ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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幕間 俺とロウ家と主人公組

閑話・とある爆発魔のひとりごと

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 ロロフィリカ、ロロフィリカ、ロロフィリカ!

 やばい、どうしよう!
 先生がね、あっ先生っていうのはイルザーク先生のことなんだけど、ギルバート先輩に相談して、先輩の知り合いに魔術を教えてくれるようお願いしてくれたんだって。
 今度の天青日にギルバート先輩のおうちにお邪魔することになったの、どうしようヤバイ緊張する!

 いや、アデルも一緒だし先輩に魔術を教わるわけじゃないんだけどね。
 あああ~~~無意味に緊張する~~~まさか長期休暇中にまで先輩にお会いできるなんて! 意味がわからない! 槍が降るかもしれない!

 どんな人が教えてくれるのかまだ何も知らないんだけどさ、どうにか魔術が使えるようになればいいな。じゃないと本当に、卒業に何年かかるかわかんない……。

 とにかく、また手紙書くね! ロロフィリカもいいお休み過ごしてね!

    リディアより


   ◇  ◇  ◇


 ベルティーナ王国東南部のオーレリー地方が港町、ルフ。
 町を見下ろす高台に立てられた豪華な邸宅の前に、リディアとアデルは立ち尽くしている。
 二人を空間転移魔法でここに連れてきた師イルザークは、〈暁降ちの丘〉へ行ってくると言い残し、影に潜んで消えた。魔王の封印の様子を直に確かめたいそうだ。

 にこやかに迎えてくれたギルバート・ロウは、休暇中だというのに相変わらずキラキラ王子さまオーラを纏っていた。

「二人とも、遠いところをご苦労さま」

 人当たりは柔らかく、身のこなしにも隙が無い。これはもう生まれ持っての資質なのだろうな。
 ほうっと見惚れそうになるリディアの背中を、隣のアデルが痛くない程度に抓った。
 ……わかってるってば。

「こちらこそ、今日はお世話になります。これ、お土産というか、おやつです」
「わあ、ありがとう。あとでみんなでお茶にしよう」

 リディアの差し出したバスケットを受け取ると、ギルバートは横にいた青年にそれを手渡した。
 確かロウ家の馬車の馭者をしていた人だ。ギルバートの執事さんだろうか? 

「こちらはシリウス。ロウ家の使用人で、きみたちと同じく魔力を持たない。今日のリディアさんの先生を務めてもらうことになっているよ」

 さらっとした緋色の髪の毛に、思慮深い常葉色の双眸。軽く会釈してくれたその様子からは、バルバディア魔法学院で身分を笠に着て威張り散らしているような生徒よりも、よっぽど賢そうに見える。

 それなのに、彼は『只人』なのか。
 なんだか意外だった。……意外だと思った自分を、恥じた。

わたくしでお力になれるかどうか判りませんが……」
「いえ! 本当にサッパリ魔術が使えないので、他の人が魔術を使うところを見せてもらえるだけで勉強になります!」

 只人はただでさえ数が少ない。
 リディアとアデルがこの世界に迷い込んですでに六年半が経つが、本当に魔力を持たないただの只人に会うのは初めてだった。

 そもそも、只人がまともに生きられない。
 大抵は生まれてすぐに殺されるか、捨てられ、大人になる前に貧民街や道端で命を落とす。魔術学でそう学んだ。

 中庭に案内されたあと、そういえばギルバートの弟だったニコラと鉢合わせて微妙な感じになったものの、とにかくシリウスによる魔術講座がスタートした。

 まずリディアの魔術が爆発するところを見てもらうことになった。

 ギルバートの目の前で堂々と失敗するのも恥ずかしいが、普段全然話をしないアデルとニコラがこういうときばっかり結託するのがさらにムカつく。
 なんか、まあ、学院で嫌みったらしくケンカ売ってくるニコラより全然マシだけども。

 ふむ、と顎に手を当てたシリウスに連れられ、リディアは魔法使いたちから距離を取ったところで座り込んだ。

「リディアちゃんって、ニコと同い年だったよな。十五?」

 急に砕けた口調になったシリウスに、目を白黒させる。
 しかし正直、助かった。
 明らかに年上の彼に丁寧語を使われるのは、庶民のリディアにはなんとも居心地が悪いのだ。

