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冒険者ギルド世界を変える
121 冒険者ギルドと頼れる所有物たち
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冒険者ギルド本部 会議室
レインベル領から戻った翌日。
冒険者ギルドの今後について打ち合わせをするため会議室へ入る。
製作班により建築されたばかりの会議室は飾り気の一つもない。
部屋の中央には木製の丸テーブルと椅子。あとは壁に黒板のようなものがあるだけだ。
建設に使用された素材のグレードはラ・メイズにおける一般的な建物と変わらない。
ラ・メイズの話題を独占する冒険者ギルドの会議室としては粗末な造りにも見えるが、よく目を凝らせば非常に丁寧に、頑丈に設計されていることがわかる。
「ドワイト、良い仕事だ」
俺は会議室を見回し、製作班長のドワイトを素直に称賛する。
「おう、さすがトシゾウだ。良い目をしているわい」
「うむ。機能的で長持ちするというのは、それで一つの芸術だ。長く使うならば安価な素材の方が修理も容易だしな。受付などならともかく、会議室が華美である必要はないだろう。今後もこの調子で建設を進めてくれ」
レインベル領でボスを討伐している間にも、冒険者ギルドの建設は着々と進んでいた。
あと数日もすれば主要な施設は稼働を開始できるだろう。
「おう、任せておけ。しかしお前さんは本当に魔物とは思えないな。防壁を建てるときにも思ったことだが、普通の人間よりも大工仕事に精通しているようだ。お貴族様のように見た目だけに気を回すやつにも見習ってほしいわい」
蓄えた口髭を撫でつけながら満足そうに笑うドワイト。
「何に価値を見出すかはそれぞれだからな。貴族が見た目の豪華さに惹かれるのも良く理解できる」
見栄を張るというのは本来悪いことではない。
ドワイトもそれはわかっているのだろうが…。
職人気質なドワイトのことだ、貴族に嫌な思い出でもあるのかもしれないな。
良い宝を生む者は、自分に何が求められているかをよく理解しているものだ。
迷宮深層に挑む剣ならば装飾よりも切れ味を。
壁に飾るのなら美しい装飾を。
同じ素材でできた品でも、その用途に応じた工夫の有無は価値を大きく左右するのだ。
…思考が逸れたな。
「さて、それでは会議を始めようか」
席に着き、改めてギルドメンバー一人一人を確認する。
開始予定の時間には少し早いが、主要なギルドメンバーはすでに全員が集合しているようだ。
シオン、ベル、ドワイト、コウエン、エルダ。
各班長達を筆頭に、幹部候補となる者たちが会議室に詰めている。
みな良い面構えだな。健康そのものだ。
「まずは俺がレインベル領へ行っていた間のことについて…ベル、報告を頼む。商業班に問題はなかったか」
「了解や。特別に報告することはあらへんな。トシゾウはんも知っての通り特にトラブルはなし。順調そのものや。この間のボロスっちゅう商人を吊るした見せしめや、しーちゃんや戦闘班の武力が知れ渡った以上、表向きの妨害は不可能や。それに加えて王族が冒険者ギルドの支援を表明したことで、ウチらは民と公のええとこ取りや。もう全ての組織が手の平返してすり寄ってくるレベルやな」
報告を行ったのは商業班長のベルベットだ。名前が長いのでベルと呼んでいる。
冒険者ギルドの知恵袋であり、これからは仕事がどんどん増えていくことになるだろう。
ひょうきんな振る舞いに軽妙ながらクセのある言葉遣いをするが、その能力はたいしたものだ。
本人の強い希望により商業班を任せたのだが、今日に至るまで結果を出し続ける辣腕ぶりだ。
説明に合わせて丁寧に編み込まれた赤髪が揺れている。
娼婦の格好で奴隷として売られていただけあり、整った容姿をしている。
「上々だな。だが油断はするなよ」
「ガッテンや。障害がほとんどないのは拍子抜けやけど、それならそれで一気に仕事を進めるだけや。商業班はこれから仕事が増える一方やからやりがいがあるで」
ベルが明るく笑う。
「うむ、その意気だ。大船に乗っているのだったな。頼りにしているぞ」
実に安定感があり素晴らしい。
レインベル領で暴れまわったことによる副産物か。
現在、人族至上主義者の横暴はなりを潜めているらしい。
