ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第二章 王立バルバディア魔法学院

第8話 魔法学Ⅰ(R)と魔法史Ⅰについて

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 週のはじまり金紅日きんこうび。一限目は魔法学Ⅰ(R)。
 これは寮別で受ける必履修科目だ。一回生の魔法学Ⅰはそれぞれの寮監が担当で、末尾についた(R)はヒュースローズ寮クラスを意味する。

 ヒュースローズ寮の寮監はアンジェラ・ドロテア先生。専門は魔物の生態研究。昨日の入学式で司会をしていた、ややキツそうな妙齢の女性教師だ。
 主人公であるリディアの寮監だし、小説にも登場しただろうな。
 はっきりした目元に赤いルージュ、顎の下で切り揃えられたストロベリーブロンド。なんとなくそれっぽい容姿をしている。
 政宗語でいう『作画コストがかかってる』って感じ。

「魔法学は必履修科目で寮生全員が受講する授業であるため、本日から内容を進める。来週のこの時間までに教科書を購入しておくように」

 ノートを広げて、九歳当時ロウ家に存在しなかった鉛筆をペンケースから取り出した。

 なんのことはない、単に親父殿がペンとインクを好んでいたというだけの話で、この世界にも鉛筆は流通していたのだ。
 さすがにシャーペンやらボールペンはないみたいだが。
 開発したい……と思った時期もあったが、詳しい仕組みが思い出せなくて早々に詰んだ。俺はそこまで天才ではなかった。

「第一に〈魔法〉とは、大気中に溶け込んだ〈魔素〉というものが根底をなす。人間を含む多くの生物はこれを体内に蓄積し、自分の力とすることができる。この体内に蓄積された魔素をなんというか。……アデル・サクマ」

「〈魔力〉です」

「そう。我々はこの魔力を自然に宿る精霊や神々に献上することで、加護を受け、その力を借り、魔法を生み出すことができる。それではこの精霊や神々を一般にはなんと称するか?……ニコラ・ロウ」

 早速当たったか。
 簡単な問答でよかったー。

「〈隣人たち〉です」
「その通り。昨日、学院長先生も仰ったように、魔法とは隣人たちとのよりよい関係を構築することで磨かれていくものである」




 二限目は魔法史Ⅰ。
 担当は見目麗しいイケオジのアキ・バルドウ先生。兄貴から「アキ先生の魔法史は面白いから受講するといいよ」と言われている。

 彼もまた作画に気合いの入った部類のイケオジだ。
 こういうキャラは大体、主人公たちが困っているときに颯爽と助けにくるか、あるいは最後の最後で裏切ってくるパターン、だったな。
 俺は昨日からもう『原作小説に登場しそうか否か』で周囲を判断してしまうようになっていた。

 ちなみに兄貴は確実に登場すると思っている。
 悪役ニコラの兄貴で秀才で監督生で学院のプリンスなんて要素盛りすぎ、絶対出る。なんならリディアが兄貴に惚れる展開があってもおかしくねぇ……!

「魔法史Ⅰとは、これまできみたちが学校や家庭教師に教わったものを平均化するための講義です。魔法の歴史はベルティーナ王国の歴史でもありますから、以前学んだ国史とかぶる部分も多いでしょう。自身の受けた教育に自信のある生徒は古代・中世・近現代に分けた講座が開かれていますからそちらを履修してもよいと思います」

 アキ先生は教卓に頬杖をついてにっこり微笑んだ。

「今日は第一回の講義なので簡単な内容をちょこっとだけ。……さて、この世界には多くの精霊や神々……つまりは隣人たちが存在しています。基本的に彼らが望まない限り、我々の目には見えませんね。しかし唯一、誰の目にも視ることができる神がいます。それは何か? ベックマンさん、どうぞ」

 隣に座っていたエウがぱっと目を見開いた。

「〈天海のくじら〉です、先生」
「そう。ではお隣のロウくん、天海のくじらについて、きみが学んだことを教えてください」

 また俺か。

「天海のくじら。固有名はありません。……そもそもこの世界は天界、地上、冥界の三つに分けられ、天の海には神々の住まう神殿が諸島を成しています。その海を住処とし、神々よりも旧き時代から天海を回遊しては地上を見下ろし、見守り、世界に恵みと幸いを与える。世界の起源を知る聖獣といわれています」

 教室に揃う生徒たちの視線は自然、窓の外に広がる空へと向いた。
 天海のくじら自体は普通に生活していれば月一程度で見ることができる。頭上を通ると大きな翳ができるので、室内にいてもその出現がわかるのだ。

「ええその通り。天海のくじらについて詳細を研究したい場合は、神話学の講義を履修するのもいいでしょう。それではトラクくん、天海のくじらの三原則、という言葉を知っていますか?」

「ひとつ、死者を蘇らせるべからず。ひとつ、時を渡るべからず。ひとつ、魔力を譲渡すべからず。この三つです」

「そう。──そしてこの三原則の第一項を破ろうとしたために魔法教会と対立し、八百年にも渡る長き戦争の大元凶となったのが、かの〈魔王〉」

 えっ、という声が教室内の各所から上がる。
 俺もエウも目を丸くした。

 魔王という存在はもちろん親からも教師からも教わるものだが、大抵は「突然この世界に降臨した」というような言い方をされるからだ。

「魔王もかつては我々と同じ魔法使いでした。魔法教会に名を連ねるれっきとした〈魔道師〉だったのです」

 正規の魔法使いは全て、王都に本部を持つ魔法教会にその名を登録される。アキ先生、アンジェラ先生、〈魔導騎士〉の称号を持つ親父殿、〈魔道医師〉のベックマン氏もまた然り。
 階級が三段階あって、それぞれの功績に応じて〈魔法○○〉〈魔道○○〉〈魔導○○〉と昇格していく仕組みだ。
 そしてその最高責任者は〈大賢者〉──ゴラーナ学院長先生。

「八百年以上が経った今、すでにおとぎ話や伝説の域に入っていますから、正しい歴史を知る国民は少なく、また魔法教会もそれで構わないとの見解です。忘れることそれ自体が真の安息であると、魔王を封印した英雄一行の一員である学院長先生も仰いました。しかし〈学院〉はそうはいかない」

「…………」

「我々には過ちを繰り返さないよう努力する義務がある。正しい歴史を知り、悲劇の原因を究明し、二度と同じような存在を生み出さないために努力する義務が。であるからして未来の魔法を担うみなさんには、一般知識の平均化と並行して、語られない歴史というものも学んでもらうつもりです」




 昼食を挟んで三限目に共通教養の数学。四限目には鉱物学。
 この時点でエウはへろへろになっていたので、一足先に寮に帰すことにした。

「や、ニコラ。ベックマンさんと一緒じゃないの?」

 五限目の魔法薬学基礎Ⅰの授業では、トラクが隣の席に座ってきた。
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