すずにひも

花咲マイコ

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初デート

初デート1

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「おまえら、デートしたことないの!?」

 慎一郎さんの家でヒカルさんは驚きの声を上げた。
 ヒカルさんは昼はなるべく藍ちゃんに会いに週に一回は遊びに来る日にちょうど、すずさんと僕、カイトが遊びに行った日が重なった。
 慎一郎さんの大きなマンションのリビングの床で藍ちゃんと蓮くんはおもちゃを散らかしながら楽しんでいたときにそんな会話になった。

「でーとしたことないの?」
「したことないの?ぼくはしたことあるよー」
「えーだれとー?」
「あいちゃんの友達のきららちゃーん」
「えーきららとつきあってんのー」
「うん。きすもしてるよー」
 双子たちはませた会話をして盛り上がっている。
「藍ちゃんは僕と結婚するから、誰ともでーとしちゃだめだからね!」
 その会話にまざったヒカルさんは目が真剣だった。

「勝手なことをいってんじゃない!変態おかまやろうに大切なむすめをやれるか!」
 ラフな格好をした慎一郎さんがヒカルさんの頭を軽くはたく。
「そうよね、年齢さありすぎ」
「すずにいわれたくねーよ」
「うっ・・・あんたよりマシよっ!」

「デートというベタな肯定を忘れてヤっちまってる人にいわれたくないですー・・・ぐはっ!」
 すずさんの空手三段のチョップがヒカルさんを黙らせた。

「やってないっていってるでしょ!分別付けておつきあいしてるの!私たちは!」

 腕を組んでフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く仕草を双子たちは面白がってまねする。

「デートか・・・・・・一緒にいすぎてそういうことを恋人するイベントをすっかり忘れてた」
 ヒカルさんとすずさんのバトルをみながら、そう無意識に言葉に出ていた。
 そして、想像する。

 デートそれは遊園地や動物園で楽しむこと、そして最後にはキスして・・・
 もうちょっと大人だったら

『今日とまってく・・・?』
『うん・・・』

 そしてさらに愛が燃え上がっちゃったり・・・とか、思うものの、僕はすずさんと同居中だ。
 常に一緒にいるようなものだから、デートなんて思いもつかなかったんだ。

「ほんとに、デートしたことないの?」

 慎一郎さんは僕の隣に座ると双子たちは慎一郎さんの膝の上に乗って、僕のほうをみる。

「かいとっておくれてるー」
「ようちえんせいでもでーとするのに」
「そ、そうだね。藍ちゃんと蓮くんにさきこされちゃったね」
と苦笑いしながら答える。
「もっと遅れてるのは、すずだけどな」
「うるさい、いいじゃない!常に一緒にいるんだしデートなんかしなくったって」
 とすずさんは断言した。

「カイトと暮らしてることが一番楽しんだから・・・」
 自分でいっていてすずさんは恥ずかしくなったらしく、顔が赤い。

「デートは別物だよ。いろんな発見あるし、違うところに行ってお洒落して以外な自分を見せられて楽しいんじゃあない?」
「一緒に暮らしてるんだからお洒落しても家でばればれよ? それに・・・」
 すずさんは、うつむくと顔が暗くなる。
「どうせ姉弟にしか思われないし・・・」
「ま、まだ、あの時の事を気にしてたの?すずさん」
「あの時のこと?」
 すずさんは、みんなの疑問の瞳を向けられてさらに顔をうつむく。
 すずさんと両思いになれた次の日、クリスマスケーキの用意を買いにデパートに行こうと、すずさんから誘われた。
 すずさんはちょっと張り切ってか、いつもよりはお洒落していたと思う。
 だけど、デパートの店員に仲のいい姉弟でうらやましいですね。
 みたいなこと言われた。
 すずさんは家に帰ってから「しっつれいしちゃうわ!こんなに似てない姉弟なんてどこにいるってのよ!」

