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第三章 王立学院中等部二年生
115 三の森は【朱の渡り鳥】と共に③
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Side:アシェル13歳 春
T字に流れる川の交わる部分にある橋を渡り、三の森へ入る。
「なぁ、どこで野営するんだ?」
「三の森の一番西側だよ。明日には中央、明後日には一番東側で野営して帰ろうかなって。まだ討伐したければその時に考えたらいいしね。採取もあるからゆったりめの全域周るルートだよ。あ、アイアンアントが8。もうすぐ来るからね。」
ガルドの質問に答え、現れたアイアンアントを連携を組んで倒す【朱の渡り鳥】のフォローに回れるように、アシェルとアークエイド、マリクは後衛を囲んで待機する。
前衛のフォローはエラート任せだが、人に教えるのも人を守るのも得意なので、一人でもガルドとジンのフォローをする実力は十分だ。
場合によっては、アシェルは近くの素材を採取して戦闘の終了を待つ。
その時にはトーマとアーニャが付いてくるので、薬草の薬効を持つ部分を説明しながら採取の方法を教える。
薬草は採取する方法から加工するまでで、如何にその素材の持つ成分を有効活用できるかが変わってくる。
こういった細かい指導はなかなか受けることが出来ないのが現状だが、これで少しでもいい状態の薬草が出回ってくれると良いなと思う。
可能な限りハチと蜘蛛は避けて三の森を進む。
黄色系のポイズンビーは三度程遭遇したが、アークエイドの拘束とマリクだけで事足りた。
トーマはきっちり腹部だけをアシェルの元に持ってきて、頭は燃やしやすいように一纏めにしてくれた。
本当に良く出来たサポーターだ。
あともう少しで野営予定地というところで、避けられない蜘蛛の集団を感知する。
「あー、これは駄目だな。皆止まって。」
アシェルの言葉を聞いた全員が歩みを止める。
「ここに後衛を真ん中にして、左右にガルドとジン。うちのパーティーが一番外側で前衛が前方警戒。アークは後方警戒。トーマは出てこないこと。蜘蛛の群れ以外は居ないから、念のための警戒だね。こっちには取りこぼさないつもりだけど、もしもの時は番号叫ぶからよろしくね。」
「一種類じゃないのか。」
「混合だね。ふふ、一回で色んな素材が取れるなんて嬉しいよね。ちょっと行ってくるね。」
期待に胸を膨らませてアシェルが歩みを進める姿を、幼馴染達は溜め息と共に送り出す。
「なぁ、蜘蛛って……アシェルが手を出すなって言ってたやつだよな?見間違いじゃなければ、結構な数が居る気がするんだけど。俺らは何回も潜ってるが、あんな数見たことないぞ。大丈夫なのか?」
ガルドがぞわっと鳥肌を立てた腕をさすりながら、アシェルの幼馴染達に問いかける。
「本気を出せば、アシェにはあんなの朝飯前だ。でも出さないだろうな。」
「はぁ?あの数だぞ。流石に……。」
アークエイドが配置に付きながら答えた言葉に、ジンが言い淀む。
「アシェのあの笑みは、遊んでくるって感じだよなぁ。魔法も身体強化だけじゃねぇか、あれ。バインドは使ってなさそうだ。」
「アシェの暴れる時間だねー。これくらいのほーが、アシェはたのしーんじゃないかなー。きれーな笑顔だよねー。」
冷静にエラートが戦況を見て、マリクは暴れられて良かったねーと笑顔を浮かべている。
「私にはどれくらい凄いか分からないけど、あの数を相手に動き回ってるのが凄いことは分かるわ。それにしても……。」
「綺麗ですね。相手が蜘蛛って言うのが見た目に気持ち悪いですけど、アシェルさんだけ見てると、踊ってるみたいです。」
「流石アシェルさんです。やはり凄いですよね。」
