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目を開けると白い天井らしきものがぼんやりと見えた。
視力が悪いからはっきり見えていないことで、どうやら現在は眼鏡をかけていないんだとわかる。
シーツらしいけどなんだかごわごわとして肌触りの悪い布に身体は包まれてるし、部屋の中は変な匂いといい匂いがまじりあっている。
…保健室のベッド?
でも保健室のベッドというよりはホテルの一室のような部屋。
・・・ここってもしかして。
ちょっとだけあることに特化している学校に通っているので、色々な事態に備えてこんな部屋が準備されているとは最初のガイダンスできいた。
消毒薬と、青臭い匂いと、桜の花のような匂いが俺を包んでいる。
前二つはイマイチだけど、一番最後の匂いは俺を柔らかく包んでくれている。
でも俺は気づいた。
匂いって混ざると結構とんでもないってこと。
「メガネ・・・」
呟きながら身体を起こそうとしたら、背中側からなんだかがっちり腰を掴まれていることに気づく。
?
それにシーツを取っ払うと裸だってことにも。
この事実を総合的に判断して思い当たることはただ一つ。
「あー、やっちまったか・・・」
覚えているのはどこまでだっけ?
放課後、いつもみたいに桐野の部活が終わるのを図書館で待っていた。
一年生のくせに図書委員長なんてやっているおかげで鍵を預かっているから、好きなだけいられる。
別に俺は待っている義理も何もないんだけれど、どうしても一緒に帰りたいと桐野が駄々をこねるからだ。
たかが同じ敷地内にある徒歩で10分もかからないような寮までだけど、部屋に戻ると俺が出てこないのを知っているからだ。
クラスも一緒、寮も一緒。
でも桐野はちょっとの隙間時間でも俺と一緒にいたがる。
まあ、同じクラスと言っても席は離れているから授業中どうこうできるわけでもないし、生徒会副会長の桐野は昼休みもなんだかんだと呼び出されてクラスで昼を食べることもままならないし、放課後は部活だし、そんな中で惚れている俺と一緒にいる時間をなんとか作りたがった。
桐野が惚れている、俺。
俺は桐野の『運命』らしい。
あの日もどうせあくる日の授業の予習をしたかったから、勉強をしながら待つ約束をしていた。
『運命』だとかなんだとかを信じているわけじゃないけれど、綺麗な王子様顔をした男が平凡な俺にお願いをしているんだと思うと、まあ一日のうちの10分位は付き合ってもいいかと思う。
で、待ってた。
確かに。
でもその日は朝からなんとなく気怠くてたまに息苦しかった。
熱でも出たかな、ってちょっと思ってた。
図書館閉館前の少し前に「遅くなってごめん」って桐野が近づいてきたとき、一瞬で図書館を充満させるような桜の花の匂いを感じたと思ったら・・・
この状況だ。
所謂、『発情期』
なんだろうなあ・・・
このシーツがこわごわしているのは多分俺か桐野の体液が乾いたもの。
この部屋は学校は『療養室』と言っているが俺たちは『ヤリ部屋』と言っている、発情期になったオメガとそれを抑えるアルファが入って、まあ、そうだな、やりまくる部屋。
発情期のオメガはアルファとのセックスでその熱を抑えることができる。
もちろん抑制剤で抑えるのも可能だけど、あまりよろしくない副作用があるらしく推奨はされていない。
『この期間はセックスで身体を鎮めること』
法律にも認められている。
学校や仕事は公休扱いだ。
そして俺は高校一年生にして初めての『発情期』を経験した。
少し遅咲きの、オメガ。
身動きが取れる範囲で視線を動かし、手を伸ばすと無事にベッドの下に転がるメガネとスマホが掴めた。
メガネをかけてなんだかかっぴかぴになっているスマホをタップすると記憶にある日時から3日が経過している。
このかぴかぴもきっとあれだ
せーえきだ。
どっちのか、知らんけど。
