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第五章 期末テスト大騒動
第7話 オルテガ迷路攻略(1)
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金紅日一限の魔法学Ⅰ(R)は飛ばして、二限目の魔法史Ⅰから俺たちの初めてのテストが始まった。
歴史は得意だ。
ニコラとして生まれて以降、このベルティーナ王国や周辺諸国の歴史をファンタジー小説代わりに読んでいた俺である。
アキ先生の授業は、最初のガイダンスでも言われたように『通常語られない歴史』や『一般の国民にはすでに忘れられた歴史』を多く扱った。とはいえ歴史の勉強法は、こっちも日本も変わらない。
まず何よりも地図と地形の把握。
歴史をなぞって色々教わったって、その出来事がどこで起きたのか、どのような位置関係で関わり合うのかが解らなければ定着しない。
次に、常に流れを意識すること。
その出来事がなぜ起きたのか、それがどのように影響して次の事件が起きるのか。特に国史は人間の動きによって作られるものだから、因果関係まで覚えておかないと記述問題には対応できない。
……というのが、中・高と政宗に叩き込んだ歴史の勉強法だ。
あいつ、頭よさそうな見た目のくせに、成績はいつも下から数えたほうが早かったからな。
「眼鏡キャラは頭がいいという風潮を絶対に許さない」って常々ぼやいていたことを憶えている。ンなことしてる暇あったら勉強しろっつって、教科書開いて勉強教えたっけ……。
などと懐かしい記憶を辿りつつ、三限に数学、四限に古ベルティーナ語。
五限の魔法薬学基礎は、一週間後に実習試験が行われる。
そんな具合に、俺は比較的余裕で。
エウを始めとする、学校に通ったことのない貴族組はひーひーいいながら。
一般家庭出身組は、学校には通っていたけれども、バルバディア式に目を回しながら。
最初の五日間を終えて、第一休息日のほたる日を迎えた。
他寮の魔法学Ⅰでも、同じように今日、別々の演習場で迷路攻略のテストを行う。
オルテガ演習場に集合した俺たちはまず、自分たちが何組目に属するかを教えられた。ペアは出発直前に発表されるらしい。一組目はそのままテストを開始したが、以降の生徒はまた自分の開始時間に集合するよう言われている。
「エウは五組目か。ミーナも一緒なんだね」
「うん。ミーナとペアだったらやりやすいなぁ」
俺は、もう予想通りすぎてなんの驚きもなかったが、リディアと同じ三組に名前があった。
ちなみにアデルは一組目で、トラクは二組目。
時間がくるまでエウと食堂でのんびりしてから、俺は演習場へ戻った。
先に試験を終えた生徒の姿もちらほら見えていたが、試験内容を洩らそうものなら関係者全員即落第なので、お互いに会話すら避けて通るような状態だ。
オルテガ演習場はバルバディア尖塔群の東側にある。野球場みたいな構造をしていて、普段は上級生の高位魔法の訓練で使用されることが多い。
しかし今日は、石造りの壁の上に、こんもりと緑が茂っているのが見えていた。
「迷路に改造、だもんなぁ。木属性の魔法で壁を作ってるんだろうな……」
こんなクソデカ迷路、普通にやっても一時間でゴールまでたどり着けるかどうか。
だというのにチェックポイントを可能な限り回収しろとか、先生の仕掛けた妨害魔法があるとか。無理ゲーじゃねーか。
俺と同じように途方に暮れた表情で迷路を見上げる生徒が、一人、また一人と迷路の入口に集まってきた。緊張するなーとか、頑張ろうなーとか、適当にそんな会話をして時間をつぶす。
最後にリディアがばたばたと駆け寄ってきたところで、アンジェラ先生は胸元から羊皮紙を取り出した。
「それではペア割りを発表する。第一コース、ニコラ・ロウとリディア」
「えええぇぇぇっ!?」
「…………」
でしょうねー。
俺とリディアが同じ組って時点でそうだと思ったわ。お約束だわ。虚無の目になる俺の横でリディアがわなわなと震えているが、アンジェラ先生に睨まれて大人しくなった。
「わたしの決めたペアに何か問題でも?」
「とんでもございません……」
