氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第五章 【アンブロシア】

295 お誕生日会②

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Side:“アンブロシア”アシェル



結論から言うと。

咲と健斗は、生命の神が神託で決めて遣わした国王夫妻に当たるらしい。

ものすごーく面倒くさい身分だった。

二人が来るまでは神託で国王に当たる人間は空席で、二人が初代。

じゃあ国の運営はというと、何が起源か知らないが貴族が居て。商人が居て。神官が居て。平民が居る。
それぞれの代表者が数名ずつ集う会議があって、そこで最終決定された物が国の政策になるらしい。

完全な封建制度ではなく、貴族は地方公務員のような役割をしているようだ。
それでも身分はある程度重視されると言うので、会議はそれで成り立つのか不思議だ。

今は二人もその会議に参加していて、一応最終決定権を持っている。
が、二人にとって大事なのは会議とか国の運営よりも、子沢山になることと子供と貴族との政略結婚。
それからレベルを上げることで老いを遅くし、出来るだけ長生きすることなのだと言っていた。

ちなみにこの話は、魔力枯渇でぶっ倒れた時に聞いた。

ナンバリング4の術式辞書の中は“古都”にはない術式が描かれていて、その中にある空中浮遊の術式を使おうとしたせいで魔力が枯渇したのだ。

一歳検診だと言って来てくれた医者が来てくれて、マナポーションを渡された。
レシピ的には知っているものに近そうだが、違う味がする気もする。

体内の魔力が全く反応しないのが不思議だと思いながら、何がどう違うのかを確定するには至らなかった。
製作者の違いだと言われても納得してしまいそうなくらいだからだ。

早く魔力が回復して欲しいなと思いながら、看病のために傍に居る咲に声を掛ける。

「あしぇも、あげりゅ。」

「レベルを上げたいんよね?それは分かるんやけど、普通は初期の内は親がパワーレベリングするんやけど……。上げるなら3歳から始めてレベル5までやね。それより前から始めることも、それ以上上げることも神様に禁止されとるんよね。あと、アシェルにステータスは見せるなっち。」

その制限をかけるのは、アシェルは三歳までに元の世界に戻るという事だろうか。
それとも、三歳を超える可能性があるという事だろうか。

咲の言葉で色々と制限があることだけが分かった。
元は異世界の存在なので仕方のないことなのかもしれない。

「しょれでいぃ。しゅくなしゅぎ。こまる。」

「うーん。今は無くても困らんやろ?お散歩しとる庭もうちらしか入ったらいけんエリアやし。パパとママが代わりに出来ることなら、魔力の提供はするき……それやとダメ?」

魔力枯渇中のアシェルを看病してくれていた咲の提案は、アシェルの中ではあり得ない。

「ぱぱ、まま、へた。じゅちゅちき、りかいしてにゃい。むだおおい。」

単語単語で区切りながら未だおぼつかない舌で意見を述べるが、もどかしくて結局誕生日に貰った文字盤を引き寄せる。

魔力の回復中に何をやってるのかと思うが、吸われる魔力は微量なので再び倒れることは無いだろう。

長文はこの文字盤で伝えた方が、意味が伝わりやすいのだ。

《ふたりとも そうぞうりょくで まほうを つかってる まりょくに むだがおおい ふたりは まりょくの ちかくくんれんから はじめるべき》

「えー。前言っとったやつやんね。でもそれっち、誰かにやってもらわななんやろ?魔導士の塔から、アシェルのお披露目までに例の術式を可能な限り進めたいっち言われたんよね。神子様に見せるからには、今持てる知識を全部ぶつけたものをーっち盛り上がってるらしいよ?」