この3日間の乱交を俺はちっとも覚えてはいないけれど、この惨状を見るに色々なことをやったんだろうなあ・・・と、ため息しか出ない。
使用後の避妊具や水のペットボトルが中身をこぼしながら転がっている。
食べかけのおにぎりとかかじりかけのパンとかも部屋のあちこちに落ちている。
でもそんなに古いものが放置されている感じはしないので定期的に清掃・補充はされていたんだろう。
「3日・・・でも、3日で済んだのか・・・」
発情期は大体一週間ほど続くと言われている。
初めてだから短かったのかそれとも。
シーツに触れれば、乳首をはじめ鎖骨や太ももの内側がひりひりする。
短い発情期はアルファがものすごーく濃厚なフェロモンを浴びせてくれた結果、なるらしい。
要は相当な熱情を。
「あ、く、首!」
ふっと、大切なことを思い出す。
慌てて首周りに手を這わせるとそこには無事にプロテクターがあった。
番のいないオメガはその首に首輪を思わせるプロテクターをはめている。
発情期を抑えるのにアルファは必要だけど、それがイコール番になるとは限らない。
一度番ってしまえばオメガはそれに永遠に捕らわれてしまうから番うのは本当に『この人』と思う人じゃないと番えないんだ。
発情期中にアルファに項を噛まれてしまうと番になってしまうから、だから基本的に『この人』という人の前以外ではオメガはプロテクターは外さない。
もちろん番がいるオメガは別だけど。
ともかく確かに項には何の違和感もないので俺の操?は無事に守れたんだろう。
ほっと安心していると今度は尻の穴から違和感が。
中からぬるりと何かが出てくる。
多分俺をがっちり掴んで離さない男のせーえき、だ。
その感触にぞわりとするも、ゆうるく前が起立するのも感じる。
・・・俺って・・・
この気持ちよさの意味と自分の心のふがいなさに気づきがっかりする。
そしてもう一つ大切、かつ重大なことを思い出した。
「あ、まずい・・・」
避妊薬は飲んだんだろうか?
体内射精から24時間以内に飲まないと妊娠しちまうって保険の授業で習った。
「・・・大丈夫、飲んだよ」
背中からもごもごと声が聞こえた。
俺の初めての発情期の相手の顔を確認するのが怖くてずっと見ないようにしていたけれど、やっぱりというか案の定というか、一番この場にいてほしくない男の声だった。
「ひどいよね。たすくってば僕の精液より避妊薬飲みたがるんだもん」
そういうと男はまたぎゅうっと俺の腰を抱いた。
「俺の理性が残っててよかったな」
発情期中はセックスのことしか考えられなくなるって習った。
実際俺も最中のことは全く覚えていない。
でも、避妊のことは気にできたのか。
「なんで?僕、たすくとの子供さっさと欲しいよ?」
俺はそろりそろりとそのぎゅっと抱き着いている腕をはがしにかかる。
この腕の拘束から逃れたい。
「やめてよ、もっとぎゅっとしてたい」
俺が逃れたがっていることに気づいた男はさらにぎゅっと腕に力を入れる。ついでに俺の薄い腹を撫でまわす。
そこには性欲なんて感じられずただただまだいない(はずの)赤ん坊を慈しむような撫で方だ。
「だって、このままじゃ顔見えないじゃん」
わざと大げさため息をつきながら・・・
そう、こいつに恋い焦がれているかのように・・・
俺は言った。
「あ、そうか」
男の腕が緩む。
俺を反転させて男の方に向かわせたいようだ。
けど、その瞬間俺はベッドから飛び降りた。
「あ!・・・嘘つき」
男は焦ったように手を伸ばすが俺はあっかんべーと距離を置く。
「嘘じゃねーよ。この距離だって顔は見える」
「僕は近くでたすくの顔がみたいのに」
高校一年生の男が拗ねても可愛くないと思うがこいつは別だ。
そういう仕草が似あう似合う。
「この3日間、嫌というほどみたろ?」
こんなに長い時間一緒にいたのははじめてだ。
・・・覚えてないけどさ。
