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一宿一飯の恩②
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ふぅ、と息を吐き出してみると、自分がひどく疲れていることをやけに意識してしまう。よく考えてみれば、今日私は出張から帰ってきて、全力でだらける休日を目指してここまでたどり着いたのだ。それだというのにこの状況。疲れていない方がおかしいというものだ。
「まぁ、俺にできることはあまりないだろうけど…。とにかく今日はこれで。」
「大変お世話になっております、申し訳ありません。」
厚めの毛布を差し出してくれる郡司さんに深々と頭を下げる。最初混乱に加えて興奮状態であったことを考慮しても、なかなかに悪い態度をとっていた人間に対してこんな風に対応できる人間がいるだろうか。いやいない。改めて確認した。私の態度の変わりように、郡司さんが少し引いたようにも見えたが気のせいだろう。
「…俺、明日仕事あるから。多少暇だろうけどここから出ないように。かといって、部屋の中不必要に物色しないように。」
「もちろんです!」
「…具体的には、こっちの部屋には入らないで。」
「当然です!」
ざっとこの部屋の間取りを説明してもらったが、私の部屋と全く同じだ。だが置いてあるものはやはり違う。普通にお邪魔する分には何の問題なく過ごすことができるだろうが、ここは他所様の部屋であることを痛感する。この部屋の主である郡司さんは、明日仕事でここを空けるそうだ。その間、私一人でこの部屋に残るわけだが…。やはり私が不審人物であることに変わりはない。ある程度の行動は許容されていても、線引きはしっかりしなければ。
なにより、多少なりともこだわりを持つ人間として、自分のテリトリーを侵されるストレスは理解しているつもりだ。…その部分で彼氏と別れることになってしまったのだが…。嫌なことを思い出してしまった。とにかく、郡司さんにとって不本意であろうが、留守を任される身としてしっかりこなして見せよう。
「んじゃ、申し訳ないけどソファで過ごしてもらって…。」
「はい、お借りします!失礼します!」
「…さっきと態度変わりすぎて怖いんだが。」
やはり引かれていたようだ。少し気味悪そうに郡司さんは顔を顰めている。こちとら少し難しいお年頃だぞ、失礼な。
「…別に気を使ったりしなくていい。短い付き合いになるだろうし。」
「そうは言っても…。お世話になる身としての身の振り方、といいますか。」
「散々人を泥棒扱いしといて、今更。」
「うっ…。」
「まぁ気にしてないけど…。俺も褒められた対応じゃなかっただろうし。」
「いやいや!こんなに得体のしれない人間に対して破格の対応だよ!あいや、対応です!」
「だからいいって…。変にかしこまられてもむずむずするし、普通にしてくれ。」
「…ありがと。」
「ん。…後は好きにしてもらっていいから。俺休むし。」
「あ、あの…。」
「何?」
「…シャワー、お借りして、いいですか…?」
「どーぞ。タオルはある奴使って。…着替えとかないけど。」
「それはもう!大丈夫!ありがとうございます!」
「はいはい…。」
90度に腰を曲げた私に適当にうなづきながら、郡司さんは寝室と思われる部屋に引っ込んでしまった。…私が言うのも何だが、不審者を家にあげておきながらこの行動。少し不用心すぎやしないだろうか。もちろん恩人ともいえる郡司さんに何をしようというわけでもないのだが、私が本物の不審者であったなら金品盗んで逃げそうなものだ。まぁ、本職の警察官にそれは通用しないという自信の表れなのかもしれないが。
その日はさっと汗を流すだけにして、再びブラウスに袖を通す。出張用の宿泊道具に着替えなんかもあるが、この状況で部屋着になってリラックスして休めるはずもないので、服は着替えないことにした。ジャケットはさすがに寝るときに着ているとシワになりそうだったので、サッとたたんで置いておく。玄関に置きっぱなしだった荷物もリビングの隅に引き込んで、貸してもらった毛布に小さくくるまって目を閉じた。子供のように、朝起きた時に全部夢だった、なんてことが起きやしないかと小さく願いながら。