 いや、結構いるから・・・と、心の中でつっこんだものだった。

 その後も、スーパーに行っても姉弟でお買い物と思われてしまった。

「まあ、今はそれはそれで都合はいいけどね」
 と割り切っていたけれど、かなりショックだったのだ。
「ちょっとしたコンプレックスかーすずってナイーブだな」
「すずちゃんてかわいいね」
 ニコニコしながら慎一郎さんは言った。
「カイトより子供っぽいなー」
 ヒカルはあきれた感じだった。
 そんな性格だからなかなか結ばれられないんじゃねー・・・とぼそりとつぶやいた。

「だから、デートとかってまだしなくていいと思うもん、カイトが大人になってからで・・・」
 子供のように頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く

「何言ってるんだよ、そんなコンプレックス感じさせなければいいだけだろう?ね、慎一郎さん」
 ヒカルさんは慎一郎さんに目配せをすると、そうだねとうなずく。
「遊園地の券たくさんあるから、来週行ってくればいいよ。そのかわり、バーに集合な。」
「なんで、バーなの?」
「すずのコンプレックスをなくしてやるためだよ」
 慎一郎さんとヒカルさんはニヤリといたずらな笑みをして僕たちをみた。

 何か絶対、企んでいるけれど、デートを演出してくれるんだったら、いたずらでもなんでもいいやと思った。



 いつも通っているホストバー&おかまバーの「アンティーク」のブラックのガラス扉が魔王の扉に思えて、私はゴクリとつばを飲み込む。
中にいるのはたぶん、慎一郎さんとヒカルだけだろう。
いるとしても、店の管理を任されているまっちょ店員の紫か・・・
「すずさん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、おめかしさせてくれるだけなんだから」
「そ、それはそうだけど・・・私の直感が悪意を感じるのよね」
 重々しく私はそう断言する。
 そんな私とは正反対に、カイトは一週間前からわくわくドキドキといった小学生が遠足にいくのを楽しみにしているようだ。
 まあ、デートじゃ遠足と変わらないけれど、私たちの年の差は六歳。
 私だって浮かれたいけれど、世間に認められるまで最低二年ある。
 カイトが老け顔だったらまだしも、女装させたらそこらの女の子よりかわいい美少年・・・・・・そうよ!

「ここに呼び出したって事は、きっとカイトを女装させて、女の子同士のデートを演出してくれるって事ね!それなら姉弟以前の問題だからOKね!」
 女の子同士のデートなら恥ずかしくもない!

 そんな私の肩を掴んで止めさせる。

「ちょっとまって、僕はそんなのはNOだよ!せっかくのデートが女の子同士ってほうがおかしいって!」
 今度はいっぺんカイトが青い顔してドアノブに手をかけた私の手を止めた。

「女装したカイトかわいいから大丈夫よ!」
「いやはや、そういう問題じゃないよ」
「私とデートしたくないっての?」
「ふつうの格好でデートしたい」
「じゃあ、おめかし必要無いじゃない」
「デートはおめかしは必要だよ!」

 ドアの前で口論になっていたら突然ドアが引かれてカイトと一緒に入り口で転びそうになってとっさに受け身を取りカイトの二の腕の部分に手を支える感じになり私に多い被さる形で倒れた。

「カイト大丈夫?」
「すずさんごめん!」

 カイトが地に腕を着いて、私に倒れ込むのを防いでいた。
「おまえ等、こんな所で、みせつけてんじゃねーよ。遊園地よりラブホに行くか?」
「・・・紫、お願い!」
 紫は私の命令を忠実に無言でヒカルの下品の言葉を放つ喉を絞めあげてくれた。
 ヒカルは締めあげる紫の腕を三回叩いて、ギブアップをアピールし、閉め上げをやめさせた。

