氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第三章 王立学院中等部二年生

185 終わりは突然に③

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Side:アシェル13歳 秋



鐘の音で出陣して、右陣営の前線を押し上げて中央の割り当てられた場所に戻り、魔物を殲滅する。

鐘の音で周囲の撤退を確認して、時には補助しながら結界に戻り、食事を摂って睡眠を取る。

その間に魔物を出張解体所へ持って行ったり、ポーション類の補充をしたり、自分でクリーンをかけられない人は専用のテントに並びに行く。
アシェル達は自分でかけるし、エラートとダリルはティエリアが綺麗にしてあげているようだ。

眠る時は確保した大木の下で、キルルが初日のようにアシェルの身体を整えて、優しく寝かしつけてくれる。
お陰で野営が数日続いているのにも関わらず、毎日しっかり熟睡しているアシェルは元気だ。

テントに寝袋や簡易ベッドは用意されているようなのだが、やはりアシェルのように熟睡している戦闘員はほぼ居ない。
日を追うごとに討伐部隊の顔には疲労が見え始め、怪我人も増え始めた。
命に関わるような大怪我をした人が居ないことだけが不幸中の幸いだ。



スタンピードが始まって六日目の出陣を終え、結界へと戻ってくる。
結界を潜る前に、しっかりと『クリーン』で身体を綺麗にしてからだ。

「結界の魔力追加しないとかな。ここは良いけど、他は追加しないと、きっちり七日でスクロールが使い物にならなくなっちゃうんだよね。」

夜ご飯の支度はイザベルが頑張ってくれるので、食事を待つ間冷たい果実水で喉を潤す。
この果実水も、イザベルが人数分用意してくれたものだ。

イザベルは武術部隊が撤退する時の、アロー系の魔法を飛ばす役割をしている。
武術部隊が引きあげて、リリアーデ達が極大魔法を使ったら、撤退の補助要員はお役目終了である。イザベルはそのあとそのまま、補給部隊として動いているようだ。

「いや、多分そろそろ終わると思うから、追加の魔力は要らないと思う。」

「何故分かる?」

「魔物が少しずつ、元の強さに戻ってるのに気付いてるか?それに今日は昨日よりも魔物の全体数が少なかった。夕方にかけてまばらになってきていたしな。長くて一日。早いと明日の朝には終息しているはずだ。」

デュークが、スタンピードが終わると思う理由の説明をしてくれる。

強さが元に戻っていると言われてもバフをかけている時点でいつもと違うので、確認のしようが無いのだが。

「減ってるって言われてもなぁ……俺らのところを通るのって、後ろに流す奴ばっかりだろ。減ってるかどうかなんて分かんねぇよ。」

「やることが無さ過ぎて、トーマと一緒に頭を拾い集めて、焚き火していただけだからな。」

アークエイドの言う通り、トーマも前線に出てきていた。

二日目のアシェルとキルルが抜けている時に、戦闘の邪魔になる遺体や収納されなかった頭を、邪魔にならないように集めて破棄しようとして出てきていたらしい。

好き放題に暴れる三人が揃うと、アークエイド達三人はやることが無くなってしまうので、一応流れてくる魔物が後ろに流しても良いものかだけチェックしつつ、トーマと一緒にゴミ拾いしていたわけだ。

アシェル達の場所と、左右のアルフォード達のエリアとエラートやシオンの居るエリアだけを回っていたようだが、自衛もできる人員が足場を確保してくれるので、かなり戦いやすくなったようだ。
正直なところ二日目以降のアークエイド達三人は、トーマと一緒に戦場整備をする方の働きを期待されていた気がする。

ちなみに焚き火は、【朱の渡り鳥】に作っておいた結界スクロールで小さな結界を作り出し、その中で行われていた。

クズ魔石になるだけのゴブリンは転がったままのことが多いので、トーマはしっかりゴブリンも回収して魔石を抜いて、残りは燃やしていたようだ。

魔法で殲滅した後の魔石は、手隙の冒険者や騎士団員や魔法部隊の者が、武術部隊の邪魔にならないように回収している。
前線を押し上げるのは、この魔石の回収をしやすくするためでもあったようだ。
魔石は電池のような役割なので、どんなサイズのものでも市場に出回るエネルギー源だ。