後衛の三人はアシェルの姿を眼で追いながら、それぞれ感想を口にした。
大量のポイズンスパイダー、もとい多種多様な素材を前にして、アシェルは上機嫌でブロードソードを振るっていた。
植物素材の採取も楽しかったが、やはり何にしても素材の採取とは心が踊るものだ。
「ふふ、せっかく避けて通ってたのに、皆揃ってお出迎えしてくれたんだね。僕達の人数が多かったから、ここで待ち伏せでもしてるつもりだったのかな?でもごめんね。君達と遊んであげれるのは僕だけだよ。」
模様も色も様々な蜘蛛の吐く糸を避けながら、同じ種類の蜘蛛から頭を落としていく。
「まずは10番目から相手してあげるね。君達は仲間には致死毒だから、少し厄介なんだよね。」
トンと地を蹴り間合いを詰め、頭部と胴体の間、くびれて細くなっている部分を分断して、どちらも『ストレージ』に収納していく。
頭部にはアシェルの求める毒腺を持つ鋏角と呼ばれる部位が在り、腹部には蜘蛛の糸を生産する機関が在る。
前世の蜘蛛のことは分からないが、魔物の蜘蛛は糸を出す穴の位置に袋のようなものがあり、そこに糸が収納されている。
大小様々な蜘蛛達は、その身体によって違う太さの糸を生産して蓄えているので、腹部も買い取ってもらえるのだ。
強度もしなやかさも持ち合わせた蜘蛛糸は高級素材なので、買取価格も高い。
「嬉しいな。8~10番目は持ち合わせが無かったから、わざわざギルドで買い取って解毒剤を作ったんだよね。10番目で毒薬を作ったら、どんな毒になるかな。今回の冒険は緑ハチと出会えるかな……出会えたら、遅効性と即効性の二つの強い毒で毒薬が作れるね。ふふふ、今から楽しみだな。」
地を蹴り剣を振るい、ストレージに仕舞いこむ。
時には木の上に居る個体もいるので、大きく飛び跳ね、同じように頭と胴体を切り離していく。
「うーん……やっぱり虫系はダメだね。生命力があまり強くないや。だーれも悪あがきしてくれない。残念。糸を飛ばされても勿体ないだけだから、糸を出す穴だけ塞いじゃおうかな……。うん、良い考えな気がする。」
なんとかアシェルを絡め取ろうとする糸を避けながら、アシェルは『拘束』で糸の噴出口を塞いでいく。
と言っても、あとは6番の一番弱い蜘蛛が3匹だけである。
急に糸が出せなくなって、おろおろと戸惑っているように見える。
「ねー、あと三匹だけだけどやる?やりたいなら譲るけど。」
後方で待機させていた仲間に声を掛けると返事が返ってきた。
「アシェはもーいーのー?いーなら俺がやるー。」
「うん、素材であること以外の楽しみは無かった。虫はあっけなさすぎて駄目だね。糸は出せなくしてるし、6番だけだから。前顎みたいなのにかすったら6番を飲むんだよ。」
「おっけー。」
マリクが嬉しそうに駆け寄ってきて、糸が出せないと知って直接襲い掛かってくる蜘蛛とじゃれ合っている。
どうやら三匹の蜘蛛で戦わせてみたかったみたいだが、同種のためか魔物としての本能なのか、マリクにしか目が向かないようだ。
結局マリクが爪で頭と胴体を切り離して決着がつく。
その分かれた上下をトーマが運んできてくれて、アシェルの『ストレージ』に収納する。
そして目と鼻の先にある、開けた野営ポイントに到着した。
野営ポイントに着くと、エラートが『ストレージ』から【朱の渡り鳥】の荷物を取り出す。
それをトーマが荷開きして、野営の支度を始めた。
まだ少し陽は高いが、もう少しすれば暗くなり始めるはずだ。
どこかを散策する余裕はないので、このまま野営で良いだろう。
「マナポーションの配給するよー。今日魔法使った二人とエトも来てー。」
トーマの隣で声を出して三人を呼ぶ。
トーマには先程、アシェルがマナポーションを飲むついでに飲んでもらった。
近付いてきたアーニャとアークエイドにマナポーションを手渡す。
