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第二章 王立バルバディア魔法学院
第6話 開幕ベルが鳴る
しおりを挟むロロフィリカの自己紹介トークを左から右へ聞き流しているうちに時間がきたらしい。礼拝堂の扉が閉まった音とともに、昂揚した新入生のお喋りがぴたりと止んだ。
二階と三階部分の廊下に、いつの間にか上級生たちが揃っている。
「ニコ、あそこ……」
「ああ。兄上とルウだね」
「プリンス!?」
ロロフィリカ声がでけぇ。
次に主祭壇の前に続々と人影が現れた。あれは多分、教員だろう。このべルティーナ王国の至宝ともいうべき魔法のスペシャリストたちだ。
音も気配もなく、何もなかったところからすぅっと下りてくる。空間転移魔法だ。
最後に、白い鳥が羽搏いた。
天井に現れた鳥がゆっくりと祭壇中央に下りてきて、くるりと一回転したと思ったら、ローブ姿の老人に変身する。
「諸君、入学おめでとう」
深い常盤に染まる森のような、しんとした声だった。
「わたくしは、バルバディア魔法学院第九代学院長、ゴラーナと申します」
バルバディア魔法学院の歴史は、創立より数えておよそ千年。
九代というとずいぶん少なく聞こえるが、力ある魔法使いはとんでもなく長命だから、在任期間がそれぞれ長いのだ。恐らく祭壇前に並ぶ教師陣のうち、外見通りの年齢をしている人はほとんどいない。
「諸君らはこれからこの学び舎で四年間を過ごし、寝食をともにし、そして研鑽しあってゆくことでしょう。この世を震撼させた〈魔王〉を、わたくしと仲間たちが封印してから、二十年──」
学院長はそこで言葉を止めた。
僅かな沈黙だった。
「束の間の安息でありました」
隣に座っているエウフェーミアの横顔を一瞥する。
かたく唇を引き結んではいたが、どこか遠い話だと思っているようだ。
「諸君らへ入学許可証をお届けしてから四の月を数えた頃、魔王の第一配下を名乗る魔法使いが現れました。みなは魔王封印後の安息の世に生まれた幸運の世代でありますが、ご両親やご親族には魔王の恐怖を覚える人も多く、また直接被害を受けたかたもいたかもしれません。魔王復活に向けて、その手の者が動き始めていることは、残念ながら確かです」
礼拝堂のなかに緊張感が漂う。
ロロフィリカは「ひえ」と小さく声を洩らした。喋んな、空気読め!
「だからこそ、これからの世界を担う諸君らには、より強く結束し、自らの魔法を磨き、暗黒の八百年の再来を阻止するために、よりよき〈隣人たち〉との関係を構築し、新たな魔法の創造に挑戦して頂かねばなりません。上級生、教職員、魔法教会一同、みなのよき学びを心より支援いたします」
昨年、四の月。
かつて八百年の長きに渡り世界を震撼させ、二十年前に封印されたばかりの魔王、その第一配下〈黒き魔法使い〉が復活したという報が王国中を駆け巡った。
目撃情報は王国の南に集中していたが、領地に〈暁降ちの丘〉をもつオーレリー辺境伯の親父殿は対応に追われた。
魔法教会の要請で砦の騎士団も出動する事態になり、何日も邸に帰ってこなかったのだ。
結局、第一配下を名乗るただの贋者だったらしい。
親父殿もヴェレッダ騎士団も、直接交戦することなく帰ってきた。しかし未だに領地では厳戒態勢が続いている。
──没落にゃ無縁、魔王は封印されたばかり、英雄は存命。とっとと独立してマッタリ魔法の研究でもしようと思ってたが、アテが外れたよなぁ。
学院長に続いて進み出た在校生代表を眺めながら心の中で独り言つ。
入学許可証が届いて、『本編開始』って感じだなぁなどと呑気に構えていた一年前の俺、殴りたい。
──あ~~~さっさと原作の展開思い出して対策立ててぇ。早く終われ入学式。どいつもこいつも話が長げぇんだよ寝るぞ!
