SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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第一章 始まりはいつものように

第二話「エイジスとバン」

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第二話「エイジスとバン」

 デヴォイは前回の任務で得たお金を使い果たす前に、“皇帝の眠る街”『カイザーシュレフト』で新しい任務を受けようと、ギルドに足を運ぶ。
 そのギルドは一級ホテルのロビーのように清楚で荘重な趣があり、まさかそこで暗殺などが依頼されるような場所には見えなかった。
「今、一件あります。Bランクの任務で、大泥棒ビッグ・ロウの館に侵入し、彼に奪われたリーブス商会の品を奪い返す、というものです。報酬は千二百五十ホールドです。」
「何で、大泥棒なんかに屋敷があるんだ?」
 その問いに答えたのは受付の者ではなく、ロビーのソファに腰掛けていた金髪の女性だった。おっと、いい女。
「この街には、街の外で罪を犯した者を罰しない法があるからよ。この街は、言わば、犯罪者の集う街ってところね。それにしてもあなた…。」
 女性は彼の肩に寄り掛かって言う。 
「いい男ねぇ。」
 女性は、眩しいまでの大人の色香を漂わせていた。デヴォイは思わず下心を面に出しそうになった。いけないいけない。
「ふふっ、あなた、私と一緒にその仕事してみない?」
 しかし彼女は、傭兵というよりむしろ暗殺者であるという、そこらのソルジャーにはない独特の雰囲気をも備えていた。
「それはねぇですよ、姉御。」
 そこへ急に割り込んだ猫背の男が言う。男は目もいかにも猫目という感じだった。
「俺と次の仕事受けてくれるって言ってたのに~。」
「いいじゃない、この人、初任務でトリニティと同等の仕事をしたっていう人みたいだから。魅力的じゃない。」
「何故知っている? ネスツギルドってのはそういう情報はすぐ広まるのか?」
「うふふ、まあね、特にいい男の情報はね。」
 こうしてデヴォイは、金髪美女のエイジス=ブラムフォードと、猫男のバン=ウェルダーと、一緒に仕事をする事になった。

 バンがビッグ・ロウがよく出入りするという酒場に彼を誘って足止めをしているうちに、デヴォイとエイジスが屋敷に忍び込み、依頼の品を奪い返すという作戦に出た。バンは潜入活動の才に長けているので、泥棒の世界に入っていて、ビッグ・ロウとはすっかり顔馴染みである。
「どうだ、ウェルダーよ。お前、景気はいいか? おい、飲んでるか?」
 夕方、酒場の一角で、バンとビッグ・ロウ、その他数名が飲んでいた。注がれる酒を飲みながら、彼は答える。
「いやあ、やっぱりおやっさんと違って、政府に認可されるほどビッグな泥棒にはまだなれてませんから。」
「はっはっは、お前は身のこなしもいいし、頭もいいから、すぐに俺の様になれるさ。ま、チンケな事はやらない事だな。悪儲けした奴だけから盗るってのが筋ってもんだ。」
「さすがおやっさんだ。俺も一流の義賊になってみせやすぜ。」
 話が盛り上がってきたところで、バンはそれとなく、ビッグ・ロウの屋敷の事を聞き出そうと思った。
「そういえば、俺、一回おやっさん家に招待されてみたいんすよね~。」
「へっ、ただ何にもない、だだっ広いだけの家だ。」
「でも、昔得たお宝とか隠してあるんでしょ?」
「ああ、まあな。どこにあるかはお前らにも勿論秘密だがな、はっはっは。」
 バンは一応訊いてみた。
「もし、今みたいにおやっさんの留守中に他の泥棒に入られたら、どうするんです?」
「番犬がいるから大丈夫だ。」
 不敵に微笑む彼には自信があった。

 その頃、デヴォイとエイジスの二人は彼の屋敷の裏口に着いていた。エイジスは仲間内で呼ばれている“氷月のエイジス”という名前に相応しい、冷たく色気のある笑みを浮かべて言う。
「見張りが一人もいない…不用心なのか、それともお約束の罠って奴かしら。うふふ。」
 とにもかくにも、どのみち二人は塀を乗り越えて侵入する他はなかった。と、同時に、獣の低い唸り声がした。闇の中で光る眼が八つ。
「何だあれは?」
 デヴォイが声を上げると同時に異形の者が襲いかかってきた! 獅子の首の部分から、山羊、蛇、鶏の首が生えているそのスタンダードな姿は言うまでもなく…。
「そいつは任せたわ! 私は今のうちに探してくるから!」
「おわっ、ずるいなぁ。と、この!」
 双剣を抜いてキメラに応戦するデヴォイ。キメラは獅子の口から炎を吐くのかと思いきや、何と、山羊の口が魔法詠唱をし出した!
「侵入者ヲ排除スルー暗黒球 《ドゥンケラー バル》!」
 幾つもの黒い球がデヴォイを取り囲む。
「くそっ!」
 彼は剣で暗黒球を薙払うが、剣先が触れると同時にその体から、力が急激に抜ける。追い討ちをかけるために、鶏もまた詠唱を始める!
石化 《エンデルン ナッハ シュタイン》!」
 その魔法の光を避けきれなかったデヴォイの下半身が、みるみるうちに石化し、重くなっていく。蛇は毒の息を放ち、獅子はその牙で噛みつこうとする!
「さすがに魔法を唱えるとは思わなかったから油断したが…。」
 デヴォイはまだ動く左手を地面に向け、念じる。彼を中心に風が波紋の様に広がる。
突風 《ヴィントシュートス》!!」
 見えない波動でキメラは吹き飛んだ! そのうちに回復魔法で石化を解くデヴォイ。
 キメラが態勢を立て直し、再び襲いかかろうとするが、立て続けに魔法詠唱をする彼を用心してか、間合いをとっていた。デヴォイもキメラの予想通り、いくつか連続魔法の組み合わせを考え、詠唱しながら剣を構えていた。
 そうしてお互い睨み合い数分が過ぎた。
「時間稼ぎありがとうね!」
 目的の品を手にしたエイジスが現れた。段ボール一箱というぐらいか。さして重そうにも見えないが、依頼者にとっては価値のあるものなのだろう。
「早いな!」
「中もトラップでいっぱいだったわ。私にはあんなの楽勝だけど。さあ、そんなのほっといてさっさと行くわよ!」
 キメラを置いたまま、二人は脱出し、ギルドに戻った。