冒険者ギルドへ妨害を仕掛けてきそうな勢力としては、既得権益を持つ商業ギルドや、そのバックにいる貴族を想定していたのだが…。
ゼベルの失脚と貴族が積み重ねてきた悪事が露呈されたことで、奴らの屋台骨はガタガタだ。もはや崩壊していると言っても良い。
しばらくは落ち着いてギルドを発展させることができるだろう。
「戦闘班はどうだ」
「はっ、元拾い屋や獣人を侮る者の数は着実に減りつつあります。やはり力を示したことは大きかったようです。そこへレインベルでの騒動に、勇者の任命。問題をあげるとすれば、冒険者ギルドが力を持つのが早すぎるかもしれません。今は逆に身内が増長しないかに気を配っている状況です」
「うむ、さすがはコウエンだ。最初に言ったことをよく覚えているようだな。戦闘班の班長であるコウエンに期待するのは武力だけではない。冒険者が種族を超えて連携するためには、全種族が平等であるという認識が必要だ。人族が迷宮を独占したのは他種族の力に怯えたからという側面もあるからな。バランスをとる必要がある」
「承知しております。しかしさすがは閣下。獣人の地位は早くも高まりつつあります。種族間の差別意識が縮まるよう、今後も戦闘班一丸となって取り組んでまいります」
「うむ。期待している。俺の目的のために役割を果たせ」
「御意」
戦闘班長のコウエンが胸に手を当てる。虎種の敬礼だ。
シオンのぶんぶん揺れ動く尻尾とは違い、コウエンの虎の尾はその主人と同じく一本の芯が通ったようだ。
コウエンは強く、優秀だ。この男の忠誠は何物にも代えがたい価値がある。
まだまだ獣人や冒険者ギルドを侮った者たちがトラブルを起こすことはあるだろうが、その場合はコウエンに一任しておいて問題なさそうだ。
シオンの白い尻尾がヘニャリと垂れていることに気付く。
俺が心の中でシオンとコウエンを比較したことに勘付いたのかもしれない。
ますますエスパーぶりに磨きがかかっているな。
「シオン、お前は今のままで何も問題ない」
「は、はい、ご主人様」
シオンが慌てて答える。
何を驚く。俺も以前よりは視野が広くなっているし、シオンの考えることもわかるようになってきているのだ。
「さて、料理班、エルダからは何かあるか」
「何もないよ。新入りの子も料理に慣れてきて、新メニューの開発をする時間があったくらいさね。食料さえ仕入れてくれるなら、いつでも食堂を開けるよ」
「うむ、相変わらずエルダは優秀だな」
「そりゃ長年やってるからね。これが私の天職だよ」
豪快に笑うエルダ。
コウエンとはまた種類の違う安定感というか、頼れる感がすごい。さすがは食堂のおばちゃんである。
エルダには人望がある。
班を超えてギルドメンバー全員の支えになっている。
元奴隷と拾い屋の集まりである冒険者ギルドは寄り合い所帯だ。それがここまで上手く機能しているのはエルダの貢献によるところも大きい。
飯は人間にとって活力の源だ。
この世界において、飢えに苦しまず満たされた食事ができることは、おそらく俺が考えている以上に大きな意味を持つ。腹が減れば人間は余裕がなくなり、獣となってその価値を落とすのだ。
エルダはもちろん、料理班はギルドに欠かせない存在である。
考えれば考えるほど、この会議に参加している者たちの価値は大きいことに気付かされる。
冒険者ギルドは俺の目的を果たすための道具としか考えていなかったが、その認識はすでに過去のものだ。きっと良いことなのだろう。
そんなことを考えつつ会議を進める。
他にも建築の進捗や、新たに奪った装備などの収支報告を確認していく。
冒険者ギルドはまだ一般の冒険者相手に稼働していない。
にも関わらずベルから聞かされた収支報告はすさまじい黒字を計上していた。
そのほとんどが敵対者から奪った宝だ。
略奪が今のギルドの収入源とは。迷賊も真っ青である。
他にもいくつか進展があったが、取り立てて急ぎの案件はなさそうだ。
各班はこまめに協力を行っているため、会議前にある程度の情報は共有されていた。
それでも、あえて全員で情報を共有する場を持つのは大切なことだ。
迷宮の中で情報の伝達を怠った冒険者パーティが壊滅するのを何度も見てきた。
冒険者ギルドが同じ轍を踏まないように調整する必要がある。
