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4章 狐姫の弔い婚
幕間
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かさりと、乾いた羽根の音が薄闇に響く。古本のかび臭い匂いが鼻腔をくすぐり、ソレは長い睫毛に縁どられた瞼をゆっくりと開いた。
細い窓から差し込む僅かな光の中に、書棚に並べられた無数の書物がぼんやりと浮かぶ。
そうか。今回はここで目覚めたか。他人事のようにそんなことを思いながら、ソレは気だるげに瞬きをし、黒曜石のような瞳をどろりと巡らせる。
そうしてソレは、自らを目覚めさせるに至った小さな客人・・を見つけて破顔した。
「君か! このところ、目が覚めても面白みのない日々が続いていてね。少々愛想のない顔を見せてしまったけれども、気を悪くしないでくれると嬉しいな」
ソレが笑顔で白い手を差し出すと、小鳥は首を傾げてから、ぴょんと指の上にとまる。慈愛に満ちた表情で誘うソレに、懐いているのか、小鳥はぴょんぴょんと肩まで登っていく。
ぴちゅぴちゅと、小鳥は囀る。女のように長い黒髪をどけて耳を傾けたソレは、目を丸くして声を弾ませた。
「へえ! 彼女、都に残ることにしたんだ」
ぴちゅぴちゅと、小鳥はさらに囀る。ふむふむとソレは熱心に頷き、しまいにはポンと手を打った。
「ほうほう、なるほど。つまり彼女は、大好きな母親と同じ選択をしたわけだ。まったく、微笑ましくて反吐がでるじゃないか!」
満面の笑みで言い切ったソレに、小鳥がぷるりと丸い体を震わせる。小鳥がつぶらな瞳で不安そうに見上げると、ソレはすまなそうに首を振った。
「おっと、口が過ぎたね。実際、ボクは上機嫌さ。代わり映えのしない日々。代わり映えのしない呪い。さすがに見飽きて辟易していたところに、千年ぶりに愉快な玩具おもちゃが見つかったんだ。ボクとしても、彼女にはこの都にいてもらわないと」
心の底からそう伝えると、小鳥はわからなそうに首を傾げた。別に構わない。この無垢で阿呆な生き物に自分の考えの一部でも理解できるかなんて、ソレも端から期待していない。
ただ、記憶にないほど久方ぶりに心を躍らせる知らせを聞けて、ソレ自身はしゃいでしまっただけだ。
ぷるりと羽を震わせてから、小鳥は光の中へと飛び去って行く。ぱたぱたと羽ばたく小鳥を見送りながら、ソレはうっとりと目を細めた。
――ソレは人間共など好きではない。なのにこの地を離れなかったのは、そうしたくてもできない身体になったのと、自分をそのように変えた哀れで醜い獣の呪いを間近で嘲笑いたかったからだ。
しかし、近頃はさすがにそれに飽きてきた。
かくなる上は、慣れ果てと称ぶべき悍ましき狐を喰って、自らが人間共を祟ってやろうか。そんな世迷言を考えるようになったところへの、この朗報だ。
とうの昔に枯れ果てたに思えた嗜虐欲も、むくむくと体のうちに膨らむというものだ。
ほぅ…と悩ましげな吐息を漏らし、ソレはうっそりと微笑んだ。
「さてはて。君とはどうやって遊んであげようか。……会えるのが楽しみだよ、狐の姫」
誰にも届かなかった声はとぷりと闇に溶け、ソレはゆっくりと目を閉じた。
* * *
次回から新章です!
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