あやかしと神様のジジ様の物語

後日談

橘の寝相と20年後の鬼女将の温泉の後日談。

「とう様、かあ様、おねぇたんたちと一緒に寝たい。」
　四歳の橘はいつも流花か晴綛と一緒に寝ているのだが家族みんなで寝たいと月に一回はそんなことを言う。
　それはなんらかの理由で眠れない時とか不安な時に家族みんなで仲良く寝たいと言うのだ。
「い……いいぞ。」
　晴綛は少し言い淀みながらも可愛い娘の願いを無碍にはできない。
「わーい！」
　といって橘は晴綛と流花の間に入って娘三人は父と母の隣を確保する。
　姉たちは母や父の後ろに隠れるように横になり警戒する。

　橘が眠った時が闘いだからだ。
　可愛い娘妹のためなら甘い家族だが、橘の寝相は相当悪い。

　だが、警戒することにも疲れと暖かさに家族が眠りに落ちたとそのとき、

「ぐはっ！」

　橘の足が晴綛の顎を蹴り上げた。
「お、お父さんだいじょうぶ？」
　アキは心配する。
「ああ、アキはわしの後ろに隠れておれ…」
「うにゃ！」
　母の体を乗り越えてサキの頬に橘の足の裏がめり込んだ。
「この、クソかわ妹がぁあ！」
　サキはキレる。
「だめよ！、おねえちゃんでしょ！」
　流花は止める。
　流花は眠る橘を抱きしめ慈しむ。
　くかー！と眠る橘は可愛い。
　だが、すかっと、腕に抱いてた橘は腕の中から抜け出し晴綛の股間に蹴りを入れていた。
「のおおおおぉおおおお」
「晴綛大丈夫！？」
「もう一人、妹作るの無理かも……なんてな……」
　と言いながら女たちにはわからない痛さに悶える晴綛を流花と三姉妹は心配する。
（正直、橘みたいな暴れん坊の半妖の妹がもう一人できたら平穏の時は訪れない…）
　三姉妹は口には出さなかったが冷静に五人姉妹にならなくていいと思った。
「わしが橘を抱いて寝るから、安心してろ。」
　流花と背中合わせで橘を寝かせる。
　夜になると半妖の力は半端ない。
　生命力みなぎる幼児になると尚更だった。
　ぎゅーと抱いて寝ると反発で腕から転げて五人の周りをゴロゴロと時計回りに寝相が悪い。

「すごい妹産まれちゃったね…」
　ミキは母に言う。
「そうね…半妖ってそう言うものなのかしら…？」
「まぁな…明綛と椿と幼い頃起きたらアザが絶えなかったのはこう言うことだったんだな…」
「恐ろしい半妖三兄弟……私たち普通の人間でよかった…！」
　ミキがそういうと、流花と晴綛は同時にブハッ！と吹き出す。
「あなたたちも大変だったわよ。」
「ドレミのように泣き出して眠れんかったしな。流花もわしもてんてこ舞いだったぞ。」
　そのおかげで隔たりがあった流花と距離も近くなった事も思い出す。
「でも、ちゃんと育ててくれてありがと…お父さん。」
　アキは晴綛の背中にぎゅっと抱きつく。
「うう…嬉しすぎる。」
　実の父親ではなく叔父だがとても慕ってくれる事と父と言ってもらえることがとても嬉しい。
「母さんもありがと」
　ミキとサキから抱きしめられて流花も感無量で涙が出そうになる。
　夫婦揃って泣きべそかきそうな顔を互いに見て微笑む。
　そんなほんわかの中橘がゴロゴロと五人に寝返りのローラーしてきた。

「うっ！」

　五人は狙い定めた橘の寝返り攻撃になんとも言えない気持ちになる。
「や、ヤキモチかしら？」
　流花はそう言ってみる。
「そうだと可愛いけど…」
　サキは橘を睨んで言う。
　一人で三子以上の暴れようだ。
　さらにもう三歳だ。
「ターチーバーナぁぁぁあー‼︎」
　三人は同時にすくっと立ち上がって橘を囲む。
「なにオネェちゃ……？」
　橘は姉たちの異様な様子に慄く。
「いい加減大人しくし寝て！」
　三人同時に言霊を吐くとぴたりと橘は金縛りにあった。
　三人同時の言霊に発動するルカの神の加護の力が発動して動かなくなったのを橘を真ん中に大人しく朝まで眠ったのだった。

☆☆☆

「と言うことがあったの。だから、私、生まれつき寝相悪いの……」
　橘は珍しく真っ赤になった顔を手で覆う。
「通りで……」
　咲羅子は鬼女将の温泉旅館での橘の寝相の悪さに納得がいった。
　威津那も「そうなのかー……」
　と納得して、昨晩蹴られた頬をさする。
「ま、まさか、私なんか威津那にやっちゃった？」
　威津那は苦笑して、季節の方を向き、
「もし、愛し合うときはヘトヘトにして動けなくしてあげた方がいいってことですよね隊長？」
「そんな技術がお前にあるのか？」
「隊長のお教え通り実行すれば大丈夫かと……」
「………頑張れよ」
　威津那は変なところで好きな女に意地悪するなと思いながらそう言ったら、
「うわーやだーなにされんの？私たち…てか！女子のいる前言う会話じゃないのやめて！」
　咲羅子はなんとなく昨晩のこと思い出して顔を真っ赤にする。
　そのことを察した季節も顔を赤らめて黙る。
「うふふ。その時が楽しみだわ。半妖の私をそこまで愛してくれるってことだもの！」
　乙女心は複雑で愛されたいと願いながらドキドキ恐々だが、乙女のような思想の威津那も気持ちは同じで、
「ぜ、善処します」
　と言って顔を真っ赤にした。
　半妖の体力はどれほどのものか把握しきれず、自分の方がヘトヘトになる想像をし、義姉か、晴綛に寝相を抑える呪術を教えてもらおうと思った。