「うん。・・・可愛かったよ。甘える、溶ける、乱れる・・・「わー、わー、わー」」
俺は大声を出してうっとりとこの3日間を思い出しているであろう男の声を遮った。
「ねえ、たすく、僕の番になってよ」
男は横になったまま、でも、この学校中の奴らを落とすことができるであろうビッグスマイルを浮かべ俺に言った。
「・・・一回寝たくらいで番ヅラかよ」
「もう、だって、公開告白済んでるじゃん。みんな付き合ってるってくらいは思ってるから」
男は思い出し笑いで肩を揺らす。
「僕が初めてなの、いやだった?僕はたすくの初めてをもらえて嬉しかったよ?」
急にまじめになってふいっと目を細めて俺を見るからその表情に俺はどきりと胸を高鳴らせた。
「その『初めて』を何人から貰ったんだよ?」
俺の気持ちに気づかれないように、じろりと睨んで俺は訊く。
「え~?覚えてないよう、そんなの」
男はひらひらと手を振り、へにゃりと笑った。
笑うと垂れ気味の目がなくなるんだなあ・・・って俺は今更ながら思った。
「でも、それはボランティアというか・・・人命救助?だからね」
アルファが発情期中のオメガを鎮めるのを手伝うことはままある。
しかもこいつはアルファの名家のお坊ちゃまだ。
その時だけでもと抱かれたいオメガも多いことだろう。
「じゃあ俺もボランティア枠で」
「もう、たすくったらさあ」
ゆうらりと男は身体を起こしてのそのそとベッドから降りる。
傍に置いてあったスツールに腰かけてた俺は逃げ損ね、一瞬の後にはまたその腕にすっぽりと抱き込まれていた。
「こんなにいい匂いさせてさ。でも他の奴らにはわからないって、それって、もう『運命』でしょ?」
すんすんと俺の首筋に鼻先をうずめて男はうっとりと言った。
この世界には男女以外にもバース性と言われる二次性がある。
オメガバースと言われる性で多分これを読んでくれている皆さんは重々ご承知の設定だろうから詳しいことは割愛しておく。
ただ、男のオメガ性はちょっと珍しい。男女比でいくと1:10位かな。
40人のクラスに男のオメガは3人とか2人とか。
いないわけじゃないけど、いるわけでもない。
そして男のオメガは必ずアルファを生むという都市伝説があるらしく、由緒正しいアルファの家柄の子息・令嬢から男オメガは追いかけまわされるという困難もある。
実際はアルファ9割、オメガ1割の出産確率らしいけれどな。
とにかくベータは生まれないらしいから、やはり名家アルファの嫁はオメガで・・・となるらしい。
もちろん由緒正しきアルファの家柄ということは、歴代の名士を生み出した名家でもあるんだから、言ってしまえば玉の輿に乗れるということで男オメガもまんざらではなくむしろ何件もの申し出を色々選べる立場なんだ。
まあ、普通の男オメガはな。
俺はオメガだけれどもどうにも出来損ない。
みんなも、あれだろ?
オメガっていうのは綺麗で儚くてアルファの性をそそるようなそんな見た目と性格だとおもってるだろ?
または妖艶で色を持ってアルファを落とすとかさ。
とにかく「孕む性」オメガはアルファの庇護欲をそそる可愛く可憐な生き物なんだよ。
男も女も!
ところが俺ときたら・・・
俺は二次性徴として現れるバース性の分化が遅くて去年、中学三年の夏休みにオメガだということが判明した。
それまではなんのオメガの兆候も表れずに生活していたから自分はベータでこのまま平々凡々な一生を送ると思っていた。
まあ、平々凡々といえども上は目指したかったので狙う高校は県内一の進学校。
偏差値が70を越していたけれど俺は模試ではなんとかいつも「B」判定をもらっていてたまにもらえる「A」判定にとりあえず一安心していたんだ。
が。
バース性が判明、ちょっと珍しい男オメガということで俺の進学先は都内にある全寮制のアルファとオメガ専門の高校に決まってしまった。
男オメガって奨学金で通えるんだぜ?