《みこじゃないのに でも ちゅうとはんぱを みせたくないきもち わかる ただ わざわざ 2さいのたんじょうびに ぱーてぃーを ひらかなくても いいとおもう》

「パーティーでお披露目されたくないし、それまで例の術式が見れんき、やろ?そもそも、アシェルが悪いんやきね。」

本来なら1歳3ヶ月でお披露目をと言われていたのだが、術式辞典に夢中になりすぎて体調を崩したのだ。

お披露目に向けて日中はイザベルがそうしていたように、物凄くご機嫌に見えるように過ごしたし、今だって頬を膨らませて不服だと伝えている。

確実に見た目も反応も薫だった時と違うのに、二人はそんなアシェルの体調不良初期症状に気付いたのだ。
自分でも良く分かっていなかったのにである。

気付いた上でやんわりと、夜に『ライト』の明かりが漏れてるから本を呼んでるのはバレてるぞ。ちゃんと寝るんだよと忠告されたのだが、無視してしまったのだ。

ライトの範囲を調整し、掛け布団を頭から被り、二人の睡眠を妨げないように辞書を読み込んだ。
時々一緒に寝ようと誘われるのも断って、夜中の読書タイムを謳歌したのだ。
知っているはずの術式もほとんどがあやふやな知識しか残っていなくて、新しい知識を得ているようで楽しかったのもある。

昼間には運動を兼ねた庭園の散歩もあるし、まだまだお昼寝が要る年齢なのに本を読んでいた。
そうやって何だかんだと昼夜の睡眠時間を割いてしまっていた。

結果。

高熱でぶっ倒れ、お披露目パーティーは延期。
自己管理ができなかった罰として、お披露目パーティーの後に魔導士の塔の管理職が例の術式の資料をまとめたものをくれる予定だったのが無しになった。

自分が悪い自覚があるので言い返すことは出来ず。
でも二人が早く子供を設けるためには、神様の教えてくれた例の術式を完成させなければいけないのだ。
未知のものに対する好奇心もあるし、頬を膨らませることで早く見たかったと伝えることしか出来ない。

そんな風にアシェルが自分の感情を外に出すことが出来るようになったことを、密かに咲と健斗が喜んでいるなんて知ることもなく。

しっかり夜は寝ることを約束させられたアシェルは、今は健康的に過ごしている。

少し早い気もするが、体力づくりの為に木剣も貰った。
今は散歩の時間に隔日で素振りを行っている。

この基礎訓練は健斗にもやらせている。

レベルの概念があるし戦闘はゲーム的な補助みたいな力が云々と言われたが、基礎訓練は大事である。
模擬戦を見せて貰ったが、武術か魔術。どちらかを極端に極めた人物にレベル差だけで太刀打ちできる要素が見当たらなかったのだ。

弱い殺気に気付くことも出来ないし、強い殺気を当てたら恐怖で硬直してしまった。
これでは抵抗どころか、異変に気付いた時には死んでいるだろう。
二人ともレベルは高いと言っていたが、今までどんな戦闘をしていたのか心配になるレベルだ。

殺気に関する訓練は咲も一緒に三人揃って、身辺警護の騎士も巻き込んで行っている。
騎士の方は半分は反応できるが、半分は駄目だった。

レベルとスキルという概念が元からあるせいで、それに頼りっきりになりがちなのだろう。

(もしかして僕の魂の治療だけじゃなくて、二人の生存確率を上げるために僕が送り込まれたのかな。魔力の知覚もできないし、訓練もしてないみたいだし。可能性は高そうだな。)

最近の日課を思い返しながら、アシェルは文字盤に指を滑らせた。

《くんれんの しかたは しっている きぞくの こどもは みんな けいけん している じゅつしきが おなじなら ぼくが おもいだせば きほんてきな くんれんも おしえられる》

「ふむふむ。誰でもできるっちこと?」

《できる けど まりょくそうさせいどが たかいほうが のぞましい くんれんまえに ふたりには まりょくについて きそを まなんでもらう そのときに せつめいする きょうかしょを いま つくっている》

武術系は身体が反応するスキルがあるようだが、魔法に関しては本当に無駄が多い
この世界では使った魔法の術式が目視できるので、術式を見ただけで無駄が分かってしまう。

記憶がまだまだ戻り切っていなくても分かるくらいなのだ。
しっかり色々と思い出せれば、さらに無駄に気付くに違いない。

せめてマシくらいにするために、貰っている紙とペンで二人向けの教科書を作っているところだ。
今思い出していることと、メアリーに教えてもらったことが中心の内容だ。
本当に基礎の基礎。入門編の内容である。

