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第五章「境を越えて来る者達」
第14話「二つの竜の伝説」
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「人間。貴様は、飛竜と悪竜、この二つはどこが違うか知っているか?」
ハルヴァラストから告げられた最初の言葉は、これだった。
「同じ竜族であり、同じ姿かたちを持ち、ほぼ同じ能力を持ちながら、互いで互いを殺し合う。この二種には、どう違いがあるのか……貴様は理解しているか?」
「それは……」
尋ねられ、アーネストは答えを詰まらせる。
飛竜と悪竜。この二つの違いに付いて、長らく議論されてきた。けれど、二つの違に付いて分かっている事は、悪竜は人を襲い、飛竜は滅多に人を襲う事は無いという事くらいだ。それが何に起因するものなのかは、なぜそうなっているのかは、未だに分かっていない。
「やはり人間は、竜についてなど、何も知らないのだな」
答えに窮したアーネストを見て、ハルヴァラストはあざ笑うかのように笑う。
「飛竜と悪竜。この二つに、明確な違いなどありはしない。あるのは属する場所が違うだけだ。そうだな、貴様らの言葉では……社会という言葉がそれに近いだろう。それが、二つを分けるものだ」
「社会……」
「俺達竜には、人間達の様に密度が高く、緻密な社会などは存在しない。基本的に俺達は、人間達と違って他者など必要とすることなく生きていける。だから、俺達が他者を求めるのは、子孫を残すその時だけだ。
けれど、だからといって社会という様なものが完全にないわけじゃ無い。竜とて互いに対立し、殺し合う事はある。自身を同じ竜から守るため、別の竜と協力する事だってある。人間ほどの繋がりは無くとも、ゆるい繋がり――社会を築き、己を保護している」
つらつらと、そうハルヴァラストは言葉を紡ぐ。
「これから話すものは、俺達竜の間で伝わる伝承――歴史だ。それが真実であり、すべてであるかどうか、俺ですら分からない」
そして、そう前置きをしてからハルヴァラストは語り始めた。
「すべては一つの竜から始まったと言われている。始祖竜スフィリス=アメリシア。それが俺達竜族の全ての祖であり、神だった。
始祖竜は初めに自身に連なる竜を生みだし育てた。人の神が人を作り、エルフの神がエルフを生み出したように、竜の神は竜を生み出した。
けれど、それは他の神々が行った事とは異なり、すべてが上手くいくことは無かった。スフィリス=アメリシアが生み出した竜達は、余りに力を持ちすぎていた。それゆえか、いつしか彼等はその巨大な力故に、神の座を脅かす存在へとなり始めた。それを警戒したスフィリス=アメリシアは自ら作り出した竜を排除し始めた。自らの地位を守るために。
けれど、その行為は失敗に終わった。余りに力を持ちすぎた竜達の前にスフィリス=アメリシアは敗れ去り、二つに引き裂かれた。
二つに引き裂かれた神は、二つの竜の神を作り出した。
一つが竜の力と欲望を具現化した神ジア=アルバラス。
もう一つが、竜の知性と理性を具現化した神アプス=レティス。
二つの竜の神が生まれた時、同時に一つだった竜族は二つに分かたれた。
二つの竜族は、互いに互いを同じ竜である事を認める事は無く、互いが互いを排除し始めた。それは今なお続く、竜と竜にの争いであり、飛竜と悪竜が殺し合う理由だ」
「……飛竜と悪竜は種族自体が実は違うって、事か?」
「いや、飛竜と悪竜は同じ種だ。その違いについて、深くは今はどうだっていい。俺が言いたいのは、同じ竜であっても、二つの大きな流れがある事だ」
「二つの竜族……」
「ああ。神聖竜と呼ばれるものが、何であり、盟約と呼ばれるものがどういうものかは知らない。だが、たとえその存在が事実であったとしても、それに神秘的な拘束力があろうと、すべての竜がその影響下にあるわけでは無い。
だから、竜であったとしても――竜族であったとしても、すべてが貴様らの認識するような存在であるとは限らない」
「今回の竜と呼ばれる存在も、そういうものだというのか?」
「さあな、そこまでは分からん。貴様が懸念する様に、貴様が知らなかった事実がそこにあり、それゆえのものかもしれない……」
「そう……か……」
ハルヴァラストに告げられた言葉に、アーネストは息を飲む。
確かに、ハルヴァラストの話した内容は、アーネストの認識を否定するものではなかった。けれど、それが事実であっていても、敵対する竜の存在を暗に示しているように思えた。
「なあ、ハルヴァラスト……お前は、どっちに属する存在なんだ?」
アーネストは尋ねる。それに、ハルヴァラストは裂けた口を大きく歪ませ、笑った。
