すずにひも

花咲マイコ

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17、ライバルがキューピット

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「気になるんだ?二人が」

 ヒカルさんは、また、悪巧みを成功させようとしてる子供みたいににまにま笑い、

「なら、あの中に入っていけばいいのに」
「できないんですよ…すずさんをおこらせちゃったから……」
 ヒカルさんさんから顔を背けてすずさんと真一郎さんの様子を見つめる僕。

 その僕の後ろからヒカルさんは、僕の耳元に口を近づけて、

「キスしたとか?」

 ぼくは図星をつかれてビクッと肩を震わせた。

「ど、どうして……わかったんですか……?」

 どうしてバレたんだろう??
 その反応を見て、ヒカルさんのほうが驚いたようだった。

「オカマの感。って、ほんとに?本当にあのすずにキスしたの?」

「こ、声が大きいですよ!」
声を殺して注意をする。

「ごめんごめん、じゃあ、更衣室いこう!」

 隠れて更衣室へ移動するとき、真一郎さんはちらっとこちらを見て、ウインクをした。
 その合図はいったい何の合図なんだろう…?
 とにかく、すずさんには気付かれずに移動できた。
「へぇ~あのすずさんにキスしたなんて、武勇伝だぞ!」

 武勇伝?どうしてそうなるんだろうか?

「おれなんか、すずにキス迫ったら、金的攻撃されて、オカマじゃなくてニューハーフにされるところだったんだぞ!」

「それこそ、すずさんの武勇伝ですよ……」

 金的攻撃……
 そんな恐ろしいことをすずさんなら躊躇わずにやるだろう。
 僕は青ざめていた。平手打ちで済んで良かった…
 ヒカルさんは興奮ぎみに目を輝かせて言う。
 一矢報いたと言うような感じなんだろうか?

「……実はヒカルさんとの関係を誤解して……嫉妬して…キスしちゃったんですけど…」


「そのあとは…?それ以上やっちゃわなかったのか?」

 そんな下品な言葉を使うのはちょっと気が引けたので、しばらく、黙ってから言葉を続けた。

「すずさんにぶたれて…冷静になって、とんでもないことしちゃった事気付いて逃げてきちゃったんです……」

 恥ずかしさと申し訳なさで俯いて白状した。

「つまんね~そんなんで逃げたのか?」

 ヒカルさんは呆れたようだった。

「つまんないことですか?」
「謝ればすむことじゃん、そんなこと」
「僕とすずさんにとってはそんなことじゃないんです!だって、約束やぶっちゃったわけだし…そういうことしないって約束…」

「約束はやぶるためにあるもんなんだぞ」

 けろりとそんなことを言う。

「そう言う不実なことは嫌いです。」

 僕はヒカルさんを睨んで言う。そんな不実なことをいうなんて、軽蔑してしまう。

「ホストだしね、仕方ないと思ってくれ。」

 ホストだと仕方がないのか?真一郎さんもそうなのかな?



「ま、事情はわかった。本当にすずのことが好きなんだなあ……たんなる若手のヒモだとおもってたけど…」

「むしろ、ヒモになれたら…」
 そう小声でつぶやいた。

 ヒモは一応、恋人どうしに使う言葉だと、僕は思っている。
 まだ警戒し、不貞腐れしてる僕の頬をぎゅっとつねって、笑顔の形にし、

「そーゆー顔するなって!お前の気持ちはわかったし、味方してやるからさ、元気出せ?」

 ヒカルさんは意地悪だと思ってたけど(意地悪は変わらないけど)兄貴分といった雰囲気に僕は一気にヒカルさんへの警戒心が解けた。

「ホォンチョニ!?」
「恋のキューピットになってやる。
だって、すずはお前のこと……」
「へ?」
「なんでもないよ!それより、まずはあの二人の邪魔をする事だね」

ヒカルさんはキラリと目を光らせた。

本当はヒカルさんとすずさんの邪魔をするはずだったのに、ヒカルさんが僕の味方になって真一郎さんが恋敵になるとは全く考えてもいなかった…


 更に思ってもない作戦だった。

「……ってなんで、女装しなくちゃいけないんですか?」

 僕はヒカルさんに女装をさせられしまった。

 自分でも誰だろうと思うほどに可愛く頭の左右にポニーテールをし(カツラ)、ピンクと黒と赤の色がおしゃれに配色されたゴスロリ系のメイド服(スカートが膝までで短くレースがひらひらついている)を着た女の子に仕立てられてしまっている。


「そのほうが、すずに会いやすいだろ?」

 ヒカルさんは悪戯っぽい笑みで僕に微笑む。

「むしろ、会い辛いですよっ!」
「インパクトで許してもらおう作戦だ」

 自分の作戦を曲げたくないヒカルさんはと題名までつけ宣言した。

「ばれたらすずさんのゲンコツが容赦なくディープインパクトしますよ!」

 許してもらうどころか身の破滅だ。
 その事に怯える僕をヒカルさんはじろりと冷ややかな目でみる。

「お前わがままなんだよ。
 直接会いたくない、でも会いたい、勇気のないお前に、変身という魔法をかけてやったんだぞ、ありがたく思え」

「うっ…」

 僕は図星をつかれて言葉に詰まった。
 ほんとに、僕は勇気が無い、わがまま者だ。

 人に手助けしてもらわなければ、すずさんと仲を取り持てないと思ってるんだから…

 でも、女装は勇気の魔法だろうか?

「おーいヒカル!ちょっときてくれー」

 真一郎さんがヒカルさんを呼んだ。

「マスターがお呼びだ、ちょっと行ってくる」

 ヒカルさんは素早く更衣室を出て、真一郎さんの元へ向かった。
 こっそり、その様子を見てみると、真一郎さんはすずさんとの席から離れてカウンターのところで話をしている。
 その話が終わると、ヒカルさんは更衣室に戻ってきた。

「マスターからの命令で用事が出来たから、帰る。じゃあな!」

 さっさっと貴重品をまとめると、そのまますぐ帰ろうとした。

「え!!?キューピットになってくれるんじゃ……」
「キューピットは大天使さまの命令が一番なんだよ。それに……」

 キュッと僕の鼻をつまんで、怪訝な顔をし、僕を睨んだ。

「おまえ、藍ちゃんと蓮くん置いてここまで来たんだって?
 しっかりしたお子様とは言え、危ないだろうが!
 今日は俺が二人の面倒見る事になったからお前の面倒はやっぱ、大天使さまにみてもらったほうがいいってことになったんだ」

「あっ…」

 そうだった。

 僕も双子が心配で早く帰ろうとしていたのに、すずさんが気になって今に至る。

「まぁ…俺は、愛しの藍ちゃんに会えるチャンス貰えたからお前に感謝するけどっ」

 怪訝の顔を消して、今度は、にまにま笑顔になっている。
 まさか、ヒカルさんが好きなのは……

「ロリコン…」

 藍ちゃんの名前を出すより先に思った事が口に出た。
 ボコッとヒカルさんの拳が僕の頭にディープインパクトした。

「ま、とにかくマスターに任せておけば大丈夫だって」
 真一郎さんはもとから僕に強力するって言ったけど……僕は複雑だった。

 真のライバルは真一郎さんだ。

「心配すんなって、女装してるんだし、ちょっとやそっとじゃバレないだろう。うまくやれよっ」

と僕のお尻を叩いて、じゃあなと言い出ていってしまった。
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