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山神様
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これは俺が六月頃、週末に家族と田舎の祖父母の家に遊びに行ったときの話だ。まあ遊びに行ったって言っても、周囲に何も無いようなど田舎だし、家族も皆出払ってたから、その日俺は一緒に持ってきてた釣り道具一式を持って近くの山の中にある沼に向かったんだ。
しばらく山道を登ってようやく沼に到着したとき、ふとじいちゃんが俺によく言う話を思いだした。「いいか、夏至の日には何があっても絶対に山に入るんじゃないぞ。」これは俺が子供の頃から聞かされていることだが、理由を聞いてもとにかくだめだと言って話したがらない。それについて話すこと自体が何かしら禁忌とされているのかも知れない。とにかく、今日はその夏至だった。
そんなわけで俺は一瞬戻ろうかとも思ったが、ここまで来て迷信深いじいちゃんのよく分からない話にびびって何もせず来た道を戻るのもいやだし、山に入っちまったもんは仕方ないと思いそのまま釣りをすることにした。
沼の周りは薄暗くて少し霧が出ていて、じいちゃんの話も手伝い少し不気味に感じたが、そんなこともつかの間、釣り始めてみるとその日は面白いぐらいによく釣れた。それまでに経験したことのないぐらいの大漁で、俺は夢中で釣り続けた。
餌を付け替えている途中何かの気配を感じてふと顔を上げると、沼の向こう岸の森の方に、黒くてとても背の高い何かがぼうっと立っているのが見えて、俺はピタッと動くのを止めた。霧のせいではっきり見えないが、それは明らかに人間でも動物でもなかった。背筋が凍って、じいちゃんの言うことを聞いておかなかったことを後悔しかけたとき、その背の高い何かはゆっくりと動き出し、森の奥へと消えていった。
今見たのは何だったんだろう。そう考えているうち今見たものの現実感は急速に薄れてきて、俺は段々今のが内心ビクビクしていた俺の気のせいだったんじゃないかと思えてきて、そのまま釣りを続けた。
気が付くともうすでに日が暮れかけていて、俺は釣った魚を手に山を下り始めた。降りている途中、この辺の人らしき人と出会って呼び止められた。「おいあんた!こんなところで何してる!」「え...今まで釣りしてて帰るとこです」「お前、まさか途中で何かおかしなものとか見てないだろうな。」その人は俺の顔を見ていった。「見たんだな。まずいことになった。」そしてその人は俺になぜ夏至の日にこの山に入ってはいけないのかを語った。
「いいか、この山にはな、姿を見たってやつはほとんどいないが、神様が住んでる。普段は山を豊かにしてくれるんだが、一年に一日、夏至の日だけ山に入った人間をどこかへ連れて行ってしまうんだ。山神様は日の出ている間はおぼろげな姿なんだが、夜になると力を増して、その姿を見たものを連れ去りに来るんだ。このままだとお前が山を下りている間に日が暮れる。俺の家はすぐ近くだから、そこで一晩泊まっていった方がいい。」
俺はその話を聞いて取り乱してしまった。もう一刻も早くこの山を抜け出したくて、ここで一晩過ごすなんてとても考えられなかった。俺はまだ今から降りても間に合うと思い、全速力で山を駆け下り始めた。
「おい!待て!戻ってこい!」後ろからさっきの人の停める声が聞こえてきたが、俺はそれを無視して走り続けた。
ちょうど日の落ちる頃、俺は何とか家に辿りついた。しかし電気は付いていなかった。俺以外は皆旅行に行っていて今日は俺一人だった。俺は家中の窓を閉め、扉に鍵を掛けた。今日は早く寝てしまおうと思って布団に入ったが、寝つけないでいると、外から何か聞こえた気がした。俺がはっとして耳を澄ましていると、ズズッと何かが這いずるような音が、今度ははっきり聞こえた。
山神様だ。俺は凍り付いた。どうやら音は家の周りをぐるぐる回っているようだった。俺は自分が何処の窓の鍵も閉め忘れていないことを必死に祈った。不気味な音は家の壁や屋根の上を一晩中這いずり回って、朝になるといつの間にか消えた。
