氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

183 終わりは突然に①

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Side:アシェル13歳 秋



「んぅ……あれ……?」

いつもの時間に目を醒まして、アシェルは布団とは違うふかふかに首を傾げる。
白灰色のふさふさが、朝日からアシェルを守ってくれている。

「おはよう、アシェル。よく眠れたかい?」

「おはようございます、キルル様。仮眠じゃなくて寝てしまいました……すみません。」

そういえば昨夜、キルルに幼子のように寝かしつけられたのだったと思いだす。

だからと言ってスタンピードの最中に、しっかり睡眠を取るのはどうなのだろうか。
ほとんどの人間が仮眠している中、一人だけしっかり寝てしまってかなり申し訳ない。

「ふふ、良く寝れたなら良かったよ。アシェルには今日もたっぷり働いてもらわないとだからね。寝れるなら寝てしまった方が良いんだよ。」

「キルル様、ありがとうございます。」

ゆっくりとキルルの温もりから離れる。

朝日の眩しさに目を細めながらうーんと大きく伸びをすれば、マリクとアークエイドも起きることにしたようだ。

アークエイドが起き上がると、マリクが撫でろと突撃してくる。
尻尾がばふんばふんと揺れていて、本当にじゃれてきている大型犬にしか見えない。サイズは一回りも二回りも大きいが。

「アシェ、おはよー。良く寝れたー?」

「うん。ぐっすり眠っちゃった。マリク達は寝れた?」

「俺は外じゃ眠りが浅くなるからねー。というか、じゅーじんは自分のテリトリーくらいでしか、熟睡できないんだよねー。ちょっと眠りが浅いのがつーじょーってかんじかなー。」

「そうなの?初耳だな。今日も一杯楽しもうね。」

「アシェのクイックがあるとたのしーよねー。アシェもずっとクイックかけてたらいーのにー。」

「昨日そうしたほうが良いかなって思ったから、今日から僕自身にも三種かけるよ。周囲を気にせず好きなだけ動けるのって楽しいね。」

「だよねー。魔の森じゃ木があって、こーはいかないもんねー。」

「さすがにクイックをかけっぱなしは、逆に戦いにくいもんね。」

たっぷり狼姿のマリクを撫でまわしながら、のんびりお喋りをする。
こんな外でお腹を見せて大丈夫なのだろうか。お腹を撫でろというアピールなので、しっかり撫でてやるのだが。

