氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第四章 王立学院中等部三年生

225 三日間のお休み①

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Side:アシェル14歳 夏



クリストファーに睡眠薬を盛られて、半日以上たっぷりと眠って。

アシェルはまたいつもの日常に戻っていた。
毎日が過ぎるのはあっという間で、もう6月だ。

クリストファーには不問にするから気にしないようにと伝えてある。
但し、次に同じようなことをしてきたら容赦しないからと。

ただ首を竦めていたが、クリストファーはソレが必要だと判断したら相手にどれだけ嫌がられようと周囲から批判されようと、同じことをしてくる気がする。
それがミルトンの役割なのだろう。

今日も今日とて夜中の襲撃に備えていたのだが、ずっと遠巻きに見ていた親玉がようやく出てくるようだ。

ムーランとモーリスが留学して来てから毎日。
20時~2時の間に必ず2、3人の襲撃者がやってくる。毎日肌の色はバラバラだ。

アークエイドの部屋にムーランが泊まるようになってからは、女子寮への襲撃者は見かけていない。

目当ての人物にアビゲイルが入っていないことが分かっただけでも、十分な収穫だ。
それに襲撃者が一か所に集中してくれるのも、防衛的にはありがたい。

大体はアシェルが部屋を出るまでもなく。窓越しに魔法でやり合うだけで、相手を封じることが出来る。
外に出たとしても、割とあっけなく終わることが多い。

でも今日はそうはいかないらしい。

「ベル。少し出てくるから。寝室の窓。鍵を閉めずに開けておいてね。」

「お気をつけて。」

最近のイザベルは、アシェルの使用人室に寝泊まりしている。
既に眠ってしまっていたイザベルに声を掛け、下ろしていた髪の毛を手早くポニーテールにしてしまう。

バルコニーから飛び降りて、魔力で作った足場を使いながら四号棟の庭園に降り立つ。
それはダニエル達も一緒だった。

あちらも丁度到着したようだ。

今日はいつもよりわんさかと連れてきているようだが、アシェルを含めた三人分の護衛とあちらとで、一対一というところだろうか。

「ダニエル殿。あの真ん中の貰いますね。」

一言だけ声を掛け、親玉への距離を詰める。
一瞬で、各所で戦闘が始まった。

「おやおや。今日は勢ぞろいかい。全部こっちに割いて、後悔しても知らねぇぞ。」

「今日の戦力はこれで全部でしょう?そもそも君以外に僕の魔法が捌ける人なんていないんだから。今のうちに殿下たちを狙っても、全部返り討ちにしてあげるよ?視界に入ってるかどうかなんて、僕には関係ないだから。」