「なんで俺?俺が使ったのは身体強化とストレージくらいだし、いつもより魔力は使ってないくらいだと思うぞ。ほとんどガルドとジンの戦いを見てただけだしな。」
困惑気味のエラートの手にマナポーションを押し付ける。
「ふふ、良いから良いから。飲んでおかないと後悔するかもよ?」
クスクスと笑うアシェルを見て、エラートが明らかに嫌そうな表情をする。
その心の内をアークエイドが代弁した。
「アシェがその表情で笑ってる時は、何か企んでる時だ。諦めろ、エト。」
「俺なにやらされるんだよ。」
文句を言いつつもマナポーションの瓶を傾け、空になったそれをアシェルに返してくれる。
「トーマたちの野営範囲って、大体夏にお邪魔した時くらいだと思っていい?」
「はい。ここから、この辺りまでの予定です。大丈夫ですか?」
「うん。あっち端で解体作業するようにするから、中心は……ここにしようかな。ここだけ開けておいてくれる?」
地面にその辺の木の枝で四角い囲みを描く。
「分かりました。それでしたら、焚き火と食事の位置はここにして、ゆっくりする時にも被らないようにしておきますね。」
「うん、ありがとう。エトには今から結界を張ってもらうけど、今日は僕の書いたスクロールを使ってほしいんだよね。ちょっと待っててね。」
うきうきとアシェルは野営予定地の四隅に記号を記し、上にクズ魔石を置いて中央付近に戻った。
『ストレージ』から取り出した粘土板を、地面につけた囲いの印の上に置く。
「スクロール?」
「まぁ、厳密には紙でも羊皮紙でもないんだけど、結界の術式を書いてあるよ。市販の結界スクロールは、わざと使い捨てになってるからさ。自分で描くなら、使い捨てじゃなくて良いかなって。これはエトの有り余った魔力をたっぷり吸い込んでやろうっていう、豪華版結界だよ。」
ふふんと自慢気に話すアシェルだが、エラートの表情は晴れない。
「それでマナポーション。まさか、魔力枯渇までしねぇよな?俺はトワみたいになるのは嫌だぞ。アシェ達みたいに、潜在消費出来るわけじゃねぇんだからな??」
「そこは大丈夫な予定。そんなに魔力をつぎ込んだら、贅沢すぎる結界になっちゃうよ。とりあえずさ、エトの今の魔力量を観たいから、手貸して?ちょっと気持ち悪いだろうけど、ちゃんと僕の魔力は回収するから安心してね。」
「はいはい、もうどうにでもなれ。」
諦め顔のエラートの両手を握り、ゆっくりと右手からアシェルの魔力を通して、左手から回収する。
分かってはいたが、魔法をまともに活用できないのが勿体ないくらいの豊富な魔力量だ。
「よし、良いよ。じゃあ次、ここに手を置いて魔力を流してもらったら、一定量この術式がエトの魔力を吸うから。一瞬で終わるけど魔力を吸われる感覚があるから、倒れないようにだけしてね。」
アシェルだけでなく、アークエイドとマリク、アーニャとトーマも見守る中。深呼吸したエラートが粘土板の上に右手を乗せて魔力を流した。
それに合わせて、明らかに空気が変わった事が分かる。
きちんと術式が発動し、結界を張ることが出来たのだ。
結界は目に見えた変化がないので分かりづらいが、使用開始時には空気が澄んだように感じるのが成功の合図である。
「皆、マークを書いた結界の範囲から出ないでねー。出たら戻ってこれないかもしれないからー。で、エト、身体はどんな感じ?」
大事な注意事項だけ叫んで、怠そうにしているエラートの両手を取る。
「どんなもこんなも、頭いてぇ、だりぃ。確かに枯渇はしてねぇけど、これ、枯渇の手前くらいまで来てんじゃねぇの?」
「そうでもないよ。完全に枯渇するにはあと二割分使わないとダメだね。」
魔力を通して判った事実を告げる。
「マジかよ。ってことは、枯渇まで行くともっとしんどいのか。」