記憶が戻ったら、二人の理解度に合わせてまた授業をした方が良いかもしれないが、取り急ぎと考えるとアシェルに出来るのはこれだけだった。

「うへぇ。結局こっちでも勉強かぁ。世界のシステム的に魔法使えるし、それでいいやと思っちょったんやけどなぁ。」

《いいわけない いまのからだじゃ むりだけど もとのからだの のうりょくなら ぱぱとまま せっとでも ぼくひとりで じゅうぶん よわすぎる》

「よ、よわ……。そんなハッキリ言わんでもいいやんかぁー。ママかなしー。」

「はいはい。きしょはだいじ。しにたくにゃかったら、くんれんあるのみ。じゅぎょーは、はやくはじめたい。」

「はーい。ちなみにその教科書っち、よさげだったらこっちの言葉になおすのはあり?」

咲の問いにアシェルは悩んだ。

「おなじじゅちゅしきでも。じぇんぶいっちょか、わかんない。しぇんもんかに、みしぇたあとなら。」

「それは当たり前ばい。魔導士の塔が忙しいき、お披露目後になるけどね。」

そんな会話を交わして一週間後には、咲と健斗に魔力と魔術式についての授業を開始した。
これはあくまでもアシェルが元居た世界の理論であるが、魔力という概念については同じだろうと仮定した上で、そのことも説明してからだ。

そうやって授業をしていると、術式辞書の中に見覚えではなく理解出来るものが増えてきた気がする。

少しずつ、いつアークエイドと何があったのかという。
イベントの日時や情景も思い出せるようになってきた。

どうも小さな時の記憶から順番に紐解かれているような気がする。

恐らく生命の神がアシェルに求めている役割がこれなのだろうと仮説を立て、親友で家族の二人のため。
そして自分自身の為に、アシェルは過行く毎日を過ごしたのだった。



========



Side:“古都”映像を見守るアークエイド(15歳)達 秋



毎日、日中にだけアシェルが生活する様子が細切れに映され、それを眺めながらアシェルの身体の世話をし、映像の内容について雑談をする。

アシェルの成長についてはサーニャが一番詳しい。
サーニャはアシェルの様子を見守ることが仕事になり、アベルへ報告書をあげているようだ。

こちらで暮らした時との差異や、何かあちらでイベントが起こればそれが報告内容になるらしい。
誕生日会の時に話が出た、“授け子”に似たシステムがあるようだと言う話も報告書に書かれている。
この時は勢揃いしていたのだが、後から見返すことも考慮してのことだそうだ。

メアリーはよく寝室で映像を見ているが、男衆は仕事があるためずっと付きっきりとはいかない。
とはいえ、事前にこの日あたりに何かあるのでは?と予想がつく時は休んで画面に張り付くつもりだとか。
仕事がある日は報告書が楽しみになっているようだ。

「はぁ……舌っ足らずのアシェが可愛い……。」

ぼそりと溜息を吐くように零れたアークエイドの言葉に、一緒にアシェルの手足の運動を行っていたリリアーデは適当に相槌を打つ。

「はいはい。悶えてないで、ちゃんと動かしてちょうだい。」

「動かしてる。」

「そう?……ちょっと代わってちょうだい。」

リリアーデとパトリシアに習った通りに脚の屈伸運動をしていたアークエイドが、リリアーデと場所を代わる。
本来であれば経験者に任せた方が良いのだろうが、アークエイドも出来ることはやりたかったので、二人に習ってこうやって手伝わせてもらっている。

「うーん……。やっぱりちょっと硬くなってきてるかしら?こう……まだもう少し体重をかけてもいけるわ。かと言って、無理に力を加えると良くないんだけど。あぁもう。説明が難しいわ。」

ぐっぐと曲げた脚に力をかけながら、リリアーデは頭を悩ませる。

関節が拘縮して固まっているわけではないので、まだアークエイドにも任せることが出来ている。
それでも力のかけ具合となると、どうしても抽象的な感覚になるのだ。

それにリリアーデは看護師としての経験があるだけで、決してリハビリの先生ではない。
病棟では付きっきりで対応していたわけではない。
廃用症候群の予防の為に、隙間時間にリハビリの先生の言っていたことを実践するだけだった。

指導してくれたのは作業療法士だったか理学療法士だったか。
百合はリハビリの先生としか認識していなかったので、それがどちらかも分からない。
少しでも拘縮の進行を遅らせるために教えてもらっただけだった。

「もう少し、だな。分かった。」

「ごめんなさい。説明が難しいのよ。」

「いや、構わない。」

じっとリリアーデの動作を観察していたアークエイドは、代わってもらってまた同じように運動を始めた。

その様子を確認しつつ、リリアーデはアシェルの手首を回す。

(アシェの様子を見るついでに頻繁に動かしてるのに。こんなに早く拘縮って始まるものかしら?)