アルファの名家が出してくれるんだってさ。
早くから自分ちの子供のために囲い込むらしい。
寮費も食費以外はただ。
この好条件に親がジト目で見てくるもんだから俺はしぶしぶ頷いた。
まあ、この学校特進クラスというのがあってそこの偏差値は優に70を越している。
もちろん優秀なアルファ様がたたき出している数字なんだけど、俺はこのクラスに入れたらと条件を付けて受験した。
俺が目指していた公立高校とそんなに変わらない偏差値なんだからどうせならそこで学びたい。
オメガは孕む性
頭馬鹿で綺麗な見た目で股だけ開いていればいい
そんなSNSの書き込みを見るたびに俺は反感を覚えていた。
俺の見た目は普通だ。
むしろ普通以下かもしれない。
色白と言えば聞こえがいいが趣味がゲームというのが功を奏し?なまっちろくて細身というよりやせぎす。
目元も涼しい切れ長の一重・・・と言えればいいけれど、まあ、純日本人の顔つきだ。
よく言われるのが「どっかのバンドのベースにいるよね?」だ。
せめてボーカルと言ってくれよ・・・
ちょっとだけ世界が終わりそうなバンドのボーカルを意識した斜めの前髪だけが自慢。
ゲームと勉強のし過ぎでお約束通り悪い視力を補うための黒縁のメガネに守られて、俺の見た目は立派なコミュ障のオタクだ。
だからこそ、勉強は頑張りたいし、いい大学に行きたい。
もしどこかの立派なアルファ様とアルファを生むために結婚することになっても馬鹿にされないように。
つうことで、いや、入学式はざわついたよね。
特進クラスにどう考えてもアルファとは思えない男がいる、ベータが紛れ込んだのか?って。
ベータなら良かったよ。
悩まず県内の高校に行けたじゃん?
平々凡々の人生送れたじゃん?
どうやら男オメガだとばれたときには・・・さらにざわついた。
視力が悪いからはっきり見えていないことで、どうやら現在は眼鏡をかけていないんだとわかる。
シーツらしいけどなんだかごわごわとして肌触りの悪い布に身体は包まれてるし、部屋の中は変な匂いといい匂いがまじりあっている。
…保健室のベッド?
でも保健室のベッドというよりはホテルの一室のような部屋。
・・・ここってもしかして。
ちょっとだけあることに特化している学校に通っているので、色々な事態に備えてこんな部屋が準備されているとは最初のガイダンスできいた。
消毒薬と、青臭い匂いと、桜の花のような匂いが俺を包んでいる。
前二つはイマイチだけど、一番最後の匂いは俺を柔らかく包んでくれている。
でも俺は気づいた。
匂いって混ざると結構とんでもないってこと。
「メガネ・・・」
呟きながら身体を起こそうとしたら、背中側からなんだかがっちり腰を掴まれていることに気づく。
?
それにシーツを取っ払うと裸だってことにも。
この事実を総合的に判断して思い当たることはただ一つ。
「あー、やっちまったか・・・」
覚えているのはどこまでだっけ?
