氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

120 三の森二日目③

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Side:アシェル13歳 春



食事が終われば訓練タイムだが、今日の王都組には、先程のマナポーション試飲会に参加してもらいたい。
となると、ガルドとジン、ユウナの役割は、アーニャとトーマの実験台だ。

「ガルドとジン、ユウナは座ったまま、両手の手首の内側を引っ付けて、膝の上に置いておいて。」

三人が指示に従ったのを確認する。

「じゃあ次は僕が三人の手をバインドで拘束するね。普通は見えないんだけど、アーニャとトーマが感覚を掴むまでは可視化しておくからね。『拘束バインド』。」

三人の手首とその上にもう一つ、計二つの幅広で黒い手錠が出来上がる。

「アーニャとトーマは、このバインドにある隙間……そうだね、鍵穴みたいなものかな。その鍵穴を探して、自分の魔力をその穴に通して、バインドの魔力の繋がりを断ち切って欲しいんだ。全て断ち切ってから解除キャンセルって、ストレージ一回分の魔力で唱えたら、きちんと解けてれば手錠は消えるよ。ジンとガルドの手前から初めて、ユウナのはどちらか片方を、計三つのバインドを解くのが課題。最初のは魔力を使うのに慣れるために簡単だけど、後の方が隙間が狭いし複雑だからね。頑張って。」

必要な説明とお膳立てだけして、アシェルは幼馴染達が囲む折り畳みテーブルへ戻る。

「こっちは今から、この粗悪品の味見大会をしたいと思います。理由は、アークはお勉強のため、エトとマリクは巻き添えです。粗悪品過ぎて愚痴しか出てこないから、少しは僕の気が紛れるかなって企画です。」

『ストレージ』から沢山のティースプーンを出し、空のグラスを7つとマナポーションの素材達を取り出す。
6つのグラスにそれぞれ単体で成分を抽出した液体を入れて、味見大会の準備完了だ。
強制参加させられた三人が文句を言う暇もなく、手早く準備が整った。

「空のコップは使ったティースプーン入れ。マナポーションの材料はこちらの6種。単体で成分抽出したのが、薬草達の隣のグラスに入ってる液体。さ、一番薄いのから一緒に味見しよう。」

