正しい竜の育て方

夜鷹@若葉

文字の大きさ
46 / 136
第二章「灰の竜と黒の竜騎士」

第20話「響き渡る咆哮」

しおりを挟む
 カンカンカン、カンカンカンと鐘の音が、宿舎の見張り台の方から鳴り響く。緊急事態を告げる鐘の音だ。

『グオオオォォ!!』

 それに続き、その鐘の音が本当に緊急である事を告げているかのように、大きく咆哮が上がった。

 それらの鐘の音と咆哮をアーネストとリディアは、宿舎に併設された運動場で聞いていた。

「咆哮……飛竜ですか?」

 今がどういった状況なのか上手く認識できていなのか、リディアは軽い口調で尋ねてきた。

「たぶんそうだろう……でも……竜舎の方からじゃない」

 林間学習では、砦や戦地に赴いた際の奇襲など突発的な事態に備えて、夜間などに緊急を知らせる鐘の音に合わせて、起床、各種必要な準備を整えられるかという訓練が行われる。今の鐘の音も、その訓練のため鳴らされたものかと最初は思った。けれど、突発な訓練で、生徒達に知らされて居なくとも、講師であるアーネスト達にはその日程を知らされているのが普通だ。今鳴らされている鐘の音は、アーネストが知る限り、予定にはないタイミングだった。

 それに、鐘の音に続いた飛竜のものと思われる咆哮は、今の時間帯で飛竜達が居るはずの竜舎の方角から聞こえていたものではなく、それどころか、それよりもっと遠くから響いてきたように聞こえた。

 ぞわぞわと嫌な不安が湧き上がってくる。

 一度宿舎の方へと目を向ける。ぽつぽつと宿舎に明かりが灯されていき、それが窓から漏れてくる。皆起きだし動き始めているようだった。

「何が起きているか確認してくる。アルフォード、君は訓練通りに動いてくれ」

 剣を持ち直し、アーネストは傍に居るリディアに指示を飛ばす。リディアはそれに小さく頷き、立ち上がる。それを見届けると、アーネストは宿舎の方、他の講師たちが居る方へ向けて走り出した。


 宿舎の中へ戻る途中、宿舎の出入り口と見張り台との間の辺りで、ヴェルノや他の講師たちの姿が目に入った。アーネストはそれを目にすると、宿舎の中へ入るのをやめ、ヴェルノ達の傍へと駆け寄って行った。