今回集まった魔石や魔物の肉や皮は、個人の報酬ではなく、国が一旦すべて買い上げる形になる。
参加した人全員に報奨金という形で、拘束日数に合わせた金額が支払われるようになっている。素材の回収率によっては、元の提示金額より色が付く可能性もあるそうだ。

今回の怪我の治療費や食費はかからないし、実際に倒した数に関係なく報奨金は出るし、事前受付ではよく使うような各種ポーションが配布されたしで、冒険者たちはかなり懐が潤うのではないだろうか。
少なくとも、待機命令が出た間の損失は回収できるはずだ。

ちなみに報奨金とは言っているが、その金額相当の現物支給というのも可能だ。
アシェルはオークジェネラルと、2本尻尾のバッファローの肉を狙っている。

この辺りは何が持ち込まれたかを知らないと希望も出せないので、バンに手早く解体してもらったし、他の魔物たちも出して見えにくいようにカモフラージュもした。
情報を秘匿するようで申し訳ないが、討伐者特権だと思ってほしい。

薬の材料になりそうな毒や魔物素材は、大部分がメイディーに。
一部は王都の薬師や王立病院へも流れるようだ。

大部分がメイディーに来るのは、メイディー各個人で保存していた素材も、メイディーが毎年丁寧に摘み取って保存していた薬草も、今生えている庭の薬草園の素材も大量放出しているからだ。代わりにはならないが、せめてもの気持ちなのだろう。

「アシェは弱くなってるか分かったー?なんか少なくなったかもーとは思ってたけどー。」

「僕もマリクに同意見。」

「そもそもアシェルのバフを貰ってる時点で、あたしもマリクもオーバーキルだからねぇ。ちょっとくらい強くなっても弱くなっても、魔の森程度じゃ誤差の範囲内ってところだねぇ。」

「良いな……僕もそんな風に言えるだけの筋力が欲しい。」

「獣人と比べても無駄よ。それにアベルもだけど、メイディーは筋肉が付きにくいでしょう?アシェルの戦闘スタイルは、メイディーにはピッタリの戦い方だと思うわよ。足りない腕力なんて、体重のかけ方とかで工夫すれば良いのよ。アシェルが魔物を串刺しにするようにね。」

「どうしても無いものを補おうと思うと、あぁなるんですよね。」

「強くなるにはそうやって自分の非力な部分を認めて、工夫することが大事なのよ。普通は見て見ぬ振りしたり、改善策まで辿り着けない人が多いから。そうやって工夫してるだけ上出来よ。」

ぽんぽんと優しくキルルが頭を撫でてくれる。

アシェルの左隣にはアークエイドが座っていて、寮でのご飯ではメルティーが座る右隣の席がキルルだ。

ソファに座る時はアークエイドがアシェルの右側にピッタリと座ることが多いのだが、食事の時はどちら側など明確に決まってはいなかった。

メルティーが入学してからは邸に居る時からのアシェルとメルティーの位置関係を変えたくなかったので、必然的に食事の席順が決まったのである。

「アシェル様、お食事を運んでまいりました。」

「今日も色々美味しそうだったので、沢山持ってきましたよ。たっぷり食べてくださいね。」

イザベルは自分で用意したのか、いつもワゴンを器用に押してくる。
平原なので押しにくくないのかと思うのだが、かなりスムーズに動いているので、何か加工か術式が刻まれているのかもしれない。

一緒に準備をしてくれたトーマも、両手に大きなお皿を抱えている。

「ありがとう、ベル、トーマ。一緒に食べよう?」

「アシェル様、私は——。」

「イザベルさんも遠慮なんてせずに、座ってください。冒険者が席を囲んでる時点で、身分なんて気にするだけ無駄ですよ。」

トーマがイザベルを椅子に座らせ、テキパキと食卓を整えてくれる。
二日目から毎日見られるやり取りだ。

それぞれの目の前に、取り皿とスプーンとフォーク、お箸、お椀が置かれる。

食卓の中央には大皿に乗ったオークの生姜焼きに、フォレストイーグルとホーンラビットの串焼き、ほうれん草の胡麻和えにキャベツの煮びたし、お漬物が数種類盛られたお皿もある。

「スープは好みが分かれるだろうからって、二種類小鍋を借りてきました。今までのオーク汁と、こっちはカス汁?とか言ってました。具材は一緒で、スープの味付けが違うらしいです。」

