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第4章 王都の決戦
パンドラ王女
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バアルの首が地面に転がる。ほっとした安堵の空気が、エヴァンゼリン達から漏れる。それぞれが武器をしまおうとした刹那、首だけとなったバアルから狂笑がもれた。
「これで終わりだとでも思ったか人間ども!」
首だけとなったバアルが歪んだ笑みを浮かべながら声を張り上げる。
(なんてしつこいヤツだ)
ナギが呆れながら止めを刺そうとする。直後、バアルが叫んだ。
「おっと、動くなよ。相葉ナギ! 王都アリアドネごと吹き飛ぶぞ!」
バアルの碧眼に凶悪な光が宿る。気がつくとバアルの首の周囲に魔法陣が展開していた。
「何をするつもりだ、バアル!」
ナギが〈斬華〉を構える。
「マズイ! 自爆魔法!」
アンリエッタが叫んだ。
全員が驚愕して、バアルに視線を投じる。
「その通り、ご名答だ! 大魔道士アンリエッタ! 俺の死をもって発動する広域自爆殲滅魔法:『自滅(アフトコニア)の黒炎(エクリシス)』だ! 俺の半径50キロ圏内は全てが黒い業火で焼き払われる!」
頭部だけとなったバアルがキチガイじみた哄笑を発する。
「これでお前らも俺もお終いだ! 残念だったな! おっと俺を斬るのは止めておけ、相葉ナギ! 今の俺に僅かでも武器や魔法が触れればその瞬間に『自滅(アフトコニア)の黒炎(エクリシス)』が発動するぞ!」
ナギは振り上げた〈斬華〉を止めた。どうすれば良いのか分からない。
「アンリエッタ! 解除してくれ!」
「……無理……。私でも出来ない。……魂を起爆装置にした魔法を解除するのは至難の技……」
アンリエッタが絶望的な声を出す。いつも無表情のアンリエッタが、青ざめ、怯えている。
「なんとかならないのか?」
ナギは慌ててセドナ、エヴァンゼリン、クラウディアを見る。
セドナ達は顔面を蒼白にさせるだけだった。彼女達にも打つ手がない。 バアルは人間達の動揺と恐怖を見て狂笑した。
「あと1分だ! あと1分で『自滅(アフトコニア・)の黒炎(エクリシス)が発動するぞ! お前らだけなら逃げられるかもな! だが、王都アリアドネにいる人間どもは皆殺しだ! お前らは失敗したのさ!
ざまあみやがれ!」
バアルの頭部が黒く光り、膨れあがり始めた。自爆へのカウントダウンが始まったことをナギは察した。
(どうする? どうすれば良い?)
「アンリエッタ! 本当にバアルを斬り殺してはダメなのか? もしくは転移魔法でコイツの首を何処か遠くに転移できないのか?」
ナギが叫ぶように問う。バアルを瞬殺すれば自爆魔法を止められるのではないか? ナギが〈斬華〉を握りしめるとアンリエッタが慌てて叫ぶ。
「ダメ! バアルの言ったことは本当! 武器で斬りつけるとすぐさま爆発する! 転移魔法を使用しても、その刹那に爆発する!」
「あと47秒だ!」
バアルが宣告し、彼の頭部が3倍に膨れあがった。
全員の心が絶望に染まった刹那、醜く膨れあがったバアルの首の周囲に正方形の箱のような光が形成された。
全員が驚いて、バアルを包む正方形の光を見る。
バアルの後方。
そこに一人の少女が立っていた。
年齢は10歳前後。長い青髪を結い上げている。
宝玉のような碧眼は気高く光り、その華奢で小さな肢体を碧い鎧で覆っていた。
青髪の少女は瀟洒な聖剣をバアルの首にむけ、魔法を唱えた。
「『次元斬(ディメンション・ブレイク)』」
直後、光が弾けバアルの首ごと空間が削り取られた。バアルの首が地面ごと正方形に抉り取られて消失する。残ったのは、正方形に抉られた地面のみだった。
パンドラ王女の「次元斬」は、対象物を空間ごと消滅させる特異魔法である。空間ごと全ての物体と事象をこの次元から「無かった」ことにする異形の超位魔法。事象ごと存在を消滅させるためにバアルの自爆魔法は発動することが出来なかった。
呆気なくバアルは消滅し、ナギ達は茫然として、青髪の少女を見る。
「皆はん、ご無事なようで良かったわぁ。ウチはほっとしましたぁ」
聖剣をもった少女がナギ達に微笑をむける。
「パンドラ王女殿下!」
創聖クラウディアが真っ先に少女の正体に気付いて片膝をつく。
「……この子は?」
ナギが問うとクラウディアが答えた。
「この御方は、ヘルベティア王国の第一王女。パンドラ殿下だ」
ナギとセドナが驚く中で、大貴族出身のクラウディアのみが正式な王族への礼法を示して拝跪する。
(俺とセドナも、クラウディアのように片膝を突いた方が良いかな?)
