうとさらに分かれるけど、解毒剤はこの10種類で網羅できてる。」

立ち上がって一番右端の薬瓶から順番に説明していく。

「一番右から黄色っぽいハチの解毒剤、赤っぽいハチの解毒剤、緑っぽいハチの解毒剤。黄色が一番弱くて、緑が一番強い毒になる。魔物の強さも毒の強さに比例してるよ。でもハチ毒は遅効性だから、すぐに解毒剤を飲んでくれれば大丈夫。毒自体は視認しやすい暗緑色だけど、毒を受けたか分からなかったら僕に聞いて。必要そうなら番号も叫ぶから。右から1~3はハチ毒の解毒剤。覚えた?」

三人の顔を見れば頷いてくれる。
もしものためにそれぞれの薬液は、ポイズンビーの色に合わせた色付けもしてある。

「次がアント系の毒。4と5番だね。アリの毒は命に関わるものじゃないけど、あの強い顎と相まってかなり痛みが出るのを解毒するのが4番目。強い痺れを解毒するのが5番目。特に痺れの方は、噛まれた部位によっては自分で飲めないかもしれないから、状況に応じて人に飲ませる必要があるかもしれない。まぁ、多分僕が飲ませるけどね。この二つも大丈夫?」

またも三人が頷いてくれる。
これは色付けしていないが、二つに一つなので大丈夫だろう。

その次の左のホルスターの右端の薬瓶を示す。

「次からがスパイダー系の解毒剤。端から6~10番。これも6が弱くて10が強い。でも注意してほしい。種類が多いのに蜘蛛毒は即効性があるから、10を利用する場合は命の危険がとても高い。というよりも、即効性がある分ちょっとしたことが命取りになりやすいし、僕以外だとどこまで影響が出るか分からない。だから、出来ればスパイダー系の魔物の時は僕が許可を出さない限り、手を出さないで欲しい。万一僕が取りこぼして傷を負ってしまった時はすぐに申告して。何番か教えるから。そしてすぐ飲んで。無理なら誰かがすぐに飲ませて。分かった?」

これにもすぐに頷かれるかと思ったが、アークエイドだけが違った。

「もしかしてそのために前衛の恰好なのか?」

「そりゃそうだよ。マリクはキルル様と行ったことあるし、エトもアークも行ってみたいって言うから行くけど。本来なら皆を連れて入りたくないんだからね。僕からしたら素材の宝庫だけど、皆は特別お金を稼ぎたいとか、冒険者ランクをガンガン上げたいとかないでしょ。解毒剤は補充できるくらい十分に作ってきてるけど、何があるか分からないんだから。三の森だけは僕一人の方が楽なんだからね。少なくともリリィは連れて行きたくない。見たことない植物とかすぐに触るから、危なすぎる。あ、魔物だけじゃなくて植物にも色々あるし、僕が前に戦ったフォレストタイガーは血液凝固阻害系の植物の汁を爪につけてたみたいだったから、戦闘時も気を付けてね。不調を感じたら僕にすぐ教えて。」

今度こそ三人とも頷いてくれる。

しっかり注意事項を伝達し終え、依頼の確認に行こうとしたアシェル達に声がかかった。

「よう、アシェル。四人集まったところから話聞いてたけど、すげぇな。」

「ガルド、久しぶりだね。凄いって何が?」

声をかけてきたのは、王立学院に入る前に助けたことのあるサポーター君ことトーマとパーティーを組んでいるガルドだ。

ガルドがリーダーを務め、同じく剣士のジン、弓使いのユウナ、魔法使いのアーニャにトーマを加えた五人パーティーだ。

夏休みに二の森で出会った面々である。

「解毒剤の準備から種類、その説明までだよ。俺達も三の森に潜ってるけど、さすがに10種類も解毒剤は用意してないからな。」

「ガルド達も三の森に潜ってるの?……それ、大丈夫なの?」

胡乱気な視線を送るアシェルに、ガルドは苦笑を返す。

「あのなぁ。アシェルが規格外なんだよ。俺達【朱の渡り鳥】は、これでも三の森レベルはあるし、冒険者ランクはCだからな?前以上に成長してんだぞ。B以上になるには大森林か大海、ビースノートに行かないといけないから上がってないだけだ。」

