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第三章 王立学院中等部二年生
137 入学式④
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Side:アシェル13歳 春
ユリウスとアビゲイルが戻ってきて、教師と魔法庁に問い合わせた結果を教えてくれた。
現状では不確定要素が多く、魔の森の調査を行っているが、立ち入り禁止にはしていないらしい。
そのため野外授業はこのまま、何の発表もなければ決行することが決まった。
全員がなんとかバランスよく野外授業のパーティーの選出が終わったところで、コンコンと控えめに生徒会執行部の扉が叩かれた。
「どなたかな?」
「わたくし、メルティー・メイディーと申します。アルフォードお義兄様と、アシェルお義兄様はいらっしゃいますか?」
ユリウスの問いに、扉が閉まったまま声がする。
アルフォードが来訪者を遮る扉を開けて、廊下に立っていたメルティーに抱き着いた。
「メル、よく来たな。アシェは去年、ここが生徒会室だって気付いて逃げ帰ろうとしたんだぞ。メルがちゃんと来てくれて良かった。」
嬉しそうにメルティーを抱きしめたアルフォードは、ひょいっとメルティーを抱っこしてソファまで連れてくる。
「アルお義兄様っ、降ろしてくださいっ!!あぅ~~上級生の方ばかりなのに、恥ずかしいですっ。」
ソファに優しく降ろされたメルティーは、両手で顔を覆ってうつむいている。
「恥ずかしがるメルも可愛いね。ねぇ、お茶会の時みたいに膝に乗る?メルの可愛い顔をもっと近くでみたいな。手で隠してちゃ見えないから、手を外してほしいな。」
しっかりアシェルとアルフォードに両脇を挟まれたメルティーは、アシェルの言葉に素直に従って、顔を覆っていた手を下ろした。
「手は下ろしましたから、膝の上はやめてくださいませ。座る場所だって沢山ありますわ。」
「ふふ、断られちゃったか。残念。」
「お茶会の時にメルを膝に乗せてたのか?アシェだけズルいぞ。」
「味見を兼ねた僕の特権でしたので。僕の手からお菓子を食べてくれるメルは、凄く可愛かったですよ。」
「なぁメル。今度菓子を買ってくるから、食べさせてやろうか?」
「アシェお義兄様っ、アルお義兄様っ。皆様の前でそんな話をしないで下さいませっ。」
小柄で童顔なメルティーがむくれても、ただただ可愛いだけだ。
「怒ってるメルも可愛いな。」
「ふふ、そうですね。いつまでも見てられます。」
まったく反省する気のない義兄達に、メルティーは左右から抱きしめられる。
「メルティー、諦めろ。お前の義兄達はどうにもできないし、皆そういうものだと思っているから気にしていない。」
「アークお義兄様……えぇ、そのようですわね。皆様、とっても普通に見てらっしゃいますわ。」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、アークエイドの言葉を聞いたメルティーは小さく溜め息を吐いた。
「アル、アシェル、いい加減メルティーを解放してあげなさい。メルティーは書記の補佐にするんでしょう?それに、皆の自己紹介もまだよ。」
「数日ぶりにメルで充電してるのに……でも、確かに自己紹介はいるな。」
アルフォードがチュッと右側の頬に、アシェルが左側の頬にキスをしてメルティーを腕の中から解放した。
「こんな場所で充電しないでくださいませ……。というより、わたくしを生徒会に誘ったのは、お義兄様達の充電目的ですわね?」
しっかり充電終了のキスを受けたメルティーは、ぷくっと頬を膨らませてみせた。
膨らんで柔らかそうな頬っぺたも可愛い。
「ここならいいだろ?別に大勢に見られるわけじゃないし。」
「……諦めろ、メルティー。」
「はぁ、もういいですわ、分かってたことですし。アビーお義姉様、自己紹介はわたくしからした方が良いのかしら?それとも皆様のお名前を伺ってから、わたくしが自己紹介した方が良いのかしら?」
気を取り直したメルティーは、この中で唯一アルフォードの行動を諫めることが出来て、それをちゃんと実行できるアビゲイルに問いかける。