と、内心荒れ狂う俺を宥めたのは、司会を務める女性教師のこの一言だった。
「続いて、新入生代表挨拶。アデル・サクマ」
……サクマって、佐久間とか作間とかのサクマ?
やたら耳馴染みのある苗字に驚いていると、新入生の席の中ですっと立ち上がったのは黒髪眼鏡のあのアデルだった。
「なんか野暮ったーい。ニコラの方が絶対、画的によかったよね」
いいからロロフィリカお前は黙っとれ。──と言えない悲しいお坊ちゃまモード。
代わりにエウがきゅっと眉間に皺を寄せて、唇に人差し指を当てながら「しっ」と窘めた。あざとかわいい。
右脚を僅かに引きずりながら壇上に上がったアデルの挨拶はそつがなかった。
淡々と、棒読みでない程度に抑揚は薄く、されどつっかえたり噛んだりすることもなく読み終える。
黒い髪に、暗い色の目に、サクマという苗字。あいつ、もしかして日本人なのか?
目を細めてじぃぃっと見つめてみたが、『主人公』にそんな設定があったかすらサッパリ思い出せん。
ぼんやりしているうちにアデルが挨拶を締めくくり、一礼して壇を下りる。
すると、天井から色とりどりの花びらが降りはじめた。
赤、白、ピンク、オレンジ、ブルー。わぁ、と新入生たちから歓声が零れ、隠しきれない喜びや期待が満ち満ちる。
「これから寮の配属を発表します。式場入口で配布したバラを杖腕に持ってください」
司会の指示に従い、兄貴が胸に挿してくれたバラを右手に持った。
ぽんっ、と煙を噴いた次の瞬間、バラが姿を変えてブローチになる。
「いま手の中にあるそれが所属寮を表す徽章となるので失くさないように。まず白いユリの徽章ホワイトリリー寮の生徒は、寮監とともに退場」
俺とエウの徽章は青いバラだ。ロロフィリカもそう。
ちなみに兄貴とルウはホワイトリリー寮所属である。
「あー、プリンスとは別なのかぁ。でもエウフェーミアと一緒で嬉しい!」
「よろしくね、ロロフィリカ」
着席していた新入生たちの四分の一ほどが立ち上がり、寮監の先生を先頭にして出口へと向かっていく。
……主人公コンビは、いない。
「これで部屋も一緒なら嬉しいのになぁ。寮とか部屋ってどう決まるんだろ。ニコラ知ってる?」
「基本的には魔力の相性だね。寮生活では寝食をともにするから、相性の悪い魔力の者と四六時中一緒では、中毒や反発を起こすことになる。あとは得意の魔法や性格などを総合的に判断すると、兄上が言っていたよ」
魔力は、その色の透明度が高いほど純度が高いとされる。
その中でも薄紫色は、ベルティーナ王国がまだ皇国であった時代に存在した救世の聖女と同じ色ということで、至高の魔力とみる向きがあった。
早い話が、同系色だったり相性の悪くない色同士が同室にされるのだ。
「次、青いバラ徽章のヒュースローズ寮の生徒は、寮監に続いて退場」
「行こう」
二人を促して立ち上がり、同じ寮となる新入生の顔を確認しながら歩きだす。
視界の端で動いた黒髪と栗毛に、ゲ、と顔が引き攣ってしまった。
こっちの金髪に気づいた栗毛も同様に「うわ」と盛大に顔を顰める。
『物語』の主人公、リディアとアデル。
その左胸につけられた青いバラ徽章。
「……どーやら一緒の寮のようですわねぇ。魔力の相性がどーとか仰ってましたけど、ごめんあそばせー」
「リディア。わざとらしいよ」
……厄介な気配しかしねぇな。
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