一回ヤッただけで番ヅラかよ

いちる

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きさらぎに転校生がくるときいた一週間ばかり後。

その間も俺と桐野の間には特になんの進展もなく・・・あれ以来桐野もどこかの古いドラマの名台詞のような「セックスしよう」は言ってこない。

やっぱり毎日手を繋いで一緒に帰って、俺の部屋のドアの前で軽くハグされて終わり。

そんな日々の中でびっくりするような転校生が来た。



「いや、僕、たすくと間違えてこえかけちゃったよ」

昼休み終わりごろにきさらぎがにこにこしながらわざわざ報告してくれた。

「知ってる・・・」

俺は苦虫をつぶしたような表情で返事をした。





普通科に来た転校生は澤内たくみと言った。

名前が「た」で始まる辺りも俺に似ているんだが、この転校生、顔も俺に似ていた。

いや、そういえばもしかして澤内に失礼かも。

澤内を見た奴らがみんな口をそろえて言った。

「宮城の上位互換だ」



色白で切れ長の涼し気な目元。

前髪をちょっと斜めにそろえているところも同じ。

体形も細身ででも背がしゅっとしていてみてて格好いい。

メガネはフレームレスで透明感あふれる感じ。

全体的に俺に似ているのに、俺よりも数段色気があってもう本当に男に向かって言っていいのかわからないけど『キレイ』なんだ。



そして澤内もオメガだった。

きさらぎとはまた違うタイプの「ザ・オメガ」って感じで廊下ですれ違う人みんなはっとして振り向く、二度見する、そしてつぶやく。

「宮城の偽物?いや、宮城が偽物?」

そして澤内の項には誰かの歯形がついている。

これは澤内には番がいるという証拠だ。

その番は・・・





「智深、久しぶり」

昼休み開始のチャイムが鳴ったそうそうその俺に似た奴は堂々と特進クラスに来て桐野に抱きついた。

「た、たくみ?」

その光景にクラス全員が息をのみ、俺を見て、澤内を見て、もう一回俺を見て、みんなが同情するかのように頷いて・・・

「智深、校内案内してよ」

そいつはするりと桐野の腕に手を絡めると智深も驚いてるけど、まんざらでもないような表情を浮かべて「相変わらず強引だよな」なんて言いながら教室を出て行ってしまった。

唖然として取り残される俺とクラスメイト。

俺はきさらぎのクラスに行こうと思っていたが力が抜けてそのまままた椅子へと身体を沈めた。

知り合い・・・なのかな?

俺は無意識に自分の項を撫でる。

プロテクターで守られた綺麗な俺の項と、綺麗な噛み跡のついた項。

「宮城って、桐野の好きなタイプにカテゴリーされる顔だったんだな」

誰かが言った。

「『運命』って、そういうことかよ」

また他の誰かが言った。

「・・・ちょっと私、桐野君見損なっちゃったなあ」

皆が俺を遠巻きに眺めていたけれど、急にざわつき始めたと思ったら、女子が俺にハンカチを差し出した。

「宮城君、泣かないでえ」

「は?」

慌てて頬を甲で拭うと確かにそこは濡れていた。

「あ・・・」

俺はごしごしと力を入れてこすり取る。

「と、とりあえず、俺たちは宮城を押すからな。クラスメイトだし」

「そうだよ。あんな公開プロポーズまでして、宮城君を傷つけるなんて、許せない!」

皆がワイワイと俺を取り囲み、とにかく桐野に真相を確認するんだと息巻いた。

「え?でもあいつ次の下剋上でここ来るんじゃないの?めちゃくちゃいい成績で編入してきたらしいぜ」

誰かがつぶやく。

「まじか!」

皆は顔を見合わせてそそくさと席に着くと参考書を開き始め、何人かは俺の肩を軽くたたくと「元気出せよ」と声をかけて離れて言った。

元気出せよも何も、別に気にしちゃいねーし。

俺はふてくされるとパンを取り出しかじり始めた。



「と、いうことがあったんだねえ・・・」

きさらぎがうんうんとうなずく。

「だから桐野君食堂にいたんだね」

「え?」

「僕、桐野君とたすくと一緒にご飯食べてるんだと思って声かけたんだよね。そしたら綺麗な顔をしたたすくがいたからびっくりしてさ。報告に来た」

澤内君っていうらしいよ。

ついでに名前も教えてくれる。

きさらぎはけらけらと笑った。

「お前、何気に俺の悪口言うよね」

本当にこの顔の綺麗なオメガは口が悪い。

最初は花か蝶かと思ったのにな。

「そう?でもたすくもそう思ってるんでしょ?」

「思ってねーよ」

「たすくは自己肯定力低いからね。僕、澤内君がキレイ系なら、たすくは可愛い系だと思うけどなあ。負けてないよ」

平々凡々のオメガにいうところじゃないと思うけど。

「ほら、メガネをとったら美少年って昔からのお約束じゃん?」

にやにやと笑いながら言うから、本気なのか、からかっているのか。

多分後者だと思うので無視することにする。

そう思った時、予鈴がなった。

「あら」

スピーカーに視線を向けてきさらぎは小さくため息をついた。

「じゃあ、僕戻るね。落ち込まないように」

ね、っと首を傾げる。

「誰が落ち込むかよ」

俺は、け、っとばかりに顔をそむけた。

「ちゃんと桐野君と話しなよ?」

俺の顔を持って自分の方に向けるとのぞき込みながら俺に念を押す。

「別に話すことなんてないよ」

そう?ときさらぎはやれやれと少し呆れた顔をしてじゃあねえと手を振って自分の教室に戻っていった。

何人かのクラスメイトがきさらぎの帰った方向を見ては顔を赤らめている

まあ、そうだな。

きさらぎ可愛いからその気持ちはわかる。

が、あいつは番持ちだし、中身は大概だ。あいつの婚約者も何気に振り回されているような気がする。

言っておくが、やめとけ。

俺は心の中でつぶやくと、次の時間の授業の準備を始めた。

もうすぐ本鈴がなる。

俺の席は窓際の一番後ろという誰もが憧れる席だ。

桐野は先生が来る寸前に慌てて教室に駆け込むと俺をちらりと見て自分の席に着いた。

と、思う。

実際は窓の外を見ていたから桐野が俺を見たかどうかなんて知らない。

ただ、前の席の奴がプリントを回すときそっと耳打ちしてくれただけだ。

もちろん俺は授業なんて耳に入らなかった。
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