このやってられない世界で

みなせ

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 バルドもアーサーも黙ってこちらを見つめている。
 バルドは特に何の感情もなさそうな顔で、アーサーは相変わらず驚きと戸惑いがまじりあったような表情で。

「お父さん、降ろして」

 これから始まる話し合いに、私はきっと邪魔だろう。
 あまり聞きたくないって言うのもあるし、出来れば部屋に戻してほしい。

「駄目だよ。まだ、何があるか分からないからね」

 お父さんはそう言って私を抱え直すと、アーサーとバルドを見比べた。

「さてと。どっちから話を聞くべきかな?」
「ラーシュ様……どうして」

 青白くなってしまったアーサーのか細い声が聞こえた。
 お父さんは当然そちらを見る。

「アーサー、その言葉はそのまま君に返す。君は一体どうしてしまったんだ?」
「私は、ラーシュ様のために」
「本当に? ならどうして私のことがわからなくなった?」
「それは……」

 アーサーが目に見えてしおれて行く。
 お父さんはそんなアーサーを黙って見ている。
 もしかしたら続く言葉を待っているのかもしれない。

 暫くして、お父さんがふうと息を吐いた。

 アーサーは俯いたまま、降ろした手を握り締めている。
 もうきっと言葉は続かないだろう。

「アーサー。君は一体誰に君を売ったんだい? 私はカーラとキーラを守るよう君にお願いしたよね。君はそれを承諾した。なのにどうしてこんなことになっているんだ」

 アーサーがゆっくりと顔を上げた。

「お願い? あれは命令でしょう? 私は、最初から反対でした。それはラーシュ様も分かっていたはずです」
「……そうだったかな? 私はアーサーからそんな話を聞いたことは無いけれど」

 今度はお父さんが戸惑っているみたいだ。
 アーサーはこちらを睨みつける。
 視線が合うってことは、私が睨みつけられているんだよね。

「私はずっと反対していました。ラーシュ様に、あの女は合わない、と」
「あの女って、お母様のこと?」

 アーサーは答えない。
 私はおとうさんを振り返る。
 お父さんは首を振った。

「アーサー、君は一度も私とカーラのことを反対したことは無いよ。いつ、君がそれをしたのか言ってくれないか?」
「先ほども言いましたが、私は最初から反対していました」

 アーサーは強く、そう言った。
 でもその目は、それを無闇に信じている……そんな感じで、少しだけ揺れている気がする。

「私はラーシュ様が王になる、そう信じていました。だからこそ、貴方には同族、そうでなければデルフィーかブルザルの方を選んでほしかった」

 どう言うことだろう?
 デルフィーとブルザルとフォルナトル。何が違うの?
 アーサーは何が言いたいんだろう。

「そんなことで、君は君とルキッシュを売ったのか?」
「えぇ、そうです。お嬢様を排除出来れば、貴方を目覚めさせると」
「それで、キーラをここに連れてきたのか?」
「お嬢様は魔法を使えない……だから、きっと堪えられない」

 堪えられない……って、あれか。白くなるやつ。
 フェイは私が潰れちゃうって言っていた。
 それって。もし順応しなければ、

「私、死ぬところだったの?」

 殺される、と出てこなくて良かった。
 お父さんの手に力がこもる。

「アーサー、君は……」
「ラーシュ様!」

 お父さんが何か言いかけて、バルドの声で止まる。
 切羽詰まったような声にそちらを見ると、アーサーが膜の中で魔法を使おうとしていた。

 お父さんは小さくため息をついて、つぶやいた。

「『破壊』」

 って。
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