「そういうことになるね。リリィの衝動暴発に巻き込まれたデュークは、総量の0.5割ってところだったかな。かなりギリギリだった。余りしんどいようなら、少し魔力分けてあげるけどどうする?僕の実験に付き合わせたから、アフターサービスくらいはするよ。」
「頼む。ポーションで回復待つのは辛い。」
「了解。ちょっと気持ち悪いけど我慢してね。」
ゆっくりと両手から魔力を注ぎ、エラートの魔力の波形に合わせて馴染ませていく。
5分ほど魔力を流すと、エラートから「もう大丈夫だ。」と言われ、魔力の譲渡を止めた。
「なぁ、これで今どれくらいの魔力残量なんだ?急に頭痛と倦怠感が消えたんだけど。」
「今の残量で丁度3割ってところだね。だから、7割がた使ったら身体が危険信号出してるってこと。魔力使う時の目安にすれば良いよ。……と言っても、エトには関係のない話だろうけどね。」
「うるせぇ。」
クスクスと笑うアシェルに、エラートが頬を膨らませて見せる。しかしクリーン一つまともに使えないエラートが魔力枯渇になるとしたら、今のように外的要因だ。
本人が気を付けてどうにか出来る物でもない。
それまでは大人しくやり取りを見ていたアーニャだが、話の区切りを感じたのか、我慢できないというようにアシェルに詰め寄った。
「この結界の術式はアシェルさんが書いたんですか!?前に張ってもらったのよりも広域で密度も高いのに、今日のもやっぱりクズ魔石ですよねっ?アシェルさんに教えて頂いたので魔力枯渇は分かるんですが、潜在消費ってなんですか??それに他の人の魔力って感知できるんですか?残量が分かるのもですが、魔力を分けるってなんですか?それは覚えたら私にもできますか!?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、アシェルは苦笑する。
アーニャは魔法のことが大好きなようで、アシェルのやることなすこと食い入るように見ていて、こうやって質問もしてくるのだ。
T字に流れる川の交わる部分にある橋を渡り、三の森へ入る。
「なぁ、どこで野営するんだ?」
「三の森の一番西側だよ。明日には中央、明後日には一番東側で野営して帰ろうかなって。まだ討伐したければその時に考えたらいいしね。採取もあるからゆったりめの全域周るルートだよ。あ、アイアンアントが8。もうすぐ来るからね。」
ガルドの質問に答え、現れたアイアンアントを連携を組んで倒す【朱の渡り鳥】のフォローに回れるように、アシェルとアークエイド、マリクは後衛を囲んで待機する。
前衛のフォローはエラート任せだが、人に教えるのも人を守るのも得意なので、一人でもガルドとジンのフォローをする実力は十分だ。
場合によっては、アシェルは近くの素材を採取して戦闘の終了を待つ。
その時にはトーマとアーニャが付いてくるので、薬草の薬効を持つ部分を説明しながら採取の方法を教える。
薬草は採取する方法から加工するまでで、如何にその素材の持つ成分を有効活用できるかが変わってくる。
こういった細かい指導はなかなか受けることが出来ないのが現状だが、これで少しでもいい状態の薬草が出回ってくれると良いなと思う。
可能な限りハチと蜘蛛は避けて三の森を進む。
黄色系のポイズンビーは三度程遭遇したが、アークエイドの拘束とマリクだけで事足りた。
トーマはきっちり腹部だけをアシェルの元に持ってきて、頭は燃やしやすいように一纏めにしてくれた。
本当に良く出来たサポーターだ。
あともう少しで野営予定地というところで、避けられない蜘蛛の集団を感知する。
「あー、これは駄目だな。皆止まって。」
アシェルの言葉を聞いた全員が歩みを止める。
「ここに後衛を真ん中にして、左右にガルドとジン。うちのパーティーが一番外側で前衛が前方警戒。アークは後方警戒。トーマは出てこないこと。蜘蛛の群れ以外は居ないから、念のための警戒だね。こっちには取りこぼさないつもりだけど、もしもの時は番号叫ぶからよろしくね。」
