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第三章 王立学院中等部二年生
116 三の森は【朱の渡り鳥】と共に④
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Side:アシェル13歳 春
「アーニャは本当に魔法が好きだね。一つずつ質問に答えようか。まずこの術式は僕が組み立ててるよ。詳しくは勉強してないと解らないから割愛するけど、結界を張るのと同時に、その結界に気配遮断で匂いや気配を消してるのは、市販のスクロールと一緒。そこに認識阻害と防音に幻惑を重ね掛けしてあるんだ。その強度を決める魔力量は、市販のみたいに術者依存じゃなくて、ここの術式で一定量吸い取るようにしてるよ。だから、クズ魔石で十分って訳。今回はエトの魔力を使うのが前提だったから、そんじょそこらの魔物じゃここを全く認識できないレベル設定にしてあるよ。」
一つずつ該当する術式を指で指し示しながら、今回の結界の説明をする。
アーニャがどれほど理解できているかは分からないが、瞳をキラキラさせて熱心に聞いてくれるので説明のし甲斐がある。
その背後で幼馴染の三人はひそひそと話し合う。
「ねー、アシェが言ってる術式、読み取れるー?」
「読み取れるわけがないだろ。あれは確実に基礎からアレンジされてるぞ。しかも幻惑なんて何処で知ったんだ。一般的には知られてない闇魔法だぞ。」
「結界に効果盛りすぎだろ。そりゃ魔力ガッツリ持ってかれるよな。豪華版の意味が分かったわ。」
「俺達、この結界から出て、戻ってこれるかなー?」
「俺はぜってー無理。」
「エトは無理だろうな。俺も出てみないと詳細は分からないが、内容的にまず無理だと思う。」
「俺も気配も匂いも分からないと難しいかもなー。幻惑の効果もよく分かんないしなー。」
「恐らくだが、ここを目指してるつもりで、全く違う方向に誘導されるぞ。」
「あー、それは絶対でちゃダメな奴だねー。きょーは見回りなしだねー。」
そんな三人の話は聞こえていないアシェルは、アーニャの次の質問に答える。
「潜在消費については、アーニャは知らなくても困らないんだけど……その表情は知りたいってことだよね。しょうがないなぁ、トーマ達だから教えるんだからね。他で言っちゃ駄目だよ。」
アシェルが念を押せば、一緒に耳を傾けていたトーマとアーニャが力いっぱい頷く。
知的好奇心が満たされない苦痛は嫌と言うほど知っているので、知っていることならしっかり教えて満たしてあげたい。
「一般的に、誰でも魔力を消費してゼロになるか近くなることを魔力枯渇って言う、のは分かるよね?潜在消費はその先なんだ。普段使う魔力の他に、人間が持ってる予備の魔力タンクみたいなものがあるんだ。普通の人間には使えないんだけど、ヒューナイト王国の王家と高位貴族の8家の直系にだけ、加護持ちと呼ばれる予備タンクを扱える人間が現れる事があるんだ。加護持ちは、魔力枯渇をしても魔法を使い続けることが出来るんだけど、その代わり衝動って言う副作用がある。だから、一般的に加護持ちだとしても、魔力枯渇を起こさないように行動するのが普通だね。潜在消費をするのは不測の事態か、魔力を籠めすぎちゃうタイプの人だね。」
「ということは、さっきのエラートさんの話的に、少なくともアシェルさんは……。」
「貴族様だとは思ってましたが、その加護持ちで高位貴族ってことですね。あれ、8家……加護……?一部を除いて、身体的な特徴が出る家系じゃなかったですかね?」
アーニャの言葉を引き継いだトーマが首を傾げている。
「うん、出る家系だね。マリクとエトはそのままだけど、僕とアークは魔道具で色を変えてるんだ。だから内緒だよ。」
クスリと笑いながら人差し指を立てるアシェルに、アーニャが慌てている。
「待って、待ってください!貴族様ってだけでも恐れ多いのに高位貴族って!!それに、身分を隠さないといけないほどって。あわわわ、私、失礼働きすぎてないですか?大丈夫ですか!?」