もふもふは癒しだ。

たっぷりとアシェルに撫でて貰ったマリクは満足したのか、最後に鼻面をアシェルの胸元にぐりぐりと押し付けてから離れていく。

折り畳みテーブルに向かったので、今から人化して着替えるのだろう。

「アークもおはよう。」

「おはよう、アシェ。良く寝れたようでよかった。アシェが居ると、目覚まし時計要らずだな。」

チュッと頬におはようのキスをくれたので、アシェルもお返ししておく。
やっぱり昨夜の兄達とのおやすみのキスについて言及されたのは、聞き間違いだったのだろうか。

「この時間に一回は目が覚めるからね。僕だけ寝ちゃってごめんね。」

「気にするな。今日もまた動き回るんだろ?しっかり寝ておいた方が良い。」

「ありがとう。」

アークエイドとの会話の終わりを感じ取ったのか、キルルがアシェルの足元に擦り寄ってくる。
足元と言っても、腰以上の高さがあるのだが。

「ねぇ、アシェル。あたしにも、マリクにしていたみたいに撫でておくれよ。マリクだけズルいじゃない。」

「キルル様をですか?良いですけど、痛かったりこそばかったりとかあれば、教えてくださいね。」

アシェルの返事を聞いて、キルルの尻尾もぶんぶんと揺れた。
獣人の気持ちは、本当にはっきりと耳と尻尾に現れるよなと思う。

狼のことは知らないが、やはり犬と一緒で人に撫でられると気持ち良いものなのだろうか。

マリクよりも大きなキルルの身体を、マリクが好む場所を中心にたっぷりと撫でまわしていく。
さすがに腹天はしなかったので、お腹にはあまり触れないように気を付けた。

朝からマリクとキルルの獣化姿をもふれるなんて、幸せすぎる。
リリアーデに言ったら羨ましがられそうだ。

キルルも満足したのか、最後にアシェルの胸元に鼻面をぐりぐりと押し付けてから離れていく。
このぐりぐりは、アシェル達の充電完了の合図のようなものなのだろうか。

「アシェルは撫でるのが上手いねぇ。マリクがお腹を見せるわけだよ。」

「ありがとうございます。キルル様も凄く気持ちいい手触りでした。」

「ふふ、ありがとうね。さて、あたしは着替えてくるよ。さすがにマリクみたいに、ここですっぽんぽんのまま人化する訳にもいかないしねぇ。」

「布を持って目隠ししましょうか?幸い木の太さがあるので、僕だけで充分目隠しは出来ると思いますけど。」

「あぁ、あたしはそこまで気にしないんだよ。ただ、人目がないところで変化しないと、ニクスが煩くてね。人間ってのは厄介だねぇ。ってわけで、空いたテントを着替えに貸してもらう手はずは整えてるから、あたしは先に行くよ。しっかり朝ご飯を食べるんだよ。」

確かにアシェルが目隠しして変化したとしても、ニクスの要望からは外れてしまう。
たとえニクスが近くに居なくても、大切な人との約束を破りたくないのだろう。

「分かりました。またあとで。」

軽やかに地面を駆けていくキルルを見送って、アシェルは衣類が無くなった折り畳みテーブルと、寝床にした敷物に『クリーン』をかけてから『ストレージ』に仕舞いこむ。

アシェル達も朝ご飯を貰いに行かなくてはいけない。

「アシェ。今夜からココで寝るか?それなら、何か目印を置いておいた方が良いと思うんだが。」

「あー、良い場所だもんね。いつものスカーフとランタンで良いかな?」

「学生たちは野外実習の時に、冒険者の使う目印の話は聞いているだろう。それなら騎士団も、誰かがここを野営予定地にしていると分かると思う。」

「じゃあぶら下げとくね。」

『ストレージ』の中から、普段目印に使う真っ赤なスカーフと、一緒にぶら下げるための魔道ランプを取り出す。

目印に使うスカーフには出来ればチーム名を入れたほうが良いと聞いた事があるので、刺繍で【宵闇のアルカナ】と入れてある。

スカーフの色は目立つ色を選ぶので、他と被りやすい。
そこがどちらの確保した場所なのか明確にする為のものだ。

「魔力は俺が通す。アシェもマリクも、今日もまたたっぷり遊ぶんだろ?出来るだけ魔力は温存しておいた方が良い。」

「ありがとう。」

アークエイドが魔力を通したランプが、ぼんやりと光る。
きっと夜まで灯が消えないように魔力を流してくれているはずだ。

のんびりと朝ご飯の配給場所へと向かう。

「アーク達は何かやりたい奴いるー?」

「別にこれと言って。俺達は別に、マリク達みたいに思いっきり動きたい訳じゃないからな。恐らく昨日流してた魔物は後続まで流すことになるだろうし、あまり気にしないでくれ。」

「でもそれじゃ退屈でしょ?多分今日は色々混じってるだろうから、ウェーブ戦する?」

「ウェーブ戦?」

「一定時間ごとに、魔物の群れが追加でやってくる戦いかな。1ウェーブ目に何体、2ウェーブ目に何体って。次のウェーブまでに殲滅できていないと、どんどん敵が増えて首がまわらなくなるやつ。健斗が借りてたゲームで少し触っただけだけど、再現は可能だよ。」

「そんな再現しなくて良い。アシェのことだから、俺達三人で対応できる限界まで送り込んでくるだろ。そしてそいつらを倒すタイミングを見計らって、次のウェーブが来るとしか思えない。」

「ふふ、正解。最初は少な目で始まって肩慣らしして、あとはどこまで行けるかはプレイヤーの力量や装備次第みたい。でもそのギリギリを突破した時が楽しいんだって、健斗が言ってたよ?」