放課後、いつもみたいに桐野の部活が終わるのを図書館で待っていた。
一年生のくせに図書委員長なんてやっているおかげで鍵を預かっているから、好きなだけいられる。
別に俺は待っている義理も何もないんだけれど、どうしても一緒に帰りたいと桐野が駄々をこねるからだ。
たかが同じ敷地内にある徒歩で10分もかからないような寮までだけど、部屋に戻ると俺が出てこないのを知っているからだ。
クラスも一緒、寮も一緒。
でも桐野はちょっとの隙間時間でも俺と一緒にいたがる。
まあ、同じクラスと言っても席は離れているから授業中どうこうできるわけでもないし、生徒会副会長の桐野は昼休みもなんだかんだと呼び出されてクラスで昼を食べることもままならないし、放課後は部活だし、そんな中で惚れている俺と一緒にいる時間をなんとか作りたがった。
桐野が惚れている、俺。
俺は桐野の『運命』らしい。
あの日もどうせあくる日の授業の予習をしたかったから、勉強をしながら待つ約束をしていた。
『運命』だとかなんだとかを信じているわけじゃないけれど、綺麗な王子様顔をした男が平凡な俺にお願いをしているんだと思うと、まあ一日のうちの10分位は付き合ってもいいかと思う。
で、待ってた。
確かに。
でもその日は朝からなんとなく気怠くてたまに息苦しかった。
熱でも出たかな、ってちょっと思ってた。
図書館閉館前の少し前に「遅くなってごめん」って桐野が近づいてきたとき、一瞬で図書館を充満させるような桜の花の匂いを感じたと思ったら・・・
この状況だ。
所謂、『発情期』
なんだろうなあ・・・
このシーツがこわごわしているのは多分俺か桐野の体液が乾いたもの。
この部屋は学校は『療養室』と言っているが俺たちは『ヤリ部屋』と言っている、発情期になったオメガとそれを抑えるアルファが入って、まあ、そうだな、やりまくる部屋。
発情期のオメガはアルファとのセックスでその熱を抑えることができる。
もちろん抑制剤で抑えるのも可能だけど、あまりよろしくない副作用があるらしく推奨はされていない。
『この期間はセックスで身体を鎮めること』
法律にも認められている。
学校や仕事は公休扱いだ。
そして俺は高校一年生にして初めての『発情期』を経験した。
少し遅咲きの、オメガ。
身動きが取れる範囲で視線を動かし、手を伸ばすと無事にベッドの下に転がるメガネとスマホが掴めた。
メガネをかけてなんだかかっぴかぴになっているスマホをタップすると記憶にある日時から3日が経過している。
このかぴかぴもきっとあれだ
せーえきだ。
どっちのか、知らんけど。
この3日間の乱交を俺はちっとも覚えてはいないけれど、この惨状を見るに色々なことをやったんだろうなあ・・・と、ため息しか出ない。
使用後の避妊具や水のペットボトルが中身をこぼしながら転がっている。
食べかけのおにぎりとかかじりかけのパンとかも部屋のあちこちに落ちている。
でもそんなに古いものが放置されている感じはしないので定期的に清掃・補充はされていたんだろう。
「3日・・・でも、3日で済んだのか・・・」
発情期は大体一週間ほど続くと言われている。
初めてだから短かったのかそれとも。
シーツに触れれば、乳首をはじめ鎖骨や太ももの内側がひりひりする。
短い発情期はアルファがものすごーく濃厚なフェロモンを浴びせてくれた結果、なるらしい。
要は相当な熱情を。
「あ、く、首!」
ふっと、大切なことを思い出す。
慌てて首周りに手を這わせるとそこには無事にプロテクターがあった。
番のいないオメガはその首に首輪を思わせるプロテクターをはめている。
発情期を抑えるのにアルファは必要だけど、それがイコール番になるとは限らない。
一度番ってしまえばオメガはそれに永遠に捕らわれてしまうから番うのは本当に『この人』と思う人じゃないと番えないんだ。
発情期中にアルファに項を噛まれてしまうと番になってしまうから、だから基本的に『この人』という人の前以外ではオメガはプロテクターは外さない。
もちろん番がいるオメガは別だけど。
ともかく確かに項には何の違和感もないので俺の操?は無事に守れたんだろう。
ほっと安心していると今度は尻の穴から違和感が。
中からぬるりと何かが出てくる。
多分俺をがっちり掴んで離さない男のせーえき、だ。
その感触にぞわりとするも、ゆうるく前が起立するのも感じる。
・・・俺って・・・
この気持ちよさの意味と自分の心のふがいなさに気づきがっかりする。
そしてもう一つ大切、かつ重大なことを思い出した。
「あ、まずい・・・」
避妊薬は飲んだんだろうか?
