正しい竜の育て方

夜鷹@若葉

文字の大きさ
26 / 136
第一章「白き竜と傷だらけの竜騎士」

幕間「見れない現実」

しおりを挟む
 悪竜による襲撃の混乱は、比較的早く収まった。けれど、被害がなかった訳では無かった。襲われた学生と竜騎士はそれぞれ怪我を負い、そして、彼らの騎竜もまた怪我を負った。

 その中でとりわけ大きな怪我を負ったのが、リディアの騎竜であるヴィルーフだった。後一歩助けが来るのが遅ければ、あと一歩治療に入るのが遅ければ、生きてはいなかったかもしれないと言われるほどの重症だった。


 もしかしたら、もう二度と飛ぶ事は出来ないかもしれないとさえ言われた。


 多くの飛竜達の息遣いが少し煩わしく聞こえる竜舎の飼育小屋の一角に、リディアは立っていた。目の前には黒い鱗の飛竜――ヴィルーフが木製のケージの中で横たわっている。

 辺りは血の臭いで満たされ、ヴィルーフの身体には、血を吸って赤く染まったガーゼや包帯などが巻かれていた。

 全身を深く黒い鱗で覆われていたい美しい姿は見る影もなく、鱗は剥がれ、皮は裂け、赤くピンク色の皮膚が、包帯とガーゼの下から覗かせていた。

 見るからに痛々しく、直視できるようなものではなかった。

 そんなヴィルーフの前に、リディアは立ち尽くしていた。

 悪竜に襲われた後、飛べなくなっていたヴィルーフとリディアは分かれ、ヴィルーフは助けに駆けつけてきた竜騎士の力で、竜騎学舎の竜舎へと運ばれた。

 それから治療が終わった今、ようやくリディアとヴィルーフは再び顔を合わせる事が出来たのだった。

 リディアの存在に気付いたのか、ヴィルーフはゆっくりと顔を上げ、リディアの方へと顔を向ける。その動きは、酷く緩慢で、途中痛みに悶える様な声を上げていた。それは、とても見るに堪えるものではなかった。


 どうして、こうなった?


 目の前のヴィルーフの姿や、状況が理解できず、そう疑問が沸いた。

 それに対するリディアが導き出した答えは「自分自身が招いた結果」だった。


 自分がもっと周りを警戒していれば、

 錯綜する状況に囚われず、しっかりと状況認識でできていれば、こんな結果にはならなかった。


 そう思えてならなかった。


 ヴィルーフが荒い息遣いのまま、黄金色の瞳をリディアへと向けてくる。その瞳には、怒りも、リディアを責める色も無く、何かを訴える様な色をしていた。

 けれどリディアには、ヴィルーフの訴えかけるものが何であるか、理解できなかった。そして、そんな理解できない視線を向けてくるヴィルーフの瞳に、恐怖を感じた。

 思えば今まで、理由がどうであれ、リディアの行動と判断で誰かに怪我を負わせた事は、今までになかった。それだけに、今目の前の、傷ついたヴィルーフにどう接すればいいか判らなかった。その事が一層、ヴィルーフから向けられる視線に恐怖を覚えさせた。

 初めての状況。その事に、パニックを起こし、頭の中が真っ白になっていく。そして、気が付くとリディアは、無意識に流され、竜舎の飼育小屋から逃げる様に走り去っていた。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...