「わざわざ死地に飛び込みたくはない。」

「アシェの元居たところって、平和なんじゃなかったっけー?」

「あーうん、平和、かな?魔物は居なかったし、武術なんて習ってる人は一握りだったよ。ゲームっていう娯楽で、まさにこんな感じのことを疑似体験するって感じかな?討伐に失敗してもゲームオーバーになるだけで、何度でもやり直しが効くから、緊張感もあまりないし……まぁ娯楽だしね。魔法は無いけど、そういう作り物の物語やゲームはあったし、魔物が出てきて倒すようなものもあったよ。そうだね。小説の物語が映像になっていて、自分の行動や選択肢で結末が変わる感じかな。」

「へー。色々あるんだねー。見たことないからそーぞーがつかないや。」

「僕から見れば、こっちの方が色々あって面白いけどね。」

朝ご飯の配給所に辿り着くと、中の具材が書かれた沢山のプレートの前にサンドイッチが山盛りになっている。
一つ一つ包装紙に包んであるので、ランチ用に携帯することも考慮されているのだろう。

ドリンクはグラスが山積みになっている隣に、こちらも各種色々並んでいる。
さらには、マグカップとスープ鍋も三種類くらい置いてある。

セルフサービスではあるが、好みのモノを好きなだけ飲み食いできるようだ。

アシェル達は鐘の音の合図よりもかなり早めに起きたのにこれだけ用意してあるのは、夜間も動き続ける人達に配慮してだろう。

日中と違い、夜間は適宜人員の入れ替わりが行われているはずだ。

「アーク、どれ食べたい?全部半分こするから。ランチ用も持っていくなら、それも取っておいてね。先に味見しちゃうから。」

「アシェは昼は要るか?アシェが欲しいなら持っていくが、特に要らないのなら昼は無くていい。冒険者やる時は大体昼抜きだしな。」

「僕もお昼は要らないかな。でも、飲み物だけは水筒に貰っとこうかな。動くからもっと飲めって言われそうだけど……水筒一杯分は飲んでおかないと、ベルに怒られちゃう。」

「喉が渇くからじゃないんだな。」

「あまり喉乾いたって思わないんだよね。意識しないとあまり水分って摂らないから。アークも持ってく?」

「まぁ、戻れないだろうしな。レモン水を入れてくれるか?朝飲む分はアイスコーヒーで。」

「分かった。」

アークエイドの水筒を預かり、アシェルの分と合わせて『クリーン』をかける。

グラスにまずは水筒に入れる分と今から飲む分を、少しずつ注ぎ味見する。

それから水筒とグラスを満たして、軽く揺らして混ぜ、もう一度味見して終了だ。

その間にアークエイドがサンドイッチをいくつか取ってきてくれ、マリクも自分が食べたいものをトレイの上にこんもり乗せて戻ってくる。

手近な空いている席で朝ご飯だ。

朝の交代は、鐘が一度鳴った三十分後に二度鳴る。
その二度鳴り響いてからがアシェル達の出番だ。

一度目の鐘の時に日中の武術部隊は配置に付くためと、伝達事項があればそれを聞くために一旦集まる。
その間に予備人員の武術部隊が、前線を少しでも押し戻す役目を担っている。スムーズに魔法部隊を撤退させるためだ。

それを日中の武術部隊に割り当てられている騎士たちが、さらに前線を押し戻しながら魔物を引き付けつつ戦うのだ。

朝食を摂り終えのんびりしていると、時計台の鐘が一度だけ鳴った。

指定通り集合場所に移動すれば、第一騎士団長のダンテ・コンラートから伝達事項を伝えられる。

「皆、昨日はゆっくり休めただろうか?今日も引き続き戦ってもらうことになる。昨日よりも魔物の種類も数も多くなっているので、怪我をしないように気を付けてくれ。疲労を感じたら他のパーティーと交代してくれ。魔物についてだが、弱い敵だけは後続まで流すことになった。今から言う魔物は、無理に相手せずに出来るだけそのまま後ろに走らせてやれ。何もしなければ、真っすぐ王都に向かって走っていくからな。」

ダンテが相手をしなくて良い魔物の名前を口にする。

ホーンラビットやゴブリンなどの小型で毒もない様な魔物に、中型で動きの大きなオークだ。

オークジェネラルやフォレストベアなど、後続には脅威になりそうな敵は引き続き前線で対応をしなくてはいけないようだ。

「それと今夜から、冒険者ギルドから解体班が派遣されてくる。大体は焼き払っているが、ここに居るパーティーはストレージに仕舞いこんでいる者も多いだろう。休憩に入った者から出張解体所に魔物の解体を依頼してくれ。それから……キルル、アシェル殿。お二人には最初の前線を押し戻す間だけ、左右の陣営の助っ人に行って欲しい。ここの押し戻しにはマリク殿達のパーティーに協力を願う。」

