28 / 138
第三章 悪役と主人公は対峙する
第6話 いざ第二のイベントへ
しおりを挟む
「四時間目の魔術学でニコラ・ロウとリディアがバチバチにやりあったらしい」
という噂は瞬く間に一回生の間に広まり、七限目の天文学が終わる頃には、俺はへろへろに疲れきっていた。
それというのも、
「あのリディアとかいう落ちこぼれ、魔力もないのにバルバディアに入学できたなんてどういうことだろう?」
はたまた、
「そもそも只人がこの学院に入学するということ自体がひどい侮辱だわ」
「魔法も使えないのにこの学院で何をどう勉強するつもりなのかしら? 不愉快ね」
「魔法使いを莫迦にしている」
といった悪口雑言の数々が、リディアと対立した俺に寄せられるからだ。
心の底からほっといてほしい。リディアに対して誰がどう俺に味方しようとどうでもいい。俺はやるならタイマンでやりたい。
俺とリディアがギャンギャン罵り合うならまだしも、徒党を組んでリディアを攻撃しはじめたらそれはもうイジメだろ。
いやニコラは悪役坊ちゃんだからリディアたちをいじめるのか?
……俺そういうのマジむりなんだけど。
「ニコラもリディアも目立つからねぇ」
隣を歩くトラクも苦笑いだ。
「僕は家や兄のことがあるから否定はしないけど。リディアも目立つのか?」
「だって彼女、可愛いじゃん。表情ころころ変わって、明るくて元気だし、一般家庭出身の女子生徒たちとはけっこう仲良くやってるみたいだよ。只人だけど知識量はすごいんだってさ」
可愛い……?
そういう見方もあるのか。
「……アデルのほうは?」
「あっちは正反対。無愛想だし口数少ないしであんま友達いない感じかな。どうも同じ故郷からもう一人入学してるみたいだけど、そいつはダリアヴェルナ寮だから、アデル自身は孤立してる」
情報屋みたいだな、こいつ。
「三人同郷なんて珍しいね」
「だからこそ不正入学じゃないかって話があるみたいだな。バルバディアに限ってあり得ない話だけど、まあ確かに只人が入学なんて前代未聞だしね。それも二人も」
「二人?」
眉を顰めたが、直後に思い直す。
日本で不幸な目に遭った少女と少年が、魔法の世界に迷い込む物語だ。二人とも当然元日本人で、魔力を体内に蓄積する仕組みをそもそも持たない。只人はリディアとアデルの二人だ。
昼間の魔術学じゃ、アデルは普通に魔術を成功させたように見えたが。
「そう。アデルのほうは魔術でうまくやってるみたいだね。ダリア寮の一人は普通に魔法を使うそうだよ」
「……情報通だな」
正直な気持ちで称賛すると、トラクは「それほどでも」とニッコリ笑った。
──ルームメイトくらい味方につけておけ、なんてルウには言われたけど……。
寮生活にもだいぶ慣れてきたし、同室で時間割がかぶっているトラクとは行動を共にすることも多い。が、まだ味方と断言するまでの仲ではない。
しかしリディアとの対立をきっかけにして一気に派閥ができそうな勢いだ。
俺自身にニコラ派を作る気はこれっぽっちも一切全くないのだが、周りが放っておいてくれなさそうだし……。
ああ、やめやめ、俺難しいこと考えるのキライ。
「……ちょっと寄り道して帰る」
「ニコラ? 大丈夫か?」
「一人で色々考えたいんだ、消灯までには戻るよ。エウに会ったら早く寝ろって言っておいてくれ」
寮に戻る途中だった足を止める。
確かこのあともリディア側でイベントがあるんだったな。肝心な詳細は「さあどうなる!?」とかって全然参考にならんかったけど。
とりあえず即座に魔王軍に所属するわけでもないのだし、最初のうちは物語の通りにことを運んでも問題ないだろう。
「わかったー。エウフェーミアさんに贈るためのバラをダメにされて意気消沈してたって伝えておくから!」
