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第三章 王立学院中等部二年生
172 メイディーへの大量発注④
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Side:アークエイド13歳 夏
外が暗くなりはじめ、そろそろアシェルを起こそうかと思案していると、コンコンと扉が叩かれた。
「イザベルです、失礼します。」
魔術の発動したきらめきが扉から溢れたあと、ガチャリと扉が開いてイザベルが入ってくる。
そしてアークエイドの上ですやすやと眠るアシェルを見て、眼を丸くする。
そっと扉を閉めたイザベルが、静かにアークエイドの傍へとやってくる。
「アークエイド様……眠らせたアシェル様を、無理やり乗せてるとかじゃないですよね?」
何をどう勘違いしたのか、ジトっとした眼を向けられ、慌ててイザベルのように小声で言い返す。
「そんなわけないだろ。アシェがここで寝るというから、こうしてるだけだ。アシェに魔法なんてかけようものなら、何倍返しにもなって返ってくるだろ。」
「確かにそうですね。……失礼しました。ですが……アシェル様が、誰かの傍で眠りたがるのは珍しいですね。」
イザベルの言葉にアークエイドは首を傾げる。
メイディーの兄妹は仲が良いし、歳の差もあるので夜一緒に寝たりしそうなものだと思う。
母親が居ないし頼り切っていた乳母のサーニャが通いだったのであれば、余計に過保護な兄達はアシェルを寝台へ招きそうだ。
それにイザベルとは昼寝をして怒られたらしいし、寮でもイザベルを添い寝に誘っていた。
「考えていらっしゃることは、なんとなくわかりますが……。お義兄様達と、夜一緒にお眠りになったことは無いそうですよ。メルティー様が小さい時は奥様とお眠りになっていましたが、お義兄様達はアシェル様をお誘いしても断られております。私とお眠りになった時やお誘いを頂く時は、私のためですね。一緒に寝ていても、私が起きれば必ず声がかかるので……とても眠りが浅いように思いました。」
アシェルは寝つきが良く、朝は一定の時間頃に起きているイメージしかないので、アークエイドは驚く。
「アシェは、いつも直ぐに寝入るぞ?寝ると言ったら、秒で寝ている。今日みたいに、自分から寄ってきたのは初めてだが……。」
「……初めて同衾された時からですか?」
アークエイドが頷けば、イザベルはどこか納得がいったようだ。
「それでアークエイド様が度々来られても、あまり寝不足では無さそうなんですね。……それだけ一緒に居ても嫌じゃない相手ですのに、未だにアシェル様からのお返事はいただけませんの?わたくし、これでも一応、長すぎる片思いを応援しているのですけれど。」
イザベルの口調がお嬢様言葉に変わった。
踏み込んだことを聞いてきているので、侍女として話すのはダメだと判断したのだろう。
「“特別な好き”が分からないままだそうだ。あまり明確に答えを求めると、断ってこようとするし、諦めろと言われたこともあるぞ。ついでに、恋愛的な“ヤキモチ”も妬いたことがないらしい。聞いてみたがアシェの嫉妬は、体格差なんかの男女差で仕方がないことばかりだった。……なぁ、どうしたらアシェに“特別な好き”を分かってもらえると思う?」
「わたくしだって知りたいですわよ。メイディーの人間は、大切と大切じゃ無いものの区切りがはっきりしすぎていて、大切なモノからさらに上の一番大切なモノになるには、かなり頑張らないといけませんわよ。頑張ったところで、気付いてもらえるかどうかという問題もあるので、報われるかは分かりませんけれど……。アシェル様とは身体の関係があるんですし、いっそのこと、お子でも作ってしまったらどうですか?」
イザベルも知りたいというのは、特別な好きを知りたいのか、メイディーの誰かの特別になりたいのか。詳しく聞き返すような話しではないのだが、心の片隅に書き留めておく。
