氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

170 メイディーへの大量発注②

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※にするか迷う微エロです。
※は次話。

*****



Side:アシェル13歳 夏



手紙を書いて三日後。

早速アークエイドがメイディー邸へやってきた。

冒険者スタイルで、表向きは依頼された素材を届けに来た形だ。

そのアークエイドを執事長のウィリアムが、アシェルの実験室まで連れてきてくれた。

「アシェル様。お客様がおいででございます。」

「はーい。開けるからちょっと待っててね。」

三週間、げんなりしそうなほどポーションを作りまくったのに、アシェルは暇つぶしに実験をしていた。
器具はストレージに入っていたモノだけを使っているので、ほとんど器具なしでだ。

これは作業ではなく、楽しいこととしてだ。

開けられる人間の限られている扉を開けば老齢のウィリアムの傍に、マルベリー色のカツラをつけたアークエイドと、同じ色の髪色のイザベルがトレイを持って立っていた。

髪色が同じなだけで、アークエイドとイザベルが兄弟のように見えてしまう。

「いらっしゃい。どうぞ。」

「失礼します。」

ぺこりと頭を下げてアークエイドが実験室に入ってくる。
普段は頭を下げたりしないのだが、一応素材の受け渡しに来た冒険者のつもりだからだろう。

アークエイドとイザベルを招いた扉が閉まる。

「もう楽にして良いよ。」

「ここがアシェのおねだりした実験室か。かなり立派なんだな。」

すっからかんの実験室を、アークエイドはきょろきょろと見渡している。
ほとんど寮にあるので、あまり見るようなものは置いてないのだが。

イザベルは紅茶と珈琲を用意してくれている。
確認しなくても、アークエイドはいつも珈琲を飲むからだろう。

「うん。学院に入る前にお茶した、常春の温室の隣だよ。あ、窓はあるけど外からは中の様子は分からないし、音も漏れないから安心してもらっていいよ。扉を開けられるのも、ベルとお父様、お兄様達だけだから。あ、そこの椅子に座って良いよ。」

「……五歳の誕生日に、おねだりされたからって建てるものじゃないな。」

リクライニングチェアにアークエイドが腰掛けたのを確認して、アシェルは近いテーブルの上に座る。

この部屋に椅子は一脚だけだ。

「だよね。最初、すっごくびっくりしたもん。でも、錬金のためだけに建てられてるから、凄く使い勝手が良いんだよ。って言っても、今は中身をほとんど寮に移してるから、寂しい見た目だけどね。」

「扉はなんで開けられる人間が限られているんだ?それにメルティーは入ってないんだな。」

「防犯上、かな。僕があんまり、近くに人を置きたがらないからっていうのもあるかもだけど。メルが入れないのは安全のためだよ。毒薬とかも扱うし、素材を出してることもあるから、体内で分解できないメルが入るのは危険でしょ。」

「イザベルは?」

「ベルに認証しろって脅された。」

「脅されたとは失礼な。交渉しただけでございます。」

アシェルの言葉に、すかさずイザベルが突っ込んでくる。

「ドアの認証しないと、四六時中くっついて回るって、脅しと一緒じゃないか。しかもそれって結局僕が実験室に居る間、ベルも居ることになるんだし。リスクが一緒ならって認証したんだからね?」

「入れないと、アシェル様が猛毒を味見していても気付けないでしょう?中の様子も分からないんですから。それに旦那様たちは、アシェル様が実験室に籠って出てこなくても、実験してるんだろうねぇ。で終わらせてしまいますから。誰か一人くらいアシェル様にお食事や睡眠を促してくれてるなら、しつこく言いませんでした。」

確かに家族は実験室に籠っていても、基本的に声を掛けてきたりはしない。
時折誰かが、暗くなった部屋に灯を付けに来てくれるくらいだ。

「僕だってお父様たちが実験室に籠ってたら、邪魔したくないもん。まぁ、ベルの言う通り、集中しちゃうと食事も睡眠も疎かになるけどさ。」

「まだ邸の方がマシでした……寮では暇を出されてしまいますので。」

イザベルのジトっとした視線が刺さるが、実験室に籠ってしまうとイザベルを無駄に拘束することになるのだ。

「だって、食事の世話とかも要らないし。」

「そうおっしゃいますが、私はアシェル様がちゃんと食べているのか、寝ているのか、さっぱり分からないんですからね?」

「大丈夫だよ。頭使うとお腹すいちゃうし。眠すぎると効率も悪くなるし。」

「どちらも集中が途切れてないと、感じていらっしゃらないでしょう?アークエイド様が入り浸るので、問題ないかと思いますが。そうじゃなかったら暇を出されても、アシェル様のお部屋に遊びに行っていたかもしれません。」