「へぇ、カス汁なんて珍しいね。酒粕があるってことは、日本酒っぽいお酒があるってことかな。今度ニクス様に聞いてみようかな。」

「アシェルさんはご存知ですか?万人受けはしないからって、この鍋は貸出なんですよ。必要な方だけ注いだあとは返却してくるので、お替りが欲しい時は配給所に行かないとなんです。」

「飲んだことは無いけど、存在は知ってるよ。お椀に半分ほど、液体だけ入れて貰っていい?」

「はい。どうぞ。」

トーマに受け渡されたお椀の中には、白い液体が入っている。
味噌の香りもするので、お味噌汁に酒粕が入っているような感じなのだろうか。

一口含めば、これが酒粕の味なのだろう。
お酒っぽい味がする。薫はお酒を飲んだことは無かったが、多分日本酒の味や香りはこういうものなのだろうと思うような味だ。

風味を損なわないために、酒粕や味噌を入れた後はあまり加熱していないのだろう。
苦手な人はこの日本酒感溢れる味や酒精がダメかもしれない。日本酒が好きな人は美味しいのだろうが。

「僕は大丈夫……だけど、少し酒精を感じるかも。すっごく好き嫌いは別れると思うよ。あと、お酒でアレルギーある人は飲めないやつだね。」

隣のアークエイドにお椀を回せば、一口飲み次へと周っていく。

「独特な味だな。確かに好みは分かれそうだ。俺は普通のオーク汁を貰う。」

「僕もオーク汁が良い。」

「トーマ、俺はカス汁の方が良い。」

「私はオーク汁で。」

「はーい。少々お待ちくださいね。」

マリクまで回ったお椀は、ひょいっとキルルに取り上げられてしまう。

「マリク。あんたはこれ飲むのは止めときな。気になるなら、匂いを嗅ぐまでにしなさい。」

「はーい。って言っても、俺はふつーのオーク汁の方が好きな匂いー。」

「あたしはカス汁を貰おうかね。トーマも飲むでしょう?」

「あ、頂きます。……確かに独特ですね。ジンさんやガルドさんは好きそうな味です。」

「あ、僕もオーク汁で。」

トーマが汁物を注ぎ終わり、鍋の返却に行ってくれる。

トーマが席に着いたら、皆で「いただきます。」をして夕飯を摂り始める。

「キルル様。マリクは酒精がダメなんですか?今まで焼き菓子に少し入ってる分は食べてたんですけど……。さすがに酒精の強すぎるものは大人テーブルに持って行ってたので、口にしていても弱いものですが。」

アレルギーだったらどうしようと思いながら、キルルに尋ねてみる。
知らず知らずのうちにアレルギー物質を体内に入れることほど怖いことは無い。

「あぁ、焼き菓子程度なら大丈夫よ。ただ大人テーブルに持ってきていたレベルのモノは、止めておいた方がいいかもしれないけどね。」

「いえ、アレルギーですと、いつ症状がきつくなるか分かりませんので。しっかりとアルコールを飛ばして無いものは——。」

「あぁ、アシェルが気にしてるのはそっちね。アレルギーは気にしなくて良いわよ。マリクは弱いのよ、お酒に。飲んでも良いけど、さすがにこんなところで酔っぱらった姿を晒すわけにはいかないでしょう?皆でアシェルの部屋で飲むのなら、マリクにも飲ませて貰っても良いわ。ただ、すっごく弱いわよ。」

どうやらさっきのカス汁の味見を止めたのは、マリクが酔っぱらうと困るかららしい。

「ねぇ、マリク。酔うってどんな感じ?ふわふわするの?楽しいの?悲しいの?記憶ってあるの??」

未成年だった薫にも、体質的にアルコールを分解するしまだ未成年なアシェルにも、酔っぱらったという記憶は無い。

興味津々にマリクに質問をするアシェルに、マリクは頭を悩ませる。

「えっとねー。なんかふわふわーってかんじだったかなー?悲しーとかは無いし、そんなに飲んでないから記憶はあるよー。」

「ふわふわするだけなの?よく笑い上戸とか泣き上戸とかいうけど、そう言うのは??」

「アシェル、そのくらいにしてやっておくれ。あまりこんな場所で言いたくないだろうしねぇ。ビースノートじゃ10から飲めるようになるから、こっちの成人を忘れてて誤って飲ませてしまっただけなのよ。ヒューナイトの成人のあと、皆で飲んだ時に分かるわ。」