「仮に出来たとしても一人で育てるし、認知も養育費も要らないと言われた。前世では、母親一人で子供を産み育てるのは、珍しいことじゃなかったらしい。」
「それは……こちらの感覚ではありえないですね。未亡人とかでしたら話しは違いますが。難しいですね。」
「あぁ。今のところ、こうやって近くに居てもいい存在、どまりだな。」
「わたくしから見れば、それだけでもかなり進歩していると思いますわよ。……さぁ、そろそろアシェル様に起きていただきましょう。泊っていかれるんですよね?食事の用意は終わっておりますので、アシェル様のお部屋にお運びします。変装を忘れないようにしてくださいませ。」
雑談は終わりだと、イザベルが侍女としての立ち位置に控える。
腕の中で眠るアシェルの肩を揺らしながら声を掛ける。
「アシェ、そろそろ起きろ。イザベルが呼びに来た。もう夕飯は出来ているそうだ。」
「……ん……おはよう、アーク。ベルも来てくれてありがとう。」
すんなりと目覚めたアシェルが、うーんと大きく伸びをする。
そしてするりと腕の中から逃げ出した。もう少し位腕の中でまどろんでくれても良いのに。
「ごめんね、重かったでしょ。」
「アシェは軽いくらいだ。謝る必要はない。」
『ストレージ』からカツラと魔道具のブレスレットを取り出し装着する。
アシェルの部屋への出入りは、変装してと言われているからだ。
「うわ、外もう真っ暗だね。どうせ泊っていくんでしょ?部屋に案内するよ。」
アシェルは少しだけ出していた錬金道具とメモ書きを『ストレージ』に仕舞いこみ、扉へと向かう。
その後ろ姿を追い、すれ違う使用人達には頭を下げながら移動して、アシェルの部屋でゆっくりと食事を摂った。
それからお互い本を読んで静かに過ごし、アシェルを抱きしめて横になる。
お昼寝をしたのに、やはりアシェルが寝入るのは早い。
朝まで起きることはないし、これで本当に眠りが浅かったりするのだろうかと首を傾げたくなる。
翌朝もアシェルと朝食を摂ってから学院へと戻った。
早くアシェルが学院に戻れるように願っている。
外が暗くなりはじめ、そろそろアシェルを起こそうかと思案していると、コンコンと扉が叩かれた。
「イザベルです、失礼します。」
魔術の発動したきらめきが扉から溢れたあと、ガチャリと扉が開いてイザベルが入ってくる。
そしてアークエイドの上ですやすやと眠るアシェルを見て、眼を丸くする。
そっと扉を閉めたイザベルが、静かにアークエイドの傍へとやってくる。
「アークエイド様……眠らせたアシェル様を、無理やり乗せてるとかじゃないですよね?」
何をどう勘違いしたのか、ジトっとした眼を向けられ、慌ててイザベルのように小声で言い返す。
「そんなわけないだろ。アシェがここで寝るというから、こうしてるだけだ。アシェに魔法なんてかけようものなら、何倍返しにもなって返ってくるだろ。」
「確かにそうですね。……失礼しました。ですが……アシェル様が、誰かの傍で眠りたがるのは珍しいですね。」
イザベルの言葉にアークエイドは首を傾げる。
メイディーの兄妹は仲が良いし、歳の差もあるので夜一緒に寝たりしそうなものだと思う。
母親が居ないし頼り切っていた乳母のサーニャが通いだったのであれば、余計に過保護な兄達はアシェルを寝台へ招きそうだ。
それにイザベルとは昼寝をして怒られたらしいし、寮でもイザベルを添い寝に誘っていた。
「考えていらっしゃることは、なんとなくわかりますが……。お義兄様達と、夜一緒にお眠りになったことは無いそうですよ。メルティー様が小さい時は奥様とお眠りになっていましたが、お義兄様達はアシェル様をお誘いしても断られております。私とお眠りになった時やお誘いを頂く時は、私のためですね。一緒に寝ていても、私が起きれば必ず声がかかるので……とても眠りが浅いように思いました。」
アシェルは寝つきが良く、朝は一定の時間頃に起きているイメージしかないので、アークエイドは驚く。
