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第四章 百鬼夜行
第30話 月がやけに大きく見えた
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「普通そう思うよね。実は、魂は何でもいいわけじゃないんだ。霊力が高く、その上、深く心を通わせていなければならない。皮肉なもんだろう? 相手を大切だと、失くしたくないと思えば思う程、餌の条件を満たしてしまう」
『餌』という響きに悲しくなって、紗良は眉を曇らせた。
「ある日、毎日庭に来ていた子狐が来なかったんだ。でもその代わりに、小さな男の子が庭に立っていた。男の子が言うんだ『それは人じゃない。妖だから、貴女は殺されてしまう。もう会ってはいけない』と。彼女と一緒にその場にいた妖狐は、魂が喰えなくなると内心焦った。何故なら、白狐になれないと寿命を終えて自分の方が死んでしまうから。でも、彼女は言ったんだ『そんな事はわかっている。だけど、どうせ消えてしまう命なら、愛する人の為に使いたい』って。それから妖狐をまっすぐ見つめて言うんだ『今すぐ私を食べて』」
最初に思い描いた幽霊が出てくるような話ではなかったけれど、これはとても怖い話だと紗良は思った。
続きを聞くのが、怖い話。それでも問わずにはいられなかった。
「妖狐は……どうしたの」
「喰ったよ、その場で。男の子に姿を変えた子狐の目の前で。そして白狐になった」
「子狐は……」
「子狐にとっても彼女は唯一の友達だったからね。助けたい一心で折角妖狐になったのに、叶わなかった。暫く人に姿を見せることはなかったそうだよ」
一番望んでいなかった結末に紗良は肩を落とした。そして八つ当たりのように、尾崎を睨む。
「先輩、全然涼しくならないです。凄く切なくて悲しいお話。こんな満員電車の中じゃなくて、もっとちゃんと聞きたかった」
「切なくて悲しい? 女の子が可哀想なお話じゃなくて?」
首を傾げた尾崎を真似て、紗良も同じように首を傾げる。
「女の子は、納得していたと思いますよ。だって、どちらにしても消える命を、好きな人の為に使えたんだから。可哀想って言うなら、残された二匹の妖狐の方かな」
その言葉が余程意外だったのか、尾崎はポカンと口を開けて紗良の顔をまじまじと見つめた。
「二匹とも?」
「はい。好きな子を食べた狐も、好きな子を食べられた狐も。どうしようもなかったんだろうから」
呆気にとられた表情で、尾崎が紗良に問いかける。
「キミ、変わってるって言われない? だいたい食べちゃった狐が悪者って反応なんだけど」
「失礼な。変わってるなんて言われたこと無いですよ」
口を尖らせる紗良に、尾崎は苦笑いする。
「……キミ、名前なんだっけ?」
「真宮紗良です」
「ふーん。覚えた」
『餌』という響きに悲しくなって、紗良は眉を曇らせた。
「ある日、毎日庭に来ていた子狐が来なかったんだ。でもその代わりに、小さな男の子が庭に立っていた。男の子が言うんだ『それは人じゃない。妖だから、貴女は殺されてしまう。もう会ってはいけない』と。彼女と一緒にその場にいた妖狐は、魂が喰えなくなると内心焦った。何故なら、白狐になれないと寿命を終えて自分の方が死んでしまうから。でも、彼女は言ったんだ『そんな事はわかっている。だけど、どうせ消えてしまう命なら、愛する人の為に使いたい』って。それから妖狐をまっすぐ見つめて言うんだ『今すぐ私を食べて』」
最初に思い描いた幽霊が出てくるような話ではなかったけれど、これはとても怖い話だと紗良は思った。
続きを聞くのが、怖い話。それでも問わずにはいられなかった。
「妖狐は……どうしたの」
「喰ったよ、その場で。男の子に姿を変えた子狐の目の前で。そして白狐になった」
「子狐は……」
「子狐にとっても彼女は唯一の友達だったからね。助けたい一心で折角妖狐になったのに、叶わなかった。暫く人に姿を見せることはなかったそうだよ」
一番望んでいなかった結末に紗良は肩を落とした。そして八つ当たりのように、尾崎を睨む。
「先輩、全然涼しくならないです。凄く切なくて悲しいお話。こんな満員電車の中じゃなくて、もっとちゃんと聞きたかった」
「切なくて悲しい? 女の子が可哀想なお話じゃなくて?」
首を傾げた尾崎を真似て、紗良も同じように首を傾げる。
「女の子は、納得していたと思いますよ。だって、どちらにしても消える命を、好きな人の為に使えたんだから。可哀想って言うなら、残された二匹の妖狐の方かな」
その言葉が余程意外だったのか、尾崎はポカンと口を開けて紗良の顔をまじまじと見つめた。
「二匹とも?」
「はい。好きな子を食べた狐も、好きな子を食べられた狐も。どうしようもなかったんだろうから」
呆気にとられた表情で、尾崎が紗良に問いかける。
「キミ、変わってるって言われない? だいたい食べちゃった狐が悪者って反応なんだけど」
「失礼な。変わってるなんて言われたこと無いですよ」
口を尖らせる紗良に、尾崎は苦笑いする。
「……キミ、名前なんだっけ?」
「真宮紗良です」
「ふーん。覚えた」
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