「一種類じゃないのか。」
「混合だね。ふふ、一回で色んな素材が取れるなんて嬉しいよね。ちょっと行ってくるね。」
期待に胸を膨らませてアシェルが歩みを進める姿を、幼馴染達は溜め息と共に送り出す。
「なぁ、蜘蛛って……アシェルが手を出すなって言ってたやつだよな?見間違いじゃなければ、結構な数が居る気がするんだけど。俺らは何回も潜ってるが、あんな数見たことないぞ。大丈夫なのか?」
ガルドがぞわっと鳥肌を立てた腕をさすりながら、アシェルの幼馴染達に問いかける。
「本気を出せば、アシェにはあんなの朝飯前だ。でも出さないだろうな。」
「はぁ?あの数だぞ。流石に……。」
アークエイドが配置に付きながら答えた言葉に、ジンが言い淀む。
「アシェのあの笑みは、遊んでくるって感じだよなぁ。魔法も身体強化だけじゃねぇか、あれ。バインドは使ってなさそうだ。」
「アシェの暴れる時間だねー。これくらいのほーが、アシェはたのしーんじゃないかなー。きれーな笑顔だよねー。」
冷静にエラートが戦況を見て、マリクは暴れられて良かったねーと笑顔を浮かべている。
「私にはどれくらい凄いか分からないけど、あの数を相手に動き回ってるのが凄いことは分かるわ。それにしても……。」
「綺麗ですね。相手が蜘蛛って言うのが見た目に気持ち悪いですけど、アシェルさんだけ見てると、踊ってるみたいです。」
「流石アシェルさんです。やはり凄いですよね。」
後衛の三人はアシェルの姿を眼で追いながら、それぞれ感想を口にした。
大量のポイズンスパイダー、もとい多種多様な素材を前にして、アシェルは上機嫌でブロードソードを振るっていた。
植物素材の採取も楽しかったが、やはり何にしても素材の採取とは心が踊るものだ。
「ふふ、せっかく避けて通ってたのに、皆揃ってお出迎えしてくれたんだね。僕達の人数が多かったから、ここで待ち伏せでもしてるつもりだったのかな?でもごめんね。君達と遊んであげれるのは僕だけだよ。」
模様も色も様々な蜘蛛の吐く糸を避けながら、同じ種類の蜘蛛から頭を落としていく。
「まずは10番目から相手してあげるね。君達は仲間には致死毒だから、少し厄介なんだよね。」
トンと地を蹴り間合いを詰め、頭部と胴体の間、くびれて細くなっている部分を分断して、どちらも『ストレージ』に収納していく。
頭部にはアシェルの求める毒腺を持つ鋏角と呼ばれる部位が在り、腹部には蜘蛛の糸を生産する機関が在る。
前世の蜘蛛のことは分からないが、魔物の蜘蛛は糸を出す穴の位置に袋のようなものがあり、そこに糸が収納されている。
大小様々な蜘蛛達は、その身体によって違う太さの糸を生産して蓄えているので、腹部も買い取ってもらえるのだ。
強度もしなやかさも持ち合わせた蜘蛛糸は高級素材なので、買取価格も高い。
「嬉しいな。8~10番目は持ち合わせが無かったから、わざわざギルドで買い取って解毒剤を作ったんだよね。10番目で毒薬を作ったら、どんな毒になるかな。今回の冒険は緑ハチと出会えるかな……出会えたら、遅効性と即効性の二つの強い毒で毒薬が作れるね。ふふふ、今から楽しみだな。」
地を蹴り剣を振るい、ストレージに仕舞いこむ。
時には木の上に居る個体もいるので、大きく飛び跳ね、同じように頭と胴体を切り離していく。
「うーん……やっぱり虫系はダメだね。生命力があまり強くないや。だーれも悪あがきしてくれない。残念。糸を飛ばされても勿体ないだけだから、糸を出す穴だけ塞いじゃおうかな……。うん、良い考えな気がする。」
なんとかアシェルを絡め取ろうとする糸を避けながら、アシェルは『拘束』で糸の噴出口を塞いでいく。
と言っても、あとは6番の一番弱い蜘蛛が3匹だけである。
急に糸が出せなくなって、おろおろと戸惑っているように見える。