アシェルが綺麗な笑顔で幼馴染達に笑いかける。

「ねーアシェー。俺達ひつよーなくない??アークだけでいいじゃんかー。」

「俺も粗悪品って分かってて味見は……したところで、アシェみたいに分からねぇしよ。」

「お薬じゃなくて料理だと思えば良いんだよ。ちょっと黒焦げか生焼けかもしれないけどね。はい、まずは6種類の原液を味見してみて。」

結局アシェルに押し切られ、三人はティースプーンで6種の液体を味見する。

「うげ、これにげぇ。」

「こっちは少し苦いけど、いーかおりだねー。」

「マナリア草は全く癖が無いんだな。単体で舐めたのは初めてだ。」

それぞれ感想を漏らしたところで、アシェルの作ったマナポーションを差し出す。

「素材としての抽出もベストにしてるけど、それらをきっちりとした手順で、ベストな状態に仕上げたのがこちら。僕お手製のマナポーション。」

「あぁ、まぁ苦くないわけじゃないけど、いつもの味だよな。」

「すっごく飲みやすいよねー。かーさんのたまに使うけど、おーりつびょーいんで買ってても、もう少し苦いんだよねー。」

「飲み慣れた味だな。」

「飲みやすいのは、ちゃんと苦味や渋みを抑えた上で、最大限効果が出るところを狙ってるからね。じゃあ、次、こっちいこっか。薄いほうから。」

アシェルも三人と同じように味見していきながら、件の粗悪品を指し示す。
三人から明らかに嫌そうな表情をされたが、構わず推し進める。

「はい、スプーン持って。」

渋々持たされたティースプーンに、少量ずつ粗悪品その1を垂らした。

「なんていうか……薄いな。」

「匂いはしてるけど、味はしないねー。」

「マリクの言う通りだな。さっぱりとした匂いはしてるが、味はほとんどないぜ。」

アシェルもかなり色の薄いマナポーションを口に含む。

「んー。使われてる薬草は四種類だね。さて、どれが使われてるでしょうか。三人で相談しても良いし、分かったのからでもいいよ。」

アシェルは自分の気付いた所感と、それに伴う愚痴をレポート用紙にぶちまける。
クイズ形式の遊び感覚でやってないと、愚痴が止まらなくなってストレスが溜まりまくること間違いなしだ。

そのレポート用紙が覗き込める三人は、悪評と罵詈雑言が書き連ねられた用紙を見て、アシェルが開催した味見大会と巻き添えになった意味を知る。

特にアークエイドはストレス発散の旅を知っているので、ここでアシェルに付き合わないという選択肢が無くなった。

「まずマナリア草は入ってるだろうな。あとはマロウだ。一応、薄っすらとだが青色が付いてる。」

「味しなかったから、この一番苦いのはないだろ。」

「匂いはサッパリーで、甘いのはないよねー。だから四つなら、セージとローズマリー?」

「正解。さて、ここでアークに問題です。これら四種が入ってるにもかかわらず、味も匂いも薄すぎるコレは、どうやって作られたと思う?」

「どうやって、か。考えるから時間をくれ。」

「どうぞ。」

真剣に考えこむアークエイドを他所に、今味見した薬瓶にマジックペンで”1”と番号をふる。
その1番に対する使用されている薬草と、マナポーションの作成方法の予想を便箋に書き連ねていく。

「加熱が甘いか、加熱がされてないのか?マロウが入ってれば、煮だすと綺麗な青色が出るはずだ。」

「正解。多分だけど、適当に素材を水差しとかに突っ込んで、水出しにしてるんだと思うよ。ぬるい温度でマナリア草の成分は出てくるのに、ほとんどマナリア草の効果がないから、刻みもせずまるまんまだろうね。」

マナリア草は魔力を回復する主成分が熱湯では出にくいため、必ず加熱をしていない状態に投入して成分を抽出する。
だがレモングラスや稲の様な葉を持つマナリア草は、切断面を増やしてやらないと成分を抽出しにくい。
さらに、生の状態よりも乾燥させてから薬液に抽出したほうが、成分が良く出るのだ。