「何があったのですか?」

 ヴェルノ達の傍へと近付くとすぐさま何が起きているのか確認する。

「アーネストか、ちょうど今それを確認するところだ」

 尋ねられたヴェルノは一度アーネストに視線を寄越すと直ぐにある人物の方へと目を向ける。ヴェルノの視線の先には、先日世話になった山岳警備隊員が立っていた。

 山岳警備隊員は、ここまで走って来たのか、大きく荒い息をどうにか落着けながら、こちらを見返してきた。

「とりあえず、今いる面子だけでいい、何が起こっているか話してくれ」

 目の前の山岳警備隊員にヴェルノは状況を話すよう促す。

「は、はい。報告します。数時間前から一部の野生の飛竜達が群れを作り、山を下り始めたと報告がありました。
 進行目標、目的等は今のところ不明です」

 山岳警備隊員は一度大きく息を付く。そしてすぐさま続きを口にした。

「それから、飛竜達は進攻途中にある近隣の村々を襲っているという報告を受けています」

 後に告げた山岳警備隊員の言葉を聞き、今この場に居る全員に緊張が走る。

「ひ、飛竜が人を襲っているんですか!?」

 聞き間違いであってほしい、そう思ったのか講師の一人が尋ねた。

「はい。被害がどれ程出ているかは、まだわかりませんが、確認した限りではすでに飛竜による死者も出ているみたいです」

「――」

 息が詰まる。

 飛竜は温厚な魔獣というわけでは無いが、何もしなければ何もしてくる事は無く、基本的には人を襲う事は無い。その常識が目の前で崩れ去っていく気がした。


『もう遅い……』


 先日聞いた竜の言葉の一つが頭を掠める。

「王国への報告は?」

 ヴェルノが尋ねる。

「すでに『送致センディング』を飛ばしています」

「ひ、飛竜達はこちらへは向かってきているのですか!?」

「今のところはまだ、こちらへ向かってきているのは確認できていません。ですが、こちらへ来る可能性はあると思われます」

 山岳警備隊員の返答を聞き、何人かの講師がそっと安堵の息を付く。今のところこの場所は安全な様だった。

「一つ、変な事を聞いて良いですか?」

 正確な情報を得るため、講師と山岳警備隊員が行っている情報のやり取りに、アーネストが恐る恐るといった感じで割って入る。

「どうぞ」

「飛竜の群れの中に……竜――四肢を持った、飛竜に似た竜族の姿は見ていますか?」

 慎重といった趣で尋ねたアーネストに、ヴェルノが一度目を向ける。

「竜? 飛竜全部を確認できているわけでは無いので分かりませんが、そのような個体を見たという報告は来ていません」

「そう、ですか。ありがとうございます」

 あれだけの敵意、それから竜と言う影響力。もしかした、先日あった竜が、この状況を先導しているのではないかと思い、尋ねてみたが違っていたようだった。

「飛竜の個体数はまだ判っていなんだな」

 ヴェルノが山岳警備隊員に尋ねる。

「はい。正確な数はまだ……ですが、この地域だけでも30近くの飛竜が動いていると思われます」

「30……」

 山岳警備隊員の返答にヴェルノは軽く苦笑する。

 ヴェルノは一度この場に居る講師たちに視線を向け、他に聞きたい事は無いかと目で尋ねる。そして、これ以上聞きたいことが無い事を確認する。

「山岳警備隊は、この後どう動くつもりなんだ?」

「まだ決まっていません。ですが、飛竜相手では手の出しようがないので、逃げ出してきた住民の保護、避難誘導にあたるかと思います」

「了解した。報告ご苦労。持ち場に戻ってくれ」

 最後に確認したい情報を確認すると、ヴェルノは山岳警備隊員に労いの言葉を書け、開放する。山岳警備隊員はヴェルノの言葉を聞くと、一度頭を下げ、踵を返すと走り去っていった。


「どう、しますか?」

 山岳警備隊員が立ち去ると、少しの間沈黙が訪れた。皆、明確な行動方針を口にできず、周りの意見を伺っている様だった。

 そうなると、今この場で年長者であり、一番の実戦経験者であるヴェルノへと目が向けられる。

「飛竜30体でしたら……ここにある戦力すべてを動かせば討伐する事は可能ですが……」

 恐る恐る講師の一人が、ヴェルノにそう提案する。

「討伐は認められない。飛竜は王国の財産であり、国王の財産だ。それを無断で討伐する事は、大罪にあたる。それに、お前が言う『戦力』には、生徒達が含まれているのか?」

 鋭い視線と共にヴェルノは答える。それによって尋ねた講師は委縮し、口を閉ざす。

「でしたら、どうするのですか? こちらへ被害がまだないのでしたら……静観……しますか?」

 他の講師の言葉に、ヴェルノは目を閉じ少し考え込む。そして、ゆっくり口を開く。

「いや。こちらも、住人の避難を助けよう」

「住民を助けるのですか!?」

 ヴェルノの答えに、講師の一人が驚きの声を上げる。

「何か問題はあるか?」

「いえ、特に問題はありませんが……彼らは王国に反感を持ち、敵対的です。助ける意味は、薄い様に思います。ですから……」

「確かに彼らは我々に敵対的だ。だが、王国の国民である事は変わりない。であるなら、我々竜騎士には、国民を、彼らを守る義務がある。違うか?」

 鋭い視線と共にヴェルノは、尋ねてきた講師に答えを返す。

「助けると言いましても、規模を考えるに、ここにいる竜騎士だけではすべてをカバーしきれません」

「生徒達にも動いてもらう。安全な区域での避難誘導や警護なら危険は少ない」

「動いてくれますかね。生徒達は、昨日住人からの危害を受けたばかりですよ」

「納得させる。最悪動いてくれる者達だけでいい」

 結論を述べるとヴェルノは、話は終わりだと言うかのように一度大きく息を吐く。

「よし、それじゃあ準備を始めるぞ。直ぐに動いてくれ!
 アーネスト。お前には飼育員達を纏めて、避難とその警護に当たってくれ!」

 最後に大きな声で講師全員に指示を飛ばし、アーネストを含む講師たちはそれぞれ己のやるべきことを見つけ散り散りなって行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...