体内射精から24時間以内に飲まないと妊娠しちまうって保険の授業で習った。
「・・・大丈夫、飲んだよ」
背中からもごもごと声が聞こえた。
俺の初めての発情期の相手の顔を確認するのが怖くてずっと見ないようにしていたけれど、やっぱりというか案の定というか、一番この場にいてほしくない男の声だった。
「ひどいよね。たすくってば僕の精液より避妊薬飲みたがるんだもん」
そういうと男はまたぎゅうっと俺の腰を抱いた。
「俺の理性が残っててよかったな」
発情期中はセックスのことしか考えられなくなるって習った。
実際俺も最中のことは全く覚えていない。
でも、避妊のことは気にできたのか。
「なんで?僕、たすくとの子供さっさと欲しいよ?」
俺はそろりそろりとそのぎゅっと抱き着いている腕をはがしにかかる。
この腕の拘束から逃れたい。
「やめてよ、もっとぎゅっとしてたい」
俺が逃れたがっていることに気づいた男はさらにぎゅっと腕に力を入れる。ついでに俺の薄い腹を撫でまわす。
そこには性欲なんて感じられずただただまだいない(はずの)赤ん坊を慈しむような撫で方だ。
「だって、このままじゃ顔見えないじゃん」
わざと大げさため息をつきながら・・・
そう、こいつに恋い焦がれているかのように・・・
俺は言った。
「あ、そうか」
男の腕が緩む。
俺を反転させて男の方に向かわせたいようだ。
けど、その瞬間俺はベッドから飛び降りた。
「あ!・・・嘘つき」
男は焦ったように手を伸ばすが俺はあっかんべーと距離を置く。
「嘘じゃねーよ。この距離だって顔は見える」
「僕は近くでたすくの顔がみたいのに」
高校一年生の男が拗ねても可愛くないと思うがこいつは別だ。
そういう仕草が似あう似合う。
「この3日間、嫌というほどみたろ?」
こんなに長い時間一緒にいたのははじめてだ。
・・・覚えてないけどさ。
「うん。・・・可愛かったよ。甘える、溶ける、乱れる・・・「わー、わー、わー」」
俺は大声を出してうっとりとこの3日間を思い出しているであろう男の声を遮った。
「ねえ、たすく、僕の番になってよ」
男は横になったまま、でも、この学校中の奴らを落とすことができるであろうビッグスマイルを浮かべ俺に言った。
「・・・一回寝たくらいで番ヅラかよ」
「もう、だって、公開告白済んでるじゃん。みんな付き合ってるってくらいは思ってるから」
男は思い出し笑いで肩を揺らす。
「僕が初めてなの、いやだった?僕はたすくの初めてをもらえて嬉しかったよ?」
急にまじめになってふいっと目を細めて俺を見るからその表情に俺はどきりと胸を高鳴らせた。
「その『初めて』を何人から貰ったんだよ?」
俺の気持ちに気づかれないように、じろりと睨んで俺は訊く。
「え~?覚えてないよう、そんなの」
男はひらひらと手を振り、へにゃりと笑った。
笑うと垂れ気味の目がなくなるんだなあ・・・って俺は今更ながら思った。
「でも、それはボランティアというか・・・人命救助?だからね」
アルファが発情期中のオメガを鎮めるのを手伝うことはままある。
しかもこいつはアルファの名家のお坊ちゃまだ。
その時だけでもと抱かれたいオメガも多いことだろう。
「じゃあ俺もボランティア枠で」
「もう、たすくったらさあ」
ゆうらりと男は身体を起こしてのそのそとベッドから降りる。
傍に置いてあったスツールに腰かけてた俺は逃げ損ね、一瞬の後にはまたその腕にすっぽりと抱き込まれていた。
「こんなにいい匂いさせてさ。でも他の奴らにはわからないって、それって、もう『運命』でしょ?」
すんすんと俺の首筋に鼻先をうずめて男はうっとりと言った。
この世界には男女以外にもバース性と言われる二次性がある。
オメガバースと言われる性で多分これを読んでくれている皆さんは重々ご承知の設定だろうから詳しいことは割愛しておく。
ただ、男のオメガ性はちょっと珍しい。男女比でいくと1:10位かな。
40人のクラスに男のオメガは3人とか2人とか。
いないわけじゃないけど、いるわけでもない。
そして男のオメガは必ずアルファを生むという都市伝説があるらしく、由緒正しいアルファの家柄の子息・令嬢から男オメガは追いかけまわされるという困難もある。
実際はアルファ9割、オメガ1割の出産確率らしいけれどな。
とにかくベータは生まれないらしいから、やはり名家アルファの嫁はオメガで・・・となるらしい。
もちろん由緒正しきアルファの家柄ということは、歴代の名士を生み出した名家でもあるんだから、言ってしまえば玉の輿に乗れるということで男オメガもまんざらではなくむしろ何件もの申し出を色々選べる立場なんだ。
まあ、普通の男オメガはな。
俺はオメガだけれどもどうにも出来損ない。
みんなも、あれだろ?