【朱の渡り鳥】というのはガルド達パーティーの名前だろうか。
リーダーのガルドが朱色の髪なのでそこが由来だろう。
渡り鳥というのだから、彼らは王都出身では無いのかもしれない。

「へぇ……ガルド達でCなんだ……。ギルドのランクって割と緩いんだね。僕なんて夏に適当に依頼受けたので、ようやくEだよ。」

「くぅ……アシェルが強いから言い返せねぇ。」

悔しそうな顔をするガルドを、その後ろにいるパーティーメンバーが慰めている。

「なぁ、アシェ。一区切りついたなら紹介してくれねぇ?誰だ??」

エラートの言葉で、そういえばアークエイドしか、ちゃんとこのパーティーと対面していないことを思い出す。

「ごめんごめん。昔モンスタートレインを押し付けてきたパーティー覚えてる?あの時のサポーター君が今いるパーティーのリーダーをしてるのが、朱色の髪の男性で剣士のガルド。その奥の灰色の髪の男性が剣士のジン。その隣のモスグレーの髪の女性が弓使いのユウナ。その隣のローブ姿で焦げ茶の髪の女性が魔法使いのアーニャだよ。大きい荷物を抱えている栗色の髪の毛の男性が助けたトーマだね。」

アシェルの紹介に合わせてそれぞれ頭を下げていく。

「で、僕のパーティーのアークはもう紹介したよね。こっちの赤髪の方がエラート、エトって呼んでる。青灰色の毛並みの獣人がマリクだよ。トーマと出会った時のパーティーだね。今は一緒に王立学院に通ってる他の幼馴染と一緒にパーティーを組むこともあるけど、基本はこの四人かな。」

エラートとマリクも礼をする。

以前ガルドにアシェルのパーティーを紹介してほしいと言われたが、これで約束は果たせただろうか。

「新しく紹介してもらった二人が前衛で、アシェルとアークが後衛か?」

「んー厳密には、エトはタンク役、マリクがアタッカー、アークが臨機応変に剣も魔法も使う中衛よりのアタッカー、僕が後衛だね。バランスの取れたパーティーでしょ。」

「やっぱりアシェルが後衛かー。信じられねぇ。」

「ガルドさん、いい加減を現実見ましょうよ。アシェルさんは後衛だったって言ってるじゃないですか。」

「トーマはそういうけどよ。」

がっくりと肩を落としているガルドをぽんぽんと叩きながらジンが口を開く。

「ガルド、アシェルに言いたい事があるんだろ。リーダーなんだから用件を早く伝えてくれ。」

「あぁ、そうだった。なぁ、アシェル達は三の森に入るんだよな?野営予定か??良かったら俺達と一緒に、三の森に入ってくれねぇか?」

「ガルド達と?……僕だけじゃ決めれない。ちょっと待って。」

思わぬ申し出に、アシェルは幼馴染達を見る。

「えっと……どうしよう?」

「アシェの知り合いだし、三の森に関しては俺は何も言えない。俺は連れて行ってもらう側だ。」

アークエイドは早々に意見を言って沈黙する。

「んー、アシェが警戒してないから、いい人達なんだよねー?なら俺はどっちでもいーよー。三の森はかーさんと何度か入ってるし、他の冒険者も見たことあるからー。フォローは出来ると思うー。」

「俺は【朱の渡り鳥】?の実力が分かんねぇからな。でも、確かにCランクなら三の森レベルだぜ。俺達がランク上げてなさすぎなだけだしな。アシェが良いんなら、別に良いんじゃねぇか?人数が増えて大変なのは、俺達じゃなくてアシェだろ。」

結局アシェルに決断を委ねられる。

「うーん。三の森は行ったことあるんだよね?緊急時はこっちで薬飲ませればなんとかなるかな……。薬の在庫も……。毒は……。」

ぶつぶつとアシェルは考え込み、手持ちの解毒剤やその素材、敵の強さやガルド達の夏時点での実力を考察していく。
実力に関しては、少し弱く見積もりを出すくらいで丁度いいだろう。