ダンテの言葉にアシェル達は頷く。

引きさがるのは簡単だが、押し戻すにはそれなりに戦力が要る。

夕方安全に撤退するためにも前線の押し戻しは必要だし、足りない戦力を一次的な助っ人という形で補充するのだろう。

「伝達は以上だ。時間までもう少しだが、ゆっくりしてくれ。」

ダンテの伝達を聞き終えた面々は、思い思いに散っていく。

「アシェルには右側を頼んでも良いかい?タイミングが良ければ、帰りにバフのかけ直しもやっておいで。」

「分かりました。バフをかけながら移動して、帰りにかけ直して来たら良いかな。」

「マリクのパーティーってことは、俺らも前線押し上げ要因だよな。ようやくまともに活躍できるぜ。」

「きょーはジンも暴れるー?アシェのクイック貰うとたのしーよー。」

「逆に動ける気がしねぇし、マリク達みたいな働きは無理だからな。」

「僕らのことは気にせず、思いっきり暴れてくれ。」

「アシェ、まだマナポーションはあるか?心許ないなら配給所でもらって来るぞ。今日も動きっぱなしなんだろうから、今はゆっくりしててくれ。」

「そうだね、ホルスターが満タンじゃないと気になるし、自分で作った分はもしもの時の為に取っておきたいし。マナポーションを三本だけお願いしていい?」

「三本だな。」

「ごめん、デューク。アークと一緒に行ってもらっていい?」

「分かった。」

せっかくギリギリまで休めるように気遣ってもらったが、アークエイドを一人で歩かせるわけにもいかない。

デュークにお願いすれば、すぐに了承の返事が返ってくる。
何故頼んだのかも分かってくれたのだと思う。

「俺が付いていこうかと思ってたけど、余計な心配だったな。」

「エト、おはよう。流石に探査魔法サーチは展開してないし、かと言って一人で移動させたくないしね。それに、エトも出ずっぱりなんでしょ?アークは断ると思うよ。」

「だろうけど、やっぱな。」

「こんなとこで、アークを一人で歩かせるのは心配だよねー。」

「ほんとにあんたたちは、アークエイドに過保護だねぇ。アークエイドだってそれなりに動けるんだから、そこまで気にしなくても良いだろうに。」

「アークがどれだけ動けても、数の暴力はどうにもなりませんし、これだけ色々な人が居る状態だと、ギリギリまで接近されてしまうと後手に回りますし。」

「アークは滅多に無いとは言ってたけど、ゼロって訳じゃないですしね。」

「アークはアシェと一緒じゃないと、ふつーに一人だけでいどーしよーとするから、やっぱり気になるよねー。」

普段はアシェルがアークエイドから離れることはないどころか、アークエイドの方からアシェルと一緒に居たがるので問題ないのだが、こういう時はやはり神経質になってしまう。

どんな時でも命を狙われる可能性があるというのは、王族とは厄介だと思う。
本人が王位を望んでいなくても、周りが勝手に暗躍しているのだから。

「王太子も決まってるって言うのに、人間は厄介だねぇ。正々堂々と王位を奪いに行くわけでもなけりゃ、仕掛けてる本人が王位を望んでるわけでもないなんてねぇ。」

獣人は武を重んじるので、もし皇帝が変わるとしたら、キルルの言うように正々堂々と決闘して挑戦者が勝った場合だ。
あまり決闘は起きないらしいが、それでも歴史上何度か決闘により皇帝が変わっている。

対してヒューナイト王国で重視されるのは血筋だ。

特に直系色の出る家系では、その特徴を引き継いでいるかが重要視される。
加護の出現があってもなくても跡取りの子どもにしか直系色は出ないし、直系色が出てない子供は、いくら血筋であっても加護が出現することは無い。

