会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第一幕 一ヵ月だけのクラスメイト◆

手負いの虎①

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 翌朝、時間通り劇場前に着くと、既に清虎の姿があった。ズボンのポケットに両手を突っ込み、眠そうな顔で空を眺めている。

「おはよ」

 満面の笑みで駆け寄る陸に、清虎はわざとらしく大袈裟にため息を吐いた。

「よくそんな能天気でここに来れたなあ? 俺がおらんかもしれんって、不安に思わんかった?」
「思わなかったよ。だって、清虎はハッキリ断らなかったし。俺を置いて、黙って先に行ったりしないでしょ?」
「ほぉ」

 陸の返答は予想外だったようで、清虎は感心したような声を上げた。それから考察するように、顎に手を添えてにやりと笑う。

「あれやろ。陸はきっと末っ子やな? そんで、年の離れた兄ちゃんか姉ちゃんがおるやろ」
「えっ、何でわかったの? うん。八コ年上の兄貴がいるよ。清虎ってすごいね」

 陸が歩きながら清虎の横顔を見上げる。その目があまりに屈託なくて、清虎は照れ隠しなのか敢えてツンと澄ました。

「すぐ解るわ、そんなもん。なんつーか、『絶対に愛されてる自信』みたいなのあるやん、陸って。年の離れた兄貴がおるから尚更なんやろなぁ、可愛がられることに慣れとる感じがすんねん」
「甘ったれってこと?」
「甘え上手ってコト。あとなぁ、言っとくけど俺、劇場に寝泊まりしてる訳ちゃうぞ。ここに迎えに来んでええんやで」
「えっ、そうなの?」

 早朝でまだシャッターの閉まった仲見世通りに、陸の素っ頓狂な声が響いた。劇場に住み込んでいると信じて疑わなかった陸は、意外そうに清虎の顔を見返す。

「まぁどの道、明日からは直接バス停で待ち合わせたらええやろ。それより哲治やったっけ。あいつ、俺と一緒に行くことになって嫌な顔せんかった?」
「哲治には言ってないよ。だって驚かせたいじゃん。昨日、清虎と一緒に帰れなくて残念そうだったでしょ? 喜ぶだろうなと思って」
「それ本気で言ってんの?」

 関西弁が消えた清虎の声には、怒りの色が滲んでいるような気がした。何がいけなかったのか解らないまま、咄嗟に「ごめん」という言葉が口をついて出る。それが余計に腹立たしかったようで、短く息を吐いた清虎はくるりと身をひるがえした。

「俺、忘れ物してもーた。取ってくるから先行ってて。俺のこと、待たんでええから」

 バス停は目と鼻の先だった。流石の陸でも清虎が嘘をついていると解って、立ち去ろうとするその腕を慌てて掴む。

「待てよ。何で怒ってるの? 哲治に黙ってたから?」
「怒ってへん。忘れ物言うとるやろ」

 陸の手を振り払った清虎は、ハッとしたような表情をした。その視線は自分を通り越した先を見ていると気づいた陸が、振り返る。

「忘れ物がどうしたって? ところで、何で陸と清虎が一緒にいるワケ」

 こちらに向かって歩いてくる哲治の姿を見て、陸は気まずそうに眉を寄せた。その表情が助けを乞うているように見えたのか、哲治は「大丈夫だよ」と優しく笑う。それから清虎を真っ直ぐ見た。

「今から戻っても遅刻するぞ。一緒に行こう、清虎」
「は?」
「ほら、早く来いよ」

 哲治の思考が読めない清虎は一瞬身構えたが、バスが到着したのが見え、仕方なく従った。
 哲治は不安そうな陸の背中を押して、いつものように先にバスへ乗せる。

「なんなん、お前。甘やかすんは陸だけとちゃうの? なんで俺にまで優しくすんねん。怖いわ」

 清虎がバスの運賃箱にカードをかざしながら、哲治に耳打ちした。

「だってお前、手負いのトラみたいだったぞ。陸が気にするから、あそこに置いたままで行けないだろ」
「手負いて」

 吹き出すように清虎が笑った。混み合う車内で二人の会話が聞きとれず、陸はもどかしそうに身を乗り出す。哲治はチラリと陸を見てから小声で話を続けた。

「陸が余計な気を回したんだろうってことは、大体想像がつく。けど、あの場面でお前が怒ったのは、さっぱりわかんねぇ。何で忘れ物なんて嘘ついてまで引き返そうとしたんだよ」
「それは、まぁ」

 その先が気になって仕方ない陸が、背伸びしながら耳を近づけようとするので清虎が口篭もる。その様子を見て、哲治が陸の両耳を塞いだ。ジタバタもがく陸に苦笑いしながら、清虎は観念したように小さな声でぽつりとこぼした。

「陸がお前に対して、あまりにも鈍感で無神経やったから。何でかな、ごっつイラっとしてもうた」
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