「余計なことを! 言うな!!」
トラクは楽しそうに笑いながら去っていった。
……全くあいつは。
ローズ寮の近くまで戻ってきてはいたが、きびすを返して、四限目を過ごした例の隠し部屋へ向かった。
バルバディア敷地内のそれぞれの校舎には、ベルティーナ創世神話の神々の名がつけられている。
炎、水、風、地の四大元素。それから太陽、第一の月と第二の月──くじらと同じくらいびっくりしたのが、夜空に月が二つ浮かんでいることだった──自然を司る神々と、勝利や豊穣などの概念を司る神々。
天海の諸島に宮殿を構えて、夜な夜な宴をしているというから羨ましいご身分だ。
ちなみに精霊に力を借りるのと神に力を借りるのでは魔力の消費量が変わる。
そのため神々の名を呼ぶ魔法は総じて上級魔法だ。
「鉱物学と薬草学はビュヒナー棟、魔法史と古ベルティーナ語がアロイシウス棟……。カタカナの名前ばっかで覚えづらいんだよなぁ」
学院の授業は、夜間の星空観察が主となる天文学を除けば六限目までしかない。
つまりこんな時間に寮の外を出歩いているのは、天文学帰りの学生かよっぽどの物好きだけだ。
そう考えて油断していた俺は、遠くで聞こえた足音に身を固くした。
別に消灯までまだ時間はあるから問題ないが、迂闊な独り言を聞かれるのはまずい。
「まぁぁぁてぇぇぇそこの猫ぉぉぉっ!」
「……あー、そうだったそうだった」
このためにトラクと別れたんだった。
実を言うとまだこの世界≒物語の世界という仮説をほんのちょっと疑っていたのだが、きちんと今日の原作イベントが起きていることを考えると、否定するのも難しいか。
小さく溜め息をついて、廊下の角を曲がって飛び出してきた影を両手でとっ捕まえる。
誰かの使い魔らしい、灰色の毛の猫だった。
口に何か咥えているようだと覗き込むと、猫を追っかけて猛ダッシュしてきた足音の主が、勢いを殺しきれず突っ込んでくる。
「うぎゃあっ」
「きゃああああっ」
アクセル全開のまま衝突してきたリディアに吹っ飛ばされ、俺は廊下の壁に後頭部を強打した。その拍子に壁がぱかっと口を開けて、もろとも壁の中に倒れ込む。
……くそ、猫にはいい思い出がない。
死ぬ原因になったのも、でかい猫を避けての事故だった。今度はこれか。
つかリディアてめぇは前見て走れ。
という噂は瞬く間に一回生の間に広まり、七限目の天文学が終わる頃には、俺はへろへろに疲れきっていた。
それというのも、
「あのリディアとかいう落ちこぼれ、魔力もないのにバルバディアに入学できたなんてどういうことだろう?」
はたまた、
「そもそも只人がこの学院に入学するということ自体がひどい侮辱だわ」
「魔法も使えないのにこの学院で何をどう勉強するつもりなのかしら? 不愉快ね」
「魔法使いを莫迦にしている」
といった悪口雑言の数々が、リディアと対立した俺に寄せられるからだ。
心の底からほっといてほしい。リディアに対して誰がどう俺に味方しようとどうでもいい。俺はやるならタイマンでやりたい。
俺とリディアがギャンギャン罵り合うならまだしも、徒党を組んでリディアを攻撃しはじめたらそれはもうイジメだろ。
いやニコラは悪役坊ちゃんだからリディアたちをいじめるのか?
……俺そういうのマジむりなんだけど。
「ニコラもリディアも目立つからねぇ」
隣を歩くトラクも苦笑いだ。
「僕は家や兄のことがあるから否定はしないけど。リディアも目立つのか?」
「だって彼女、可愛いじゃん。表情ころころ変わって、明るくて元気だし、一般家庭出身の女子生徒たちとはけっこう仲良くやってるみたいだよ。只人だけど知識量はすごいんだってさ」
可愛い……?
