ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第六章 猫かぶり坊ちゃんの座右の銘

第10話 ケンカは素手派

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「そろそろ音を上げる頃かと思ってわざわざ出向いてやったんだが、婚約者とお昼寝デートたぁ、まだまだ余裕そうだな?」
「音を上げるとは……ああ、あのクソしょーもねぇイタズラは先輩方の仕業でしたか!」

 わざとらしく笑って煽る俺に、エドマンドの蟀谷がひくりと動いた。

「……今のうちに、地べたに頭擦りつけて誠心誠意謝罪すりゃ、やめてやってもいいんだぜ?」

 とかいって、土下座してるとこ写真に撮って、「バラ撒かれたくなけりゃ言うことを聞け」っていうのが定石なんですね、わかります!
 わかるぜエドマンド、おまえの単純な思考回路が手に取るように!

「あはははは、誰が謝罪なんぞしますか、こんな悪辣ないじめっ子に頭下げるなんてそれこそ末代までの恥ですよ。先輩方のほうこそいい加減にしてはいかがですか? あの程度のイタズラごときに屈するニコラ・ロウではありませんよ。兄上に剣術のテストでボッコボコにやられたロシェット先輩ならよくおわかりでしょう?」

「てめえ!」と杖を振ったのは一番奥にいたやつだ。見た目の特徴はロロフィリカから聞いたメダルドのものと一致している。
 矢のごとく飛んできた水の塊は、当然、俺に触れるより先に見えない壁に無効化された。

「こうして直接来たということは、嫌がらせもネタ切れですか? 魔法はもう効かないですよ。僕の対魔法防御を破れるくらい、あなた方の魔法が強いなら話は別ですけど……そうは見えないし」

 こういうやつらは下手に口調が荒いより、丁寧に煽られるほうがよっぽどカチンとくるはずだ。
 努めて穏やかにケンカを売り続けていると、エドマンドが口の端を引き攣らせて、後ろにいた四人に「やれ」と呟いた。

 お、よしよし。乗ったな。
 引き続きにこやかに、まだ脚が痺れて動けない小動物を振り返る。

「エウ、もしものときは自衛の魔法を使うんだよ、いいね? 一分で終わるからねー」
「ニコ、後ろ、うしろ!」

 がつん、と頬を殴られた。
 金髪碧眼の美少年が宙を舞うさまを想像していたメダルドが、「あ?」と間抜けに口を歪める。一歩も動かず、左頬に頂いた拳をしっかり掴んで、もう一回エウを振り返った。

「……なんだコイツ放せよ! 力強ぇなオイ!!」
「はあ!? 何言ってんだメダルドあほか……」
「エウ見た?」
「み、みたっ……え、なにを!? ニコ大丈夫!?」
「先に手出したの、こいつらだよな?」

 思わず駆け寄ろうとしたのか、なぜかエウは四つん這いになっている。立とうとしたけどやっぱり脚が痺れて無理だった、ってとこか。あの状態のときにつつかれたら殺意湧くんだよなー。

 横から後頭部を両手で掴まれた。
 無理やり下に引っ張られて、眼前に膝が迫る。これはさすがに掌で顔をガードしたが、派手にごしゃっと音がしたのでエウの悲鳴が聞こえた。

「ニコ……!」
「あー平気平気。あとでちゃんと先生に証言してくれよ、ニコラは正当防衛ですーって」
「する! するから前見て……!」
「よし」

 目撃者の証言確保。殴られた痕跡もゲット。前々からこいつらに嫌がらせを受けてたのは、周りにいる色んなやつらが知っている。エドマンドたちに脅された生徒も、特にお咎めなしで見逃してやったからには敵に回ることもあるまい。

 二発もらっても平然とエウに声をかける俺に、ようやくメダルドたちが「なんかおかしい」と感じ始めた。

 にこーっと笑いながら右拳を握りしめる。

「おい、こいつただの貴族の坊ちゃんなんじゃねえのかよ!? エドマンド!?」

 ハハハハハ残念だったなクソガキども!
 こちとら生まれる前から筋金入りで、ケンカは素手派だっ!!




 ……とはいえあんまりやりすぎると過剰防衛になるので、一人二発まで入れて地べたに這い蹲らせたあと、樹木魔法を使ってぐるぐる巻きの芋虫にしてやった。
 この間、俺がジェラルディンにやられたのと同じ状態だ。はっはっは。いまの俺だいぶ悪役っぽい。

 メダルドたちをぶっ飛ばしたあとエドマンドも出てきたが、呆れるほど弱かった。魔法や身分や威圧的な物言いでマウントを取っていたばかりで、ケンカ慣れしているわけではないらしい。
 かくいう俺もこういうのは久々なので、明日は右腕が筋肉痛かもしれない。

「あー、一仕事した」

 よく働いた右腕を揉みながら手首を回していると、このなかでは一番手応えのあったメダルド芋虫が喚く。

「くそ、なんなんだよおまえ、なんで貴族のボンボンのくせにケンカ慣れしてんだよ……!」
「世の中いろんな坊ちゃんがいるってことですよ。貴族のボンボンのくせにヤンキーやってるロシェット先輩と一緒です」

 芋虫五匹を蹴りつけて一か所にまとめる。
 個人的にはこのままパンツ一丁に引ん剥いて手近な木にでもブラ下げて『僕たちは魔法や暴力で弱い者いじめをする人間のクズですもうしませんごめんなさい』と張り紙してやってもよかったが、さすがにエウフェーミアの教育に悪いので弁えた。

 歩けるようになったエウが断固として「先生を呼んでくる」と譲らなかったので、現在それ待ちだ。
 エドマンド芋虫の上にどかっと腰を下ろして、視線だけで俺を殺そうとしているやんちゃ坊主にフフンと笑う。

「いいですか、ロシェット先輩。今後僕の見える範囲や聞こえるところで胸糞悪いことをしていたら、あるいはリベンジなんて考えようものなら本気を出します」

 あくまで丁寧に、あくまで穏やかに。
 あの人畜無害っぷりが高じて逆に狡猾な兄貴の、ちょっと胡散臭いくらいきれいな笑顔を心がける。

「あなたがたには決して気取られない方法で、背後から狙います。水だの風だの、わかりやすい魔法は使ってあげません。あなたがたの心が折れるまで徹底的に潰します。僕は兄上ほど人が善いわけじゃないですからね」

 別にそんな暗殺者みたいな手法知らん。が、大事なのはこのやんちゃ坊主たちが、二度と弱い者いじめしようなんて思わないように叩き潰すこと。

 貴族の甘ったれ坊ちゃんだと思い込んで突いたニコラ・ロウに、手痛いしっぺ返しをくらったという記憶を刻みつけることだ。


 力で他者を威圧する輩には、それを上回る“力”が一番効く。結局のところ。


 ただこれは誰でもできることじゃないし、していいことじゃない。“力”を振りかざすほど反発は強くなるものだ。平和的解決が一番に決まっている。力以外で他人とわかり合うために、人は言葉を得たのだから。

 だからこれは俺の役目だ。
 リディアでもアデルでも兄貴でもない、俺の。


「……クソッタレ。この猫かぶり野郎……!」


 悪態をつく元気なエドマンドの双眸に、嫌みったらしく笑う俺の顔が映っていた。


「お褒めいただき、どうも」
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