俺はじいちゃんが帰ってくるとすぐに昨日あった話をした。すると、じいちゃんは青ざめた顔で言った。「お前が聞いた話は大体あってるが、一つだけ大事な所が抜けてる。」「何?」「山神様は、人に化ける。」俺はぞっとした。「じゃあ、まさか」「あの山に住んでる人なんていない。お前がついて行っていなくて、本当に良かったよ。」
しばらく山道を登ってようやく沼に到着したとき、ふとじいちゃんが俺によく言う話を思いだした。「いいか、夏至の日には何があっても絶対に山に入るんじゃないぞ。」これは俺が子供の頃から聞かされていることだが、理由を聞いてもとにかくだめだと言って話したがらない。それについて話すこと自体が何かしら禁忌とされているのかも知れない。とにかく、今日はその夏至だった。
そんなわけで俺は一瞬戻ろうかとも思ったが、ここまで来て迷信深いじいちゃんのよく分からない話にびびって何もせず来た道を戻るのもいやだし、山に入っちまったもんは仕方ないと思いそのまま釣りをすることにした。
沼の周りは薄暗くて少し霧が出ていて、じいちゃんの話も手伝い少し不気味に感じたが、そんなこともつかの間、釣り始めてみるとその日は面白いぐらいによく釣れた。それまでに経験したことのないぐらいの大漁で、俺は夢中で釣り続けた。
餌を付け替えている途中何かの気配を感じてふと顔を上げると、沼の向こう岸の森の方に、黒くてとても背の高い何かがぼうっと立っているのが見えて、俺はピタッと動くのを止めた。霧のせいではっきり見えないが、それは明らかに人間でも動物でもなかった。背筋が凍って、じいちゃんの言うことを聞いておかなかったことを後悔しかけたとき、その背の高い何かはゆっくりと動き出し、森の奥へと消えていった。
今見たのは何だったんだろう。そう考えているうち今見たものの現実感は急速に薄れてきて、俺は段々今のが内心ビクビクしていた俺の気のせいだったんじゃないかと思えてきて、そのまま釣りを続けた。
気が付くともうすでに日が暮れかけていて、俺は釣った魚を手に山を下り始めた。降りている途中、この辺の人らしき人と出会って呼び止められた。「おいあんた!こんなところで何してる!」「え...今まで釣りしてて帰るとこです」「お前、まさか途中で何かおかしなものとか見てないだろうな。」その人は俺の顔を見ていった。「見たんだな。まずいことになった。」そしてその人は俺になぜ夏至の日にこの山に入ってはいけないのかを語った。
「いいか、この山にはな、姿を見たってやつはほとんどいないが、神様が住んでる。普段は山を豊かにしてくれるんだが、一年に一日、夏至の日だけ山に入った人間をどこかへ連れて行ってしまうんだ。山神様は日の出ている間はおぼろげな姿なんだが、夜になると力を増して、その姿を見たものを連れ去りに来るんだ。このままだとお前が山を下りている間に日が暮れる。俺の家はすぐ近くだから、そこで一晩泊まっていった方がいい。」
俺はその話を聞いて取り乱してしまった。もう一刻も早くこの山を抜け出したくて、ここで一晩過ごすなんてとても考えられなかった。俺はまだ今から降りても間に合うと思い、全速力で山を駆け下り始めた。
「おい!待て!戻ってこい!」後ろからさっきの人の停める声が聞こえてきたが、俺はそれを無視して走り続けた。
ちょうど日の落ちる頃、俺は何とか家に辿りついた。しかし電気は付いていなかった。俺以外は皆旅行に行っていて今日は俺一人だった。俺は家中の窓を閉め、扉に鍵を掛けた。今日は早く寝てしまおうと思って布団に入ったが、寝つけないでいると、外から何か聞こえた気がした。俺がはっとして耳を澄ましていると、ズズッと何かが這いずるような音が、今度ははっきり聞こえた。
山神様だ。俺は凍り付いた。どうやら音は家の周りをぐるぐる回っているようだった。俺は自分が何処の窓の鍵も閉め忘れていないことを必死に祈った。不気味な音は家の壁や屋根の上を一晩中這いずり回って、朝になるといつの間にか消えた。
俺はじいちゃんが帰ってくるとすぐに昨日あった話をした。すると、じいちゃんは青ざめた顔で言った。「お前が聞いた話は大体あってるが、一つだけ大事な所が抜けてる。」「何?」「山神様は、人に化ける。」俺はぞっとした。「じゃあ、まさか」「あの山に住んでる人なんていない。お前がついて行っていなくて、本当に良かったよ。」
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