「よろしい」
そーだそーだ。木端微塵にされたくなきゃ、黙ってアンジェラ先生に従え。
あの二人がペアってアンジェラ先生本気?──という他のハウスメイトたちの視線をひしひしと感じつつ、俺とリディアはスタート地点に立った。
入り口は四か所。最初に名前を呼ばれた俺たちは、左端の第一コースを行く。
「ルールは今朝も説明したな! 迷路を攻略するためのあらゆる魔法の行使を認めるが、他ペアを故意に妨害したと認められたらその時点で失格だ。国王陛下と妃殿下もこの試験をご覧になっているぞ。バルバディア生の名に相応しい健闘を祈る!」
ごぉぉぉん、と演習場に設置されている大鐘が鳴った。
他のペアたちが駆け足で迷路に突入していくのを横目に、俺とリディアはなんとなく顔を見合わせて、距離を取りつつゆっくりと歩きだす。
早速どっかのコースから「ギャアアアア」と悲鳴が聞こえた。何らかのトラップに掛かったらしい。
迷路の壁はやはり樹木魔法で作られている。
二メートルほどの高さの生け垣が延々続いているようだ。
「おい」
「なによ」
「装備を確認する。そのカバンの中身を見せてもらおうか」
魔術を使うアデルとリディアには、杖以外のものの持ち込みが特別に許可されている。
彼らは準備している触媒に対応する魔術しか使えないので、こっちが装備を把握しておくのはわりと大事だ。アロイシウス棟でアデルに助けられて学んだ。
「まあ確認したところできみの魔術には期待していないけど……」
「仰る通り、期待されても困るんだけどね!」
威張んな。
「私もアデルも、触媒は五種類までって先生に言われたの。ニビタチバナの樹液、ハルベリーの乾燥粉末、ミヤコウツギの乾燥粉末がそれぞれ小瓶二本、ほたる石が五個、それと止血剤」
「止血剤? 流血沙汰にはさすがにならないと思うけど」
「わかってるわよ、うっさいなー!」
リディアはぷいっと顔を逸らす。あーはいはい。うっさくてすいませんね。
成績優秀なほうという自負のある俺も、とんと縁のなかった魔術に関しては不明なことも多い。リディアの持ってきた触媒が何に作用するのかも謎だ。
だが、そもそもこいつが魔術を成功させているところを見たことがない。
ので、過度な期待はしないでおく。
歴史は得意だ。
ニコラとして生まれて以降、このベルティーナ王国や周辺諸国の歴史をファンタジー小説代わりに読んでいた俺である。
アキ先生の授業は、最初のガイダンスでも言われたように『通常語られない歴史』や『一般の国民にはすでに忘れられた歴史』を多く扱った。とはいえ歴史の勉強法は、こっちも日本も変わらない。
まず何よりも地図と地形の把握。
歴史をなぞって色々教わったって、その出来事がどこで起きたのか、どのような位置関係で関わり合うのかが解らなければ定着しない。
次に、常に流れを意識すること。
その出来事がなぜ起きたのか、それがどのように影響して次の事件が起きるのか。特に国史は人間の動きによって作られるものだから、因果関係まで覚えておかないと記述問題には対応できない。
……というのが、中・高と政宗に叩き込んだ歴史の勉強法だ。
あいつ、頭よさそうな見た目のくせに、成績はいつも下から数えたほうが早かったからな。
「眼鏡キャラは頭がいいという風潮を絶対に許さない」って常々ぼやいていたことを憶えている。ンなことしてる暇あったら勉強しろっつって、教科書開いて勉強教えたっけ……。
などと懐かしい記憶を辿りつつ、三限に数学、四限に古ベルティーナ語。
五限の魔法薬学基礎は、一週間後に実習試験が行われる。
そんな具合に、俺は比較的余裕で。
エウを始めとする、学校に通ったことのない貴族組はひーひーいいながら。
一般家庭出身組は、学校には通っていたけれども、バルバディア式に目を回しながら。
最初の五日間を終えて、第一休息日のほたる日を迎えた。
他寮の魔法学Ⅰでも、同じように今日、別々の演習場で迷路攻略のテストを行う。
オルテガ演習場に集合した俺たちはまず、自分たちが何組目に属するかを教えられた。ペアは出発直前に発表されるらしい。一組目はそのままテストを開始したが、以降の生徒はまた自分の開始時間に集合するよう言われている。