…まぁ情報伝達ができていようができていなかろうが、俺に遭った場合はもれなく宝を献上してもらうことになるのだが。俺も他の者から奪われないように、油断しないようにしなければならないな。
レインベル領から戻った翌日。
冒険者ギルドの今後について打ち合わせをするため会議室へ入る。
製作班により建築されたばかりの会議室は飾り気の一つもない。
部屋の中央には木製の丸テーブルと椅子。あとは壁に黒板のようなものがあるだけだ。
建設に使用された素材のグレードはラ・メイズにおける一般的な建物と変わらない。
ラ・メイズの話題を独占する冒険者ギルドの会議室としては粗末な造りにも見えるが、よく目を凝らせば非常に丁寧に、頑丈に設計されていることがわかる。
「ドワイト、良い仕事だ」
俺は会議室を見回し、製作班長のドワイトを素直に称賛する。
「おう、さすがトシゾウだ。良い目をしているわい」
「うむ。機能的で長持ちするというのは、それで一つの芸術だ。長く使うならば安価な素材の方が修理も容易だしな。受付などならともかく、会議室が華美である必要はないだろう。今後もこの調子で建設を進めてくれ」
レインベル領でボスを討伐している間にも、冒険者ギルドの建設は着々と進んでいた。
あと数日もすれば主要な施設は稼働を開始できるだろう。
「おう、任せておけ。しかしお前さんは本当に魔物とは思えないな。防壁を建てるときにも思ったことだが、普通の人間よりも大工仕事に精通しているようだ。お貴族様のように見た目だけに気を回すやつにも見習ってほしいわい」
蓄えた口髭を撫でつけながら満足そうに笑うドワイト。
「何に価値を見出すかはそれぞれだからな。貴族が見た目の豪華さに惹かれるのも良く理解できる」
見栄を張るというのは本来悪いことではない。
ドワイトもそれはわかっているのだろうが…。
職人気質なドワイトのことだ、貴族に嫌な思い出でもあるのかもしれないな。
良い宝を生む者は、自分に何が求められているかをよく理解しているものだ。
迷宮深層に挑む剣ならば装飾よりも切れ味を。
壁に飾るのなら美しい装飾を。
同じ素材でできた品でも、その用途に応じた工夫の有無は価値を大きく左右するのだ。
…思考が逸れたな。
「さて、それでは会議を始めようか」
席に着き、改めてギルドメンバー一人一人を確認する。
開始予定の時間には少し早いが、主要なギルドメンバーはすでに全員が集合しているようだ。
シオン、ベル、ドワイト、コウエン、エルダ。
各班長達を筆頭に、幹部候補となる者たちが会議室に詰めている。
みな良い面構えだな。健康そのものだ。
「まずは俺がレインベル領へ行っていた間のことについて…ベル、報告を頼む。商業班に問題はなかったか」
「了解や。特別に報告することはあらへんな。トシゾウはんも知っての通り特にトラブルはなし。順調そのものや。この間のボロスっちゅう商人を吊るした見せしめや、しーちゃんや戦闘班の武力が知れ渡った以上、表向きの妨害は不可能や。それに加えて王族が冒険者ギルドの支援を表明したことで、ウチらは民と公のええとこ取りや。もう全ての組織が手の平返してすり寄ってくるレベルやな」
報告を行ったのは商業班長のベルベットだ。名前が長いのでベルと呼んでいる。
冒険者ギルドの知恵袋であり、これからは仕事がどんどん増えていくことになるだろう。
ひょうきんな振る舞いに軽妙ながらクセのある言葉遣いをするが、その能力はたいしたものだ。
本人の強い希望により商業班を任せたのだが、今日に至るまで結果を出し続ける辣腕ぶりだ。
説明に合わせて丁寧に編み込まれた赤髪が揺れている。
娼婦の格好で奴隷として売られていただけあり、整った容姿をしている。
「上々だな。だが油断はするなよ」
「ガッテンや。障害がほとんどないのは拍子抜けやけど、それならそれで一気に仕事を進めるだけや。商業班はこれから仕事が増える一方やからやりがいがあるで」
ベルが明るく笑う。
「うむ、その意気だ。大船に乗っているのだったな。頼りにしているぞ」
実に安定感があり素晴らしい。
レインベル領で暴れまわったことによる副産物か。
現在、人族至上主義者の横暴はなりを潜めているらしい。
冒険者ギルドへ妨害を仕掛けてきそうな勢力としては、既得権益を持つ商業ギルドや、そのバックにいる貴族を想定していたのだが…。
ゼベルの失脚と貴族が積み重ねてきた悪事が露呈されたことで、奴らの屋台骨はガタガタだ。もはや崩壊していると言っても良い。