「すべてを欲し、すべてを奪い、すべてを食らう神ジア=アルバラス。それが、俺の祖となる竜の名だ」
ハルヴァラストから告げられた最初の言葉は、これだった。
「同じ竜族であり、同じ姿かたちを持ち、ほぼ同じ能力を持ちながら、互いで互いを殺し合う。この二種には、どう違いがあるのか……貴様は理解しているか?」
「それは……」
尋ねられ、アーネストは答えを詰まらせる。
飛竜と悪竜。この二つの違いに付いて、長らく議論されてきた。けれど、二つの違に付いて分かっている事は、悪竜は人を襲い、飛竜は滅多に人を襲う事は無いという事くらいだ。それが何に起因するものなのかは、なぜそうなっているのかは、未だに分かっていない。
「やはり人間は、竜についてなど、何も知らないのだな」
答えに窮したアーネストを見て、ハルヴァラストはあざ笑うかのように笑う。
「飛竜と悪竜。この二つに、明確な違いなどありはしない。あるのは属する場所が違うだけだ。そうだな、貴様らの言葉では……社会という言葉がそれに近いだろう。それが、二つを分けるものだ」
「社会……」
「俺達竜には、人間達の様に密度が高く、緻密な社会などは存在しない。基本的に俺達は、人間達と違って他者など必要とすることなく生きていける。だから、俺達が他者を求めるのは、子孫を残すその時だけだ。
けれど、だからといって社会という様なものが完全にないわけじゃ無い。竜とて互いに対立し、殺し合う事はある。自身を同じ竜から守るため、別の竜と協力する事だってある。人間ほどの繋がりは無くとも、ゆるい繋がり――社会を築き、己を保護している」
つらつらと、そうハルヴァラストは言葉を紡ぐ。
「これから話すものは、俺達竜の間で伝わる伝承――歴史だ。それが真実であり、すべてであるかどうか、俺ですら分からない」
そして、そう前置きをしてからハルヴァラストは語り始めた。
「すべては一つの竜から始まったと言われている。始祖竜スフィリス=アメリシア。それが俺達竜族の全ての祖であり、神だった。
始祖竜は初めに自身に連なる竜を生みだし育てた。人の神が人を作り、エルフの神がエルフを生み出したように、竜の神は竜を生み出した。
けれど、それは他の神々が行った事とは異なり、すべてが上手くいくことは無かった。スフィリス=アメリシアが生み出した竜達は、余りに力を持ちすぎていた。それゆえか、いつしか彼等はその巨大な力故に、神の座を脅かす存在へとなり始めた。それを警戒したスフィリス=アメリシアは自ら作り出した竜を排除し始めた。自らの地位を守るために。
けれど、その行為は失敗に終わった。余りに力を持ちすぎた竜達の前にスフィリス=アメリシアは敗れ去り、二つに引き裂かれた。
二つに引き裂かれた神は、二つの竜の神を作り出した。
一つが竜の力と欲望を具現化した神ジア=アルバラス。
もう一つが、竜の知性と理性を具現化した神アプス=レティス。
二つの竜の神が生まれた時、同時に一つだった竜族は二つに分かたれた。
二つの竜族は、互いに互いを同じ竜である事を認める事は無く、互いが互いを排除し始めた。それは今なお続く、竜と竜にの争いであり、飛竜と悪竜が殺し合う理由だ」
「……飛竜と悪竜は種族自体が実は違うって、事か?」
「いや、飛竜と悪竜は同じ種だ。その違いについて、深くは今はどうだっていい。俺が言いたいのは、同じ竜であっても、二つの大きな流れがある事だ」
「二つの竜族……」
「ああ。神聖竜と呼ばれるものが、何であり、盟約と呼ばれるものがどういうものかは知らない。だが、たとえその存在が事実であったとしても、それに神秘的な拘束力があろうと、すべての竜がその影響下にあるわけでは無い。
だから、竜であったとしても――竜族であったとしても、すべてが貴様らの認識するような存在であるとは限らない」
「今回の竜と呼ばれる存在も、そういうものだというのか?」
「さあな、そこまでは分からん。貴様が懸念する様に、貴様が知らなかった事実がそこにあり、それゆえのものかもしれない……」
「そう……か……」
ハルヴァラストに告げられた言葉に、アーネストは息を飲む。
確かに、ハルヴァラストの話した内容は、アーネストの認識を否定するものではなかった。けれど、それが事実であっていても、敵対する竜の存在を暗に示しているように思えた。
「なあ、ハルヴァラスト……お前は、どっちに属する存在なんだ?」
アーネストは尋ねる。それに、ハルヴァラストは裂けた口を大きく歪ませ、笑った。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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