「うん、まぁいけるかな。いいよ、ガルド達も一緒で。ただ、僕ら今回は何日野営するかとか決めてないし、深部まで潜るかもしれないけど、それは大丈夫?」

「まじか!ありがとうな。あぁ、何日も潜るのは問題ないぜ。」

「アーニャにはちゃんとマナポーションを装備させてる?」

「はいっ!アシェルさんに頂いたホルスターに、しっかりマナポーションを用意してます!!これがあるとないとでは大違いなので、凄く助かってます。」

元気いっぱいにアーニャが答えてくれる。

「ガルド達に渡す解毒剤のホルスターはないから、ガルド達が毒を貰ったら僕に自己申告して?あと、ハチと蜘蛛はこっちのパーティーでやるから、手を出さないでほしいかな。流石にフォローが難しい。あと、どちらのパーティーにも言うけど、トレントに木の実が生ってたらそれには手を出さないで距離を取って。胞子持ちだったら胞子の採取をしたいけど、割と凶悪な毒だから。解毒剤もないから、死んでも知らないからね。」

にっこりとアシェルが言う最後の言葉に全員が頷いた。
誰もがトレントという木に擬態した魔物を知っているが、木の実については初耳だった。

アシェルが居ると言うのなら、希少個体だとしても存在する。
そして死ぬ可能性を示唆されたということは、アシェルが魔力を使って解毒してくれても間に合わない可能性があるという事だ。
その事実を理解している王都組は特に、何があっても木の実持ちのトレントには近づかないと強く心に誓った。

「あと、トーマのその荷物。野営用の分は全部エトに預けてくれる?大丈夫。エトの魔力は有り余ってるから、そのくらいの荷物は普通に入るから。」

「有り余ってるとか言うなよ。入るけどさ。」

「ストレージと身体強化にしか使わないんじゃ、侯爵家の魔力量なら有り余ってるでしょ。未だにクリーンを使うのも怪しいし……。リリィにあげたスクロール、少し改良したのがあるから、出来そうなら夜練習しようね。」

「まじかー。俺墓穴掘った気がする。」

「エトがんばれー。俺はおーえんしてるねー。」

夜の訓練予告にがっくりと肩を落としながら、エラートはトーマの抱えていた荷物のほとんどをストレージに仕舞ってしまう。

「あのー。これだと僕、サポーターとしてお役に立てないんですが。」

急に仕事を奪われて不安そうなトーマだが、本来サポーターとは荷物持ちだけではないはずだ。

「サポーターだから、荷物持ち以外にも色々できるでしょ?こと切れた魔物は、毒を持った場所以外には触れて良いからね。ご飯なんかもお願いするから。」

「なるほど、荷物を預けたのはそういうことですね。解りました。僕、頑張りますね。」

相変わらずトーマは理解が早くて助かる。

「ガルド達は依頼を受けた?僕らはこれからなんだけど。」

「いや、まだだ。一緒に見ようぜ。」

ガルドの誘いに乗って、皆でぞろぞろと移動する。

冒険者ギルドの掲示板には色々な依頼の紙が貼られている。

「ねぇ、合同で依頼を受ける場合、どこにランクを合わせたら良いの?僕がE、アークがFは確実。エトとマリクは?」

「俺はEだな。少しだけ親父と来た時に上げておいた。」

「俺はDだねー。かーさんのランクで依頼を受けてたから、多分高いほうで良いんじゃないのー?」

「じゃあ俺達のCが一番上だな。Cまでは受けれるぞ。っていうか、アシェルみたいな強い奴が低ランクなんて、勿体ねぇ。」

三の森関連の目ぼしい依頼を物色しながら、ガルドに答える。

「ここではCまでって知らなかったからだけど、高ランクって強制招集とかあって面倒でしょ。一応僕ら王立学院生だから、緊急招集されると授業に穴開けないといけないし。あ、これいいな。それに、登録さえしてれば素材の買取をしてくれるし、珍しい素材を直接買い付けることも出来るし、僕らはまだ貴族の親に養ってもらってる立場だしさ。わざわざ成功報酬貰わなくても問題ないんだよね。ただ、C程度なら上げたほうが依頼を受けやすいなって、今思ってる。」