アシェルの予想が間違ってなければ、一番はただの水に、四種の薬草を漬け込んだだけの液体だ。

「じゃあ次。ここから先は全部マロウが入ってると思うよ。青色はマロウでつくからね。4番目いってみようか。で、最後は一番濃い6番ね。」

いくつか味見して、問題を出しやすそうな4番をセレクトする。

それぞれ味見した三人は顔をしかめた。

「少し甘い匂いがするかと思ったら、味はすごくにっげぇ。エキナセアってやつ入ってるよな。」

「サッパリと甘い匂いだねー。でもさっきのサッパリから足りないものがあるみたいー。セージは入ってないと思うよー。」

「甘い匂いはジャーマンカモミールだろうな。」

「そうだね、セージ以外の5種類の素材で作られてると思うよ。ほぼ正規の手順でね。さて、ここで手抜きをされた行程はどこでしょうか?」

2番、3番、4番と一人で味見してレポート用紙にメモを取る。

「間違いなく濾過だな。残渣物が沈んでいる。」

「うん、正解。これは簡単だったね。じゃあ最後、この向こうが透けないくらい青いって言うか、紺色に近くなってる6番いってみようか。」

アシェルがにっこりと告げるが、アークエイド達にはそれが死刑宣告にしか聞こえない。
並んだマナポーションの中で、明らかにそれだけが異質なのだ。

腰が引けている三人の為に、先にアシェルが味見する。

「あー、うん。やっぱりこんな感じだよね。予想はついてた。さ、皆もどうぞ。」

ティースプーンの上に少量垂らされた青黒い液体を、三人は意を決して口に含んだ。

「あー、俺、これ無理。『ウォーター』。」

「俺もこれは無理ー。やくそーじゃなくて、焦げた匂いがするし苦いよー。」

エラートとマリクが『ウォーター』で湧き出た水をごくごくと飲む。

「凄い味だな……むしろ、なんでこれを売ろうと思ったのかが謎だ。」

そっと口元を手で覆ったアークエイドだが、やはり『ウォーター』で出した水を飲んでいるようで、喉が動いている。

「マリクが言ってた焦げてるは正解だよ。材料はきっちり正規の6種類。素材の状態は全て乾燥状態で使用。煮詰める段階で煮詰めすぎて焦がしたんだろうね。薬草の苦味と焦げの苦味、良い香りが全くしない、その上えぐみも感じる一品。煮詰めすぎちゃってて、マナポーションとしての効果もほぼ無しの、産業廃棄物だよ。」

ぼろくそな評価を下しながら、アークエイドへ最後の質問をする。

「さて、こんな残念過ぎる6番ですが、もう一つ無駄で残念な工程が行われています。それはなーんだ。時間はあるから、しっかり考えてね。」

アシェルは口直しを兼ねて、単品で煮出した薬液を一つのグラスにまとめて、くるくるっと混ぜてから飲み干す。
トータルで作った時よりも効果は劣るが、これでもしっかりマナポーションとしての役割は果たしている。この粗悪品のどれよりもだ。

全ての味見を終えた所感などをきっちり便箋にまとめていくが、三人で相談しても答えは出ないようだ。

手紙を書き終え、封筒に入れ、封蝋をしようとして気付く。

「ねぇ、エト。封蝋ってメイディーの家紋で良い?お父様に言わずに僕が勝手に申告するから、僕の名前付きのメイディーの家紋使った方が良いかな?エトも手紙に書いてくれてるとは思うけど、名前付きの家紋は僕だけのものだから、確実に僕からの手紙って分かるんだよね。きっちり届け出も出してるから、認証も早いと思う。」

「そんなのがあるんだな?アシェが都合良いほうで良いぞ。」

「んー……念のため僕の印章使っておこうかな。カドラス卿ならお父様とも仲いいから、良いようにしてくれるだろうし。」

熱したシーリングワックスをぽたぽたと垂らし、そこにメイディーの家紋とアシェルの名が入った印章を押し付ける。

番号をふった薬瓶達は、緩衝材に包んでから封筒に入れ、さらに封筒に衝撃緩和の術式を書き込んでいく。

その二つの封筒と、エラートの用意した封筒を紐で綺麗にまとめ、フォレストイーグルのモイちゃんが持ち運びやすいようにしておく。

「マリク。明日の朝、モイちゃんの足にこれ括り付けてくれる?」

「おっけー。つけやすくしてくれてありがとねー。」

「ううん、こっちが頼んでるほうだからね。ところで、答えはやっぱり出ない?」

三人が首を振る。

「どんな余計な工程が入ってるのか、全く分からない。」

「そっか、難しかったかな。味見した時に、口の中にざらつきを感じなかった?乾燥した素材をおしろいレベルまで粉にして、それを煮だして作ってる薬液だったんだよ。濾過はしてるみたいだけど、細かく粉砕しすぎてて、薬液に混ざっちゃってるんだよね。」

「ざらつきって言われても分からない。アシェと一緒にするな。」

「まぁ、こればかりは経験の差だしね。皆が付き合ってくれたおかげで、きっちり報告書は出来たから、あとはカドラス卿にお任せだね。」

「はぁ。まぁいい。ところで、あっちは良いのか?」

アークエイドが指し示す【朱の渡り鳥】の魔法を使える二人は、まだ一人目の二つ目で苦戦していた。
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