 バンは別れ際、ビッグ・ロウに告げる。
「そうだ、俺、殺しもするんっすよ。」
 それはこれから実行される事をほのめかす言葉であった。しかし、ビッグ・ロウや他の者達は泥酔していて、結局彼の言葉を覚えている者はいなかった。

 ギルドへ戻った二人は、報酬を受け取る。バンの分け前はエイジスが預かる。
「あなた、これから予定ある?」
 急に振り返ってエイジスは訊ねたが、デヴォイは動じることなく答える。
「いや。特にないよ。食事しに行こうか?」
「いいわよ。ねえ、後で、それよりもっといいとこ行きましょ。」
 二人は食後、とんとん拍子でホテルへ行くことになった。

 いやぁ、俺から誘う事はあっても、誘われる事は初めてだなぁ。この姉ちゃんも好き者だなぁ。なんて考えながらデヴォイは一室のシャワーを浴びていた。しかし、俺に先に入らせて、出て行ってみたらいなくなってる、って手じゃないだろうなぁ? 彼は余計な心配をした。鼻歌を歌いながら、その時を待った。
 部屋はやけに静かであった。エイジス一人しかいないから、と言うわけではなく、先程ビッグ・ロウの屋敷に忍び込んだ時と似た感触だった。殺気? いや、そういったモノとはまた違う、ただ『待ちかまえている』といった感じだ。しかし何の感情も感じられない、凍った月の様な…。
 デヴォイがシャワールームから出たとき、そこには、真っ直ぐに銃口を彼の心臓に向けたエイジスが立っていた! 視線も心臓に向けられている。確実に殺る気だ!
「これはあなたの油断の結果よ。観念しなさい。」
 言い終わるや否や、彼女は銃をぶっ放った!
 しかしシャワールームを出る前に、物理攻撃を弾く魔法障壁を作っておいたデヴォイには効果がなかった。
「ちっ、命拾いしたわね!」
 第二撃を放つ前に、デヴォイは低姿勢でエイジスの懐に間合いを詰め、左のアッパーカットを繰り出そうとしたが、いつの間にか窓が開いていた右の真横のベランダからバンが現れ、両手の鉄の爪で彼を切り裂こうとしたので、急いで身を捻り、態勢を整えたあと跳び退いた。
「どういうつもりだ!」
「思い当たる節はないの? 残念だけど、これもギルドから依頼された任務なのよ。貴方の所属しているネスツギルドというのがどんなところか、大体理解が出来たでしょう?」
「分からないね!」
 デヴォイの剣は隠されているようで、二人を同時に相手にしながら探すのは無理だと判断した彼は、鉄爪を装備したまさに猫のようなバンを相手にするよりも、エイジスが銃を撃てない近さまで行き、体術を駆使する他ないと判断した。
 デヴォイは跳び来るバンの動きも考慮しながら少しずつエイジスとの間合いを詰めたが、彼女はその間に腰から短刀を取り出し、飛び込んできた彼の腹部に突き刺した!! …かの様に見えたが、実はデヴォイは走りながら魔法詠唱をしていたので、短刀が腹に刺さる寸前に、彼の手から単発の暗黒球が放たれ、エイジスの動きを止める事が出来た。
 そして体力を奪われた彼女はその場にそのままへたりこむ。
「姉御!」
「さっき番犬キメラと戦った時に使われた魔法を応用し一点集中型にし、威力を強めた。まあ見てはいないだろうがな。しばらくは動けないぞ。俺に戦闘を担当させた事を後悔するんだな、エイジス。バン、動くと彼女の命はないぞ。」
 デヴォイは彼女の手から奪った短刀を喉に突きつけ、脚でその体を羽交い締めにした。
「バン! 俺を狙った理由を言え!」
「ちっ、姉御を盾にされちゃ…。でも、デヴォイさんよ、俺達は本当に理由を聞かされていないんだ。依頼主も伏せられていた。ただあんたを殺せとだけ依頼があったんだ。」
「解せないな。俺が何をしたっていうんだ。」
 デヴォイの締めている脚の力が思わず強くなる。あん、とエイジスが官能的なうめき声を上げた。デヴォイの脚の力は思わず弱まり、バンの額に青筋が生まれた。
「知らねえよ。ただ、姉御も言ったとおり、ネスツギルドを甘く見ちゃいけない、って事だ。さあ、早くエイジスを返せ。」
 バンは動けない彼女を背負いその場を去っていった。
 そうしてデヴォイは今までの考えを百八十度転換してこれからの任務を受けざるを得なくなった。
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