「アシェは、いつも直ぐに寝入るぞ?寝ると言ったら、秒で寝ている。今日みたいに、自分から寄ってきたのは初めてだが……。」
「……初めて同衾された時からですか?」
アークエイドが頷けば、イザベルはどこか納得がいったようだ。
「それでアークエイド様が度々来られても、あまり寝不足では無さそうなんですね。……それだけ一緒に居ても嫌じゃない相手ですのに、未だにアシェル様からのお返事はいただけませんの?わたくし、これでも一応、長すぎる片思いを応援しているのですけれど。」
イザベルの口調がお嬢様言葉に変わった。
踏み込んだことを聞いてきているので、侍女として話すのはダメだと判断したのだろう。
「“特別な好き”が分からないままだそうだ。あまり明確に答えを求めると、断ってこようとするし、諦めろと言われたこともあるぞ。ついでに、恋愛的な“ヤキモチ”も妬いたことがないらしい。聞いてみたがアシェの嫉妬は、体格差なんかの男女差で仕方がないことばかりだった。……なぁ、どうしたらアシェに“特別な好き”を分かってもらえると思う?」
「わたくしだって知りたいですわよ。メイディーの人間は、大切と大切じゃ無いものの区切りがはっきりしすぎていて、大切なモノからさらに上の一番大切なモノになるには、かなり頑張らないといけませんわよ。頑張ったところで、気付いてもらえるかどうかという問題もあるので、報われるかは分かりませんけれど……。アシェル様とは身体の関係があるんですし、いっそのこと、お子でも作ってしまったらどうですか?」
イザベルも知りたいというのは、特別な好きを知りたいのか、メイディーの誰かの特別になりたいのか。詳しく聞き返すような話しではないのだが、心の片隅に書き留めておく。
「仮に出来たとしても一人で育てるし、認知も養育費も要らないと言われた。前世では、母親一人で子供を産み育てるのは、珍しいことじゃなかったらしい。」
「それは……こちらの感覚ではありえないですね。未亡人とかでしたら話しは違いますが。難しいですね。」
「あぁ。今のところ、こうやって近くに居てもいい存在、どまりだな。」
「わたくしから見れば、それだけでもかなり進歩していると思いますわよ。……さぁ、そろそろアシェル様に起きていただきましょう。泊っていかれるんですよね?食事の用意は終わっておりますので、アシェル様のお部屋にお運びします。変装を忘れないようにしてくださいませ。」
雑談は終わりだと、イザベルが侍女としての立ち位置に控える。
腕の中で眠るアシェルの肩を揺らしながら声を掛ける。
「アシェ、そろそろ起きろ。イザベルが呼びに来た。もう夕飯は出来ているそうだ。」
「……ん……おはよう、アーク。ベルも来てくれてありがとう。」
すんなりと目覚めたアシェルが、うーんと大きく伸びをする。
そしてするりと腕の中から逃げ出した。もう少し位腕の中でまどろんでくれても良いのに。
「ごめんね、重かったでしょ。」
「アシェは軽いくらいだ。謝る必要はない。」
『ストレージ』からカツラと魔道具のブレスレットを取り出し装着する。
アシェルの部屋への出入りは、変装してと言われているからだ。
「うわ、外もう真っ暗だね。どうせ泊っていくんでしょ?部屋に案内するよ。」
アシェルは少しだけ出していた錬金道具とメモ書きを『ストレージ』に仕舞いこみ、扉へと向かう。
その後ろ姿を追い、すれ違う使用人達には頭を下げながら移動して、アシェルの部屋でゆっくりと食事を摂った。
それからお互い本を読んで静かに過ごし、アシェルを抱きしめて横になる。
お昼寝をしたのに、やはりアシェルが寝入るのは早い。
朝まで起きることはないし、これで本当に眠りが浅かったりするのだろうかと首を傾げたくなる。
翌朝もアシェルと朝食を摂ってから学院へと戻った。
早くアシェルが学院に戻れるように願っている。
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