そういう見方もあるのか。
「……アデルのほうは?」
「あっちは正反対。無愛想だし口数少ないしであんま友達いない感じかな。どうも同じ故郷からもう一人入学してるみたいだけど、そいつはダリアヴェルナ寮だから、アデル自身は孤立してる」
情報屋みたいだな、こいつ。
「三人同郷なんて珍しいね」
「だからこそ不正入学じゃないかって話があるみたいだな。バルバディアに限ってあり得ない話だけど、まあ確かに只人が入学なんて前代未聞だしね。それも二人も」
「二人?」
眉を顰めたが、直後に思い直す。
日本で不幸な目に遭った少女と少年が、魔法の世界に迷い込む物語だ。二人とも当然元日本人で、魔力を体内に蓄積する仕組みをそもそも持たない。只人はリディアとアデルの二人だ。
昼間の魔術学じゃ、アデルは普通に魔術を成功させたように見えたが。
「そう。アデルのほうは魔術でうまくやってるみたいだね。ダリア寮の一人は普通に魔法を使うそうだよ」
「……情報通だな」
正直な気持ちで称賛すると、トラクは「それほどでも」とニッコリ笑った。
──ルームメイトくらい味方につけておけ、なんてルウには言われたけど……。
寮生活にもだいぶ慣れてきたし、同室で時間割がかぶっているトラクとは行動を共にすることも多い。が、まだ味方と断言するまでの仲ではない。
しかしリディアとの対立をきっかけにして一気に派閥ができそうな勢いだ。
俺自身にニコラ派を作る気はこれっぽっちも一切全くないのだが、周りが放っておいてくれなさそうだし……。
ああ、やめやめ、俺難しいこと考えるのキライ。
「……ちょっと寄り道して帰る」
「ニコラ? 大丈夫か?」
「一人で色々考えたいんだ、消灯までには戻るよ。エウに会ったら早く寝ろって言っておいてくれ」
寮に戻る途中だった足を止める。
確かこのあともリディア側でイベントがあるんだったな。肝心な詳細は「さあどうなる!?」とかって全然参考にならんかったけど。
とりあえず即座に魔王軍に所属するわけでもないのだし、最初のうちは物語の通りにことを運んでも問題ないだろう。
「わかったー。エウフェーミアさんに贈るためのバラをダメにされて意気消沈してたって伝えておくから!」
「余計なことを! 言うな!!」
トラクは楽しそうに笑いながら去っていった。
……全くあいつは。
ローズ寮の近くまで戻ってきてはいたが、きびすを返して、四限目を過ごした例の隠し部屋へ向かった。
バルバディア敷地内のそれぞれの校舎には、ベルティーナ創世神話の神々の名がつけられている。
炎、水、風、地の四大元素。それから太陽、第一の月と第二の月──くじらと同じくらいびっくりしたのが、夜空に月が二つ浮かんでいることだった──自然を司る神々と、勝利や豊穣などの概念を司る神々。
天海の諸島に宮殿を構えて、夜な夜な宴をしているというから羨ましいご身分だ。
ちなみに精霊に力を借りるのと神に力を借りるのでは魔力の消費量が変わる。
そのため神々の名を呼ぶ魔法は総じて上級魔法だ。
「鉱物学と薬草学はビュヒナー棟、魔法史と古ベルティーナ語がアロイシウス棟……。カタカナの名前ばっかで覚えづらいんだよなぁ」
学院の授業は、夜間の星空観察が主となる天文学を除けば六限目までしかない。
つまりこんな時間に寮の外を出歩いているのは、天文学帰りの学生かよっぽどの物好きだけだ。
そう考えて油断していた俺は、遠くで聞こえた足音に身を固くした。
別に消灯までまだ時間はあるから問題ないが、迂闊な独り言を聞かれるのはまずい。
「まぁぁぁてぇぇぇそこの猫ぉぉぉっ!」
「……あー、そうだったそうだった」
このためにトラクと別れたんだった。
実を言うとまだこの世界≒物語の世界という仮説をほんのちょっと疑っていたのだが、きちんと今日の原作イベントが起きていることを考えると、否定するのも難しいか。
小さく溜め息をついて、廊下の角を曲がって飛び出してきた影を両手でとっ捕まえる。
誰かの使い魔らしい、灰色の毛の猫だった。
口に何か咥えているようだと覗き込むと、猫を追っかけて猛ダッシュしてきた足音の主が、勢いを殺しきれず突っ込んでくる。
「うぎゃあっ」
「きゃああああっ」
アクセル全開のまま衝突してきたリディアに吹っ飛ばされ、俺は廊下の壁に後頭部を強打した。その拍子に壁がぱかっと口を開けて、もろとも壁の中に倒れ込む。
……くそ、猫にはいい思い出がない。
死ぬ原因になったのも、でかい猫を避けての事故だった。今度はこれか。
つかリディアてめぇは前見て走れ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる