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第五章 期末テスト大騒動
第1話 き、期末テスト───!
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ヒュースローズ寮一回生
ニコラ・ロウ
アデル・サクマ
トラク
上記の三名は,消灯時刻を過ぎて許可なく外出したものとして,一週間の魔物飼育エリアの清掃を命じる.
場所:魔物飼育小屋
期間:第四の月 第三金紅日から鶏冠日まで
時間:五時~七時
寮監 アンジェラ・ドロテア
ローズ寮一階の玄関ホールにある掲示板には、寮監や教職員からのお知らせが掲示される。
たまに購買部の新商品入荷のチラシみたいなものも貼られるので、寮を出入りする際には掲示板をチェックするのが俺たちのお決まりだ。
そんな場所にババンと掲示された、アンジェラ先生からの処分。
やっちまったなぁ~~と腕組みをして見上げる俺の横で、なぜかエウが俺よりショックを受けていた。
「に、に、に、ニコ……」
「いやそんな世界の終わりみたいな顔しなくても。エウ落ち着いて。はい深呼吸」
アロイシウス棟四階の秘密部屋騒動から、早いものでひと月が経とうとしている。
なんといってもまずは、兄貴に対して冥界の悪魔を召喚し差し向けた、ホーディー少年の処罰が最優先だった。
生徒間のいざこざで呪ったり呪われたりというトラブルは、実は珍しいものではない。
ここは魔法学院で、優秀な子女が入学する。学院側は学びの機会を奪うことを良しとしないので、呪術関係の文献だって図書室にはある。三回生ともなれば呪いなんてお茶の子さいさいだ。
ただ今回は時期が悪かった。
昨年、魔王第一配下を名乗る者が出現したばかり。しかもトラクの噂話と小説本二巻の話の内容から見て、バルバディアの教員が魔王軍と契約していたという不祥事もある。そのうえ学生が悪魔を召喚なんて、さすがに外聞が悪すぎた。
ということで学院側の生徒指導委員会が紛糾。
連日連夜会議が行われ、魔法教会のお偉いさんや、果ては国王陛下まで意見を出し合い、ようやく先日処分が決定したところだ。
「退学だってね、彼」
俺がその情報を兄貴から仕入れたのと同じく、トラクもどこかから聞いてきたのだろう。
エウの背中をさすって深呼吸させる俺の隣に立つと、特になんの感慨もなさそうな眸で掲示板を見上げた。
「正確には、一年間の停学処分だろ。退学は本人の意向」
「結果は一緒さ」
「自業自得だ。兄上が気に入らないなら彼は決闘を申し込むべきだった。陰湿なことをやってないで正面からぶつかれば、兄上だって快くやつをボコボコにしただろう」
「なるほど」トラクは薄く口角だけで微笑む。
「プリンスって意外と好戦的なんだね?」
「なにを今さら。兄上は確かに物腰柔らかで、成績優秀で、基本的に温厚なお方だが、ヴェレッダ騎士団長の息子だぞ」
「愚問でした」
ちなみに俺は、ケンカは素手派という言い訳は措いても、剣の稽古で兄貴に勝てたことなど一度もない。
彼が今の俺と同い年のときには、すでに杖も必要ないほど魔法に熟達していた。悪目立ちするからと学院では杖を使用しているが、あの人はその気になれば杖も祈詞も必要ない。
なんというか、少年マンガとかでいう強キャラ先輩ポジなんだよな。
卒業後の進路について訊ねたことはないが、なんだかんだとリディアたちの力になって、魔王軍討伐隊とかそういうのに組み込まれそうだ。
ずるいキャラである。かっこいい。俺が読者なら兄貴を好きになるな。
「来月には期末テストなのに。忙しくなるね、ニコ……」
しょーんと落ち込んだ表情のエウの言葉に、俺はハッとなった。
き、期末テスト───!
そうだったそういえばそんなモンがあった!!