何かお酒での失敗談があるのだろうか。
気にはなるが、本人が話したくないものをこんなひらけた場所で聞くわけにもいかない。

「分かりました。成人が楽しみだね。」

「飲むのはいーけど、笑わないでよー?」

「状況によるから約束は出来ないかな。でも、笑ったり馬鹿にしたりはしないように気を付けるよ。」

「アシェは酔っている感想に夢中だと思うから、気にするだけ無駄だと思うぞ。」

「あーそうだねー。アークの言う通りかもー。」

「そういやアシェル達は未成年だったな。長期クエスト明けの酒は美味いぞ。飲めるようになったら一緒に飲みに行こうぜ。」

「アシェルさん達に無理に飲ませたりしないでくださいよ?成人したてって、ペースや量の配分が分からないことが多いんですから。でも、皆さんとお酒を飲めたら楽しそうですね。」

「良いね。【朱の渡り鳥】と飲むのは楽しそう。そういえば、もう皆成人してるの?僕らは今年で14だよ。」

なんだかんだで【朱の渡り鳥】とは仲が良いと思うが、トーマ以外がフレイム地方出身だということ以外、あまり詳しいことは聞いたことが無い。

もしかしたら年齢も個人情報になるので、冒険者のマナー的にご法度かもしれないが、成人済みかどうか聞くのは問題ないだろう。

「うわー14か……うちは全員成人してるけど、アシェル達から見たら、俺らおじさんじゃねぇ?」

「ジンさん。僕まで一括りにしないでくださいね??」

「アシェルの年齢を思ったら、トーマの年齢なんて誤差だろ。」

「そんなに歳は離れてないように思ってたんだけど……。」

「ガルドが21で、俺が20。ユウナとアーニャが19だな。俺達は同じ年ごろだったから、自然とつるんでってかんじだな。」

「僕は一番年下で、今年18になりました。」

ジンがおじさんと言うので、もっと歳が離れているかと思った。
それこそ20後半とかだったらどうしようと。

だが20前後なら、まだ十分若いと思う。
そもそも16で成人は早いなと思っているので、前世の感覚があるアシェルからすれば20でようやく成人だ。それに18~22のどこかで社会人になって子供じゃなくなるイメージだ。

「なんだ。じゃあジンは、アン兄様と同じ年だね。おじさんなんて言うからもっと歳がいってるのかと思っちゃったよ。トーマもアル兄様と同じ年だよ。」

「兄貴たちと結構年が離れてるんだな?」

「俺もだぞ。グレイ兄上とアシェの長兄は同じ年だからな。」

「兄弟揃って同じ年なんて珍しいですね。」

「あら、そんなこと言ったら、この子たちの親は皆同い年よ。あたしもアンジーも、アシェルやデュークの母親もね。」

「わぁ、凄いです。僕はあまり歳の近い友人がいなかったので、羨ましいですね。」

「ま、成人しちまえば、歳の差なんてあんまり関係ねぇよ。特に冒険者はな。」

「それもそうだね。お酒が飲める歳かどうかと、強ささえ分かれば十分だもんね。」

「そういうことだ。」

ジンからのお誘いだが、きっと【朱の渡り鳥】のメンバーはアシェル達と一緒にお酒を飲んでくれると思う。

成人して皆で宅飲みを経験した後に、酒癖の悪くないメンバーで一緒に飲もうと心の片隅に留めておく。
酒癖が悪かった場合はお留守番だ。プライベート空間で楽しく飲む分には良いが、外だと知らない人にまで迷惑をかけてしまう。

食事をつまんでいると、最初に魔力を使ってしまうリリアーデとユーリがやってくる。

今日はここで夕飯を摂ることにしたようだ。

「皆、お疲れ様。今日はこっちにお邪魔しても良いかしら?」

「皆様お疲れ様です。そろそろスタンピードも落ち着きそうで良かったですわ。」

イザベルが『ストレージ』から二人分の椅子を取り出し、アークエイドとデュークの間に二つ並べてくれる。

「ユーリ先輩も分かるんですね。」

「アシェル様たちは初めての経験だから分かりにくいかもしれないけれど、スタンピードを普段経験する人間は気付いていると思いますわ。わたくしも領地で経験がありますから。スタンピードが終わる前兆は、魔物の強さや量が落ち着いてきますの。恐らく今夜には。遅くても明日の魔法部隊の出陣は無いと思いますわ。」