と、ナギが思っているとパンドラ王女が碧眼に優しい光を浮かべた。
「クラウディアさん、お立ち下さい。まだ戦の途中やえ?」
パンドラ王女にうながされてクラウディアが立ち上がる。
「……すぐに王都アリアドネにいる魔神軍の残党を鏖殺する……」
大魔道士アンリエッタが宣告すると、全員が首肯した。
アンリエッタの転移魔法が発動される。
全員が王都アリアドネの上空に転移し、〈飛行魔法〉で浮上して、大精霊レイヴィアの隣に立った。
「遅かったのぅ」
「面目ないです」
ナギが苦笑し、王都アリアドネの周囲を取り巻く15万の魔物の群れを見る。
魔神軍は首魁である罪劫王達を失い指揮系統を消失していた。指揮官をなくしてどうすれば良いか分からず、右往左往しながら王都を包囲している。
王都アリアドネを救うべく集まった5カ国連合軍も、魔神軍と対峙したまま動かない。大軍同士が睨み合うと、このように戦線が膠着するのはよくある。
「敵の総司令官たる罪劫王たちは倒した。残りの魔神軍をさっさと鏖殺して休もう」
ナギが〈斬華〉を肩に乗せると、セドナが首肯して、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を構える。
「それが良いね。僕は疲れたよ。さっさとお風呂に入ってワインをガブ飲みしたいや」
エヴァンゼリンが聖剣を握りしめるとアンリエッタが同意する。
「……賛成」
「パンドラ王女殿下はお下がり下さい。あとは我らで掃討します故」
創聖クラウディアが謹厳な顔つきで言うと、青髪の王女が首をふった。
「ウチも戦うわぁ。王族も少しは役に立つという所を見せんと民に見放されてしまいます」
パンドラ王女は可憐な微笑を浮かべて聖剣を構える。
「殊勝なことじゃ。王族とはかくありたいものじゃのう」
レイヴィアが、桜色の瞳に感心した色を浮かべる。
「行くぞ!」
ナギが魔神軍15万めがけて吶喊した。続いてエヴァンゼリン達もナギの後に続く。
ナギが空中を流星のように飛んで魔神軍のただ中に突撃する。
《軍神(オーディアンズ・)の使徒(マギス)》で、全身を雷とかして〈斬華〉を振るう。一撃で数千の魔物が吹き飛び、強大な電撃で灼かれて即死する。
セドナが高度1000メートル上空から、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》で矢を速射する。一つの矢が魔神軍に激突する度に爆発し、100名近い魔物が吹き飛ぶ。
エヴァンゼリンの聖剣、創聖クラウディアの聖槍、大魔道士アンリエッタの魔法、パンドラ王女の次元斬。
それらが振るわれる度に、魔神軍が竜巻にあったように吹き飛ばれ、身体を粉微塵に砕かれ即死する。
ナギ達の恐るべき猛攻に魔神軍15万は、わずか30分で鏖殺された。
「これで終わりだとでも思ったか人間ども!」
首だけとなったバアルが歪んだ笑みを浮かべながら声を張り上げる。
(なんてしつこいヤツだ)
ナギが呆れながら止めを刺そうとする。直後、バアルが叫んだ。
「おっと、動くなよ。相葉ナギ! 王都アリアドネごと吹き飛ぶぞ!」
バアルの碧眼に凶悪な光が宿る。気がつくとバアルの首の周囲に魔法陣が展開していた。
「何をするつもりだ、バアル!」
ナギが〈斬華〉を構える。
「マズイ! 自爆魔法!」
アンリエッタが叫んだ。
全員が驚愕して、バアルに視線を投じる。