「くっそ、ほんとにメイディーは厄介だな。毎回毎回出張ってきやがって。」

「そっちこそ。これだけボロ負けしてて、よくも毎日毎日襲撃に来れるよね。実はドМだったりする?」

「こっちは仕事だっ。毎日てめぇが出てくんのがおかしいんだよ!」

「護衛してるんだから、毎日居て当たり前でしょ。」

「くそっ、魔法の腕だけじゃなく、剣の腕も良いのかよ。聞いてねぇぞ。」

「クスクス、褒めてくれてありがとう。でも、僕なんてまだまだだよ?」

「じゃあ大人しく俺に勝たせてくれねぇかなっ。」

「力任せなんて品がないよ?それに、僕負けず嫌いなんだよね。なんで負けてあげなきゃいけないの?」

親玉と言葉を交わしながらも、二人の間には激しい剣戟で小さな火花がいくつも舞う。

魔法を上手く躱してくる腕前もだが、剣術に関してもパワータイプではなくテクニックタイプのようだ。
フェイントを上手く取り入れながら、鋭い一閃を繰り出してくる。

「はっ、負けず嫌いは俺もだよ。」

左右から魔力の反応を感じ、咄嗟にそれを『解除キャンセル』する。

鋭い突きを繰り出してきたのは、左右に逃げ道が無ければ後ろに跳ぶと判断したのだろう。
でもそれは、痛みを気にしなければ後ろに逃げる必要はない。

剣筋が頬を掠めるのも構わず、相手の懐に飛び込む。

親玉は一瞬驚いたが、腹を狙ったアシェルの一閃は致命傷にはならなかった。
かなり場慣れしているようだ。

さっと距離を取った親玉が舌打ちをする。
それからまた突撃してくる。

「今ので突っ込んでくるのかよ。」

「だってその方が早いから。」

「だが傷を受けて良かったのか?メイディーなら、もう毒に気付いてるだろ。」

「そうだね。でも、即死系じゃなくて遅効性の致死毒と痺れ薬でしょ?こんな弱い毒じゃ味見する楽しみも無いよ。それもちょっぴりだから、量も味見以下だし。」

「そういう評価になるのかよ。これでも仕込める毒じゃ最高級だぜ。」

「これが?アスラモリオンはよっぽど創薬のレベルが低いのか、裏組織じゃソレが限界って事かな。」

「……何で分かった。」

「君は人族の肌だけど、今のは間違いなくアスラモリオンの奴だよ。入ってる素材があっちで取れるのばかりだもの。一部分からないのもあるけど、これだけ特徴的な素材が入ってれば、直ぐに解るよ。」

一つ、また一つとアシェルの肌に血が滲むが、それは相手も一緒だった。
お互いの全身に無数の小さな切り傷が刻まれていく。

「てめぇ、殺気が出てねぇが……訓練した暗殺者お仲間だったりしねぇよな?」

「失礼だね。君達と違って裏組織に縁なんてないよ。それに、君くらいになると殺気を出したところで怯んでくれないでしょ?出すだけ無駄じゃない。」

「無駄な……てめぇさえ良ければこっちにつかねぇか?メイディーの体質と魔法と剣の腕前。それに致命傷を取りに来てるのに、一切でねぇ殺気……。間違いなく暗殺者向きだぜ。てめぇならどんな警備の中でも、あっさり対象の首を狩れるだろ。幹部への昇進もあっという間だぞ。」

「なんで僕がそんな面白くないことしなきゃいけないのさ。そんなのただの作業じゃない。狩りに出るなら魔物を狩った方が楽しいよ。特に大きい子は、散る間際まで精一杯命の灯火を輝かせるんだ。人間にはそんな生命力ないでしょ?」

てっきり正義感とか倫理観とか、悪事に手を染めたくないと言われると思っていた親玉は、少しだけ面食らってしまう。
最初から勧誘できるとは思っていなかったが、こんな返事まで想定外なのかと。

そして、市井で仕入れていた情報と繋がる。

「てめぇ……もしかして【血濡れの殺人人形ちぬれのキリングドール】か!?」

「正解だけど、どこでその名前聞いたの?って、各国の冒険者ギルドにも通達されてるんだっけ。ほんと、不名誉な二つ名だよね。どうせつけるなら、もっと殺伐としてない名前だったら良かったのに。」

不名誉も何も二つ名がついたということは、単身Sランクになれるだけの実力者だと、冒険者ギルドが認めているのだ。

親玉が仕入れた情報では、剣術だけでも十分高みに行けるのにパーティーを組んでいる間は本来魔法使いであり、その魔法も多種多様に使うことが出来ると聞いている。
確かにメイディーなら、確実に剣術よりも魔法の腕の方が高いだろう。

そして、現状。一切の強化バフ弱体化デバフもかかっているようには感じない。他の魔法も。
身体強化は使っているだろうが、それだけだ。

つまり傷を負うことも気にせずに殺気すら放たないこのメイディーは、まだまだ本気を出していないということだ。
そして本気を出されたら、親玉では敵わない。

「もう遊んでくれないの?逃げることを考えてるなんて悲しいなぁ。僕の魔法に対抗してくる君なら、いい遊び相手になると思ったのに。別に命まで取ったりしないよ?だから、もう少し僕と遊んでよ。最近ストレス溜まってたみたいで、まだまだ遊び足りないんだよね。」

「致命傷もしっかり狙ってきて、どの口が言いやがる。どうせ逃げれねぇなら、てめぇの相手せずに降参したほうがマシだぜ。俺だけ残っても、組織の再建は難しいしな。」

「別に致命傷だからって、すぐ死にはしないでしょ?即死の恐れがある心臓と頭は狙って無いし。大丈夫。死なない程度には治療しておいてあげるから。だからもっと僕と遊んでよ。」

「言ってることが物騒すぎるんだよっ。今日まででうちの総力だ。周りも片付けられちまった。援軍もこねぇ。こっちは死ぬつもりで来たのに、命は取らねぇだと?ふざけんな。別に暗殺対象に恨みがあるわけでもねぇ。国に帰っても雇い主に口封じされるだけだ。それなら捕まった方がましだろ。」