「誕生日がこの間だったから、十六です」

「あー敬語いらね。リラックスして話せよ。な、ニコって学院でどんな感じなの? あいつ全然手紙寄越さねぇから、ギル坊ちゃん情報しかわかんねーんだよ」

「どんな感じって……。私が魔術を失敗するたびにこれ見よがしに溜め息つくし、嫌味言うし、っていうかそもそも初日からケンカ売られたし、あんまり仲良くないからよくわかんない。……まあ、期末テストのときは助けてもらった部分もあるから、嫌なところばっかりじゃないんだろうけど」

 そう、それが、リディアのニコラに対する感情の全てだった。
 第一印象は最悪だ。そして今のところ仲は悪い。だけど、徹底的に嫌なやつかというとそうじゃない……。

 するとシリウスは顔を顰めて舌打ちを洩らした。
 お勤めする家の次男をけなしたのはやっぱりまずかったかと身を竦めるが、予想に反して彼は「なにやってンだあいつ」と、ニコラに対する悪態をつく。

「女イジメるとかガキかよ」
「いや、いじめっていうか……私も大概言い返してはいるけど。シリウスさんって、ニコラと仲良いの?」
「仲良いっつーかオレあいつの従者ヴァレットだもん」

 ……え?
 ニコラの従者が、只人?

「あいつ、只人の社会的地位を是正するとかいう大それた目標がおありでな。リディアちゃんにとってはムカつく坊ちゃんだろうけど、あんなんでも一応オレの恩人だったりするんだよ」

「……あの人は、只人が嫌いなんだと思ってた……」


 でも、……ああ。
 なんだか、わけもなく泣きそうになった。


 半年前、魔術学の授業でニコラは怒った。
 花の一輪を恵んでもらうくらい港町の悪ガキにだってできる。リディア以上に魔術が使えて、それでも不当に虐げられ、教育を受けられない人がこの国に一体何人いると思っている──と。


 彼の純粋で真っ直ぐなリディアに対する怒りは、シリウスを想う気持ちで形作られていたのだ。


「でも、そうね、確かに……あの人は一度だって、私を『只人だから』という理由で虐げはしなかった気がするわ」

 恩人。
 リディアやアデルにとっては師イルザークがそうであるように、シリウスにとってはニコラが大切な存在なのだろう。

「うん、まあでも女の子相手にギャーギャー嫌味言う時点でクズだよ。あとでブン殴っとくな」
「あれっ? 恩人とは?」

 なんかさらっと物騒な言葉が聞こえたような。

 にこっと爽やかに笑っていたシリウスは、少し離れたテーブルで、アデルを囲うロウ兄弟に視線をやった。

 あ、あの極度の人見知りでぶっきら棒なアデルが、ギルバートとちゃんと会話している。珍しい。さすがギルバート先輩。

「魔術が使えないからって、人を扱き下ろすようなやつじゃなかったはずなんだけどな……。なんか企んでんのかな、あいつ」

「企んでる……?」

「あるいはそうする必要がある、か。……無意識にケンカ売ったり、胸糞悪いモン見たときは手段を択ばなかったりもするんだが、女の子相手にやたら攻撃的になるってのは『らしくない』。あいつ女子どもには基本優しいし」


 ニコラが、優しい…………?


 ちょっとリディアには理解できない発言だが、そう言われて普段の振る舞いを思い返せば、彼はリディアとアデル以外に対しては物腰柔らかで穏やかだ。

 秘密部屋に閉じ込められたとき。
 アロイシウス棟での一件。
 罰則掃除の期間中にアデルが倒れたときは、嫌味の一つも覚悟したけれど、そういえばなにも言われなかった。
 期末テストのオルテガ迷路、それに深奥の森で四回生に追われ、戦ったときも。


「……えっ、もしかしてニコラって普通にいいやつ?」


「いや、だからリディアちゃん相手にギャーギャー嫌味言う時点でクズだってば。なに企んでんだか知らねえが、他人を傷つけていい理由にゃなんねーよ。あとでボコっとくから」

 ……恩人とは?

 ニコラを尊敬し尊重しつつも容赦ないシリウスにちょっと戸惑いつつ、続いて魔術の話題に移った彼に、リディアは苦笑いを返した。


 ……よく解らない人だわ、ニコラ・ロウって。
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