「そうね。メルティーのことは皆知ってるけど、一応メルティーから自己紹介してもらおうかしら。」
「分かりましたわ。」
メルティーが立ち上がり、応接セット全てが見渡せる、全ての役員達からも見える位置に移動する。
「メイディー公爵家が娘、メルティー・メイディーですわ。今回は生徒会役員にお誘い頂きありがとうございます。至らぬ身ではありますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします。」
しっかり挨拶をして、制服のスカートを摘まんで綺麗なカーテシーを披露してくれた。
「自己紹介ありがとう、メルティー嬢。私が生徒会長のユリウス・フレイムだ。今年が最上級生になる。……色々と大変だとは思うが、何かあれば相談してくれ。」
ユリウスが立ち上がり自己紹介する。
それから順番に一人ずつ立ち上がり、役職と学年順に自己紹介をしていった。
ちなみにアシェルとアルフォードは、アビゲイルの順番の時に「二人は保健委員長と補佐ですわ。」の一言で片づけられた。
アシェルは役員達の眼が、メルティーを差別していないことに安堵する。
メイディー公爵家の瞳の色を持っていないメルティーは、誰がどう見てもアベルの子ではない。
中には血縁であることを重視する人もいて、連れ子や托卵、妾腹の子は厭われることが多い。
アシェルが遊びに来ていた時のように、メルティーはすんなりと役員達に受け入れられた。
「ねぇ、アシェル様。僕がアシェル様の膝の上に乗るのはダメですか?僕もアシェル様の上で、ぎゅってしてもらいたいな。」
近寄ってきたシオンが隣に座り、上目遣いにおねだりされる。
相変わらず、自分の可愛さをしっかり分かって武器にしている。
「ふふ、シオン君は甘えん坊だね。でも、実のお兄さんを放っておいていいの?」
シオンの兄はクリストファーだが、クリストファーが攻めて楽しみたいタイプなら、シオンは自分から寄ってくるのに攻められて楽しみたいタイプだ。
それと学院祭の少し前から、こうやってアシェルと一緒に。かなり分かりやすい反応を見せるアークエイドの反応を見て、揶揄って遊んでいるようである。
お互い遊びに気付いているので、生徒会室でこういう掛け合いをするのは、必ずアークエイドに聞こえる位置で行われる。
「兄様に甘えたいんじゃなくて、アシェル様が良いんです。男の子の僕じゃ駄目ですか?」
隣から見上げてくるシオンの瞳がウルっと潤む。
もしかしてシオンは嘘泣きまで出来てしまうんだろうか。
——出来ても全くおかしくないと思ってしまう。
「出来れば可愛い女の子が良いけど、シオン君なら可愛いし乗せてあげても良いかな。」
アシェルの言葉でシオンの表情がパァっと明るくなる。
「本当ですか?やったぁ。ねぇ、アシェル様。抱っこしてください。」
満面の笑みを浮かべたまま、目の前で両手を広げてくる。
自分から乗るのではなく、乗せてもらうことに意味があるようだ。
『身体強化』を使って隣に座るシオンの身体をふわりと持ち上げ、非公式お茶会の時にメルティーにそうしていたように、膝の上に横抱きで座らせる。
「座り心地はどうかな?」
「えへへ、アシェル様の綺麗なお顔が近くて、とっても嬉しいです。」
頬を染めながら嬉しそうに笑うシオンの頭を、よしよしと撫でてやる。
クリストファーとは腹の探り合いの微笑み合戦だが、シオンは純粋に甘えてこようとしている感じがアシェル的には好ましい。
「アシェ、いい加減にしろ。シオンもだ。」
ようやくアークエイドから声がかかる。
いつもよりかなり遅いタイミングだ。
だが、いつものように強制的に引き剥がしにこない。
と言うよりも、ソファに座っている状態でシオンを抱えているので、アークエイドの腕の中に引き寄せられないだけかもしれないが。
「クスクス、アークに怒られちゃったね。」
「ふふ、怒られちゃいましたね。でも僕、もう少しこうしていたいなぁ。」
腕の中のシオンが甘えるように、アシェルの首元に頬を摺り寄せてくる。
いくらシオンが小柄な男の子だと言っても、アシェルとは5cmほどしか身長差がない。
膝の上に乗せたら、目線はほぼ同じだ。
