SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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第三章 運命

第十三話「運命を視る紅い瞳」

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第十三話「運命を視る紅い瞳」

 エイジスとバンが入院してから一週間の間に、彼らを見舞った者の中に、シーマ=キスマークという女性がいた。エイジスが姉の様に慕うベテランのSランクソルジャーで、ネスツギルドの幹部でもある。
 彼女の印象は…氷月の笑みは持っていても妖艶で普段は明るさもあるエイジスとは違い、完全なる絶対零度…何者もそこからは生きては出られない永久の闇…であった。
「姉さん…。ありがとう、来てくれて。」
「怪我の方はもう大分と癒えているみたいね。順調に行けば、退院も早いでしょう。」
 さらりと何の感傷もなく言うが、エイジスはそんな事は気にしない。こういったシーマのクールな面に憧れているのだ。
「ええ。それより姉さん、このSNG襲撃事件についてなんだけど…。」
 エイジスは自分の憶測を全て話した。
「分かった、調査してみるわ。ただこの世界が広い分、ギルドの本部もかなり人数がいてややこしくてね、誰が何をしてるかまで把握しきれていないのが現実よ。時間はかかると思うけど…究明するわ。用件はそれだけかしら? 私は忙しいから戻るけどお大事に。」
 そう言って彼女は部屋を出て、そして誰にも聞こえない声で呟いた。
「エイジスがいたのは計算外だった…まああの子はそんな事は考慮しないでしょうが。」

 そして、今度は、彼らの番だ。トリニティの三人は、ルデール近郊の平野で、まさに『パラライザー』の刺客達に襲われているところだった。
「口ほどにもない…。」
 何人かは持ち前の連携で片付けたらしく、刺客の数も、もはや二人に減っていた。
「弱っち~、確かに頼りになんないね。でもいいの、あたし達二人で十分だから。」
 一人はフィアー。そして、もう一人はフードとマントで身を包む、例のエイジス達を襲った刺客であった。
「嬢ちゃん相手とは気が抜けるぜ。」
「おい、ボルド、レディは丁重に扱えよ。」
「先輩、こんな子にレディって、ロリ入ってません?」
 三人は全く相手にしなかった。
「むっかー! 女の子だからって油断してると…。」
「死ぬわよ。斬風《シュナイデンター ヴィント》。」
 フードの刺客が間も置かず、ギルド襲撃時に使ったあの無差別烈風魔法を放つ。
 三人は咄嗟にかわすが、体のあちこちに切り傷がつけられる。
「あたしのセリフと出番をとらないでよ~。」
 とフィアーが悔しがる。
「あなたの出番は用意してあるわ…突風《ヴィントシュートス》!」
 フィアーの背中を風が押し、シローに突っ込む。フィアーの両手には短剣が握られていて、懐に入ったと思ったが、彼はそれをチェーンで絡めて防いだ。
「やるね、金髪!」
「オレは魔法だけが専門じゃないんでね!」
 二人が交戦している間、ラルフとボルドはフードの刺客を相手にする。彼女は風の魔法が今のところ得意分野のようであるので、うかつには近づかず、ラルフは間合いを取っている。ボルドの銃撃も、風のシールドによって無効化されている。
「ボルド! シローの方を頼む!」
「いや…あいつが今戦っている奴は…。」
 彼一人で大丈夫、紅き瞳が、彼のチェーンに捕らえられ踏ん縛られたフィアーの姿を映し出す。ただ視えないのは…今この戦場で戦っている他の全ての者の運命。
 運命が視えない者とはどういう者か…一つ目のパターンは、何故か原因不明で視る事の出来ない者…ラルフ、シロー、そしてこの戦場にいない人間も含めるならばデヴォイ、彼が知らない人間も含めるならば亡きアデュー。そしてもう一つのパターンは、紅い瞳の保有者。それを持つボルド自身の運命。そしておそらく…。
「こいつ…紅い瞳の保有者か。」
 フードから覗く目を注視して彼は確認した。

 二年半前…。あいつらの出身地デニスのあるクレドシナ王国の南部に位置する、メルカロフという街のカフェで、俺はモーニングコーヒーとガーリックトーストを食べていた。
「先輩~! 会いたかったですよ~。」
「シロー? お前どうしてここに?」
 若い二人の男の声がした。何気なくそのやりとりを聞いてみた。
「や~、卒業してみたはいいものの、国軍に就職するのもベタだし、かといって一般職に就くのも。ここに先輩がいるのを聞いて、どうしてるのかって思って会いに来ました。」
「どうしてるのかと言われても…何をしているわけでもない。親戚の家でぶらぶらしているだけだ。穀潰しと言われてな。俺も…お前と同じ口だ。」
 聞いていたらいい若者が…という俺もただの名所観光好きの、流れのガンマンに過ぎない。この平和な時代、無駄に力をつける意味はないような気もする。彼らがベタという国軍にしたって、モンスター退治か賊退治、あるいは警備ぐらいしか仕事はないだろう。
「先輩、ギルドって知ってます? 傭兵の。」
「聞いたことはあるが、それがどうかしたか?」
「よく分からないんですけど、暇つぶしにはなるかも知れないですよ?」
 ネスツギルドという奴か…俺も聞いたことはある。大きな街なら必ず一つはあって、世界規模ネットワークを持った、公認傭兵機関。そういう就職口もあるな、よく考えたら。で、こいつら、結局どうするんだろう…。ん…視えない? 俺のこの瞳で視えないだと? そんな奴らがいるのか…!
「面白いな、あんたら…。」
 俺は立ち上がって二人に声をかける。今までどんな奴でも運命を視る事が出来たが、こいつらは視えない…俺が探していたのはこういう奴らだ。
「今の話、俺も混ぜてくれないか?」

 かと言って…この瞳にも苦労はさせられた。禁忌の瞳だと忌み嫌われたため、俺は黒いサングラスで隠すという方法をとった。ラルフとシローはこの瞳を見ても何も特に思わなかったみたいだが、全ての人がそうという訳ではない。人との付き合いは…スムーズに進む方がいい。逃げ…? そういうものかな? 大人として生きていく術だ…そう割り切っている。その方法を取らなかったこの女もきっと…苦労しているんだな…。
「ボルド!」
 ラルフの呼び声で彼は戻される。
「戦闘中に考え事なんて、余裕こき過ぎだぞ!」
 どうやら不利なようだ。フードの刺客とフィアーが高速で三人の周りを回っている。
 まずいぞ…追いつめられる! そんな時に、ふと刺客のフードが取れた。
 緑の色の髪が現れる…そう、あのマイア=ナディウスであった。
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