「ねー、あと三匹だけだけどやる?やりたいなら譲るけど。」
後方で待機させていた仲間に声を掛けると返事が返ってきた。
「アシェはもーいーのー?いーなら俺がやるー。」
「うん、素材であること以外の楽しみは無かった。虫はあっけなさすぎて駄目だね。糸は出せなくしてるし、6番だけだから。前顎みたいなのにかすったら6番を飲むんだよ。」
「おっけー。」
マリクが嬉しそうに駆け寄ってきて、糸が出せないと知って直接襲い掛かってくる蜘蛛とじゃれ合っている。
どうやら三匹の蜘蛛で戦わせてみたかったみたいだが、同種のためか魔物としての本能なのか、マリクにしか目が向かないようだ。
結局マリクが爪で頭と胴体を切り離して決着がつく。
その分かれた上下をトーマが運んできてくれて、アシェルの『ストレージ』に収納する。
そして目と鼻の先にある、開けた野営ポイントに到着した。
野営ポイントに着くと、エラートが『ストレージ』から【朱の渡り鳥】の荷物を取り出す。
それをトーマが荷開きして、野営の支度を始めた。
まだ少し陽は高いが、もう少しすれば暗くなり始めるはずだ。
どこかを散策する余裕はないので、このまま野営で良いだろう。
「マナポーションの配給するよー。今日魔法使った二人とエトも来てー。」
トーマの隣で声を出して三人を呼ぶ。
トーマには先程、アシェルがマナポーションを飲むついでに飲んでもらった。
近付いてきたアーニャとアークエイドにマナポーションを手渡す。
「なんで俺?俺が使ったのは身体強化とストレージくらいだし、いつもより魔力は使ってないくらいだと思うぞ。ほとんどガルドとジンの戦いを見てただけだしな。」
困惑気味のエラートの手にマナポーションを押し付ける。
「ふふ、良いから良いから。飲んでおかないと後悔するかもよ?」
クスクスと笑うアシェルを見て、エラートが明らかに嫌そうな表情をする。
その心の内をアークエイドが代弁した。
「アシェがその表情で笑ってる時は、何か企んでる時だ。諦めろ、エト。」
「俺なにやらされるんだよ。」
文句を言いつつもマナポーションの瓶を傾け、空になったそれをアシェルに返してくれる。
「トーマたちの野営範囲って、大体夏にお邪魔した時くらいだと思っていい?」
「はい。ここから、この辺りまでの予定です。大丈夫ですか?」
「うん。あっち端で解体作業するようにするから、中心は……ここにしようかな。ここだけ開けておいてくれる?」
地面にその辺の木の枝で四角い囲みを描く。
「分かりました。それでしたら、焚き火と食事の位置はここにして、ゆっくりする時にも被らないようにしておきますね。」
「うん、ありがとう。エトには今から結界を張ってもらうけど、今日は僕の書いたスクロールを使ってほしいんだよね。ちょっと待っててね。」
うきうきとアシェルは野営予定地の四隅に記号を記し、上にクズ魔石を置いて中央付近に戻った。
『ストレージ』から取り出した粘土板を、地面につけた囲いの印の上に置く。
「スクロール?」
「まぁ、厳密には紙でも羊皮紙でもないんだけど、結界の術式を書いてあるよ。市販の結界スクロールは、わざと使い捨てになってるからさ。自分で描くなら、使い捨てじゃなくて良いかなって。これはエトの有り余った魔力をたっぷり吸い込んでやろうっていう、豪華版結界だよ。」
ふふんと自慢気に話すアシェルだが、エラートの表情は晴れない。
「それでマナポーション。まさか、魔力枯渇までしねぇよな?俺はトワみたいになるのは嫌だぞ。アシェ達みたいに、潜在消費出来るわけじゃねぇんだからな??」
「そこは大丈夫な予定。そんなに魔力をつぎ込んだら、贅沢すぎる結界になっちゃうよ。とりあえずさ、エトの今の魔力量を観たいから、手貸して?ちょっと気持ち悪いだろうけど、ちゃんと僕の魔力は回収するから安心してね。」
