ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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第七章 薬草学フィールドワーク

第4話 困ったときの政宗先生!

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 困ったときの政宗先生! である。
 脳内に召喚した政宗は「またぁ?」と面倒くさそうに胡坐をかいて、ぐにゃんと背中を丸めた。

 おまえそれその姿勢。首にも腰にも悪いからやめろっていつも言ってるだろ。肩凝りとかひどくなるし、呼吸も浅くなって新陳代謝が落ちるんだぞ! 座高が高いとかもう気にする年齢じゃないだろビシッとしろビシッと!
 なんてぎゃーすか騒いだところで全然響かない柳のような男、政宗真一郎(27)。

 恐らく魔王復活の儀式は、〈暁降ちの丘〉にて行われるであろう。魔王封印もまた魔法であるからには、莫大な魔力と、封印時の手順の逆再生が必要となる。
 そして俺はこう考えました、政宗先生。


 ファンタジー小説に酷似した展開をなぞっていく世界ゆえに、魔王復活の儀式もまた、小説のラストに相応しい日時が用意されているのではないか?


「まあ、そうだな。魔王の復活が普通の平日の昼下がりに起きるのも盛り上がりが足りないな。心当たりでもあるのか」

 そういうことだ。
 後期の終わり頃にお誂え向きの行事があるのだ。

 剣神ザイロジウスをはじめとする四人の英雄が、魔王の封印に成功したのが二十年前のこと。
 十の月、第十五の日の晩から始まった最後の戦いは、空が白むまで続いた。
 そうして暁の頃に魔王が封印されたことを表し、戦いの場は〈暁降の丘〉と呼ばれている。

 それ以降べルティーナ王国では毎年、十の月・第十五の日の晩から翌朝にかけて〈星降祭ほしふるまつり〉を催す。魔王封印とそれに伴う安息を慶び、とこしえの平和を願うお祭りだ。


 魔王封印二十周年に沸く愚かな民衆どもを絶望の底に叩き落すにゃもってこいの日なのだ。

「発想が悪役なんだよなぁ」

 いいんだよ悪役坊ちゃんだから。
 現在は第八の月。あとふた月ある。それまでに内通者を突き止めて、バチボコに伸して魔王復活計画を聞き出し、場合によってはイルザーク先生やゴラーナ学院長の力も借りて儀式をブチ壊す。

「内通者の心当たりは?」

 これもまた、内通者は誰か、ではなく、誰なら内通者足り得るかという視点でいこうと思います、政宗先生。

 まず『内通者』であるからには、『主人公』であるリディアとアデルとは程々に近い関係である。物語として考えるとき、名前も知らない一般学生Mとかが内通者だったら突拍子もなさすぎて面白くないからだ。恐らくは『裏切り』というイベントが起きる。

 となると───

「主人公の二人は当然除外。恩師イルザークが裏切るにしては、全十巻のうち四巻では早すぎるからこれも除外かな。ニコラが裏切るのは八巻だからこれも除外」

 作画コストの高いメンバーとして、兄貴、ルウ、リシ。
 教師組としては魔法史のアキ先生、俺たちの寮監アンジェラ先生。
 生徒組として主人公たちと関係が深いのは、アデルと仲のいいトラク。リディアと同室のロロフィリカ。リディアを目の敵にしているデイジー。あと念のためエウフェーミア。

「トラクの話だと、イルザークの前任の魔法薬学教師は内通者だったのだろう。二連続で教師が当たるだろうか。教師二人は今回、除外でいいんじゃないか」

 俺もそう思う。展開がワンパターンになる。
 それに、せっかく魔法学校に入学したのだから、『魔王に与する魔法使いのタマゴ』という役割のキャラクターがあってもおかしくない。
 ──と色々メタ推理を巡らせたうえで。


 トラクが怪しくないかと、俺は思うのだ。


「ずっと警戒はしていたな。孤児だというわりに身のこなしが上品で、派閥に属さずフラフラしているが周りをよく観察している。顔が広くて情報通。要領がよく、立ち回りがうまく……」

 ……味方に一人いれば心強いけど、敵に回すと手強いタイプ。


   ◇  ◇  ◇


 政宗とともに挙げたメンバーのなかで、トラクが内通者であった場合が最も厄介だと思った。
 もちろん作画コストの高い先輩三人組が敵でも厄介だが、すでにニコラが寝返る予定(予定は未定だがな!!)なんだからロウ家から二人とは考えにくい。兄貴がシロなのだからルウもシロだ。ルウが内通者であれば兄貴が気づかないわけがない。
 リシは王族の系譜だから今回は除外。よしんば裏切るとしても、王族ならもっと盛り上がる中盤以降になると思う。


 残された生徒たちのなかで一番謎めいて、かつ四巻ラストというタイミングに合っているのが、いま俺の目の前で薬草学フィールドワーク用の軽装に着替えているトラクなのだ。


 俺は汚れてもあまりショックじゃない値段のシャツを着て、兄貴から昔誕生日プレゼントでもらったループタイを締めた。焦げ茶のレザー紐に深い翠色のアグレットが映える。
 森林探検だから本当はもっとラフな格好で行きたいが、ロウ家次男坊として無難な服装にしておいた。
 俺はTPOを弁えるタイプの(元)やんちゃ坊主です。

 ダークグレーのベストの内ポケットに杖を差し、足元の革靴の紐をしっかり結び直す。
 それから、トラクと部屋にいる間はちょっとだけ緩むようになったニコラ・ロウの仮面を、しっかりとかぶり直して、

「行くか、トラク」
「よーし、さっくり終わらせて早く帰って寝よう!」

 とご機嫌なトラクと一緒に部屋を出た。

 通りすがりに「おはよう、ニコラ」とあいさつしてくるニコラ派の坊ちゃん嬢ちゃんに、キラキラお坊ちゃまモードであいさつを返す。
「よくやるよ」と後ろで呟いているスパイ疑惑野郎は無視だ無視。こっちにも事情ってモンがあるんだよ、主にリディアをいじめるためのな!

 エウと一緒に行こうなんて約束しているわけではないのだが、談話室を覗いてみると、案の定彼女の後ろ姿があった。

「おはよう、エウ。それからロロフィリカ」

 楽しそうにキャッキャと盛り上がっていた少女二人の腰掛けるソファに、後ろから声をかける。

「おはよう、ニコ、トラク」
「おはよー。……それじゃあたし行くね。絶対試してみてよ!」
「ふふ、うん」

 ロロフィリカは俺とトラクの姿を見て席を立った。
 別に仲違いしたわけじゃないし、エウとは程々に喋るようだが、一般家庭出身のロロフィリカはどちらかというとリディアのほうに肩入れしているらしい。

「何、絶対試してみてって」
「それは女の子同士の内緒なの」

 なんとも嬉しそうに肩を竦めたエウが今日も可愛いから、まあ、よしとする。
 内緒話もするような女友達ができたのはいいことだ。
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