内心焦って冷や汗ダラダラだが、涼しい顔して「本当だね」とうなずいておく。
バルバディアは前期と後期制で、それぞれの期末に試験期間がある。
しかも二週間も。
それというのも試験方法が多く、授業によってペーパーテストだったり実技試験だったりレポート提出だったりするからだ。大規模なものでは一日がかりの実習試験なんてものもあるらしい。
日本の学校で受けていた、程々に勉強すればある程度の点がとれる定期テストとはわけが違うのだ。
現在、第四の月、第二鶏冠日。
休息日を二日挟んだ来週の頭から小屋掃除だ。
「来週が小屋掃除で、一週間してから期末考査か。なかなかハードスケジュールだなぁ」
トラクが溜め息をついた。
俺もつきたい。
トラクにバレないようにそっと遠い目になった俺の袖を、エウがちょこっと引っ張る。
「……また危ないことに首突っ込んじゃだめだよ」
「危ないことって……ないよ。さすがに」
「わかんないよ。入学してから、隠し部屋に閉じ込められたり、上級生の呪いに遭遇したり、ニコってばなんだか運が悪いんだから」
……まあ、確かに。
主人公組がトラブル続きなのはまだしも、俺にまでとばっちりがきているのは解せん。
でもなぁ。三巻から始まった魔法学院編は前期のテストで一旦おしまい、ってあいつも言ってたことだし。
期末テストが平和に終わる……なんて、あり得ないよなぁ。
◇ ◇ ◇
週明けの金紅日の朝いちばん、門限破りの三人は作業着に着替えて、魔物の飼育小屋に集合した。
朝五時。眠い。
暖かい時期なのがまだ幸いだったが、ここから五日間も四時起きが続くというのがなんとも辛い。朝食前だから腹も減った。
魔物の飼育エリアは、バルバディアの尖塔群を全て通り抜けた一番奥にある。
心ばかりの柵を設けた広大な牧草地をでんと構え、その手前にはいくつもの厩舎やゲージが並んでいる。
数十種もの魔物が飼育されているため普通に獣臭い。動物園みたいな臭いだ。
そんななか、ツナギ姿のアンジェラ先生が、デッキブラシ片手に仁王立ちした。
「門限を破り、身を守るためとはいえ人間を相手に杖を向け、ニコラ・ロウに至っては暴力沙汰……」
アンジェラ先生はローズ寮の寮監で、俺たちの魔法学Ⅰの担当教諭だ。専門は魔物の生態研究。ということで、飼育エリアの責任者となる。
ニコラ・ロウ
アデル・サクマ
トラク
上記の三名は,消灯時刻を過ぎて許可なく外出したものとして,一週間の魔物飼育エリアの清掃を命じる.
場所:魔物飼育小屋
期間:第四の月 第三金紅日から鶏冠日まで
時間:五時~七時
寮監 アンジェラ・ドロテア
ローズ寮一階の玄関ホールにある掲示板には、寮監や教職員からのお知らせが掲示される。
たまに購買部の新商品入荷のチラシみたいなものも貼られるので、寮を出入りする際には掲示板をチェックするのが俺たちのお決まりだ。
そんな場所にババンと掲示された、アンジェラ先生からの処分。
やっちまったなぁ~~と腕組みをして見上げる俺の横で、なぜかエウが俺よりショックを受けていた。
「に、に、に、ニコ……」
「いやそんな世界の終わりみたいな顔しなくても。エウ落ち着いて。はい深呼吸」
アロイシウス棟四階の秘密部屋騒動から、早いものでひと月が経とうとしている。
なんといってもまずは、兄貴に対して冥界の悪魔を召喚し差し向けた、ホーディー少年の処罰が最優先だった。
生徒間のいざこざで呪ったり呪われたりというトラブルは、実は珍しいものではない。
ここは魔法学院で、優秀な子女が入学する。学院側は学びの機会を奪うことを良しとしないので、呪術関係の文献だって図書室にはある。三回生ともなれば呪いなんてお茶の子さいさいだ。
ただ今回は時期が悪かった。
昨年、魔王第一配下を名乗る者が出現したばかり。しかもトラクの噂話と小説本二巻の話の内容から見て、バルバディアの教員が魔王軍と契約していたという不祥事もある。そのうえ学生が悪魔を召喚なんて、さすがに外聞が悪すぎた。
ということで学院側の生徒指導委員会が紛糾。
連日連夜会議が行われ、魔法教会のお偉いさんや、果ては国王陛下まで意見を出し合い、ようやく先日処分が決定したところだ。