「まぁ、俺にできることはあまりないだろうけど…。とにかく今日はこれで。」
「大変お世話になっております、申し訳ありません。」
厚めの毛布を差し出してくれる郡司さんに深々と頭を下げる。最初混乱に加えて興奮状態であったことを考慮しても、なかなかに悪い態度をとっていた人間に対してこんな風に対応できる人間がいるだろうか。いやいない。改めて確認した。私の態度の変わりように、郡司さんが少し引いたようにも見えたが気のせいだろう。
「…俺、明日仕事あるから。多少暇だろうけどここから出ないように。かといって、部屋の中不必要に物色しないように。」
「もちろんです!」
「…具体的には、こっちの部屋には入らないで。」
「当然です!」
ざっとこの部屋の間取りを説明してもらったが、私の部屋と全く同じだ。だが置いてあるものはやはり違う。普通にお邪魔する分には何の問題なく過ごすことができるだろうが、ここは他所様の部屋であることを痛感する。この部屋の主である郡司さんは、明日仕事でここを空けるそうだ。その間、私一人でこの部屋に残るわけだが…。やはり私が不審人物であることに変わりはない。ある程度の行動は許容されていても、線引きはしっかりしなければ。
なにより、多少なりともこだわりを持つ人間として、自分のテリトリーを侵されるストレスは理解しているつもりだ。…その部分で彼氏と別れることになってしまったのだが…。嫌なことを思い出してしまった。とにかく、郡司さんにとって不本意であろうが、留守を任される身としてしっかりこなして見せよう。
「んじゃ、申し訳ないけどソファで過ごしてもらって…。」
「はい、お借りします!失礼します!」
「…さっきと態度変わりすぎて怖いんだが。」
やはり引かれていたようだ。少し気味悪そうに郡司さんは顔を顰めている。こちとら少し難しいお年頃だぞ、失礼な。
「…別に気を使ったりしなくていい。短い付き合いになるだろうし。」
「そうは言っても…。お世話になる身としての身の振り方、といいますか。」
「散々人を泥棒扱いしといて、今更。」
「うっ…。」
「まぁ気にしてないけど…。俺も褒められた対応じゃなかっただろうし。」
「いやいや!こんなに得体のしれない人間に対して破格の対応だよ!あいや、対応です!」
「だからいいって…。変にかしこまられてもむずむずするし、普通にしてくれ。」
「…ありがと。」
「ん。…後は好きにしてもらっていいから。俺休むし。」
「あ、あの…。」
「何?」
「…シャワー、お借りして、いいですか…?」
「どーぞ。タオルはある奴使って。…着替えとかないけど。」
「それはもう!大丈夫!ありがとうございます!」
「はいはい…。」
90度に腰を曲げた私に適当にうなづきながら、郡司さんは寝室と思われる部屋に引っ込んでしまった。…私が言うのも何だが、不審者を家にあげておきながらこの行動。少し不用心すぎやしないだろうか。もちろん恩人ともいえる郡司さんに何をしようというわけでもないのだが、私が本物の不審者であったなら金品盗んで逃げそうなものだ。まぁ、本職の警察官にそれは通用しないという自信の表れなのかもしれないが。
その日はさっと汗を流すだけにして、再びブラウスに袖を通す。出張用の宿泊道具に着替えなんかもあるが、この状況で部屋着になってリラックスして休めるはずもないので、服は着替えないことにした。ジャケットはさすがに寝るときに着ているとシワになりそうだったので、サッとたたんで置いておく。玄関に置きっぱなしだった荷物もリビングの隅に引き込んで、貸してもらった毛布に小さくくるまって目を閉じた。子供のように、朝起きた時に全部夢だった、なんてことが起きやしないかと小さく願いながら。
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