「いらっしゃい、待ってたよ。すずちゃん。カイト君」
 クスクス笑いながら慎一郎さんがソファーのイスから腰を上げて私たちに手をさしのべ起こしてくれた。

「あ。ありがとう、慎一郎さん。」
「今日はよろしくお願いします!」

 カイトは起こしてくれた手をさらに強くにぎり懇願するようにお願いした。
 私がデートを嫌がってると思っているらしい。
 だから、私が嫌がらない何か良い策を持っているだろう慎一郎さんに必死にすがるのだ。
 でなきゃ、初デートに他人に助けを求めるようなことなどしないだろう。
 カイトはいつも慎一郎さんに頼る癖がある。
 その癖を利用して慎一郎さんたちは私たちをおもちゃのように弄んでるんじゃないだろうかとさえ私は思うんだけど・・・
 けれど、それは素直じゃない私にとってカイトに甘えられるチャンスを与えてくれている・・・

「すず、そんなに深刻に深刻に考えることか?
人生は楽しむためにあるんだから、年の差とか世間体とか深く考えるなよ。な」
 ヒカルは少し心配してくれたのか、ぽんぽんと背中をたたいて私の気分をなだめようとしてくれた。

「うん・・・よろしくね」

 そんなヒカルに私は笑顔を向けて安心したことをみせた。

「よし、カイトをあっと言わせるお洒落をしてデートを楽しませてやるよ」

 ヒカルは私にニヤリと艶のある笑みを向けて、しなやかな指がいたずらっぽい唇を隠した。



「カイト君。男らしくなったねーこれで、すずさんより年下に見えないよ」

 慎一郎さんは渾身の作品を作り上げたかのように、額の汗を腕で拭く。

「あの・・・年齢とか男らしくなったというよりか、この格好ってデートにふさわしくないような・・・」

 慎一郎さんに、すべて任せてコーデネートしてもらったのはいいけれど、いつもと僕とは全く違った雰囲気できっとすずさんがみたらひどく驚く姿だ。

「どちらかというと、危ない路地裏で喧嘩売る人のような格好なんですけど・・・」

 人畜無害のいつもの自分とは正反対の人畜悪害の不良少年になった。

 唇には、チェーンをつけて、目張りをアイライナーで紫さんに描かれて、きりりと男らしさアップしてる。
 髪型も、ワックスで流れをオールバック風のウェーブがかかっている。
 元々茶っぽい髪が外人風にみえる。
 服装も黒を基調にしているが、所々喧嘩の後のあとのような切れ目があってその切れ目から赤い下地が見える。
ただの赤じゃなくて刺繍でドクロが見え隠れする。
 肩が見える蜘蛛の絵のはいったアンダーに黒の光沢のある小さなベルトが不揃いについて、口元のチェーンと同じシルバーのベルトの金具がさりげなく、バランスをとっている。
 どこかのゲームのコスプレにも見えないことはないが、ある筋のブランドで今はやっているものを買ってきたとのことだ。

「さすがに、俺は着れないけれど、カイト君が似合ってくれてうれしいよ」

 慎一郎さんがこんな格好したら、どこの筋の人だとおもわれるだろう。
 いや、実際はホストクラブのオーナーをしているんだけれど・・・二児の父にはさすがに無理だ。

「この格好で遊園地いっても大丈夫でしょうか・・・?」

「大丈夫、今日はコスプレ大会もあるから誰も気にしないっしょ」
「け、計算ずくだったんですね」

「もちろん。だからすずちゃんも気がねなく楽しめると思うよ」
 にやりと、いたずらっ子の笑顔で慎一郎さんは笑った。

「ちょっと、この服どうなのよ・・・・・・」

 私はヒカルに言われるまま用意してくれた服を着て鏡を見てげんなりした。

「どうって、今はやりのアイドル風の服だよ」
「服は服でも制服でしょ!!これ!」

 更衣室のカーテンを勢いよく押し退けてヒカルの服の襟をつかみあげた。

「よくにあってんじゃーん。童顔でよかったな」
「あんたには言われたくないわよ」

 ヒカルはヘラヘラして悪気はない。
 むしろいたずら成功して喜んでいる。
「わたし二十三なのになんでこんなセーラー服っぽいの着なきゃらないの?」
「そんなこといったら、今をときめくアイドルに失礼だろ。」
「中高生に失礼だわよ!」
「大丈夫だって、ぎりぎり高校生っぽいというか。カイトとお似合いだろ?」
「う・・・そう?」