「退学だってね、彼」
俺がその情報を兄貴から仕入れたのと同じく、トラクもどこかから聞いてきたのだろう。
エウの背中をさすって深呼吸させる俺の隣に立つと、特になんの感慨もなさそうな眸で掲示板を見上げた。
「正確には、一年間の停学処分だろ。退学は本人の意向」
「結果は一緒さ」
「自業自得だ。兄上が気に入らないなら彼は決闘を申し込むべきだった。陰湿なことをやってないで正面からぶつかれば、兄上だって快くやつをボコボコにしただろう」
「なるほど」トラクは薄く口角だけで微笑む。
「プリンスって意外と好戦的なんだね?」
「なにを今さら。兄上は確かに物腰柔らかで、成績優秀で、基本的に温厚なお方だが、ヴェレッダ騎士団長の息子だぞ」
「愚問でした」
ちなみに俺は、ケンカは素手派という言い訳は措いても、剣の稽古で兄貴に勝てたことなど一度もない。
彼が今の俺と同い年のときには、すでに杖も必要ないほど魔法に熟達していた。悪目立ちするからと学院では杖を使用しているが、あの人はその気になれば杖も祈詞も必要ない。
なんというか、少年マンガとかでいう強キャラ先輩ポジなんだよな。
卒業後の進路について訊ねたことはないが、なんだかんだとリディアたちの力になって、魔王軍討伐隊とかそういうのに組み込まれそうだ。
ずるいキャラである。かっこいい。俺が読者なら兄貴を好きになるな。
「来月には期末テストなのに。忙しくなるね、ニコ……」
しょーんと落ち込んだ表情のエウの言葉に、俺はハッとなった。
き、期末テスト───!
そうだったそういえばそんなモンがあった!!
内心焦って冷や汗ダラダラだが、涼しい顔して「本当だね」とうなずいておく。
バルバディアは前期と後期制で、それぞれの期末に試験期間がある。
しかも二週間も。
それというのも試験方法が多く、授業によってペーパーテストだったり実技試験だったりレポート提出だったりするからだ。大規模なものでは一日がかりの実習試験なんてものもあるらしい。
日本の学校で受けていた、程々に勉強すればある程度の点がとれる定期テストとはわけが違うのだ。
現在、第四の月、第二鶏冠日。
休息日を二日挟んだ来週の頭から小屋掃除だ。
「来週が小屋掃除で、一週間してから期末考査か。なかなかハードスケジュールだなぁ」
トラクが溜め息をついた。
俺もつきたい。
トラクにバレないようにそっと遠い目になった俺の袖を、エウがちょこっと引っ張る。
「……また危ないことに首突っ込んじゃだめだよ」
「危ないことって……ないよ。さすがに」
「わかんないよ。入学してから、隠し部屋に閉じ込められたり、上級生の呪いに遭遇したり、ニコってばなんだか運が悪いんだから」
……まあ、確かに。
主人公組がトラブル続きなのはまだしも、俺にまでとばっちりがきているのは解せん。
でもなぁ。三巻から始まった魔法学院編は前期のテストで一旦おしまい、ってあいつも言ってたことだし。
期末テストが平和に終わる……なんて、あり得ないよなぁ。
◇ ◇ ◇
週明けの金紅日の朝いちばん、門限破りの三人は作業着に着替えて、魔物の飼育小屋に集合した。
朝五時。眠い。
暖かい時期なのがまだ幸いだったが、ここから五日間も四時起きが続くというのがなんとも辛い。朝食前だから腹も減った。
魔物の飼育エリアは、バルバディアの尖塔群を全て通り抜けた一番奥にある。
心ばかりの柵を設けた広大な牧草地をでんと構え、その手前にはいくつもの厩舎やゲージが並んでいる。
数十種もの魔物が飼育されているため普通に獣臭い。動物園みたいな臭いだ。
そんななか、ツナギ姿のアンジェラ先生が、デッキブラシ片手に仁王立ちした。
「門限を破り、身を守るためとはいえ人間を相手に杖を向け、ニコラ・ロウに至っては暴力沙汰……」
アンジェラ先生はローズ寮の寮監で、俺たちの魔法学Ⅰの担当教諭だ。専門は魔物の生態研究。ということで、飼育エリアの責任者となる。
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