首元に擦り寄り、嬉しそうに眼を細めているように見せながら、しっかりアークエイドの姿を確認しているのをアシェルは見逃さない。
「シオン君は抱き心地が良いから、ずっとこうしてあげててもいいくらいだよ。フワフワの髪の触り心地も好きだよ。」
優しく薄浅葱色のふわふわとした癖毛を指を絡めながら撫でれば、シオンの顔が演技ではなく本当に嬉しそうに綻んだ。
シオンの髪の毛の触り心地は癖毛のアルフォードの髪の毛を触っているようで、アシェルはこの髪の毛を触るのが好きだ。
「シオン君の今の表情、すごく好きだよ。いつもその表情で笑ったら、もっと可愛いのに。」
シオンの笑顔の感想を素直に口にすると、さっとシオンの頬が朱に染まる。
その可愛く染まった顔を、ぱっと両手で隠してしまった。
「アシェル様が、冗談じゃなくて本気で好きって……撫で心地褒められて、嬉しくて笑ったからそれだよね。笑顔を褒められただけだけど、でも好きって……!どうしよう、演技じゃないのが分かったってことだよね。もうそれだけでも嬉しいのに。」
手で覆って小さな声で呟かれるシオンの声は、近くに居るアシェルの耳でも聞き取れなかった。
「怒られちゃったね、じゃないだろ。離れろ。」
抱き合ってイチャイチャするのを止めない二人を見るアークエイドは、分かりやすいほどの不機嫌さと瞳に嫉妬の色を全面に押し出している。
さすがにここら辺が引き時なのだが、アシェルの共犯者は膝の上で顔を覆ってしまっている。
「あーうん。なんだか分からないけど、シオン君が落ち着いたら降りて貰うね?」
無理に降ろす気がないのが分かったのか、むすっとしたままアシェルの隣にピッタリと寄り添って座ってくる。
シオンを横抱きにしているので、シオンの背中側にだ。
「ねぇ、ノアお義兄様。わたくし、アシェお義兄様が遊んでたように見えたのだけれど、気のせいかしら?」
そんな三人を遠巻きに役員達が眺めている中、メルティーがこそっとノアールに聞く。
「んー、多分気のせいじゃないと思うよ。アシェもシオン君も、アークが周りに分かるくらい表情を変えるのが面白いみたい……なんだけど。毎回ああいう感じで揶揄うから、不機嫌な表情になるだけなんだけどね。」
「あら、アークにはあれくらいがちょうど良いんじゃないかしら。普段が仏頂面すぎるのよ。学院にいる間くらい、喜怒哀楽はしっかり見せる方がいいわ。それよりノア様。わたくしがシオンのように抱えてほしいって言ったら、してくれるかしら?」
「え、え?僕がですか??ここで???」
「えぇ……わたくしを抱えるのは嫌かしら?」
メルティーの質問に困り顔だったノアールの表情が、一瞬で真っ赤になり狼狽えはじめる。
ノアールに絶賛求婚中のアビゲイルは、何かにつけてこうしてノアールに迫っている。
「嫌じゃないです!あ、えっと、その。嫌じゃないですけどっ、ここでは駄目です!!」
「嫌じゃないけどここでは駄目ってことは、人目につかない所なら良いのね。楽しみにしているわ。」
しっかりとノアールから聞きたい言葉を言わせたアビゲイルは、艶やかに微笑んだ。
「アビーお義姉様は相変わらずですのね。」
「あぁ、面白いだろ?」
「アルお義兄様の面白いは、姉弟でこんなに違うなんて面白いって意味でしょう?」
「当たりだ。」
にこにこと笑顔を浮かべているアルフォードに、メルティーは小さなため息を吐く。
アシェルとシオンは、アシェルに片思い中のアークエイドを揶揄って遊んでいて。
かたやアビゲイルは片思い中のノアールを攻めまくり、言葉巧みに自分の望む結果を得ている。
そして優しくて気の弱いノアールは、口にしてしまったことを撤回はしないだろう。
ある意味姉弟で真逆の状態だ。
それがアルフォードには面白いものに見えているらしい。
アルフォードがシオンとイチャつくアシェルを止めないのは、その方が面白いからだ。
ちらりと時計を見たメルティーは、少し可哀想なアークエイドの援護に向かうことにする。
「ねぇ、アシェお義兄様。今日はアシェお義兄様の部屋で夕食を頂くのよね?そろそろ戻らないと、イザベルを待たせてしまうんじゃないかしら?」
アシェルの後ろから首に抱き着いてメルティーが言えば、ハッとアシェルが時計を見る。
