狐姫の弔い婚〜皇帝には愛されませんが呪いは祓わせていただきます

枢 呂紅

文字の大きさ
32 / 93
2章 霊憑きの髪飾り

14.

しおりを挟む

「なんでも?」

 疑わしげに目を細める紅焔を、藍玉はじっと見つめている。曇りのない澄んだ眼差しは、嘘偽りを口にしているようには見えない。彼女が本当に、誤魔化しも虚言もなく、紅焔の問いに答えるつもりだということだ。

 願ってもない申し出に、一瞬で頭の中を無数の問いが飛び交う。

 悪霊を消し飛ばすほどの、彼女のすさまじい力は一体何か。
どうやって、その力を身に着けたのか。
香家の娘である藍玉に、なぜそんな力があるのか。

 聞きたいこと、知りたいことが山とある。だけど質問を許されたのはひとつだけだ。

 ゆえに紅焔は、ひとりの男としてではなく、大国を統べる皇帝として彼女に問うことを選んだ。

そなた・・・はなぜ、この都に来た? 妃となり、後宮に入った目的はなんだ?」

 ざっと強い風が木々を揺らした。

初めて会話を交わした夜のように、ピリリと張りつめた緊張が二人の間を駆け抜ける。ややあって、藍玉は慎重に言葉を選ぶようにして答えた。

「人を、探しています」

「人を……」

 予想外の返答に、紅焔は言葉に詰まった。

 形ばかりの妻として夫に軽んじられても、後宮に残って探したい相手。それほど彼女にとって重要な人物ということだ。

(……婚儀の前に彼女の周辺は調べさせたが、皆健在で、失踪などもしていない。血の繋がる家族でもなく、そこまでして探したい相手とは一体誰だ?)

 もしかして、彼女の不思議な力に関係する人物だろうか。
 ――もしくは、彼女が心から慕う人物か。

(だから彼女は、俺が『愛するつもりはない』と暴言を吐いた時に、好都合だと答えたのか?)

 そう考えた途端、これまで感じたことのないような、ざらりと不快な心地が胸を満たした。この感情はなんだろう。苦く、胃の腑が重くなるような……。そう顔をしかめる紅焔をどうとらえたのか、藍玉は小さく首を振った。

「そう難しい顔をなさる必要はありません。旦那さまが案じるような、共に謀反を企む相手だとか、一緒に国家転覆を目論む協力者だとかではありません」

「君は、俺が君に、どんなイメージを持ってる想定なんだ」

「そもそも、捕らえたくても捕らえられる相手ではありません。霊を繋いでおける牢は、この世に存在しませんから」

 藍玉の言葉に、紅焔はハッとして顔をあげる。

 それをまっすぐに見返して、藍玉は鈴の音色のような声でそっと告げた。


 

「そうですよ、旦那さま。私の探し人は、とうの昔に死んでいるのです」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...