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第1章   新世界へ

崇拝

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宿の部屋で、セドナは武器の手入れをしながら、相葉ナギを待っていた。
 
セドナは鼻歌を歌いながら、短剣を布で磨き、刃こぼれがないか、強度が落ちていないかを入念にチェックする
 
武器の手入れはかかせない。ほんの少しの不備が死に直結する。
 
戦闘中に武器が破損すれば、終わりなのだ。
 
セドナは、短剣の鞘まで入念に確認し終えると、次に弓と矢の確認作業に移った。
  
武器の手入れを完璧に終えると、まだナギが帰らないので、セドナは部屋の掃除を始めた。
 
セドナは、鼻歌を歌いながら、掃除をしていく。

掃除を終えると、セドナはベッドにチョコンと座って、足をパタパタとゆらした。

そして脳裏にナギの顔を思い浮かべた。
 
(あんなに美しい人は初めてだ……)
 
と、セドナは思った。
 
顔で判断したわけではない。シルヴァン・エルフ族は、種族的に誰もが美しい容姿をしている。
  
『始まりの神』・『始祖神(しそしん)フォルセンティア』の末裔であるシルヴァン・エルフは、『神の呪い』によってそうなった。
 
それ故に、シルヴァン・エルフは外見で人を判断したり、差別したりしない。
 
容姿の美醜で他者を判断するのは、穢らわしい、愚劣なことだと考えている。
 
「生物の美しさは、ただ人格が、魂が、高潔であるかどうかだけだ。
人格と魂の美醜こそが、シルヴァン・エルフにとって、相手の好悪を判断する基準なのだ」
 
そう、両親と祖父母に教わってきた。
 
だが、あの御方……相葉ナギ様ほど、美しい魂をもつ御方がいるだろうか?
 
あの御方は、私が醜悪な怪物になった時、見捨てずに助けてくれた。

私がお腹が空いているだろうと、自らのパンを分け与えて下さった。
 
ただのパンではない。
 
お金が少なく、食べ物がない時に、分け与えて下さったのだ。
 
食物とは命だ。
生命そのものだ。
 
ナギ様が与えてくれたのは、命の綱の食べ物だ。
ナギ様は、自分が飢えるかもしれないのに、パンを下さった。
 
死を覚悟して、パンを与えて下さったのだ。
それは自分の肉と命、魂を削り取って与えて下さった行為。
 
神の慈悲(アガペー)だ。
 
私が本来の美貌を持っていたら、そうする者は、他にもいるかもしれない。だが、醜い怪物にパンを与えて下さる方など何処にいるだろう?
 
ナギ様は、無償の愛でもって、自らのパンを分け与えて下さった。
 
あの時、私はナギ様が、神に等しき御方だと確信した。

……そして……、ナギ様は、こう言った。

「……大丈夫だ。俺はお前を護る……」

私はあの瞬間、恋に落ちてしまった。
 
魂の全てをあのナギ様に奪われた。
 
私はナギ様に会えたことを神々と祖霊に感謝した。 

確信できる。

私とナギ様は、運命によって結ばれている。私達はそういう運命なのです……。
 
その時、足音が聞こえた。
 
シルヴァン・エルフは耳が良い。これはナギ様の足音だ。
 
セドナはベッドから跳ね起きた。

私は髪を両手で梳いて整えた。そして、服に汚れがないか、シワがよっていないかをチェックする。
 
私は、ナギ様が後、数秒で扉を開けることを察知した。
 
最高の笑顔で出迎えよう! できれば頭を撫でてもらえると嬉しい。
 
私は決意して待った。そして、扉が開いた。

「お帰りなさいませ。ナギ様!」
 
私は、とびきりの笑顔でナギを迎えた。

「ただいま、セドナ」

「お疲れ様でした」
 
私は自らの主人に深々と一礼した。

「見てよ。セドナ、猪鍋の具材を買ってきたよ。早速食べよう。俺が、調理する!」

ナギ様が、はしゃいで、そう言われました。ですが、私は少し首を傾げました。

「あの……。ご主人様……いえ、ナギ様、そう仰られても、調理道具がありませんが?」

「あ……」

 ナギ様が、絶望的なお顔をされました。可愛いです。

私はナギ様に提案しました。

「あの、冒険者ギルドの一階にレストランがありました。あそこで、調理道具を貸して頂けないか、交渉したら如何でしょうか?」

「おお、その手があった!」

ナギ様は感心して、私を褒めて下さり、私の頭を撫でてくれました。

やりました! 今日、2回もナギ様に頭を撫でて頂きました!
 
ナギ様は、偉大な御方ですが少し抜けておいでです。

ですが、そこが素敵なのです。

私が、しっかりとナギ様をお護りします!


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