ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第六章 猫かぶり坊ちゃんの座右の銘

第8話 魔法暴力反対

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「……話が違げーぞ、リシ」
「ギルの弟だから人助けが趣味なのかと思って、好意的に解釈してしまったようだね」
「いやこいつもお人好しではあるんだけどな」

 二人のテンポについていけず「誰がお人好しだ」とぼやいたら、ルウに頭を引っ掴まれた。

「おまえだよおまえ。女子生徒の私物を盗んで『ニコラに指示された』とか嘘八百ほざいた犯人を、誰にも報告せずに無罪放免としたおまえのことだ!」
「誰にも言ってないのになんで知ってるんだよ……」
「俺らの情報網なめんな。まあこの際、細かい事情はどうでもいい!」

 ルウは制服のベルトに挟んでいた杖を取り出す。
 手の中でくるくると遊ばせながらリシを見ると、彼女は小さく息を吐いて赤い唇を開いた。

「エドマンドたちとは一回生の頃、しばらくやり合っていてね」

「……リシ先輩が、ですか?」

「主にはルウがだ。元々素行の悪かったエドマンドとメダルドが結託し、気の弱い同級生に絡んだり恫喝したりとやりたい放題だった。我慢ならなかったルウが正面切ってケンカを売ったことで、あいつらの標的はルウになった。それが一年ほど続く」

 うーん、なるほど。筋金入りで性質が悪いやつらなんだな。
 続きを引き取ったのはルウだ。

「で、二回生前期のテストでギルがエドマンドをコテンパンに伸したんだ。剣術のテストでエドマンド相手に、そりゃもう遊んで遊んで転ばせて、最後に剣の平で鳩尾ぶん殴った。終始あの笑顔で」

「あの人畜無害すぎてかえってちょっと胡散臭い笑顔で?」

「そうだ。怖いだろ。エドマンドもそれ以降大人しくなった」

 さ、さすが兄貴……。強キャラポジなだけある。
 感心すると同時に途方に暮れていると、ルウはびしっと俺に人差し指を向けた。なんとなく避ける。
 ほら、魔法使いの指って杖と同じだから。

「ということでニコ! おまえは今日から特訓だ!」

「なんの。剣の?」

「いーや違う。とりあえず対魔法防御の習得だ。防御できれば、少なくともエドマンドたちの魔法によるイタズラは無効化できるからな」

 リシお姉さままで杖を構えた。すらりと長い透明の杖のはずだが、なぜか剣に見えてしまうのは、この人の刃のような雰囲気のなせる業か。

「無効化って、無効化? 弾いたりするわけではなく?」

「そうだよ、だから安心したまえ。周りに被害が及ぶのが気になって、今までバカ正直に転んだり水をかぶったりしていたんだろう?」

 否定はしない。エウに宣言した通り、トラクがずっと傍についてくれたからだ。やろうと思えば対抗できたかもしれないが、すると今度はあいつが標的になるだろうなと感じた。素行不良なやつらの思考なんて単純なんだよな。

 でも恥ずかしいから肯定もしません!

 無言で杖を取り出した俺を見て、ルウがにやっと口角を上げる。

「魔力感知はできるんだろ? あれと似た高位魔法だ。まずは足元に魔力を展開、それを障壁として盾にする。障壁にぶち当たった相手の魔力を消滅させる。鏡のイメージにすると反射するからそこだけ気をつけろ」

 魔力を足元に展開して盾にする? なに言ってんだコイツ。
 意外とこっちの魔法って理屈っぽくて困るんだよなーと眉を顰めると、容赦ないルウの水魔法が顔面にぶち当たった。

「うわっ」
「ぼーっとすんな。杖を構えろ」

 ……なんか、エドマンドたちのイタズラより威力あるんですけど。

 じとりとルウを睨みつけると、今度はリシの背後に夥しい数の花びらが現れる。同時に起こした風魔法に巻き込まれて、彼女の周りをふわふわと漂った。
 うわ、花魔法。告白とかプロポーズとか記念日に重宝するやつ。こんな使い方もできるのか。

 呑気に見惚れる俺に、何百枚もの花びらが襲い掛かる。顔や体にぺたぺた貼りつき、重なり、まとわりついて段々身動きが取れなくなってきた。「ギャアアアなんだこれ」と思わず叫んだ口のなかにも花が侵入してくる。

 いや花魔法怖っ。
 てか特訓方法荒くねえ!?

 とりあえず花びらの渦から走って逃げると、リシが杖を振って解放してくれた。つむじ風に乗ってぐるぐると渦をつくる花びらがもはや恐ろしい魔物にしか見えない。

「逃げるな、ニコラ。なんのための特訓だと思ってる?」
「早く成功させろよ。俺もリシも遠慮なく攻撃するぜー」

 対魔法防御。便利そうだ。魔王復活の儀式にちょっかいをかける予定があるわけだから、多少は魔法の戦いにも慣れないといけないとは思っていた。上級生に負けてるようじゃ、魔王軍になんて手も足も出ないのは解りきってるしな。

 ……俺のことを心配してくれてるんだということは、わかるんだけど。
 でも死ぬ前に一言だけ吠えておきたい。

「魔法暴力反対っ!!」


   ◇  ◇  ◇


 政宗が言ってた。
 有名な某週刊少年誌では、「友情」「努力」「勝利」という大きなテーマがあるといわれているわけだけど、読者が求めているのは結局のところ「友情」と「勝利」だけなんだってさ。


 ルウとリシの特訓は、むしろエドマンドたちのちょっかいよりも激しかった。

 続けざまに放たれる様々な魔法。
 最初こそ水と花から始まったが、俺がなんとなくコツを掴み始めると、石が飛んできたり樹で追いかけられたり風で吹き飛ばされそうになったりとエスカレート。おかげで魔法障壁は反射的に出せるようになった。代わりに生傷も絶えなかったけど。


 授業や食事は別々に。ローズ寮のなかではいつも通りお喋りしよう。そう言い聞かせていたエウが俺のシャツを掴んだのは、嫌がらせを受け始めてから三週間ほども経った休息日のことだった。

「ニコ、あのね」
「ん?」

 昼食を終えて戻ってきた寮のなか、いつもより人影の少ない談話室だ。

「今日なにか予定、ある?」
「特にないけど。どうかしたのか?」

 ゆるく波打つシルバーブロンドを珍しく三つ編みにして、お嬢さまっぽいワンピースに身を包んだお休みモードのエウは、なにやらぱちぱちと瞬きしながら目を伏せる。
 んだコラ可愛いなこの小動物め。

「あのね、行きたいところがあって。おやつも作ったから、一緒に行こ?」
「……ここでおやつ食べるんじゃ駄目なのか?」

 エウの顔を覗き込んで諭すように訊ねたが、「だめなの」と譲らない。
 そんな俺とエウのやりとりを、ちょっと離れたところでロロフィリカやミーナたち女子がじぃぃぃっと見ている。トラクもなぜかその輪のなかにいる。

 んー、と若干渋る俺にエウがうつむいた。

「わ、わがままでごめん」
「渋る理由も解ってて言ってるんだろう?」
「うん。ごめんなさい。や、やっぱりわたし……」

 背後から「おいこらニコラ!」「なにエウフェーミア泣かせてるのよ!」「ニコラの意気地なしー!」という野次が小声で飛んできたが無視。
 黙っとれヴォケと睨みたいのはやまやまだが、一応お坊ちゃまモード続行だ。
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