親玉が剣を捨て両手を上げた。変な魔力反応もない。

確かに周囲は決着がついた場所から順番に捕縛していたようで、最後まで打ち合いをしていたのはアシェル達だけだったようだ。

決着がついたと悟ったダニエルが近づいてくる。
親玉への警戒は緩めずに。

「アシェル殿っ。お怪我は大丈夫ですか?それと無力化は……。」

「僕は大丈夫。それより縛ってあげて?降参だって。」

「さっきそこのメイディーにも言ったが、今日まででうちの総力だ。遊ばれている時点で勝ち目はねぇし、暗殺対象への恨みも依頼主への恩もねぇ。あくまでも金の関係だ。殺してくれる気もないらしいし、ここで一人逃げ帰ったところで口封じされるだけだ。だったら大人しく捕まった方がましだっての。」

宣言通り、親玉は何の抵抗もなく縛り上げられた。そこにアシェルが魔力を流して、暫く魔法が使えないようにしてしまう。

そしてふと、親玉は思いついたように口を開く。

「メイディー。規格外のてめぇを飼ってる主はどんなやつだ?結局対象に一度もお目にかかれなかった任務は、これが初めてでな。せめて、てめぇが守る主の顔だけでも見ておきてぇ。」

「守ってはいるけど、飼われてるつもりはないんだけど?それにそういうのは僕じゃなくて、白騎士の方に言ってもらえる?ダニエル殿、僕は他の人の無力化に行ってきますね。」

捕縛された暗殺者たちに魔力を流していく。
今日が最後だったと分かっているのだろう。今までに捕縛した人たちとは違い、誰一人抵抗してこなかった。

大半は魔力が届く範囲に来た時点で締め上げて、魔力回路を弄って庭園に転がしておいたので、余計にいきなり襲う体内の不快感へ抵抗されていた可能性もある。
実際何人か打ち合いもしたことがあるが、負けを悟った後は無駄な抵抗をしなかった。

ダーガとクーフェだけでなく、ムーランの護衛達にまで傷の心配をされたし、治療の申し出も受けたが断っておいた。
魔力で解毒もしているし、血液と一緒に毒が流れ出るならその方が良いこと、自分でも治療できることを伝えて。

自分のやることをやってダニエルに指示を仰ぐために戻ってきたのだが、さっさと部屋に戻ってしまえば良かった。

明らかにガウンだけ羽織らされて、寝台から連れてこられましたという出で立ちのアークエイドも一緒に立っていたからだ。

既に親玉と言葉を交わした後のようだが、まさかダニエルが親玉をアークエイドに会わせるなんて思っていなかった。

親玉は純粋に興味があったとは思うが駄目元で聞いてきていると思うし、普通なら護衛対象をわざわざ暗殺組織の頭に会わせたりしないだろう。
指示を仰ぐのなら違うかもしれないが、彼らはこのまま騎士団の詰所にある牢獄に入れられる予定なのだから、アークエイドの指示なんて要らないはずだ。

「ダニエル殿。無力化は終わりました。彼らは明日のお昼までは、満足に魔力を練れないと思います。本日はこれで失礼しますね。」

とりあえず必要な報告だけして、さっさと踵を返す。
襲撃者の対応より、アークエイドの対応の方が面倒だ。

だがアークエイドの方は、アシェルが気付くよりも先に気付いていたのだろう。
逃げようとするアシェルの腕は、あっさりとアークエイドに捕まってしまう。

「待て。何でアシェが一緒に戦ってるんだ。それに、その傷はなんだ?俺のことよりも、自分の身体を大切にしてくれって言ってるよな??」

心配と怒りの混ざったアークエイドに、いつものように笑いかける。

「あーあ、だからアークにはバレたくなかったんだよ。別に僕は僕に出来ることを、僕が安心するためにしてるだけ。傷はまぁ、ちょっと遊んだ結果かな。あ、毒がついてるから傷には触らないでよ?余計な魔力使いたくないから。」

「遊んだって……相手は暗殺者だぞ!アシェなら傷一つ負わず、捕らえることも出来ただろ。それに毒って……解毒はちゃんとできているのか?必要ならメイディー邸まで送っていく。」

去年アシェルが寝込んでいた時のことを思いだしたのだろう。
でもNMの毒で寝込んだ時は、魔素が無くなるというイレギュラーが発生してしまったせいだ。

健康だし素材に心当たりもある毒なので、分解にそう時間はかからない。

「NMの時がイレギュラーなだけ。こんな弱っちい毒、僕が分解できないわけないでしょ。それに暗殺者だけど、僕を殺す気はないみたいだったから。少しくらい遊んでも良いでしょ?ねぇ、そうだよね?」