ほんの少ししかアプローチ出来ない、しかも長期自発的に運動できていない患者ではない。
それなのにと思うが、この件には神様という常識の枠を外れた存在が関わっている。

リリアーデの知識では正確な判断が出来ないし、結局考察を止めた。
気にしたところで今ある事実は変わらないし、やることは変わらない。

なんにせよ。

リリアーデ達に出来るのは、アシェルがこちらに戻ってきた時に。
ちゃんと以前と同じ生活が出来るように。元気になればすぐにでもリハビリに取り掛かれるように。
可能な限りアシェルの身体を健康的に保つことだけだ。

アシェルはまだまだ小さい身体なのに、どうやら鍛錬を始めたようだ。
自分自身のため。そして大事な親友二人の為なのだろう。

アシェルらしすぎて、思わず見ていた皆で苦笑いを溢したほどだ。

どうもお披露目にはドレスを着るようだが、既に日中は男装姿で過ごすことが多い。
時折、咲の要望でドレスを着せられていることもあって、色んな姿や仕草のアシェルを観察できるアークエイドの頬は終始緩みっぱなしだ。

リリアーデはこっそりパトリシアと、相手を監視するような魔法が無くて良かったねと笑ったものである。
まぁアシェルに感知されて無効化されてしまうだろうが、アークエイドなら使いそうだと思ってしまう。

アークエイドもリリアーデも、まだまだアシェルが今とは程遠いレベルの魔法の知識しか持っていないことを知っている。

それでも時折アシェルの瞳が輝く瞬間が増えてきた。

それはきっと。

少しずつでも記憶を取り戻しているという事で。

それが一定時間でなのかランダムか分からないが、今のペースだとまだまだアシェルは記憶を思い出しきらないだろうという事だけが分かっている。

周囲はアシェルが無事に戻ることだけを気にしているように思えるが、リリアーデとパトリシアには少しだけ懸念があった。

こちらでアシェルの様子が見られることから、アシェルが戻ってきた時にあちらの出来事を忘れているとは考え難い。
ただでさえアシェルは大人びているのだ。前世がたった20年だったとは思えないくらいに。

アシェルの体感時間が肉体の時間と離れれば離れる程。
偽らなかった時の違和感は強くなる。

新しい存在として接するのであればそこまで違和感はないだろうが、こちらでは殆ど時間が経っていないのだ。
周囲が違和感を感じて、アシェルを異質なものとして扱わないでくれればいいのだが。というのが心配事だ。

(ま。アークとわたくし達だけは変わらないって言いきれるから。それに元から大人っぽく見えるから、大丈夫よね。)

そもそもまだ起きてもいないことで悩むのは、リリアーデには似合わない。

リリアーデは作業の終わりだとうーんと伸びをし、汗をかいた自身に『クリーン』をかけてイザベルが淹れてくれた紅茶に口を付ける。

もう一つの杞憂は、アシェルがこちらに戻るか戻らないか本人に選択肢があった場合だが、それこそこちらからどうにかできるものではない。

リリアーデは前世の知人や家族と会ったとしても、迷惑をかけっぱなしだったことを謝りたいだけで、特にどうこうしたいという執着はない。
むしろデュークを一人残してしまうほうが心配だ。

パトリシアはもし子供たちと出会えたら。ずっと一緒に居られるとしたら。
迷うかそこに残りそうだと言っていた。

これは心残りが何処にあったのかの違いだろう。

(全く。あの自己中神様は何考えてるのかしら。そしてアシェに何をさせたいの?なんでアシェの身体は……。)

「お口に合いませんでしたか?」

答えの出ない思考に沈んでいると、イザベルに声をかけられた。

ハッとしたリリアーデは慌てて問題ないことを伝える。

「ううん、美味しいわ。ありがとう。アシェの身体、結構筋肉落ちてきてるでしょ?いつ戻るか分からないけど、遅くても3月1日までに起きれるようにって言ったのよね?ってなると、リハビリのメニューをどうしようかしらって思ってるのよ。パティとも意見のすり合わせとかしてるけど、わたくしもパティもリハビリ専門ってわけじゃないからね。新学期から学院に通うのがアシェの目標だから、一か月だとかなりスパルタになるけど大丈夫かしら?って。」