 改めて無意識に鏡の方をみて自分の姿を確認する。
 最初に髪型をヒカルにアレンジされて脇の髪を三つ編みにして後頭部で合わせて、リボンで縛られているから、なんだか幼いようにも見える。
 それに制服といっても本当の高校せいっぽいものではない派手な制服。
 改めて観察すると高校生にもみられなくないかなと思う。

「にやけてるぞ。まあ俺の手に掛かればこんな感じかな?」
「ほんとにカイトにつり合うかな・・・・・・」

 カイトの姉にみられないかな・・・
 ヒカルの存在も忘れて、スカートの裾を引っ張ってポーズをきめてみたりしていたら

「わーすずさんかわいいー・・・」

 鏡に映る私の背後に柄の悪い男が現れて、反射的に振り返ってその男の体を床にくみ伏せた。

「いててて!放して!すずさん!」
「ってカイト!?」

 驚いた・・・
 あのボサっとした少年がちょっと服装が替わっただけで、雰囲気がかわるなんて・・・・・・

 カイトは背が最近伸びて私の背を越したから、なんか見下ろされている感じが異性を感じさることがある。

「どうかな。僕の格好。かっこいい?」
「うん。不良ね。」
「だよね・・・」
「うん。」

 多分、大人の雰囲気には限界があるんだろうけれど、その格好デートって微妙だと私は思う。

 似合わなくない。でも、確実に・・・
 釣り合いバランスがある意味違う!
 
 てっきり学生同士の初々しいデートを演出してくれるん だろうとは想像していたが、二人の企みは斜め上を行っていた。
 完璧二人に遊ばれた感じだなと思う・・・
 初デートの楽しみより不安の方がある意味増した。

 慎一郎さんは僕たちを並べて微笑む。

「なんかある意味ギャップのある恋人だよね」
「年齢以前の問題になってよかったな」

 自分たちがそうセレクトして実際の僕たちをみると感慨深いものがあるのか、芸術を完成させた画家のようだ。

「こ、これで、デートいけるかなぁ」

 僕は心配になるすずさんの顔が少し険しい。
 きっと、この二人に頼んだのが間違えだったと思っているに違いない。

「いけるいける!そのままホテルまでいっち・・・」

 すずさんではなく、紫さんがヒカルさんの下品な口をふさぐ。

「すずちゃんなんだか高校生の時のすずちゃんを思い出すよ。懐かしいね。」

 そういわれて見つめられて、すずさんはなぜだか照れる、仏頂面だったのがなんだか、乙女のように頬を赤らめ照れる。

「あのころすずちゃん恋一切してなかったよね」
「え・・・う。うん」

 すずさんは戸惑う。
 ヒカルさんの情報からだと、すずさんは慎一郎さんに初 恋していたとか言っていたような。
 もしかして、そのときの気持ちを思いだしちゃったとか・・・・・・
 慎一郎さんはすずさんの頭をそっと撫でて

「学生気分に戻って、恋を楽しんでおいで・・・ね?」
「うん・・・そうします・・・」

 素直にすずさんはうなづいた。
 優しい仕草と声で、すずさんを優しく見つめ、すずさんも高校生くらいの気持ちに戻っているのだろうか、慎一郎さんを見つめる目があやしい・・・・・・

「おい、カイトおまえ、様になってるぞ・・・」
「え・・・」
 ヒカルさんに言われて我に返る。
 いつの間にか二人のやりとりに嫉妬のオーラを出していたらしい。
 しかも、こんな格好だから「様」になっているという事だ。

「すずは、大人の雰囲気に弱いところがあるから、年上気分でエスコートしてやれよ。」

 ヒカルさんはフザケることが多いけれど、悪い人じゃない僕たちのことを見守って助けてくれる。慎一郎さんも
そうだ。
 二人のサポートを無駄にしないためにも、今日はすずさんと楽しい初デートをがんばろう!


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