「エウは五組目か。ミーナも一緒なんだね」
「うん。ミーナとペアだったらやりやすいなぁ」
俺は、もう予想通りすぎてなんの驚きもなかったが、リディアと同じ三組に名前があった。
ちなみにアデルは一組目で、トラクは二組目。
時間がくるまでエウと食堂でのんびりしてから、俺は演習場へ戻った。
先に試験を終えた生徒の姿もちらほら見えていたが、試験内容を洩らそうものなら関係者全員即落第なので、お互いに会話すら避けて通るような状態だ。
オルテガ演習場はバルバディア尖塔群の東側にある。野球場みたいな構造をしていて、普段は上級生の高位魔法の訓練で使用されることが多い。
しかし今日は、石造りの壁の上に、こんもりと緑が茂っているのが見えていた。
「迷路に改造、だもんなぁ。木属性の魔法で壁を作ってるんだろうな……」
こんなクソデカ迷路、普通にやっても一時間でゴールまでたどり着けるかどうか。
だというのにチェックポイントを可能な限り回収しろとか、先生の仕掛けた妨害魔法があるとか。無理ゲーじゃねーか。
俺と同じように途方に暮れた表情で迷路を見上げる生徒が、一人、また一人と迷路の入口に集まってきた。緊張するなーとか、頑張ろうなーとか、適当にそんな会話をして時間をつぶす。
最後にリディアがばたばたと駆け寄ってきたところで、アンジェラ先生は胸元から羊皮紙を取り出した。
「それではペア割りを発表する。第一コース、ニコラ・ロウとリディア」
「えええぇぇぇっ!?」
「…………」
でしょうねー。
俺とリディアが同じ組って時点でそうだと思ったわ。お約束だわ。虚無の目になる俺の横でリディアがわなわなと震えているが、アンジェラ先生に睨まれて大人しくなった。
「わたしの決めたペアに何か問題でも?」
「とんでもございません……」
「よろしい」
そーだそーだ。木端微塵にされたくなきゃ、黙ってアンジェラ先生に従え。
あの二人がペアってアンジェラ先生本気?──という他のハウスメイトたちの視線をひしひしと感じつつ、俺とリディアはスタート地点に立った。
入り口は四か所。最初に名前を呼ばれた俺たちは、左端の第一コースを行く。
「ルールは今朝も説明したな! 迷路を攻略するためのあらゆる魔法の行使を認めるが、他ペアを故意に妨害したと認められたらその時点で失格だ。国王陛下と妃殿下もこの試験をご覧になっているぞ。バルバディア生の名に相応しい健闘を祈る!」
ごぉぉぉん、と演習場に設置されている大鐘が鳴った。
他のペアたちが駆け足で迷路に突入していくのを横目に、俺とリディアはなんとなく顔を見合わせて、距離を取りつつゆっくりと歩きだす。
早速どっかのコースから「ギャアアアア」と悲鳴が聞こえた。何らかのトラップに掛かったらしい。
迷路の壁はやはり樹木魔法で作られている。
二メートルほどの高さの生け垣が延々続いているようだ。
「おい」
「なによ」
「装備を確認する。そのカバンの中身を見せてもらおうか」
魔術を使うアデルとリディアには、杖以外のものの持ち込みが特別に許可されている。
彼らは準備している触媒に対応する魔術しか使えないので、こっちが装備を把握しておくのはわりと大事だ。アロイシウス棟でアデルに助けられて学んだ。
「まあ確認したところできみの魔術には期待していないけど……」
「仰る通り、期待されても困るんだけどね!」
威張んな。
「私もアデルも、触媒は五種類までって先生に言われたの。ニビタチバナの樹液、ハルベリーの乾燥粉末、ミヤコウツギの乾燥粉末がそれぞれ小瓶二本、ほたる石が五個、それと止血剤」
「止血剤? 流血沙汰にはさすがにならないと思うけど」
「わかってるわよ、うっさいなー!」
リディアはぷいっと顔を逸らす。あーはいはい。うっさくてすいませんね。
成績優秀なほうという自負のある俺も、とんと縁のなかった魔術に関しては不明なことも多い。リディアの持ってきた触媒が何に作用するのかも謎だ。
だが、そもそもこいつが魔術を成功させているところを見たことがない。
ので、過度な期待はしないでおく。
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