慌てふためくアーニャの頭を、落ち着いてという意味も込めてポンポンと撫でる。
「アーニャ、落ち着いて。僕らは今冒険者だよ。身分は関係なく、実力が全て。冒険者ってそういうものでしょ?」
「え、あ、はい。いえ、それでも実力的にも私達は劣るんですがっ。」
「まだまだ伸びしろはあるんだから気にしなくて良いんだよ。アーニャもトーマも、訓練すればまだまだ伸びるだろうからね。」
にこにことアーニャの頭を撫で続けるアシェルを、アークエイドが短く制止する。
「アシェ、いつまで撫でてる。」
「あ、ごめんね。撫で心地が良くってつい。あとは魔力の感知と、相手の魔力残量を知ることに、魔力の譲渡だね。これらは全部一緒に答えるよ。魔力の感知については訓練すれば出来るようになるし、良く知る人のものなら、誰がその魔力を出しているかまで判るよ。ただ、これには訓練とセンスが必要かな。それ以外で感知できると言えば、相手に魔力を流してもらうことだね。アーニャ、両手を出して。」
素直に出された両手を握り、右手から左手へと魔力を循環させる。
「身体の中を気持ち悪い何かが巡ってるのは分かる?右手から入って全身を巡って、左手から外へ出て行ってるんだけど。」
「はい、なんかぞわぞわっとするのが全身に流れてます。」
「それが僕の魔力で、巡っている場所はアーニャの魔力回路だね。じゃあ、左手から魔力を回収してしまうね。……どう?気持ち悪いのは無くなった?」
「はい、綺麗さっぱりです。」
「魔力の感知が出来ない人だと上手く回収できないから、誰かと試したりしないでね。他人の魔力が身体に残ってると、一時的に魔法が上手く使えなくなったりするから。次はトーマね。」
トーマにも同じように魔力を巡らせ、回収する。
「凄いです。これが魔力なんですね。今まで意識したことなかったです。」
トーマがパァっと表情を輝かせた。
自分の魔力の知覚が出来れば身体強化も効率よく使えるようになるし、教えればストレージも覚えられるだろう。
自身の魔力の感知は、魔法を使うための第一歩だ。
元々この世界の住人は魔道具を使っているので、少なからず魔力を認識して扱う術は持っているのだから。
「二人とも平民の割には魔力があるほうだね。まぁ、こんな感じで、相手の魔力残量を観てるよ。ただ、魔力操作精度が高くないと、詳しい残量までは分からないかもね。それと、今のは僕の魔力の形をそのまま二人の身体に流したんだけど、その魔力の形を相手の魔力の形に合わせて馴染ませてあげると、魔力の譲渡が出来るよ。とはいえ、それが出来るのは極々一部の人間だろうけどね。」
「極々一部というか、アシェの家系くらいなものだ。その言い方は他の貴族も出来るように聞こえて語弊がある。」
そっとアークエイドの訂正が入る。
「もーそんなことないってば。何事も訓練次第だよ?アークは僕の魔力の形を覚えたら、僕の魔力残量くらいは分かるようになるかもね。まぁ、こんな感じ。そろそろ暗くなってきたし、晩御飯の用意しないとでしょ。今日は僕も手伝うよ。」
なんだかんだと話しているうちに空が暗くなってきている。
「いえ、僕一人で大丈夫ですっ。ただ、今日仕留めたホーンラビットのお肉って貰えますか?スープに入れたいんですが。」
「うん、捌いちゃうね。」
「アシェー、ジェネラルのステーキ食べたいー。」
「ふふ、そうだね、皆で食べようか。先に今日食べる用の魔物達出すから、あそこで解体しててもらえる?」
幼馴染達が頷いたのを見て、結界の中の一角に『ストレージ』からどさどさと魔物の遺体を出していく。
今日はトーマが回収してくれたので、アシェル達の取り分の魔物は全てアシェルのストレージの中だ。
あちらの取り分はトーマのバックパックの中に収納している。
普段から【朱の渡り鳥】は、基本的な討伐証明部位と魔石しか回収していないようなので、それ以外の部位で活用できるものは全て回収している。