「その通り、ご名答だ! 大魔道士アンリエッタ! 俺の死をもって発動する広域自爆殲滅魔法:『自滅(アフトコニア)の黒炎(エクリシス)』だ! 俺の半径50キロ圏内は全てが黒い業火で焼き払われる!」
頭部だけとなったバアルがキチガイじみた哄笑を発する。
「これでお前らも俺もお終いだ! 残念だったな! おっと俺を斬るのは止めておけ、相葉ナギ! 今の俺に僅かでも武器や魔法が触れればその瞬間に『自滅(アフトコニア)の黒炎(エクリシス)』が発動するぞ!」
ナギは振り上げた〈斬華〉を止めた。どうすれば良いのか分からない。
「アンリエッタ! 解除してくれ!」
「……無理……。私でも出来ない。……魂を起爆装置にした魔法を解除するのは至難の技……」
アンリエッタが絶望的な声を出す。いつも無表情のアンリエッタが、青ざめ、怯えている。
「なんとかならないのか?」
ナギは慌ててセドナ、エヴァンゼリン、クラウディアを見る。
セドナ達は顔面を蒼白にさせるだけだった。彼女達にも打つ手がない。 バアルは人間達の動揺と恐怖を見て狂笑した。
「あと1分だ! あと1分で『自滅(アフトコニア・)の黒炎(エクリシス)が発動するぞ! お前らだけなら逃げられるかもな! だが、王都アリアドネにいる人間どもは皆殺しだ! お前らは失敗したのさ!
ざまあみやがれ!」
バアルの頭部が黒く光り、膨れあがり始めた。自爆へのカウントダウンが始まったことをナギは察した。
(どうする? どうすれば良い?)
「アンリエッタ! 本当にバアルを斬り殺してはダメなのか? もしくは転移魔法でコイツの首を何処か遠くに転移できないのか?」
ナギが叫ぶように問う。バアルを瞬殺すれば自爆魔法を止められるのではないか? ナギが〈斬華〉を握りしめるとアンリエッタが慌てて叫ぶ。
「ダメ! バアルの言ったことは本当! 武器で斬りつけるとすぐさま爆発する! 転移魔法を使用しても、その刹那に爆発する!」
「あと47秒だ!」
バアルが宣告し、彼の頭部が3倍に膨れあがった。
全員の心が絶望に染まった刹那、醜く膨れあがったバアルの首の周囲に正方形の箱のような光が形成された。
全員が驚いて、バアルを包む正方形の光を見る。
バアルの後方。
そこに一人の少女が立っていた。
年齢は10歳前後。長い青髪を結い上げている。
宝玉のような碧眼は気高く光り、その華奢で小さな肢体を碧い鎧で覆っていた。
青髪の少女は瀟洒な聖剣をバアルの首にむけ、魔法を唱えた。
「『次元斬(ディメンション・ブレイク)』」
直後、光が弾けバアルの首ごと空間が削り取られた。バアルの首が地面ごと正方形に抉り取られて消失する。残ったのは、正方形に抉られた地面のみだった。
パンドラ王女の「次元斬」は、対象物を空間ごと消滅させる特異魔法である。空間ごと全ての物体と事象をこの次元から「無かった」ことにする異形の超位魔法。事象ごと存在を消滅させるためにバアルの自爆魔法は発動することが出来なかった。
呆気なくバアルは消滅し、ナギ達は茫然として、青髪の少女を見る。
「皆はん、ご無事なようで良かったわぁ。ウチはほっとしましたぁ」
聖剣をもった少女がナギ達に微笑をむける。
「パンドラ王女殿下!」
創聖クラウディアが真っ先に少女の正体に気付いて片膝をつく。
「……この子は?」
ナギが問うとクラウディアが答えた。
「この御方は、ヘルベティア王国の第一王女。パンドラ殿下だ」
ナギとセドナが驚く中で、大貴族出身のクラウディアのみが正式な王族への礼法を示して拝跪する。
(俺とセドナも、クラウディアのように片膝を突いた方が良いかな?)
