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第43話 兄 3
王宮に詰めていた父から、その知らせが届いたのは、朝食が終わった時分だった。
第三王子殿下が妹が殿下の婚約者になるはずだったことと、
妹がすでに亡くなっていると知らせたところひどく取り乱され、
どうしても亡くなったことを信じないため墓の場所を教え訪問を許したそうだ。
止める間もなく飛び出したので、殿下がいらしたら見守るようにとのことだった。
妹の墓は屋敷の裏から続く丘の一角にある。
そこは妹が愛した、季節ごとに花が咲くとても見晴らしがいい場所だ。
今は丘全体に結界が張られ、たどり着くためには父から証をもらわなければならない。
誰彼入れないところだから、王子が一人で長くいても安全ではある。
私は殿下を迎えるべく、裏庭を目指した。
墓が視界に入る場所でしばらく待つと、馬を駆って殿下が現れた。
転がり落ちるように馬から降りると、そのまま妹の墓にすがりつき鳴き声を上げ始めた。
それは、愛する者を求めているのが分かる悲痛な声で、私の心に残っていた傷を否応なくえぐった。
だが、腑に落ちない。
婚約者予定の女性が亡くなったと聞けば、多少動揺くらいはするだろう。
だが、こんなにも取り乱すほどではないのではないか。
まるで、妹のことを知っていたようじゃないか。
妹には、大人になったらこの国の王子様と結婚するのだと教えてあった。
が、殿下には伝えてはいないはずだ。
当然、殿下と妹に面識はない。
それどころか存在も知らないはずだ。
その証拠に、私は何度も殿下にお目にかかっているが、一度だって妹のことを聞かれたことはない。
妹が死んだときでさえ、悔やみの言葉はいただいたが、それだけだった。
それが何故こんなにも泣き叫べるのか。
泣いて、泣きつかれても、殿下は墓から離れなかった。
殿下より、私の方が動揺していた。
声をかけるべきか迷い父に連絡を取ると、学園で問題が起きそちらの対応をしなければならないそうで、危険がなければ気が済むまでそのまま見守るだけでよいと返事が来た。
私は指示された通り、殿下を見守った。
夜が来て、朝が来る頃、殿下が突然墓を掘り起こし始めた。
それは狂気に満ちていた。
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