咄嗟に取り繕った理由に、イザベルはなるほどと頷いた。

「訓練の工程に関しては気になさらなくても宜しいかと。来年度からの魔術学専攻、魔法学上級を受講するのを楽しみにされていましたから。最悪その二つに出席できるだけの体力があれば問題ないかと思いますので。」

「やっぱりそれが目的よね。はぁーアシェが羨ましいわ。いえ、羨ましいのは記憶力だけね。勉強は好きじゃないから、あそこまで全てを知識を得るためだけに注ぎ込めないわ。」

「リリィが勉強嫌いなのは、理解できないから余計にだろ?理解が進めば少しは。」

「理解をするにも時間がかかるし、その時間があれば他のことをしたいわ。今しかできないことを楽しみたいもの。」

「別に時間なんていくらでも——。」

「ないわよ。」

デュークの言葉に被せ気味に返事をする。

昔はいくらでも時間はあると思っていた。
毎日が過ぎて行っても、明日できると思っていた。
今年が無理でも、来年があると思ってた。

あの時からだ。
明日できると思っていたことが出来なくなったのは。
それまで出来ていたことが出来なくなったのは。

そしてそのまま終わりを迎えたのは。

「今この瞬間は今だけよ。長生きできるかなんて誰にも分からないもの。スタンピードどころか、普通の討伐任務で命を落とす可能性だってあるわ。何が起きるかなんて、誰にも分からないんだから。」

「でも何が起きるか分からないから、わたくし達は二周目の人生を楽しめるんですけどねぇ。まぁ、デューク先輩はあまり気にしなくて良いですよぉ。ただ、一つ目の人生経験者としてぇ、今出来ることやりたいことはジャンジャンやるべきだと思いますぅ。人生を終える時には多かれ少なかれ後悔はあるでしょうけどぉ、しょーもない後悔はないほうがマシですからねぇ。」

「……ごめん。失言だった。」

「別に気にしてないわよ。なんかカッコいいこと言ってみたけど、わたくしはぐーたらするのが楽しいこともあるから。ぐーたらって何かしてることにはならないわよね?って自分の言葉との矛盾を痛感したとこよ。ちなみに、今も自室みたいにぐーたらしたいって思ってるわ。」

真面目なトーンから少しおふざけ交じりになったリリアーデの言葉に、デュークは深いため息を吐いた。

「お願いだから。それだけはやめてくれ。シルコット家の品位を問われる。」

「っていうのよー。酷いと思わない??お外に出ないんだから、寝間着から着替えなくても良いじゃない。面倒だし。お布団でゴロゴロしながら本を読んだって良いじゃない。床が駄目ならベッドしかないんだし。本当なら漫画片手にオヤツ摘まみながら、怠惰に過ごしたいのよ。パティなら分かってくれるわよね?」

「うふふ、それは理想ですねぇ。あ、今度わたくしの部屋でお泊り会しますかぁ?この前作った布団を敷いてぇ、手作りポテチを片手に布団の上でゴロゴロしながら同人誌を読みふける会ですぅ。わたくしお気に入りの本ならちゃんと保存用を確保してますのでぇ、汚れてもおっけぇですよぉ。だらだらしてぇ、眠くなったらねてぇ、また起きてぇっていう。スマホじゃなくて同人誌ですけどぉ、怠惰な休日を過ごしましょぅ。」

「良いわねそれ。絶対楽しいわ。」

「良いわねじゃないっ。今品位がって話したの、聞いてた?お願いだから他所でだらしない姿見せないでくれ。」

「あらあら、残念ですねぇ。」

「だわ。これ、アシェみたいに布団の中で本読んでても駄目なのかしら?」

「寝台の中で読まないでくれ。それと、僕も一緒なの理解してる?それ、僕も眩しいって事でしょ。」

「そういえばそうね。……一緒に読んだら良いんじゃないかしら?」

「絶対嫌だからね?リリィが使用人の目を盗んで読んでるのは、はしたない内容の本だから。それも男同士の。」

「シオン君みたいに新しい世界が開けるかもよ?」

「開きたくないからっ!」

わいわいと賑やかなアシェルの寝室。

そんないつもとは違う今の日常の中、“古都”の世界もゆっくりと時間が過ぎていった。



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