メイディーはアレリオンが跡取りなので、アレリオンの子どもにはアメジスト色の瞳は受け継がれるが、アシェルの子どもには瞳の色は受け継がれないし。アシェルは加護を持っていても、アシェルの子どもに加護が出ることは無い。

謎の神様パワーで、それは決まっていることなのだ。

「アシェ、貰って来たぞ。メルティーが作ったと言っていたから、品質も問題ないと思う。エトも居たのか。おはよう。」

「メルが作ったなら安心だね。ありがとう。」

「おはよう、アーク。大丈夫だとは思うけど、もし大勢相手に無理になったら、こっちに引っ張って来いよ。今日も隣に居るからな。」

「そんなことにはならないと思うが……その時は頼む。」

「おう。任せとけ。」

少しだけゆっくり喋りながら牛乳を飲んでいると、鐘の音が二度響いた。

そこかしこで「片付けはこちらでします。」という補給員の声がするので、アシェルもお言葉に甘えてグラスをテーブルに置いたまま結界の外に出る。

鐘の音を合図に極大魔法を使ったのか、ふらつくローブ姿の人間が数名と一面の焼け野原が見える。

遺体が消し炭になったあたりで、凍えそうなほど冷たい冷気が平原を駆け抜けた。
水をかけると足元がぬかるむので、安全に火を消すためだろう。

平原の先からは、既に足が遅いものも速いものも入り混じった魔物たちが押し寄せてきている。
それでも焼け野原を進んでくるまでの間に、少しずつばらけてくれるだろう。

アシェルは右陣の助っ人に行くために、まずはパーティーメンバーに『攻撃力向上アタック』と『防御力向上プロテクト』をかけ、アシェル、キルル、マリクには『速度向上クイック』もかけておく。

「皆いつものバフはかけておいたからね。キルル様とマリクにはクイックもかけています。」

「ありがとうね。じゃあちょっと行ってくるよ。」

「僕も行ってくるね。大丈夫だと思うけど、毒持ちには気を付けて。もし貰ったら、そいつ殴ってアル兄様のところに連れていけば、適切な解毒剤貰えると思うから。」

アークエイド達の実力は十分なので、大怪我よりも数を相手にしているうちに毒をもらってしまう可能性の方が高いだろう。

その毒持ちがどのタイプか分かればアルフォードがどうにかしてくれるはずだし、結界まで戻るより隣の部隊に駆けこんだ方が早い。

言い終わると同時に走り出し、各所にバフをかけながら助っ人に向かうアシェルをパーティーメンバーは見送る。
そして前線を押し上げるために、並んで走り出す。

毒を貰うような状態の場合、果たしてどれから攻撃を貰ったのか見分けはつくのだろうか。
もし対象が分かったとして、攻撃を受けてしまうような状態なのに、その対象だけを倒して離脱出来るのだろうか。

残された四人の中で、単身ソレが出来るとしたらマリクだけだろう。
囲まれていた場合、群れから逃げ出すだけでも大変だ。

「アシェルは簡単に言うなぁ。どう考えても、この量相手に毒貰った時点で詰みだと思うんだが?」

「ジンが覚えておくことは、毒を貰うか貰った味方が居たらそいつを連れて、隣のアシェの兄のところに走る、だけで良い。」

「アシェルは本体を連れていけって言ってたぞ?」

「本体が要るのは見た目での識別のためだ。結界まで戻るならあった方が良いが、メイディーなら関係ない。どうせ傷口の毒を舐めてでも、必要な解毒剤を判別するはずだ。」

「……毒を舐めるのか?わざわざ?」

「アシェなら、躊躇いなくそーすると思うよー。」

「確かに。次兄のところに行くなら、魔物を倒して連れて行くより。傷口をそのままにして、早めに次兄の元へ行くほうが無難だろうな。」

「とりあえず一般人の感覚では、意味不明だって事だけ分かったわ。」

「まぁ、あまり気にするな。行くぞ。」

アークエイドとデュークが簡単に魔物の攻撃を受け止めながら、ジンとマリクがとどめをさしていく。

騎士たちが居ないこの場所は、ひたすら殲滅していくしかない。
時折一部の魔物が誘われるように左右に流れているのは、そちらの盾持ちが引き付けてくれているのだろう。

こうしてスタンピード二日目の武術部隊の出番は幕を上げた。
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