魔王様は攻略中! ~ヒロインに抜擢されましたが、戦闘力と恋愛力は別のようです

枢 呂紅

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15.魔王、挑戦状をうけとる

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 おとゅめげえむ『まほキス』のジーク王子ルートにおける悪役令嬢、キャロライン・ダーシー。彼女との再会は、すぐに訪れるであろう。

 メリフェトスの予想は当たった。知らせを運んできたのは、一通の書状だ。

「聖女召喚、祝賀パーティ??」

 封を開け中身を確認したアリギュラは、眉根を寄せて手紙を摘まみ上げた。ひらひらと指先で手紙をもてあそぶ主をよそに、メリフェトスはいつも通り、生真面目に告げた。

「アリギュラ様にぜひ出席していただきたいと、人間どもが申しております」

「聖女召喚の祝賀というなら、わらわが主役じゃ。そら、いかぬわけにはいかまい」

 ぽいっと手紙を机に放りだし、アリギュラは頬杖を突く。そして、不満げに顔をしかめた。

救世主ヒーローを持ち上げ、身内の士気を高めんとする、か。狙いは悪くないが、パーティとはな。士気を高めるなら、兵らをねぎっての宴であろう。敵に攻め入られるような有事においても、人間という奴らは呑気だな」

 アリギュラ自身、何度となく宴を催し、自軍をねぎらったものだ。士気を高揚させるためには、適度なガス抜きも必要なのである。

 けれども文面から察する限り、今回の宴はそういった種類のものではない。だからこそアリギュラは鼻白んだのだが、メリフェトスも同意して首を振った。

「まったくです。ですがアリギュラ様。此度の宴、我が君もご興味を持たれる内容かと」

「どういうことじゃ?」

「開かれるのはアルデール城ですが、資金の出どころは王家ではなくダーシー家。実質、ダーシー家が主催の宴と思われます」

 つまり、と。一度言葉を区切って、メリフェトスはアリギュラを見た。

「此度の宴は、悪役令嬢キャロライン・ダーシーからの、我が君に宛てた挑戦状である可能性が高い。そうは、思いませぬか」

「……なるほど。そういうことか」

 にやりと、アリギュラは笑った。先日の、尻切れトンボで終わってしまった会話を思い出す。わざわざ向こうから声を掛けてくれたということは、今度は途中で逃げ出すこともあるまい。それでこそ、アリギュラも思う存分に楽しめるというものだ。

「そうか。そうか、そうか! 楽しみじゃ。わらわは、友に会える日が待ち遠しい」

 アリギュラは声を弾ませ、ソファの上にぱふんと横になる。やれやれと首を振るメリフェトスをよそに、アリギュラは赤い舌で唇を舐めた。

「なあ、キャロライン。おぬしと、一体なにをして遊ぼうか?」





 そうして迎えた、聖女召喚の祝賀パーティの夜。

 アルデール城は、魔王軍との戦時下とは思えないほど、華やかな雰囲気で包まれていた。

 集まっているのは、主に有力な家柄の者たち。そこに、兵たちを統率する一部の上級騎士や、一握りの数の王宮魔術師なども招かれている。

 王城の広いホールに集まった人々は皆、色とりどりのドレスや正装に身を包み、着飾っている。背後で流れるのは、王宮楽団らによる緩やかな演奏。けれども人々のほとんどはその音色に耳を傾けることもなく、グラスを手に和やかに談笑している。

まさに選ばれた人間たちによる、選ばれた人間たちのための宴。普段のアリギュラなら、鼻で笑い飛ばして終わっていただろう。

 けれども、今宵に限っては気合が違う。むしろアリギュラは、意気揚々と宴の席に足を延ばしていた。

 カツン、と。小さな足が踏み出した一歩から、高い音色がホールに響き渡る。

 なんとなしに音のした方向を見た出席者たちは、誰ともなしに口々に声を上げた。

「聖女様だ!」

「聖女様……」

「なるほど、あの方が」

「聖女様! 我らが救世主!」

 人々の目に映るのは、付き添いの神官を従えた、ひとりの小柄な少女。ツンと尖った鼻に、小さく形の良い唇。そんな愛らしい造りとはアンバランスなほど、はっと目を引く力強い赤いまなざし。

 言うまでもなく、異世界から召喚された聖女にして魔王、アリギュラである。

 カツン、と。再び、アリギュラは音色を響かせ、次の一歩を踏み出す。余裕の笑みを浮かべた彼女が身に纏うのは、黒と緑のドレス。およそ聖女のイメージとは程遠い色合いだが、なかなかどうして、アリギュラにひどく似合う。

彼女が足を踏み出すたびに、さらりとした黒髪が後に引かれるように揺れる。その堂々とした佇まいに、人々はほぅと感嘆のため息を吐いた。

「見たまえ。さすが聖女様だ。そんじょそこらの魔術師とは、オーラが違う」

「先日のグズグリの襲撃も、ひとりで対処なさったんだとか」

「それだけではなく、毎日、癒しを求めて集まる民らを救ってくださっているそうだぞ」

「なあ、メリフェトス。聞こえておるか?」

 ひそひそと人間どもが感嘆の呟きを漏らす中を歩きながら、アリギュラはにやりとメリフェトスを見上げる。着飾ったアリギュラとは異なり、いつも通り聖職者としての服に身を包んだ腹心の部下に、異世界の魔王は皮肉げに目を細めた。

「わらわは、人間どもの間で大人気のようだな。おかしなものよの。こやつら、わらわが異世界で魔王をしていたと知ったら、腰を抜かして驚きよるだろうな?」

「今の我が君は、あくまで救世主ですから。異世界から召喚されたというプレミア価値がついている分、有難味があるのでしょう」

「ほれほれ。皆がわらわを誉めそやしておるぞ? ふふん。なんであれ、おだてられるのは悪い気がせぬな」

「そのようにございますね。まあ、聖女様のお力を借り受けして、迷える民らを救ってやっているのは私にございますが」

「ち、力の出どころはわらわじゃ! ゆえに、わらわの功績でも問題ないのじゃ!」

 意地悪く言って、メリフェトスがすっと人差し指を唇に当てる。その仕草のせいで、つい先ほどもメリフェトスと口付けを交わすはめになったことを、アリギュラは思い出した。

すっかり赤面してタジタジとなるアリギュラに、してやったりといった様子で、メリフェトスはにやりと笑った。

「おっと、我が君。今宵はキャロライン・ダーシーとの『遊び』に備えて、覇者の風格を見せつけてやるのでは? これぐらいで心を乱されていたら、悪役令嬢めに簡単に足を取られてしまいますよ。……っと、言っている傍から来ましたね」

 とっさに言い返そうとしたアリギュラだったが、メリフェトスに言われて慌てて言葉を呑みこむ。もとの余裕を滲ませた表情で振り返る。すると、攻略対象者のひとりであるジーク王子と、彼にエスコートされたキャロラインが、こちらにまっすぐ向かってくるのが見えた。

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