べりべりといくつも依頼用紙を剥ぎ取っていく。

「そういやアシェル達は貴族だって言ってたな。十分冒険者としてもやっていけそうだけどな。」

「残念ながらそういうわけにもいかないんだよね。よし、受けたい依頼はこんな感じ。皆目を通してもらえる?」

討伐依頼から採取依頼まで、豊富なラインナップの依頼書を見せる。

「おいおい、一回でこの量受けるのか?」

「うん……何か問題ある?」

「何日籠るつもりだよ。」

「もう午後だから、長くても三泊四日あればこれくらい終わるかなって。素材については、ある程度の分布や生えやすい環境は頭に入れてるしね。」

「いやいや、採取依頼だけでどんだけあるんだよ。これ全部の分布や見つけやすいとこを覚えてるのか?」

「うん。覚えてないと採取できないでしょ。」

きょとんと首を傾げるアシェルだが、幼馴染達はガルドに哀れみの視線を向ける。
ガルドの反応は一般的なものだ。

錬金にかける熱意が尋常じゃないアシェルは、当たり前のように素材の生えているポイントや採取に適した時期などを覚えているが、大抵は地図に書き込んだりしながら覚えたりするものだ。
もしくは得意なポイントの依頼だけ受けるなど。

アシェルの剥がした依頼書は、三の森で確認されている植物素材の依頼全てだ。
一枚だけ残してあるのは、今の時期に見合わない依頼である。
あれは受付に苦情を言う必要がある。

「まぁ、アシェルがそう言うなら良いか……。で、そっちのパーティーリーダーは誰だ?受付に行きたいんだが。」

「リーダー……誰だろ?」

「俺ら、パーティー名もないしねー。やるならアシェかエトじゃないー?」

「俺は嫌だぞ。二つ名持ってるアシェ差し置いて、リーダーになんかなれねぇよ。」

「エト、それは忘れて良いから。」

「いやいや、二つ名って結構大事だからな。冒険者ギルドがそれだけ実力を認めてるってことだぞ。パーティー名をどうするかとかは置いといて、リーダーに二つ名持ちがならないのはありえねぇって。」

「え……二つ名って、もしかしてギルドが決めるの?」

「あぁ、知らなかったのか?だから口にされなくなったとしても、完全に二つ名が消えることは無いぞ。」

「知らなかった……時間が経てば無かったことになるかなって思ってたんだけどなぁ。まぁ、それなら仕方ない。ガルド、僕がリーダーらしいから、受付にいこう。」

なし崩し的に王都組パーティーのリーダーになったアシェルは、ガルドと共に、メンバー達のギルドタグも持って受付に行く。

束になった依頼書を差し出すと、受付嬢は少し驚きながらも事務的に対応してくれた。

「合同パーティーでの依頼受注ですね。パーティー名を教えて頂いても良いでしょうか?」

「こっちは【朱の渡り鳥】だ。」

じゃらっとガルドがギルドタグをカウンターに並べ、受付嬢がそれを確認する。

「うちはパーティーを組んで長いんですけど、パーティー名は無いんです。必要ですか?」

「合同パーティーで活動することがあるのならば、決めて頂いた方が良いですね。すぐは無理でも、今回の依頼報告の時で構いませんので決めておいてください。現状はアシェル様の二つ名である【血濡れの殺人人形ちぬれのキリングドール】で仮受付しておきますね。」

どうもこの【血濡れの殺人人形ちぬれのキリングドール】という二つ名は付きまとうらしい。
せめてパーティー名くらいきっちり決めたい。
野営中の課題が出来た。

アシェルもガルドと同じようにギルドタグを置けば、確認して返される。

「はい、全て受け付けました。期日までに報告が無い場合、違約金が発生するのでご注意ください。それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

期限は一か月あるので余裕で終わるだろう。

「あ、その前に。掲示板にあるネズミモチの実の採取。時期がかなりズレてるから、あの依頼は無理だよ。剥がしておいた方が良いと思う。」

「ありがとうございます。確認しておきます。」

ぺこりと頭を受付嬢が頭を下げた。

アシェルとガルドはギルドタグをメンバーに返却し、それぞれ首にかける。

予定より大所帯になったが、総勢9名で三の森へ出発した。

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