「本当だ。そろそろ戻らないと、ベルを待たせちゃうね。教えてくれてありがとう、メル。ねぇシオン君。大丈夫?」
アシェルが問いかけると、それまで顔を覆って動かなかったシオンの手が下ろされ、いつもの笑顔を浮かべた。
「はい、大丈夫です。あまりにも嬉し過ぎちゃっただけです。アシェル様、また乗せてくださいね。」
アシェル達が充電終了の合図をするように、シオンもチュッとアシェルの頬にキスをしてから膝から降りた。
シオンはアシェルで充電していたのだろうか。
シオンがアシェルから降りると同時に、背もたれ越しにアシェルを抱きしめていた腕も離れていく。
そして代わりに、隣のアークエイドに腰を引き寄せられて抱きしめられる。
「もう、アーク。話聞いてた?部屋に帰らないとって言ってるでしょ。」
「聞いてた?じゃないだろ。アシェはいつもいつもそうやってシオンと……。」
「別に僕が誰と何しようと、僕の自由でしょ?それに、引っ張る時は腰じゃなくって腕引いてってば。」
「うっ……。学院祭の時に言ってたのは、俺に恥ずかしいか聞いてたのと、抱き寄せられるより抱き寄せたいって話だっただろ。アシェは全然恥ずかしくないみたいだからな、別に良いだろ。」
少し拗ねたような声に聞こえるが、背中側から抱き寄せられているので、アークエイドの表情は見えない。
「良くない。ちゃんと覚えてるじゃない、僕は抱き寄せられるより、抱き寄せる側が良いの。だから離してってば。」
「兄達は良いのにか?」
「お兄様達は良いの。だって僕のお兄様だもん。って、こんなことしてたら、本当にベルを待たせることになっちゃうでしょ。遅くても五分前には、ちゃんと部屋に帰りたいんだから。あんまり駄々こねてると、アークだけ部屋に入れてやらないよ。帰りたいから離して。」
「それは困るな。……仕方ない。」
もう少しごねるかと思っていたが、あっさりと腕の中から解放された。
「アシェ、アークエイド、帰るぞ。」
タイミングを見計らったようにアルフォードに声を掛けられ、慌てて教室の外に出ている役員達の元へと行き、いつもの下校風景にメルティーを加えて寮まで戻った。
ユリウスとアビゲイルが戻ってきて、教師と魔法庁に問い合わせた結果を教えてくれた。
現状では不確定要素が多く、魔の森の調査を行っているが、立ち入り禁止にはしていないらしい。
そのため野外授業はこのまま、何の発表もなければ決行することが決まった。
全員がなんとかバランスよく野外授業のパーティーの選出が終わったところで、コンコンと控えめに生徒会執行部の扉が叩かれた。
「どなたかな?」
「わたくし、メルティー・メイディーと申します。アルフォードお義兄様と、アシェルお義兄様はいらっしゃいますか?」
ユリウスの問いに、扉が閉まったまま声がする。
アルフォードが来訪者を遮る扉を開けて、廊下に立っていたメルティーに抱き着いた。
「メル、よく来たな。アシェは去年、ここが生徒会室だって気付いて逃げ帰ろうとしたんだぞ。メルがちゃんと来てくれて良かった。」
嬉しそうにメルティーを抱きしめたアルフォードは、ひょいっとメルティーを抱っこしてソファまで連れてくる。
「アルお義兄様っ、降ろしてくださいっ!!あぅ~~上級生の方ばかりなのに、恥ずかしいですっ。」
ソファに優しく降ろされたメルティーは、両手で顔を覆ってうつむいている。
「恥ずかしがるメルも可愛いね。ねぇ、お茶会の時みたいに膝に乗る?メルの可愛い顔をもっと近くでみたいな。手で隠してちゃ見えないから、手を外してほしいな。」
しっかりアシェルとアルフォードに両脇を挟まれたメルティーは、アシェルの言葉に素直に従って、顔を覆っていた手を下ろした。
「手は下ろしましたから、膝の上はやめてくださいませ。座る場所だって沢山ありますわ。」
「ふふ、断られちゃったか。残念。」
「お茶会の時にメルを膝に乗せてたのか?アシェだけズルいぞ。」
「味見を兼ねた僕の特権でしたので。僕の手からお菓子を食べてくれるメルは、凄く可愛かったですよ。」
「なぁメル。今度菓子を買ってくるから、食べさせてやろうか?」
「アシェお義兄様っ、アルお義兄様っ。皆様の前でそんな話をしないで下さいませっ。」
小柄で童顔なメルティーがむくれても、ただただ可愛いだけだ。