拘束され無力化されてもなおダニエルに捕まえられている親玉は、話を振られ渋々と口を開く。

「そこまで分かってて、俺は遊ばれてたのか。……そうだ。俺達は暗殺組織だが、むやみやたらと人殺しをしたいわけじゃねぇ。あくまでも殺るのは、依頼された対象だけだ。それと、弱い毒だってのは真に受けちゃいけないぜ。即死はしないが、放っておけば必ず死に至るタイプの毒だからな。……だが、何で分かった?これでも致命傷を狙いにいってるんだが?」

「致命傷の辺りをでしょ?全部絶妙に軌道がズレてたもん。こっちで修正してあげたら、わざわざ他の動きに無理やり繋げてたし。教育を受けた人間が、どうして暗殺組織の親玉なんてしてるのか分からないけど……こんな面倒な事せずに、さっさと投降すれば良かったのに。あぁでも、君とは遊んでみたかったから、投降されちゃうと遊べなかったのか。それは困るなぁ。」

「その口ぶりじゃ、理由には気付いてるんだろ?ほんと、こっちの王子様は厄介な一族を飼い馴らしてやがるぜ。」

あくまでもアシェルの予想だが、この暗殺集団はアスラモリオン帝国から亡命してきたのだと思う。

そもそもマーモン大海を越えるだけでも命懸けだ。
正規の手順でなければ、いくら手練れが揃っていても大海を越えるのは難しいだろう。陸と海では戦い方も変わってくる。

今まで毎日送り込んでくるくらい、人員は豊富だったはずだ。

それがわざわざ毎日2、3人ずつ。それも本当に暗殺に使えそうな人員は一人しかいなかった。
親玉だけでなく、その使えそうな人員の中には、明らかに教育を受けた人間も混じっていた。

本当に王族と皇族の命を狙いに来ているのなら、仲間を使い捨てにしてでも総力戦を仕掛ければ一人くらい首を刎ねることが出来たのではないかと思う。

「さぁ、どうだろうね?それに飼われてないって言ってるでしょ。」

「ははっ、そうかい。王子様よ。少なくともこのメイディーの機嫌は、損ねない方が良いと思うぜ。見限られたら、あっさり寝首をかかれるだろうな。間違いなく、一度捨てたものには執着しないタイプだ。」

「肝に銘じておく。」

「何気に酷いこと言われた気がするんだけど……。とりあえず手離してよ。いい加減戻らないと、ベルが心配しちゃうでしょ。」

先程から何度もイザベルが寝室を覗きに来ていた。

戦闘中だと危ないから窓際には近づくなと言い含めてあるので寝台より先までは来ていないが、余りにもアシェルが戻らないので寝台の隣に椅子を置いて、そこで待ち始めてしまった。

こんな傷だらけの状態で戻れば、間違いなくイザベルを泣かせてしまう。
本当はさっさとシャワーで余計なものを流して、治療と着替えを終えてからイザベルに戻ったよと伝えに行く予定だったのに。

「イザベルが部屋に居るのか?夜に??」

「別に僕の侍女なんだから、おかしいことじゃないでしょ?いい加減離してよ。シャワー浴び損ねたし、ベルが泣いちゃうのが確定してるんだから。」

「嫌だ。傷だらけのアシェを見て、どれだけ心配したと思ってる?お願いだから無茶をしないでくれ。」

捕まれた腕を引っ張られ、久しぶり過ぎて懐かしいとすら感じる温もりに包まれる。

(あぁ、あれ……アークのだったんだ……。)

どうりであの日しか眠れなかったわけである。
イザベルがどうにかして入手したのだろう。

ガーゼ地のシャツがあればお昼寝をしやすいのかと、寝間着の中から似た肌触りのものを取り出して試しに抱えて寝てみたこともあるのだが、結局上手く寝付くことが出来なかった。

今こうして抱きしめられたから分かる。
別にシャツの肌触りで安心していたのではなく、アークエイドの匂いに安心していたのだと。
——こんな状況で気付きたくなかった。

「……別に無茶なんてしてないよ。良いから離してよ。何で真逆のことするわけ?しかも、毒が付いてるっていってるでしょ?経皮吸収しないタイプだけど、傷には触るなって言ったでしょ。」

「そんなもの知るか。ずっとアシェにこうして触りたかったんだ。……痩せたか?」

「あのねぇ……これでも僕も成長してるの。無駄に大きくなるんだから、相対的に見てそう感じるだけじゃない?締め付けの弱いほうだから、余りまじまじ見られるとダメだってベルが言ってたし。もう、離してよっ。」