冗談ではないのだろう。
ただイザベルが居ると、毒の味見も作った毒薬の味見もさせて貰えなくなってしまう。

イザベルを泣かせたくはないけど、味見はしたい。
となると、見られないのが一番なのだ。

「アシェ一人だと同じ食事ばかりだから、時々こっちで手配している。心配するな。」

イザベルと言い合っている間にカツラと魔道具を外したアークエイドに、ひょいっと膝の上に乗せられる。
今、そんな流れだっただろうか?

「ちょっと、アーク。下ろしてよ。乗せてあげるのは良いけど、乗るのは嫌だってば。」

「兄達の膝には乗ってるだろ?それに椅子はこれだだけだ。」

「だから逆ならっ——。」

「私はお邪魔なようなので、下がらせていただきますね。お食事が欲しければ魔道具で呼んでくださいませ。失礼します。」

イザベルはイチャつき始めた二人を置いて、さっさと実験室を出て行く。
元から後は自由にしてもらうつもりだったが、さすがに主人としての面目が丸潰れな気がする。

「魔道具ってなんだ?」

「あぁ、もう……下ろしてくれる気ないでしょ?ベルの言ってた魔道具は、こっちでボタンを押すとベルの持ってる相方が振動して、呼んでるって教えるんだよ。片道通行だから、こっちがボタンで、あっちは手のひらサイズの魔道具かな。」

「サーバントベルの代わりか。」

「うん。さすがに部屋に待機させっぱなしも、外で待機させるわけにもいかないしね。用がある時だけ呼べるようにしてるんだ。」

「邸でも一人になりたがるんだな。それより……ようやくアシェに触れた。依頼がこんなに時間がかかるものだとは思わなかった。」

アークエイドの抱きしめる力が強くなる。
そして顔のあちこちに、啄むようなキスが降ってくる。

「……んっ……。仕方ないでしょ。多分、スタンピードで流通させる薬品、全部うちに依頼が来てるみたいだったから。」

「いや、それは分かってるんだ……。メイディーに頼りっきりで申し訳ないが、やはり薬品の安全性や効果の保証と考えると、メイディーに頼まざるを得ないんだ。とても有り難く思っている。ただ……その間アシェに会えなかったのが、こんなに辛いとは思わなかった。」

「だからって、毎日手紙送って来なくて良いと思うんだけど。」

「ああでもしないと、アシェは全く俺のことなんて思い出してくれないだろ?」

確かに、手紙がなければアークエイドのことを思い出すこともなく、毎日錬金して寝て起きての生活をしていただろう。

「くくっ、図星だな。だが、まさか邸に呼んでもらえるとは思わなかった。」

「返事を書こうと思ったんだけど。依頼は一旦終わったけど、本当に終わりなのか、いつ帰れるかも分からなかったし……。学院に帰る時期が未定なのに依頼が終わったって言って、ぬか喜びさせちゃうと悪いなって。ベルに相談したら、アークなら返事より少しでも会えた方が嬉しいだろうって言ってたから。」

「なるほど、イザベルの入れ知恵か。感謝しておかないとな。」

アークエイドがとても嬉しそうなので、イザベルの考えは間違っていなかったのだろう。

ただ、何故アシェルはアークエイドの膝の上に乗ってないといけないのだろうか。

全く腕の力が緩む気配が無いので、仕方なくアークエイドの肩に頭を乗せ、カツラに仕舞うためか、首元で一つ結びになった漆黒の髪を弄ぶ。

いつも真っすぐだが、今日は流石に少しだけ癖がついてしまっている。
それでも手触りはとても心地良い。

「いつまでも、こうやってアシェを抱きしめていたいな。……アシェ、大好きだ。アシェのことが愛しくてたまらない。」

不意に耳元で、低く囁くように愛の言葉が紡がれる。

いつかの非公式お茶会で、アークエイドがアシェルの言ったというセリフを並べてアシェルの耳元で囁いた時のような、色気のある声だ。

声変わりしているからか、その時よりも声が艶っぽく聞こえ、心臓がドキリと跳ねる。

「アシェに会えないのは寂しかった。ずっと、アシェを抱きしめたかったんだ。例えイザベルの進言があったとしても、アシェが俺を呼んでくれたことが嬉しい。好きだ。」

チュッチュと、耳や首筋に啄むようなキスが落とされる。

本来ならここで“私も”とか言えば、ラブロマンスな物語のような展開なのだろうが、アシェルはこの甘すぎる愛の言葉への返事は持ち合わせていない。

「……っ……アーク、僕は——。」

「知ってるから言わないでくれ。ただ俺が言いたいだけだから。アシェの返事は、ちゃんとアシェが考えて教えてくれたらいい。こうして触れられるだけでも、恵まれているからな。」