驚くアシェルにユーリが説明してくれる。

北の辺境伯爵家であるウェンディー出身の彼女は、マース山岳の大魔素溜まりで起こるスタンピードを知っているのだろう。
辺境伯爵家にとって、スタンピードとはいつでも起こり得る身近な現象だ。

終息についての予想も、デュークとそう違いは無い。

「凄いですね。経験者の予測は一緒です。終わりってどんな感じなんですか?」

「今は魔物が少し減っている感じだけれど、ある時を境にピタッと自分たちのエリアから出てこなくなりますわ。そこまでに出てきている魔物を殲滅し終えれば、スタンピードは終了ですわよ。」

「急に終わる感じなんですね。皆疲れてるだろうし、早めに終わると良いですね。」

「明日の朝の報せに、期待するしかないですわね。でも、終わってしまうと皆様とこうして過ごせなくなるのかと思うと……少し寂しくもありますわ。」

「皆でこんな風に食事を摂るなんて、なかなかないですもんね。」

「アシェル様。今夜はわたくしたちのテントで一緒に語り合いませんか?女子会も楽しいけれど、アシェル様のお話もお聞きしたいわ。」

「ユーリ嬢。」

アークエイドに咎めるように名前を呼ばれたユーリは全く気にしていないようで、鈴のような可愛い声で笑う。
アンジェラはウェンディー辺境伯爵家出身なので、二人は従姉同士だ。

「アークエイド殿下もいらっしゃいますか?殿下の反応も見てみたいですわ。」

「寝所に男を誘うな。」

「あら、今夜は寝なければ良いだけですわ。もう皆そのつもりですわよ?」

女子会はちゃんと決まった時間にお開きにして睡眠を取っていると聞いていたが、もうスタンピードは終わりそうなので語り明かすつもりなのだろう。

本当に明日中に終わるのなら、一晩徹夜したところで問題ないと判断したのだろうか。

でも、アシェルはキルルのお陰で毎日熟睡できているのだが、皆はあまり休めていないだろう。徹夜して大丈夫なのだろうか。

「そういう問題じゃないだろ。」

「だって、こんな時でもないとゆっくりお話しできないもの。だったら、寮の自室にお招きしても良いかしら?女子寮に殿方は目立つから、もしかしたら噂になるかもしれないけれど。」

「噂になるかもしれない、じゃなくて、その場合。ユーリ嬢が噂にする、の間違いだろ。」

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

「今日アシェと一緒にお喋りするのを邪魔したら、代わりにそうなるぞっていう脅しだろ?」

「あら、脅しなんて心外だわ。ただ、可能性の話をしただけですのに。」

「その可能性を、ユーリ嬢は実話にしてしまうだろ。今までだってそうだった。」

「うふふ。たまたまですわ。」

「たまたまが何度もあってたまるか。」

アークエイドの無表情に少しだけ嫌そうな感情が混じる。

昔の二人にいったい何があったのだろうか。

「えーっと……結局僕はどうしたらいいの?寝ないつもりならお喋りしても良いし、後日ユーリ先輩のお部屋にお邪魔しても良いんだけれど。」

「ねぇ、デューク。アシェならいいでしょ?特に寝ないならイザーク君も……って言うのはダメ?」

「……どっちも良いわけないだろ。」

「えーケチー。なんでよー。」

「なんでよって……。幼馴染は男ばっかりなの分かってるか?」

リリアーデとデュークも話し始めてしまい、結局アシェルがどうすれば良いのか教えてくれる人は居ない。

「アシェル様。どちらにしても一度テントでお召し替えしましょう。クリーンをかけていても、ずっと革を当てたままではお肌が気になります。」

「ベル。そうだね。もうすぐ帰れるだろうけど、これが終わったらベルには休んで欲しいから。今のうちに一度見て貰っても良い?」

「テントを借りているので、そちらで確認させていただきますね。どうするかはきっと、その頃には決着がついてるんじゃないでしょうか。」

四人はそれぞれあーだこーだと言いながら盛り上がっているが、本当に決着はつくのだろうか。

「アシェル。もし喋るんなら行ったら良いし断りも要らないよ。もし喋らないなら、いつものところに寝に来たら良いからね。あたしもマリクも半分起きてるようなものだから、遠慮せずに来なさい。」

「キルル様、ありがとうございます。」

キルルの優しい言葉にお礼を言って、イザベルの後ろに付いていった。
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