念のために木の棒で結界よりも少し内側のラインを引く。
「ここから外は行っちゃだめだよ。迷子になるかもしれないし、僕しかお迎えに行けないからね。木の本数は十分あると思うけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー。じゃー解体しちゃうねー。」
三人に後を任せたアシェルは、トーマの元に戻り『ストレージ』から焚き火台やキャンプチェア、折り畳みテーブルに、この前使った魔道コンロを一台取り出して並べる。
キャンプチェアも丁度9人分ある。
てっきりアーニャは解体作業を見ているのかと思っていたが、アシェルに付いてまわるようだ。
食事の支度を始めるトーマを除いた三人は、アークエイド達の解体を見学して、時折エラートが指導しながら体験している。
上手に魔物を倒せるようになれば必要になる技術かもしれないので、学ぶ気持ちがあるのは良いことだ。
「わぁ、焚き火台!ありがとうございます。割と荷物になっちゃうので、いつも川辺の石でカマドを組むんですが、やっぱりあると便利ですよね。今日はどうしようかなって思ってました。あと、こっちは何ですか?」
【朱の渡り鳥】が結界内で集めてくれていた木々を焚き火台に乗せながら、トーマから魔道コンロについて聞かれる。
「これは魔道コンロだよ。魔力を流せば上が熱くなるようになってるんだ。あ、ちょっと待ってて。」
アシェルはパタパタと解体しているメンバーの元に走り寄り、断りを入れてからガルドとジン、ユウナの手を取って魔力を観ていく。
「よし、ガルドが適任だね。ちょっとガルドとマリク借りてくね。」
「んー、俺もー?」
「うん、『クリーン』。魔道コンロ使ってもらうから見に来て。」
マリクとガルドを連れてトーマの元に戻る。
「この魔道コンロは魔力に反応して熱くなるんだけど、一番魔力の少ないガルドが使えるか、魔力を流してみてほしいんだよね。魔道具は使ったことある、よね?」
確かめるようなアシェルの言葉に、ガルドは「当たり前だろ。」と答える。
「じゃあ、ここに指で触れて、この横のランプが光って赤から緑になるまで、流し続けて貰える?」
「ここだな。よし。」
アシェルに促され、ガルドが魔道コンロに魔力を流し始める。
程なくしてランプが緑色に光り、魔道コンロから熱を感じるようになった。
「はい、ガルド、両手出して。気分が悪くなったり、頭痛がしたりはない?」
「あぁ、なんともないぜ。」
「うん、魔力の消費はそんなに多くないね。」
「どれくらいー?」
「魔道灯や魔道ドライヤーレベルだね。これなら平民でも問題なく使えると思うよ。」
「おー。商業ギルドに登録前に、実用実験が出来たのは大きいねー。今度とーろくに行った時に、ちゃんと俺からもせつめーするからねー。」
アシェルも実用的であることが判明して嬉しいが、マリクも嬉しいようでふさふさの尻尾がパタパタと揺れている。
そこにアークエイドが処理を終えたホーンラビットの肉を持ってくる。
コミュニケーション能力的にジンとユウナの相手ができないので、アークエイドがやってきたのだろう。
「兎肉だ。まだ塊だが、これで良かったか?」
「アークさん、ありがとうございます!はい、勿論です。それはこっちでやっちゃいますから。」
アークエイドから肉の塊を受け取ったトーマは嬉しそうに破顔して、スープの具にするために切り分けにかかる。
トーマがいつも持ち歩いている寸胴鍋はかなり大きいものだ。
普段は二食分まとめて作るらしいのだが、今回は大所帯なので一回分を作ってもらうことになる。
マリクとガルドが解体へ戻るが、アークエイドは帰る気配がない。
「あれ、アークは解体に行かないの?」
飲み物の準備をしながら聞けば、人数が多いので休んでろと言われたそうだ。
見れば、解体組はエラートとマリクが、ガルドとジン、ユウナと、いつの間にかあちらに参加しているアーニャに教えながら解体を進めている。