「はいはい、もうどうにでもなれ。」
諦め顔のエラートの両手を握り、ゆっくりと右手からアシェルの魔力を通して、左手から回収する。
分かってはいたが、魔法をまともに活用できないのが勿体ないくらいの豊富な魔力量だ。
「よし、良いよ。じゃあ次、ここに手を置いて魔力を流してもらったら、一定量この術式がエトの魔力を吸うから。一瞬で終わるけど魔力を吸われる感覚があるから、倒れないようにだけしてね。」
アシェルだけでなく、アークエイドとマリク、アーニャとトーマも見守る中。深呼吸したエラートが粘土板の上に右手を乗せて魔力を流した。
それに合わせて、明らかに空気が変わった事が分かる。
きちんと術式が発動し、結界を張ることが出来たのだ。
結界は目に見えた変化がないので分かりづらいが、使用開始時には空気が澄んだように感じるのが成功の合図である。
「皆、マークを書いた結界の範囲から出ないでねー。出たら戻ってこれないかもしれないからー。で、エト、身体はどんな感じ?」
大事な注意事項だけ叫んで、怠そうにしているエラートの両手を取る。
「どんなもこんなも、頭いてぇ、だりぃ。確かに枯渇はしてねぇけど、これ、枯渇の手前くらいまで来てんじゃねぇの?」
「そうでもないよ。完全に枯渇するにはあと二割分使わないとダメだね。」
魔力を通して判った事実を告げる。
「マジかよ。ってことは、枯渇まで行くともっとしんどいのか。」
「そういうことになるね。リリィの衝動暴発に巻き込まれたデュークは、総量の0.5割ってところだったかな。かなりギリギリだった。余りしんどいようなら、少し魔力分けてあげるけどどうする?僕の実験に付き合わせたから、アフターサービスくらいはするよ。」
「頼む。ポーションで回復待つのは辛い。」
「了解。ちょっと気持ち悪いけど我慢してね。」
ゆっくりと両手から魔力を注ぎ、エラートの魔力の波形に合わせて馴染ませていく。
5分ほど魔力を流すと、エラートから「もう大丈夫だ。」と言われ、魔力の譲渡を止めた。
「なぁ、これで今どれくらいの魔力残量なんだ?急に頭痛と倦怠感が消えたんだけど。」
「今の残量で丁度3割ってところだね。だから、7割がた使ったら身体が危険信号出してるってこと。魔力使う時の目安にすれば良いよ。……と言っても、エトには関係のない話だろうけどね。」
「うるせぇ。」
クスクスと笑うアシェルに、エラートが頬を膨らませて見せる。しかしクリーン一つまともに使えないエラートが魔力枯渇になるとしたら、今のように外的要因だ。
本人が気を付けてどうにか出来る物でもない。
それまでは大人しくやり取りを見ていたアーニャだが、話の区切りを感じたのか、我慢できないというようにアシェルに詰め寄った。
「この結界の術式はアシェルさんが書いたんですか!?前に張ってもらったのよりも広域で密度も高いのに、今日のもやっぱりクズ魔石ですよねっ?アシェルさんに教えて頂いたので魔力枯渇は分かるんですが、潜在消費ってなんですか??それに他の人の魔力って感知できるんですか?残量が分かるのもですが、魔力を分けるってなんですか?それは覚えたら私にもできますか!?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、アシェルは苦笑する。
アーニャは魔法のことが大好きなようで、アシェルのやることなすこと食い入るように見ていて、こうやって質問もしてくるのだ。
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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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