「怒ってるメルも可愛いな。」
「ふふ、そうですね。いつまでも見てられます。」
まったく反省する気のない義兄達に、メルティーは左右から抱きしめられる。
「メルティー、諦めろ。お前の義兄達はどうにもできないし、皆そういうものだと思っているから気にしていない。」
「アークお義兄様……えぇ、そのようですわね。皆様、とっても普通に見てらっしゃいますわ。」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、アークエイドの言葉を聞いたメルティーは小さく溜め息を吐いた。
「アル、アシェル、いい加減メルティーを解放してあげなさい。メルティーは書記の補佐にするんでしょう?それに、皆の自己紹介もまだよ。」
「数日ぶりにメルで充電してるのに……でも、確かに自己紹介はいるな。」
アルフォードがチュッと右側の頬に、アシェルが左側の頬にキスをしてメルティーを腕の中から解放した。
「こんな場所で充電しないでくださいませ……。というより、わたくしを生徒会に誘ったのは、お義兄様達の充電目的ですわね?」
しっかり充電終了のキスを受けたメルティーは、ぷくっと頬を膨らませてみせた。
膨らんで柔らかそうな頬っぺたも可愛い。
「ここならいいだろ?別に大勢に見られるわけじゃないし。」
「……諦めろ、メルティー。」
「はぁ、もういいですわ、分かってたことですし。アビーお義姉様、自己紹介はわたくしからした方が良いのかしら?それとも皆様のお名前を伺ってから、わたくしが自己紹介した方が良いのかしら?」
気を取り直したメルティーは、この中で唯一アルフォードの行動を諫めることが出来て、それをちゃんと実行できるアビゲイルに問いかける。
「そうね。メルティーのことは皆知ってるけど、一応メルティーから自己紹介してもらおうかしら。」
「分かりましたわ。」
メルティーが立ち上がり、応接セット全てが見渡せる、全ての役員達からも見える位置に移動する。
「メイディー公爵家が娘、メルティー・メイディーですわ。今回は生徒会役員にお誘い頂きありがとうございます。至らぬ身ではありますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします。」
しっかり挨拶をして、制服のスカートを摘まんで綺麗なカーテシーを披露してくれた。
「自己紹介ありがとう、メルティー嬢。私が生徒会長のユリウス・フレイムだ。今年が最上級生になる。……色々と大変だとは思うが、何かあれば相談してくれ。」
ユリウスが立ち上がり自己紹介する。
それから順番に一人ずつ立ち上がり、役職と学年順に自己紹介をしていった。
ちなみにアシェルとアルフォードは、アビゲイルの順番の時に「二人は保健委員長と補佐ですわ。」の一言で片づけられた。
アシェルは役員達の眼が、メルティーを差別していないことに安堵する。
メイディー公爵家の瞳の色を持っていないメルティーは、誰がどう見てもアベルの子ではない。
中には血縁であることを重視する人もいて、連れ子や托卵、妾腹の子は厭われることが多い。
アシェルが遊びに来ていた時のように、メルティーはすんなりと役員達に受け入れられた。
「ねぇ、アシェル様。僕がアシェル様の膝の上に乗るのはダメですか?僕もアシェル様の上で、ぎゅってしてもらいたいな。」
近寄ってきたシオンが隣に座り、上目遣いにおねだりされる。
相変わらず、自分の可愛さをしっかり分かって武器にしている。
「ふふ、シオン君は甘えん坊だね。でも、実のお兄さんを放っておいていいの?」
シオンの兄はクリストファーだが、クリストファーが攻めて楽しみたいタイプなら、シオンは自分から寄ってくるのに攻められて楽しみたいタイプだ。
それと学院祭の少し前から、こうやってアシェルと一緒に。かなり分かりやすい反応を見せるアークエイドの反応を見て、揶揄って遊んでいるようである。
お互い遊びに気付いているので、生徒会室でこういう掛け合いをするのは、必ずアークエイドに聞こえる位置で行われる。
「兄様に甘えたいんじゃなくて、アシェル様が良いんです。男の子の僕じゃ駄目ですか?」
隣から見上げてくるシオンの瞳がウルっと潤む。