と、ナギが思っているとパンドラ王女が碧眼に優しい光を浮かべた。
「クラウディアさん、お立ち下さい。まだ戦の途中やえ?」
パンドラ王女にうながされてクラウディアが立ち上がる。
「……すぐに王都アリアドネにいる魔神軍の残党を鏖殺する……」
大魔道士アンリエッタが宣告すると、全員が首肯した。
アンリエッタの転移魔法が発動される。
全員が王都アリアドネの上空に転移し、〈飛行魔法〉で浮上して、大精霊レイヴィアの隣に立った。
「遅かったのぅ」
「面目ないです」
ナギが苦笑し、王都アリアドネの周囲を取り巻く15万の魔物の群れを見る。
魔神軍は首魁である罪劫王達を失い指揮系統を消失していた。指揮官をなくしてどうすれば良いか分からず、右往左往しながら王都を包囲している。
王都アリアドネを救うべく集まった5カ国連合軍も、魔神軍と対峙したまま動かない。大軍同士が睨み合うと、このように戦線が膠着するのはよくある。
「敵の総司令官たる罪劫王たちは倒した。残りの魔神軍をさっさと鏖殺して休もう」
ナギが〈斬華〉を肩に乗せると、セドナが首肯して、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を構える。
「それが良いね。僕は疲れたよ。さっさとお風呂に入ってワインをガブ飲みしたいや」
エヴァンゼリンが聖剣を握りしめるとアンリエッタが同意する。
「……賛成」
「パンドラ王女殿下はお下がり下さい。あとは我らで掃討します故」
創聖クラウディアが謹厳な顔つきで言うと、青髪の王女が首をふった。
「ウチも戦うわぁ。王族も少しは役に立つという所を見せんと民に見放されてしまいます」
パンドラ王女は可憐な微笑を浮かべて聖剣を構える。
「殊勝なことじゃ。王族とはかくありたいものじゃのう」
レイヴィアが、桜色の瞳に感心した色を浮かべる。
「行くぞ!」
ナギが魔神軍15万めがけて吶喊した。続いてエヴァンゼリン達もナギの後に続く。
ナギが空中を流星のように飛んで魔神軍のただ中に突撃する。
《軍神(オーディアンズ・)の使徒(マギス)》で、全身を雷とかして〈斬華〉を振るう。一撃で数千の魔物が吹き飛び、強大な電撃で灼かれて即死する。
セドナが高度1000メートル上空から、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》で矢を速射する。一つの矢が魔神軍に激突する度に爆発し、100名近い魔物が吹き飛ぶ。
エヴァンゼリンの聖剣、創聖クラウディアの聖槍、大魔道士アンリエッタの魔法、パンドラ王女の次元斬。
それらが振るわれる度に、魔神軍が竜巻にあったように吹き飛ばれ、身体を粉微塵に砕かれ即死する。
ナギ達の恐るべき猛攻に魔神軍15万は、わずか30分で鏖殺された。
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