オメガっていうのは綺麗で儚くてアルファの性をそそるようなそんな見た目と性格だとおもってるだろ?
または妖艶で色を持ってアルファを落とすとかさ。
とにかく「孕む性」オメガはアルファの庇護欲をそそる可愛く可憐な生き物なんだよ。
男も女も!
ところが俺ときたら・・・
俺は二次性徴として現れるバース性の分化が遅くて去年、中学三年の夏休みにオメガだということが判明した。
それまではなんのオメガの兆候も表れずに生活していたから自分はベータでこのまま平々凡々な一生を送ると思っていた。
まあ、平々凡々といえども上は目指したかったので狙う高校は県内一の進学校。
偏差値が70を越していたけれど俺は模試ではなんとかいつも「B」判定をもらっていてたまにもらえる「A」判定にとりあえず一安心していたんだ。
が。
バース性が判明、ちょっと珍しい男オメガということで俺の進学先は都内にある全寮制のアルファとオメガ専門の高校に決まってしまった。
男オメガって奨学金で通えるんだぜ?
アルファの名家が出してくれるんだってさ。
早くから自分ちの子供のために囲い込むらしい。
寮費も食費以外はただ。
この好条件に親がジト目で見てくるもんだから俺はしぶしぶ頷いた。
まあ、この学校特進クラスというのがあってそこの偏差値は優に70を越している。
もちろん優秀なアルファ様がたたき出している数字なんだけど、俺はこのクラスに入れたらと条件を付けて受験した。
俺が目指していた公立高校とそんなに変わらない偏差値なんだからどうせならそこで学びたい。
オメガは孕む性
頭馬鹿で綺麗な見た目で股だけ開いていればいい
そんなSNSの書き込みを見るたびに俺は反感を覚えていた。
俺の見た目は普通だ。
むしろ普通以下かもしれない。
色白と言えば聞こえがいいが趣味がゲームというのが功を奏し?なまっちろくて細身というよりやせぎす。
目元も涼しい切れ長の一重・・・と言えればいいけれど、まあ、純日本人の顔つきだ。
よく言われるのが「どっかのバンドのベースにいるよね?」だ。
せめてボーカルと言ってくれよ・・・
ちょっとだけ世界が終わりそうなバンドのボーカルを意識した斜めの前髪だけが自慢。
ゲームと勉強のし過ぎでお約束通り悪い視力を補うための黒縁のメガネに守られて、俺の見た目は立派なコミュ障のオタクだ。
だからこそ、勉強は頑張りたいし、いい大学に行きたい。
もしどこかの立派なアルファ様とアルファを生むために結婚することになっても馬鹿にされないように。
つうことで、いや、入学式はざわついたよね。
特進クラスにどう考えてもアルファとは思えない男がいる、ベータが紛れ込んだのか?って。
ベータなら良かったよ。
悩まず県内の高校に行けたじゃん?
平々凡々の人生送れたじゃん?
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