しばらくは落ち着いてギルドを発展させることができるだろう。
「戦闘班はどうだ」
「はっ、元拾い屋や獣人を侮る者の数は着実に減りつつあります。やはり力を示したことは大きかったようです。そこへレインベルでの騒動に、勇者の任命。問題をあげるとすれば、冒険者ギルドが力を持つのが早すぎるかもしれません。今は逆に身内が増長しないかに気を配っている状況です」
「うむ、さすがはコウエンだ。最初に言ったことをよく覚えているようだな。戦闘班の班長であるコウエンに期待するのは武力だけではない。冒険者が種族を超えて連携するためには、全種族が平等であるという認識が必要だ。人族が迷宮を独占したのは他種族の力に怯えたからという側面もあるからな。バランスをとる必要がある」
「承知しております。しかしさすがは閣下。獣人の地位は早くも高まりつつあります。種族間の差別意識が縮まるよう、今後も戦闘班一丸となって取り組んでまいります」
「うむ。期待している。俺の目的のために役割を果たせ」
「御意」
戦闘班長のコウエンが胸に手を当てる。虎種の敬礼だ。
シオンのぶんぶん揺れ動く尻尾とは違い、コウエンの虎の尾はその主人と同じく一本の芯が通ったようだ。
コウエンは強く、優秀だ。この男の忠誠は何物にも代えがたい価値がある。
まだまだ獣人や冒険者ギルドを侮った者たちがトラブルを起こすことはあるだろうが、その場合はコウエンに一任しておいて問題なさそうだ。
シオンの白い尻尾がヘニャリと垂れていることに気付く。
俺が心の中でシオンとコウエンを比較したことに勘付いたのかもしれない。
ますますエスパーぶりに磨きがかかっているな。
「シオン、お前は今のままで何も問題ない」
「は、はい、ご主人様」
シオンが慌てて答える。
何を驚く。俺も以前よりは視野が広くなっているし、シオンの考えることもわかるようになってきているのだ。
「さて、料理班、エルダからは何かあるか」
「何もないよ。新入りの子も料理に慣れてきて、新メニューの開発をする時間があったくらいさね。食料さえ仕入れてくれるなら、いつでも食堂を開けるよ」
「うむ、相変わらずエルダは優秀だな」
「そりゃ長年やってるからね。これが私の天職だよ」
豪快に笑うエルダ。
コウエンとはまた種類の違う安定感というか、頼れる感がすごい。さすがは食堂のおばちゃんである。
エルダには人望がある。
班を超えてギルドメンバー全員の支えになっている。
元奴隷と拾い屋の集まりである冒険者ギルドは寄り合い所帯だ。それがここまで上手く機能しているのはエルダの貢献によるところも大きい。
飯は人間にとって活力の源だ。
この世界において、飢えに苦しまず満たされた食事ができることは、おそらく俺が考えている以上に大きな意味を持つ。腹が減れば人間は余裕がなくなり、獣となってその価値を落とすのだ。
エルダはもちろん、料理班はギルドに欠かせない存在である。
考えれば考えるほど、この会議に参加している者たちの価値は大きいことに気付かされる。
冒険者ギルドは俺の目的を果たすための道具としか考えていなかったが、その認識はすでに過去のものだ。きっと良いことなのだろう。
そんなことを考えつつ会議を進める。
他にも建築の進捗や、新たに奪った装備などの収支報告を確認していく。
冒険者ギルドはまだ一般の冒険者相手に稼働していない。
にも関わらずベルから聞かされた収支報告はすさまじい黒字を計上していた。
そのほとんどが敵対者から奪った宝だ。
略奪が今のギルドの収入源とは。迷賊も真っ青である。
他にもいくつか進展があったが、取り立てて急ぎの案件はなさそうだ。
各班はこまめに協力を行っているため、会議前にある程度の情報は共有されていた。
それでも、あえて全員で情報を共有する場を持つのは大切なことだ。
迷宮の中で情報の伝達を怠った冒険者パーティが壊滅するのを何度も見てきた。
冒険者ギルドが同じ轍を踏まないように調整する必要がある。
…まぁ情報伝達ができていようができていなかろうが、俺に遭った場合はもれなく宝を献上してもらうことになるのだが。俺も他の者から奪われないように、油断しないようにしなければならないな。
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