「悪い。言いにくいことを言わせたな。……アシェが約束をしてくれたら離す。もししてくれないなら、今日は俺の部屋に連れて帰る。」

誤魔化せたことにホッとしたのも束の間、謎の交換条件を出してきた。

「は?何で交換条件みたいになってるの?それに内容が分からないのに、約束するわけないじゃない。しかもアークの部屋にはムーラン嬢も使用人もいるでしょ。知らない人だらけの部屋で寝るなんて嫌なんだけど。」

「っ!いや、観てるなら知ってるか……。アシェが嫌がる内容じゃなければ、交換条件にならないだろ?約束は、ただ夜は観るなというだけだ。夜中の襲撃者の対応もするな。観てないと不安だと言うだろうが、せめて観るのは昼間だけにしてくれ。」

「別に僕が観てても良いじゃない。アークには分からないんだし。」

「分からないからこそ約束してほしいんだ。アシェは約束は破らないだろう?アイツから聞いたが、一日を除いて、毎日アシェが襲撃者の対応をしていたようだと聞いた。俺も近衛を連れてきているし、アスラモリオンの護衛だっているんだ。アシェが毎日睡眠時間を削ってまでやらなくていい。もっと早く気づいてやれなくてすまない。」

「アークが気付いたからと言って、やることは変わらないよ。」

「俺の部屋にくるくらいじゃ、毎晩観るのを止められるよりマシって事か?……それならここで、朝陽が登るまで抱き潰してやろうか?」

不意に色気を帯びた声の持ち主に、腰に回された手で太腿とお尻を撫でられる。
抱きしめられていて分からないが、いつもの熱を持った瞳をしているのだろうか。

「んっ……何馬鹿なこと言ってるの?僕は野外プレイなんて好みじゃないんだけど。」

「そんなに約束したくないのか?他の奴らにアシェの可愛い声を聞かれたり、蕩けきったアシェを見られるのは嫌だが……。アシェは俺のモノだって見せつけるのも悪くないな。」

「僕はアークのモノじゃないっ。約束するから、シャツをたくし上げないでっ。」

アシェルが約束すると言った瞬間、アークエイドの手がピタッと止まった。
折角さっき誤魔化したのに、また痩せてるだのなんだの言われたくない。

「本当か?」

「うん、約束するから。……夜観てなきゃいいんでしょ?20時から翌朝の6時までの10時間は絶対観ない。そしてその時間帯の襲撃者や戦闘に気付いても、手を出さない。これでどう?」

「想定していたよりいい条件だ。仕方ない、解放してやる。」

あっさりと解放されて見えたサファイアブルーの瞳は、いつもと違って熱は籠っていない。
アシェルに約束をさせるためだけに、連れて帰るだの襲うだの言っていたのだろう。

アシェルへの興味は無くなってしまったのだろうか。
少し寂しいと感じてしまうが、そもそも家族でもないのにずっと愛情をくれていたことがおかしいのだと思い直す。

始業式の後から、アークエイドとは身体を重ねるどころかキス一つしていないのだ。
見返りをあげていないのに、ずっと愛情を貰える方がおかしいだろう。

それに幼いアシェルに一目惚れしたのだ。
アークエイドが実は幼女趣味という可能性も捨てきれない。そうなると、最近落ち着いてきたムーラン相手ならば、政略結婚だったとしても割と良い感じになるのではないだろうか。

アシェルのせいで汚れてしまったアークエイドにも『クリーン』をかけ、解毒が済んだことを確認して、傷口は『創傷治癒ヒール』で綺麗に塞いでしまう。
服が切れているので治療したことはバレてしまうだろうが、血塗れで帰るよりはマシだろう。

「嫌がらせで人前で抱きしめたりしないでよ。……そうだ、ダニエル殿。僕、明後日から三日間、お休みを頂きますね。あと、夜はアークと約束した通りです。では、皆様、おやすみなさい。」

護衛達の襲撃者を運んでいる人員以外は、もう風景に溶け込んでしまっている。

それでもそこに居るダニエルに伝えておくべきことを伝えて、アシェルはまた小さな足場の上を跳ねながら、5階にある自室へと戻った。

アシェルの姿を見たイザベルが大泣きしたのは言うまでもない。

アークエイドとした約束を伝えたら明らかにホッとしていたので、イザベルもずっと心配してくれていて、夜の襲撃の対応は止めて欲しかったんだろうなと思った。
アシェルが言っても止めないのが分かっているから、口に出さなかっただけだろうと。

結局イザベルが泣き疲れて寝入るまで、アシェルはずっとイザベルを抱きしめていた。
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