「……んっゃぁ……分かったから。それ……っ、止めて。」

アークエイドのキスから逃れようと身を捩れば、頭を引き寄せられ唇が重なる。

侵入してきた舌を押し返したくても、最近のアークエイドは好き勝手にアシェルの口の中を貪ってくる。

キスに加えて首筋まで撫でられ、ゾクゾクとした快感に下腹部が疼く。

つい最近も媚薬を使って身体を重ねたからだろうか。
アークエイドから与えられる刺激は、簡単にアシェルに快楽を運んでくる。

「……っふ……っぅ……。」

たっぷりと絡められた舌が離れていき、熱っぽい艶を帯びた表情のアークエイドと眼が合う。

力が抜け、蕩けた表情のアシェルを見て、アークエイドは嬉しそうに笑う。

「いい表情だな。最初の頃より感度が上がってるんじゃないか?」

「っ!アークのせいでしょっ。いつもいつも……。」

「蕩けたアシェは、もっとくれっておねだりしてくるからな。あんなに可愛くおねだりされて、止められる訳ないだろ。それに、一回イっただけじゃ満足できないんだろ?」

「っやぁ……だって、アークがシてくれるの、きもちぃんだもん。っん。」

アークエイドの長い指が、またアシェルの首筋を刺激してくる。
今度は太腿まで撫でてきている。

いくら防音されていて中の様子が見えないとは言え、邸の中でアークエイドがこんな風に触ってくるとは思っていなかった。

「アシェのどこが良いのか、分かってるからな。いっそ俺じゃなきゃ満足できないくらいアシェを肉欲に溺れさせた方が、アシェは素直になってくれそうだ。」

「ゃだっ、何言ってっ、んぅ……っふ……。」

「くくっ、そうは言うが、寝惚けたアシェも蕩けきったアシェも素直だぞ。ナニが欲しいのか、ちゃんと口にしてくれる。アシェが満足できるまで付き合える男は、なかなか居ないと思うぞ。」

両手で口を覆い声を抑えるアシェルの反応を楽しむように、アークエイドの指が身体を這っていく。

たったそれだけのことなのに、アークエイドの手の動きはアシェルの弱いところを的確についていて、ゾクゾクと力が抜けてしまいそうな快楽を運んでくる。

アークエイドの言う通り、なかなかあそこまで連続で出来る男は居ないだろう。
いくらお年頃とはいえ、アークエイドは朝までと言ったら本当に朝までアシェルの身体を貪り尽くすのだ。

肉欲に溺れさせるというのも、これだけ身体が反応しすぎていると現実味がありすぎて、そんなことにはならないと否定することもできない。
クリストファー相手の時は絶対ないと言い切れたのに。

「今日は抱きしめるだけのつもりだったが……アシェの声を聴いてるとシたくなってくるな。」

これだけアシェルの身体に刺激を与えておいて、どの口が言っているのだろうか。

アシェルにジトっとした視線を向けられたアークエイドは、それでも手の動きは止めずに楽しそうに笑っている。

「……ここで、シたらっ……シャワー…っん、浴びれない……。」

「それは中に出さなければ、シても良いってことか?」

「ダメ、なんでそうなっ、ゃんっ。それしちゃっ、んんぅ。」

ぺろりと首から耳まで舐められ、背中をゾクゾクとした快感が駆け抜ける。

「そうか。残念だが、こうやって楽しませてもらおうかな。」

「それっ、シてるのと変わらないっ。」

「別にアシェを脱がしてるわけでも、挿れてるわけでもないだろ。ただ撫でてるだけだ。」

くくっと笑いを漏らすアークエイドは、分かっててとぼけている。
でも確かにただ撫でられているだけなのだ、アシェルの弱い場所ばかりを。

楽しそうに笑うアークエイドに恨みがましい眼を向けながら、アシェルは必死に声を抑えた。
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