もしかしてシオンは嘘泣きまで出来てしまうんだろうか。
——出来ても全くおかしくないと思ってしまう。
「出来れば可愛い女の子が良いけど、シオン君なら可愛いし乗せてあげても良いかな。」
アシェルの言葉でシオンの表情がパァっと明るくなる。
「本当ですか?やったぁ。ねぇ、アシェル様。抱っこしてください。」
満面の笑みを浮かべたまま、目の前で両手を広げてくる。
自分から乗るのではなく、乗せてもらうことに意味があるようだ。
『身体強化』を使って隣に座るシオンの身体をふわりと持ち上げ、非公式お茶会の時にメルティーにそうしていたように、膝の上に横抱きで座らせる。
「座り心地はどうかな?」
「えへへ、アシェル様の綺麗なお顔が近くて、とっても嬉しいです。」
頬を染めながら嬉しそうに笑うシオンの頭を、よしよしと撫でてやる。
クリストファーとは腹の探り合いの微笑み合戦だが、シオンは純粋に甘えてこようとしている感じがアシェル的には好ましい。
「アシェ、いい加減にしろ。シオンもだ。」
ようやくアークエイドから声がかかる。
いつもよりかなり遅いタイミングだ。
だが、いつものように強制的に引き剥がしにこない。
と言うよりも、ソファに座っている状態でシオンを抱えているので、アークエイドの腕の中に引き寄せられないだけかもしれないが。
「クスクス、アークに怒られちゃったね。」
「ふふ、怒られちゃいましたね。でも僕、もう少しこうしていたいなぁ。」
腕の中のシオンが甘えるように、アシェルの首元に頬を摺り寄せてくる。
いくらシオンが小柄な男の子だと言っても、アシェルとは5cmほどしか身長差がない。
膝の上に乗せたら、目線はほぼ同じだ。
首元に擦り寄り、嬉しそうに眼を細めているように見せながら、しっかりアークエイドの姿を確認しているのをアシェルは見逃さない。
「シオン君は抱き心地が良いから、ずっとこうしてあげててもいいくらいだよ。フワフワの髪の触り心地も好きだよ。」
優しく薄浅葱色のふわふわとした癖毛を指を絡めながら撫でれば、シオンの顔が演技ではなく本当に嬉しそうに綻んだ。
シオンの髪の毛の触り心地は癖毛のアルフォードの髪の毛を触っているようで、アシェルはこの髪の毛を触るのが好きだ。
「シオン君の今の表情、すごく好きだよ。いつもその表情で笑ったら、もっと可愛いのに。」
シオンの笑顔の感想を素直に口にすると、さっとシオンの頬が朱に染まる。
その可愛く染まった顔を、ぱっと両手で隠してしまった。
「アシェル様が、冗談じゃなくて本気で好きって……撫で心地褒められて、嬉しくて笑ったからそれだよね。笑顔を褒められただけだけど、でも好きって……!どうしよう、演技じゃないのが分かったってことだよね。もうそれだけでも嬉しいのに。」
手で覆って小さな声で呟かれるシオンの声は、近くに居るアシェルの耳でも聞き取れなかった。
「怒られちゃったね、じゃないだろ。離れろ。」
抱き合ってイチャイチャするのを止めない二人を見るアークエイドは、分かりやすいほどの不機嫌さと瞳に嫉妬の色を全面に押し出している。
さすがにここら辺が引き時なのだが、アシェルの共犯者は膝の上で顔を覆ってしまっている。
「あーうん。なんだか分からないけど、シオン君が落ち着いたら降りて貰うね?」
無理に降ろす気がないのが分かったのか、むすっとしたままアシェルの隣にピッタリと寄り添って座ってくる。
シオンを横抱きにしているので、シオンの背中側にだ。
「ねぇ、ノアお義兄様。わたくし、アシェお義兄様が遊んでたように見えたのだけれど、気のせいかしら?」
そんな三人を遠巻きに役員達が眺めている中、メルティーがこそっとノアールに聞く。
「んー、多分気のせいじゃないと思うよ。アシェもシオン君も、アークが周りに分かるくらい表情を変えるのが面白いみたい……なんだけど。毎回ああいう感じで揶揄うから、不機嫌な表情になるだけなんだけどね。」
「あら、アークにはあれくらいがちょうど良いんじゃないかしら。普段が仏頂面すぎるのよ。学院にいる間くらい、喜怒哀楽はしっかり見せる方がいいわ。それよりノア様。わたくしがシオンのように抱えてほしいって言ったら、してくれるかしら?」
「え、え?僕がですか??ここで???」