つまり、解体を教える程コミュニケーションを取らないアークエイドは弾かれたわけである。
確かに大人数でわらわらいても邪魔なだけだ。
結局アークエイドは、処理の済んだ肉をステーキサイズや焼き肉サイズに切り分けて皿に盛る係になった。
アシェルはトーマに習いながらテントを組み立てていく。
「思ったよりも簡単なんだね。僕らが研修してもらった先輩は、もっと複雑な奴使ってたけど。」
あっさりと立て終わったテントに感想を漏らせば、トーマが笑う。
「基本的に僕が一人で建てるのと、この簡単なほうが荷物を減らせるんで便利なんですよ。お値段は張りますが、これは掛けるべき投資をしたと思ってます。」
「なるほどね。確かに、野営の準備に手間取らない方がいいもんね。」
二つのテントの中にそれぞれの寝具を敷き、焚き火台へと戻った。
肉の解体を終えたようで、キャンプチェアに人が集まって座っている。
あとはスープをより分けてパンと飲み物を配り、焼き肉パーティーを始めるだけだ。
冒険者の野営というより、テントが建っているのもあって、本当にキャンプをしに来たみたいだ。
「ねぇ、トーマ。トーマを信用してないわけじゃないんだけど、一応スープの味見だけさせてもらっていい?あと、うちのパーティーの分は僕がよそってもいいかな?」
「味見ですか?……あっ、そうですね、高位貴族様ですもんね。大丈夫ですよ。ちゃんと調べないと心配ですもんね。」
味見の意味を理解したトーマからお玉を渡され、しっかりかき混ぜたスープを用意したお皿に少し取り味見する。
香草がよく効いていて美味しいスープだ、問題はない。
「うん、やっぱりトーマの作るスープは美味しいね。香草の使い方が上手だよ。」
四人分のスープをよそいながらアシェルが言えば、トーマが照れて頬をかく。
「絶対良いモノ食べてるはずのアシェルさんに褒めて貰えるのは嬉しいですね。サポーター冥利に尽きます。」
お玉をトーマに返すと、トーマもパーティーメンバーの分のスープをよそう。
アシェルは一足先にスープを配り終え、次は飲み物を配る。
アークエイドとガルドとユウナが珈琲で、残りは紅茶だ。
「アーニャは本当に魔法が好きだね。一つずつ質問に答えようか。まずこの術式は僕が組み立ててるよ。詳しくは勉強してないと解らないから割愛するけど、結界を張るのと同時に、その結界に気配遮断で匂いや気配を消してるのは、市販のスクロールと一緒。そこに認識阻害と防音に幻惑を重ね掛けしてあるんだ。その強度を決める魔力量は、市販のみたいに術者依存じゃなくて、ここの術式で一定量吸い取るようにしてるよ。だから、クズ魔石で十分って訳。今回はエトの魔力を使うのが前提だったから、そんじょそこらの魔物じゃここを全く認識できないレベル設定にしてあるよ。」
一つずつ該当する術式を指で指し示しながら、今回の結界の説明をする。
アーニャがどれほど理解できているかは分からないが、瞳をキラキラさせて熱心に聞いてくれるので説明のし甲斐がある。
その背後で幼馴染の三人はひそひそと話し合う。
「ねー、アシェが言ってる術式、読み取れるー?」
「読み取れるわけがないだろ。あれは確実に基礎からアレンジされてるぞ。しかも幻惑なんて何処で知ったんだ。一般的には知られてない闇魔法だぞ。」
「結界に効果盛りすぎだろ。そりゃ魔力ガッツリ持ってかれるよな。豪華版の意味が分かったわ。」
「俺達、この結界から出て、戻ってこれるかなー?」
「俺はぜってー無理。」
「エトは無理だろうな。俺も出てみないと詳細は分からないが、内容的にまず無理だと思う。」
「俺も気配も匂いも分からないと難しいかもなー。幻惑の効果もよく分かんないしなー。」
「恐らくだが、ここを目指してるつもりで、全く違う方向に誘導されるぞ。」
「あー、それは絶対でちゃダメな奴だねー。きょーは見回りなしだねー。」
そんな三人の話は聞こえていないアシェルは、アーニャの次の質問に答える。
