会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第二幕 月に叢雲、花に風◆

難儀やなぁ②

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「哲治とどんな状況でそんな話になったん。あいつ、そんなに追い詰められとった? 確かに俺は、ずっと気を使つこてきた。いなくなる俺より、哲治との縁を大事にした方がええに決まっとるからな。それに哲治は……ちょっと攻撃的なとこありそうやったし。矛先が陸に向くことはないやろうけど、あんま俺と仲良くしとったら、わからんやんけ。今日で最後やし弁当くらい大丈夫かと思っとったけど、用心した方がええかもなぁ」

 陸は清虎の言った「攻撃的」という単語にハッとした。塾帰りの哲治は、確かにそんな気配があった。

「哲治が清虎に何かするってこと?」
「ちゃうちゃう。俺は別にええねん、どうせ今日までだしな。哲治の執着は、ここに来たばっかの俺でも感じ取れたで。可愛さ余って憎さ百倍とか言うやろ。陸に何かあったら、俺は嫌や」

 清虎が自分の心配をしてくれていたことを知った陸は、驚きながらも首を横に振る。

「さすがにそれは無いと思うけど。でも、それじゃあ念のため、俺は自分の弁当と哲治の弁当を交換してもらう。そうすれば、哲治もそこまで怒らないでしょ」
「それならまぁ、大丈夫かなぁ。俺もせっかく作ってもろた陸の弁当食いたいし、ほなそれでいこか」

 頷き合った後、「難儀やなぁ」と清虎がため息交じりに呟いた。
 バス停に到着してもまだ哲治の姿はなく、安堵した陸は体から力が抜けるのを感じた。哲治に対して緊張していたのかと驚くと同時に、そんな自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。ただの幼馴染相手に、なぜこうも身構えなくてはならないのか。

 哲治のことなら良く解っていると言う自負があった。最近上手く噛み合っていないのは多分、単純で些細な行き違いのせいだ。きっと自分は、まだ幼く頼りない存在だと思われているのだろう。だから、過干渉とも思えるような態度で哲治は接してくるのだ。

 きっと、恐らく、多分。
 そんな曖昧な言葉で、陸は違和感の正体から目を逸らす。

「陸、眉間に皺が寄っとるで。何を思い詰めとるん」

 清虎が陸の眉間に人差し指を当てて、ぐりぐりと押した。悪戯っ子のように笑う清虎の頬を、陸はお返しとばかりにつまんで引っ張る。

「痛い痛い」
「おあいこでしょ」

 陸が手を離すと、清虎は口を尖らせながら自分の頬をさすった。そんな仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。ふと視線を清虎の背後にやると、哲治がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。陸は意識して笑顔を作り、片手を挙げる。

「哲治、おはよ」
「おはよ。陸、今日は早いね」
「うん、今日は超早起きしたからね」

 言いながら、自分の鞄から弁当を取り出して哲治に差し出した。

「俺、自分で弁当作ったんだ。哲治の弁当と交換してよ」
「自分で作ったの?」

 なぜと言いたげに首を傾げ、チラリと清虎に目を向ける。その視線を受けた清虎は、澄ました顔で頷いた。

「お察しの通り、俺も弁当もろたよ」
「なるほど。……ま、いいか」

 哲治は溜め息交じりに弁当を受け取り、代わりに自分の分を渡す。交換した弁当を陸が鞄に入れ終えると、丁度よくバスが来た。

「いつから料理するようになったの」

 車内の手すりに掴まりながら、哲治が尋ねる。

「今回が初めてだよ。成海兄ぃに教えてもらった」
「あぁ。この前の『新作の試食』って、このことだったんだ。あの時、何かヘンだと思ったんだよね」

 嘘を見抜かれていたことにドキリとしながら、陸はなるべく動揺を悟られないように笑って見せた。

「ごめん。だって、当日驚かせたかったから」

 この嘘も気づかれてしまうのだろうかと内心ハラハラしたが、哲治は「そっか」と白い歯を覗かせた。
 ああ、良かった。いつもの哲治だ。
 陸はそう実感しながら嬉しくなって、今度は自然と顔をほころばせた。

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