ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第三章 悪役と主人公は対峙する

第6話 いざ第二のイベントへ

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「四時間目の魔術学でニコラ・ロウとリディアがバチバチにやりあったらしい」


 という噂は瞬く間に一回生の間に広まり、七限目の天文学が終わる頃には、俺はへろへろに疲れきっていた。
 それというのも、

「あのリディアとかいう落ちこぼれ、魔力もないのにバルバディアに入学できたなんてどういうことだろう?」

 はたまた、

「そもそも只人がこの学院に入学するということ自体がひどい侮辱だわ」
「魔法も使えないのにこの学院で何をどう勉強するつもりなのかしら? 不愉快ね」
「魔法使いを莫迦にしている」

 といった悪口雑言の数々が、リディアと対立した俺に寄せられるからだ。
 心の底からほっといてほしい。リディアに対して誰がどう俺に味方しようとどうでもいい。俺はやるならタイマンでやりたい。

 俺とリディアがギャンギャン罵り合うならまだしも、徒党を組んでリディアを攻撃しはじめたらそれはもうイジメだろ。
 いやニコラは悪役坊ちゃんだからリディアたちをいじめるのか?

 ……俺そういうのマジむりなんだけど。

「ニコラもリディアも目立つからねぇ」

 隣を歩くトラクも苦笑いだ。

「僕は家や兄のことがあるから否定はしないけど。リディアも目立つのか?」

「だって彼女、可愛いじゃん。表情ころころ変わって、明るくて元気だし、一般家庭出身の女子生徒たちとはけっこう仲良くやってるみたいだよ。只人だけど知識量はすごいんだってさ」

 可愛い……?
 そういう見方もあるのか。

「……アデルのほうは?」

「あっちは正反対。無愛想だし口数少ないしであんま友達いない感じかな。どうも同じ故郷からもう一人入学してるみたいだけど、そいつはダリアヴェルナ寮だから、アデル自身は孤立してる」

 情報屋みたいだな、こいつ。

「三人同郷なんて珍しいね」
「だからこそ不正入学じゃないかって話があるみたいだな。バルバディアに限ってあり得ない話だけど、まあ確かに只人が入学なんて前代未聞だしね。それも二人も」
「二人?」

 眉を顰めたが、直後に思い直す。
 日本で不幸な目に遭った少女と少年が、魔法の世界に迷い込む物語だ。二人とも当然元日本人で、魔力を体内に蓄積する仕組みをそもそも持たない。只人はリディアとアデルの二人だ。

 昼間の魔術学じゃ、アデルは普通に魔術を成功させたように見えたが。

「そう。アデルのほうは魔術でうまくやってるみたいだね。ダリア寮の一人は普通に魔法を使うそうだよ」
「……情報通だな」

 正直な気持ちで称賛すると、トラクは「それほどでも」とニッコリ笑った。

 ──ルームメイトくらい味方につけておけ、なんてルウには言われたけど……。

 寮生活にもだいぶ慣れてきたし、同室で時間割がかぶっているトラクとは行動を共にすることも多い。が、まだ味方と断言するまでの仲ではない。
 しかしリディアとの対立をきっかけにして一気に派閥ができそうな勢いだ。
 俺自身にニコラ派を作る気はこれっぽっちも一切全くないのだが、周りが放っておいてくれなさそうだし……。

 ああ、やめやめ、俺難しいこと考えるのキライ。

「……ちょっと寄り道して帰る」
「ニコラ? 大丈夫か?」
「一人で色々考えたいんだ、消灯までには戻るよ。エウに会ったら早く寝ろって言っておいてくれ」

 寮に戻る途中だった足を止める。
 確かこのあともリディア側でイベントがあるんだったな。肝心な詳細は「さあどうなる!?」とかって全然参考にならんかったけど。

 とりあえず即座に魔王軍に所属するわけでもないのだし、最初のうちは物語の通りにことを運んでも問題ないだろう。

「わかったー。エウフェーミアさんに贈るためのバラをダメにされて意気消沈してたって伝えておくから!」

「余計なことを! 言うな!!」

 トラクは楽しそうに笑いながら去っていった。
 ……全くあいつは。

 ローズ寮の近くまで戻ってきてはいたが、きびすを返して、四限目を過ごした例の隠し部屋へ向かった。

 バルバディア敷地内のそれぞれの校舎には、ベルティーナ創世神話の神々の名がつけられている。
 炎、水、風、地の四大元素。それから太陽、第一の月と第二の月──くじらと同じくらいびっくりしたのが、夜空に月が二つ浮かんでいることだった──自然を司る神々と、勝利や豊穣などの概念を司る神々。

 天海の諸島に宮殿を構えて、夜な夜な宴をしているというから羨ましいご身分だ。

 ちなみに精霊に力を借りるのと神に力を借りるのでは魔力の消費量が変わる。
 そのため神々の名を呼ぶ魔法は総じて上級魔法だ。

「鉱物学と薬草学はビュヒナー棟、魔法史と古ベルティーナ語がアロイシウス棟……。カタカナの名前ばっかで覚えづらいんだよなぁ」

 学院の授業は、夜間の星空観察が主となる天文学を除けば六限目までしかない。
 つまりこんな時間に寮の外を出歩いているのは、天文学帰りの学生かよっぽどの物好きだけだ。

 そう考えて油断していた俺は、遠くで聞こえた足音に身を固くした。

 別に消灯までまだ時間はあるから問題ないが、迂闊な独り言を聞かれるのはまずい。

「まぁぁぁてぇぇぇそこの猫ぉぉぉっ!」
「……あー、そうだったそうだった」

 このためにトラクと別れたんだった。

 実を言うとまだこの世界≒物語の世界という仮説をほんのちょっと疑っていたのだが、きちんと今日の原作イベントが起きていることを考えると、否定するのも難しいか。

 小さく溜め息をついて、廊下の角を曲がって飛び出してきた影を両手でとっ捕まえる。

 誰かの使い魔らしい、灰色の毛の猫だった。
 口に何か咥えているようだと覗き込むと、猫を追っかけて猛ダッシュしてきた足音の主が、勢いを殺しきれず突っ込んでくる。

「うぎゃあっ」
「きゃああああっ」

 アクセル全開のまま衝突してきたリディアに吹っ飛ばされ、俺は廊下の壁に後頭部を強打した。その拍子に壁がぱかっと口を開けて、もろとも壁の中に倒れ込む。

 ……くそ、猫にはいい思い出がない。
 死ぬ原因になったのも、でかい猫を避けての事故だった。今度はこれか。
 つかリディアてめぇは前見て走れ。
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