「潜在消費については、アーニャは知らなくても困らないんだけど……その表情は知りたいってことだよね。しょうがないなぁ、トーマ達だから教えるんだからね。他で言っちゃ駄目だよ。」
アシェルが念を押せば、一緒に耳を傾けていたトーマとアーニャが力いっぱい頷く。
知的好奇心が満たされない苦痛は嫌と言うほど知っているので、知っていることならしっかり教えて満たしてあげたい。
「一般的に、誰でも魔力を消費してゼロになるか近くなることを魔力枯渇って言う、のは分かるよね?潜在消費はその先なんだ。普段使う魔力の他に、人間が持ってる予備の魔力タンクみたいなものがあるんだ。普通の人間には使えないんだけど、ヒューナイト王国の王家と高位貴族の8家の直系にだけ、加護持ちと呼ばれる予備タンクを扱える人間が現れる事があるんだ。加護持ちは、魔力枯渇をしても魔法を使い続けることが出来るんだけど、その代わり衝動って言う副作用がある。だから、一般的に加護持ちだとしても、魔力枯渇を起こさないように行動するのが普通だね。潜在消費をするのは不測の事態か、魔力を籠めすぎちゃうタイプの人だね。」
「ということは、さっきのエラートさんの話的に、少なくともアシェルさんは……。」
「貴族様だとは思ってましたが、その加護持ちで高位貴族ってことですね。あれ、8家……加護……?一部を除いて、身体的な特徴が出る家系じゃなかったですかね?」
アーニャの言葉を引き継いだトーマが首を傾げている。
「うん、出る家系だね。マリクとエトはそのままだけど、僕とアークは魔道具で色を変えてるんだ。だから内緒だよ。」
クスリと笑いながら人差し指を立てるアシェルに、アーニャが慌てている。
「待って、待ってください!貴族様ってだけでも恐れ多いのに高位貴族って!!それに、身分を隠さないといけないほどって。あわわわ、私、失礼働きすぎてないですか?大丈夫ですか!?」
慌てふためくアーニャの頭を、落ち着いてという意味も込めてポンポンと撫でる。
「アーニャ、落ち着いて。僕らは今冒険者だよ。身分は関係なく、実力が全て。冒険者ってそういうものでしょ?」
「え、あ、はい。いえ、それでも実力的にも私達は劣るんですがっ。」
「まだまだ伸びしろはあるんだから気にしなくて良いんだよ。アーニャもトーマも、訓練すればまだまだ伸びるだろうからね。」
にこにことアーニャの頭を撫で続けるアシェルを、アークエイドが短く制止する。
「アシェ、いつまで撫でてる。」
「あ、ごめんね。撫で心地が良くってつい。あとは魔力の感知と、相手の魔力残量を知ることに、魔力の譲渡だね。これらは全部一緒に答えるよ。魔力の感知については訓練すれば出来るようになるし、良く知る人のものなら、誰がその魔力を出しているかまで判るよ。ただ、これには訓練とセンスが必要かな。それ以外で感知できると言えば、相手に魔力を流してもらうことだね。アーニャ、両手を出して。」
素直に出された両手を握り、右手から左手へと魔力を循環させる。
「身体の中を気持ち悪い何かが巡ってるのは分かる?右手から入って全身を巡って、左手から外へ出て行ってるんだけど。」
「はい、なんかぞわぞわっとするのが全身に流れてます。」
「それが僕の魔力で、巡っている場所はアーニャの魔力回路だね。じゃあ、左手から魔力を回収してしまうね。……どう?気持ち悪いのは無くなった?」
「はい、綺麗さっぱりです。」
「魔力の感知が出来ない人だと上手く回収できないから、誰かと試したりしないでね。他人の魔力が身体に残ってると、一時的に魔法が上手く使えなくなったりするから。次はトーマね。」
トーマにも同じように魔力を巡らせ、回収する。
「凄いです。これが魔力なんですね。今まで意識したことなかったです。」
トーマがパァっと表情を輝かせた。
自分の魔力の知覚が出来れば身体強化も効率よく使えるようになるし、教えればストレージも覚えられるだろう。
自身の魔力の感知は、魔法を使うための第一歩だ。
元々この世界の住人は魔道具を使っているので、少なからず魔力を認識して扱う術は持っているのだから。
「二人とも平民の割には魔力があるほうだね。まぁ、こんな感じで、相手の魔力残量を観てるよ。ただ、魔力操作精度が高くないと、詳しい残量までは分からないかもね。それと、今のは僕の魔力の形をそのまま二人の身体に流したんだけど、その魔力の形を相手の魔力の形に合わせて馴染ませてあげると、魔力の譲渡が出来るよ。とはいえ、それが出来るのは極々一部の人間だろうけどね。」
「極々一部というか、アシェの家系くらいなものだ。その言い方は他の貴族も出来るように聞こえて語弊がある。」
そっとアークエイドの訂正が入る。
「もーそんなことないってば。何事も訓練次第だよ?アークは僕の魔力の形を覚えたら、僕の魔力残量くらいは分かるようになるかもね。まぁ、こんな感じ。そろそろ暗くなってきたし、晩御飯の用意しないとでしょ。今日は僕も手伝うよ。」
なんだかんだと話しているうちに空が暗くなってきている。
「いえ、僕一人で大丈夫ですっ。ただ、今日仕留めたホーンラビットのお肉って貰えますか?スープに入れたいんですが。」
「うん、捌いちゃうね。」
「アシェー、ジェネラルのステーキ食べたいー。」
「ふふ、そうだね、皆で食べようか。先に今日食べる用の魔物達出すから、あそこで解体しててもらえる?」
幼馴染達が頷いたのを見て、結界の中の一角に『ストレージ』からどさどさと魔物の遺体を出していく。
今日はトーマが回収してくれたので、アシェル達の取り分の魔物は全てアシェルのストレージの中だ。
あちらの取り分はトーマのバックパックの中に収納している。
普段から【朱の渡り鳥】は、基本的な討伐証明部位と魔石しか回収していないようなので、それ以外の部位で活用できるものは全て回収している。
念のために木の棒で結界よりも少し内側のラインを引く。
「ここから外は行っちゃだめだよ。迷子になるかもしれないし、僕しかお迎えに行けないからね。木の本数は十分あると思うけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよー。じゃー解体しちゃうねー。」
三人に後を任せたアシェルは、トーマの元に戻り『ストレージ』から焚き火台やキャンプチェア、折り畳みテーブルに、この前使った魔道コンロを一台取り出して並べる。
キャンプチェアも丁度9人分ある。
てっきりアーニャは解体作業を見ているのかと思っていたが、アシェルに付いてまわるようだ。
食事の支度を始めるトーマを除いた三人は、アークエイド達の解体を見学して、時折エラートが指導しながら体験している。
上手に魔物を倒せるようになれば必要になる技術かもしれないので、学ぶ気持ちがあるのは良いことだ。
「わぁ、焚き火台!ありがとうございます。割と荷物になっちゃうので、いつも川辺の石でカマドを組むんですが、やっぱりあると便利ですよね。今日はどうしようかなって思ってました。あと、こっちは何ですか?」
【朱の渡り鳥】が結界内で集めてくれていた木々を焚き火台に乗せながら、トーマから魔道コンロについて聞かれる。
「これは魔道コンロだよ。魔力を流せば上が熱くなるようになってるんだ。あ、ちょっと待ってて。」
アシェルはパタパタと解体しているメンバーの元に走り寄り、断りを入れてからガルドとジン、ユウナの手を取って魔力を観ていく。
「よし、ガルドが適任だね。ちょっとガルドとマリク借りてくね。」
「んー、俺もー?」
「うん、『クリーン』。魔道コンロ使ってもらうから見に来て。」
マリクとガルドを連れてトーマの元に戻る。
「この魔道コンロは魔力に反応して熱くなるんだけど、一番魔力の少ないガルドが使えるか、魔力を流してみてほしいんだよね。魔道具は使ったことある、よね?」
確かめるようなアシェルの言葉に、ガルドは「当たり前だろ。」と答える。
「じゃあ、ここに指で触れて、この横のランプが光って赤から緑になるまで、流し続けて貰える?」
「ここだな。よし。」
アシェルに促され、ガルドが魔道コンロに魔力を流し始める。
程なくしてランプが緑色に光り、魔道コンロから熱を感じるようになった。
「はい、ガルド、両手出して。気分が悪くなったり、頭痛がしたりはない?」
「あぁ、なんともないぜ。」
「うん、魔力の消費はそんなに多くないね。」
「どれくらいー?」
「魔道灯や魔道ドライヤーレベルだね。これなら平民でも問題なく使えると思うよ。」
「おー。商業ギルドに登録前に、実用実験が出来たのは大きいねー。今度とーろくに行った時に、ちゃんと俺からもせつめーするからねー。」
アシェルも実用的であることが判明して嬉しいが、マリクも嬉しいようでふさふさの尻尾がパタパタと揺れている。
そこにアークエイドが処理を終えたホーンラビットの肉を持ってくる。
コミュニケーション能力的にジンとユウナの相手ができないので、アークエイドがやってきたのだろう。
「兎肉だ。まだ塊だが、これで良かったか?」
「アークさん、ありがとうございます!はい、勿論です。それはこっちでやっちゃいますから。」
アークエイドから肉の塊を受け取ったトーマは嬉しそうに破顔して、スープの具にするために切り分けにかかる。
トーマがいつも持ち歩いている寸胴鍋はかなり大きいものだ。
普段は二食分まとめて作るらしいのだが、今回は大所帯なので一回分を作ってもらうことになる。
マリクとガルドが解体へ戻るが、アークエイドは帰る気配がない。
「あれ、アークは解体に行かないの?」
飲み物の準備をしながら聞けば、人数が多いので休んでろと言われたそうだ。
見れば、解体組はエラートとマリクが、ガルドとジン、ユウナと、いつの間にかあちらに参加しているアーニャに教えながら解体を進めている。
つまり、解体を教える程コミュニケーションを取らないアークエイドは弾かれたわけである。
確かに大人数でわらわらいても邪魔なだけだ。
結局アークエイドは、処理の済んだ肉をステーキサイズや焼き肉サイズに切り分けて皿に盛る係になった。
アシェルはトーマに習いながらテントを組み立てていく。
「思ったよりも簡単なんだね。僕らが研修してもらった先輩は、もっと複雑な奴使ってたけど。」
あっさりと立て終わったテントに感想を漏らせば、トーマが笑う。
「基本的に僕が一人で建てるのと、この簡単なほうが荷物を減らせるんで便利なんですよ。お値段は張りますが、これは掛けるべき投資をしたと思ってます。」
「なるほどね。確かに、野営の準備に手間取らない方がいいもんね。」
二つのテントの中にそれぞれの寝具を敷き、焚き火台へと戻った。
肉の解体を終えたようで、キャンプチェアに人が集まって座っている。
あとはスープをより分けてパンと飲み物を配り、焼き肉パーティーを始めるだけだ。
冒険者の野営というより、テントが建っているのもあって、本当にキャンプをしに来たみたいだ。
「ねぇ、トーマ。トーマを信用してないわけじゃないんだけど、一応スープの味見だけさせてもらっていい?あと、うちのパーティーの分は僕がよそってもいいかな?」
「味見ですか?……あっ、そうですね、高位貴族様ですもんね。大丈夫ですよ。ちゃんと調べないと心配ですもんね。」
味見の意味を理解したトーマからお玉を渡され、しっかりかき混ぜたスープを用意したお皿に少し取り味見する。
香草がよく効いていて美味しいスープだ、問題はない。
「うん、やっぱりトーマの作るスープは美味しいね。香草の使い方が上手だよ。」
四人分のスープをよそいながらアシェルが言えば、トーマが照れて頬をかく。
「絶対良いモノ食べてるはずのアシェルさんに褒めて貰えるのは嬉しいですね。サポーター冥利に尽きます。」
お玉をトーマに返すと、トーマもパーティーメンバーの分のスープをよそう。
アシェルは一足先にスープを配り終え、次は飲み物を配る。
アークエイドとガルドとユウナが珈琲で、残りは紅茶だ。
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