「えぇ……わたくしを抱えるのは嫌かしら?」
メルティーの質問に困り顔だったノアールの表情が、一瞬で真っ赤になり狼狽えはじめる。
ノアールに絶賛求婚中のアビゲイルは、何かにつけてこうしてノアールに迫っている。
「嫌じゃないです!あ、えっと、その。嫌じゃないですけどっ、ここでは駄目です!!」
「嫌じゃないけどここでは駄目ってことは、人目につかない所なら良いのね。楽しみにしているわ。」
しっかりとノアールから聞きたい言葉を言わせたアビゲイルは、艶やかに微笑んだ。
「アビーお義姉様は相変わらずですのね。」
「あぁ、面白いだろ?」
「アルお義兄様の面白いは、姉弟でこんなに違うなんて面白いって意味でしょう?」
「当たりだ。」
にこにこと笑顔を浮かべているアルフォードに、メルティーは小さなため息を吐く。
アシェルとシオンは、アシェルに片思い中のアークエイドを揶揄って遊んでいて。
かたやアビゲイルは片思い中のノアールを攻めまくり、言葉巧みに自分の望む結果を得ている。
そして優しくて気の弱いノアールは、口にしてしまったことを撤回はしないだろう。
ある意味姉弟で真逆の状態だ。
それがアルフォードには面白いものに見えているらしい。
アルフォードがシオンとイチャつくアシェルを止めないのは、その方が面白いからだ。
ちらりと時計を見たメルティーは、少し可哀想なアークエイドの援護に向かうことにする。
「ねぇ、アシェお義兄様。今日はアシェお義兄様の部屋で夕食を頂くのよね?そろそろ戻らないと、イザベルを待たせてしまうんじゃないかしら?」
アシェルの後ろから首に抱き着いてメルティーが言えば、ハッとアシェルが時計を見る。
「本当だ。そろそろ戻らないと、ベルを待たせちゃうね。教えてくれてありがとう、メル。ねぇシオン君。大丈夫?」
アシェルが問いかけると、それまで顔を覆って動かなかったシオンの手が下ろされ、いつもの笑顔を浮かべた。
「はい、大丈夫です。あまりにも嬉し過ぎちゃっただけです。アシェル様、また乗せてくださいね。」
アシェル達が充電終了の合図をするように、シオンもチュッとアシェルの頬にキスをしてから膝から降りた。
シオンはアシェルで充電していたのだろうか。
シオンがアシェルから降りると同時に、背もたれ越しにアシェルを抱きしめていた腕も離れていく。
そして代わりに、隣のアークエイドに腰を引き寄せられて抱きしめられる。
「もう、アーク。話聞いてた?部屋に帰らないとって言ってるでしょ。」
「聞いてた?じゃないだろ。アシェはいつもいつもそうやってシオンと……。」
「別に僕が誰と何しようと、僕の自由でしょ?それに、引っ張る時は腰じゃなくって腕引いてってば。」
「うっ……。学院祭の時に言ってたのは、俺に恥ずかしいか聞いてたのと、抱き寄せられるより抱き寄せたいって話だっただろ。アシェは全然恥ずかしくないみたいだからな、別に良いだろ。」
少し拗ねたような声に聞こえるが、背中側から抱き寄せられているので、アークエイドの表情は見えない。
「良くない。ちゃんと覚えてるじゃない、僕は抱き寄せられるより、抱き寄せる側が良いの。だから離してってば。」
「兄達は良いのにか?」
「お兄様達は良いの。だって僕のお兄様だもん。って、こんなことしてたら、本当にベルを待たせることになっちゃうでしょ。遅くても五分前には、ちゃんと部屋に帰りたいんだから。あんまり駄々こねてると、アークだけ部屋に入れてやらないよ。帰りたいから離して。」
「それは困るな。……仕方ない。」
もう少しごねるかと思っていたが、あっさりと腕の中から解放された。
「アシェ、アークエイド、帰るぞ。」
タイミングを見計らったようにアルフォードに声を掛けられ、慌てて教室の外に出ている役員達の元へと行き、いつもの下校風景にメルティーを加えて寮まで戻った。
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――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
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