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◆第二幕 月に叢雲、花に風◆
終わりの日②
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委員会の仕事を終えた哲治と遠藤が、校庭を突っ切りこちらに向かって駆け寄ってくる。
「青組のこと、聞いた?」
遠藤が不安そうに眉を寄せ、清虎の袖を引いた。清虎が頷きかけた瞬間、耳をつんざくようなギターの音が校庭中に響き渡る。
それは甲子園の応援などでしばしば用いられる、耳慣れた楽曲だった。
使用するギターは一本だけのようだが、アンプから最大の音量で出力される音色は、なかなかに攻撃的だ。
白組だけでなく、赤組応援団の士気もみるみる下がっていくのが解る。
成す術もなく立ち尽くす陸達だったが、清虎だけは違った。
「ははっ。威嚇のつもりか知らんが、切り札を本番前に見せてどないすんねん。勿体ない。さて、白組団員は揃っとるか?」
清虎がギターに負けずに声を張り上げる。その声に引き寄せられるように、団員たちが清虎を囲んだ。
「ええか、あないな音にビビることあらへん。応援合戦は、音の大きさ張り合うもんやない。今日まで練習してきた俺たちの心意気は、あないなもんで簡単に掻き消されたりせぇへん」
清虎が、一人一人の顔を順に見ながら訴えかける。その目は燃えるようだった。その熱につられ、俯いていた団員たちの頬にも徐々に赤みがさしていく。
「俺たち応援団がオドオドしとったら、白組全体にその空気が伝染してまうぞ。不安なヤツも歯ぁ食いしばって笑え。赤組の応援も青組の応援も、余裕シャクシャクの顔で高みの見物させて貰おうやないか。大音量も上等や。迎え撃って一泡吹かせたれ!」
清虎の言葉を受けて、白組から鬨の声が上がった。
それは問答無用で押さえつけてくる青組からのプレッシャーを、勢いよく跳ね返すような雄叫びだった。
突然上がった威勢の良い声に気を取られ、ギターの音がピタリと止んだ。放送委員がその機を待っていたかのように、マイクを通して午後の部がもうじき始まると告げる。
興を削がれたのか準備のためか、そのまま青組は練習を終了させた。尖った音の消えたグラウンドには、昼下がりの気怠く平和な空気が流れ始める。
やがて午後のプログラムがスタートし、トップバッターである赤組がグラウンドの中央に移動を始めた。委縮してしまっているのが遠目でも解る。円陣を組み掛け声をかけたが全く揃わず、かえって空回りした印象を与えてしまった。
「飲まれちゃってるね」
陸は気の毒そうに眺めたが、他人事ではない。清虎が叱咤して断ち切ってくれなければ、白組も同じような結果になっていのだから。
「持ち直せるとええな」
視線をグラウンドの中央に向けたまま、清虎は憂いに満ちた表情を浮かべる。
元々応援合戦は、単なる余興だった。休憩を挟んで緩み切った緊張感を引き締め、気合を入れ直すための意味合いが強く、そのため応援の出来が各組の得点に反映されることはない。
それでも、比べられればどこの組より秀でていたいと思うのは、人の性だろう。いつの頃からか、応援合戦単独での勝敗が付くようになり、それに伴って応援団の発表も年々過熱していった。
「応援団決めの時は、来たばっかの俺を団長に推すくらいやから、みんなやる気ないんかと思ったわ。実際はめっちゃアツイねんな」
「まぁ、何だかんだ言って祭好き多いしね。三社祭の宮出しなんか、前歯や肋骨折ることもあるくらい本気になるよ。だからさ、みんなちゃんと、清虎が団長なら勝てると思って選んだんだよ。面倒を押し付けたわけじゃないからね」
清虎が、照れくさそうに一瞬だけ目を伏せる。
結局赤組は立て直せないまま発表を終え、逆に勢いづいた青組は、チアリーディングを取り入れた華やかな演舞を見せつけた。流行歌を奏でるギターの音色と相まって、見る者たちを魅了する。
「青組の後にやる白組は可哀想に。やり難いだろうね」
そんな声がどこかから聞こえて来たが、陸たちが狼狽える事はもうなかった。清虎の言葉がお守りとなって、強い心を保たせてくれる。
青組の演舞の興奮が冷めやらぬまま、白組の準備を促すアナウンスが流れた。グラウンドの中央へ向かおうとした団員たちを、清虎が手招きで呼び寄せる。それから応援席を振り返り、応援団以外の生徒らに向かって笑いかけた。
「今から行ってくるけど、俺たちの背中、ここで支えてな。頼りにしとるで」
急に声を掛けられた一般の生徒らは、初めはキョトンとしたまま固まっていた。けれども清虎の放った言葉の意味を理解すると、徐々に誇らしそうな表情へ変わっていく。
「よっしゃ。折角やし皆で声出して行こか。お前ら全員応援団やで。ええか、腹から声出せよ」
清虎が応援席を左から右へ、ぐるっと指さす。
「行くぞ!」
清虎の号令に応えた白組全員の声が、地鳴りのように響いた。「お前ら最高や」と笑いながら駆け出した清虎の後を、陸は興奮気味に追いかける。
青一色だった空気を、清虎の白が塗り替えていくのがハッキリ見えた。
「青組のこと、聞いた?」
遠藤が不安そうに眉を寄せ、清虎の袖を引いた。清虎が頷きかけた瞬間、耳をつんざくようなギターの音が校庭中に響き渡る。
それは甲子園の応援などでしばしば用いられる、耳慣れた楽曲だった。
使用するギターは一本だけのようだが、アンプから最大の音量で出力される音色は、なかなかに攻撃的だ。
白組だけでなく、赤組応援団の士気もみるみる下がっていくのが解る。
成す術もなく立ち尽くす陸達だったが、清虎だけは違った。
「ははっ。威嚇のつもりか知らんが、切り札を本番前に見せてどないすんねん。勿体ない。さて、白組団員は揃っとるか?」
清虎がギターに負けずに声を張り上げる。その声に引き寄せられるように、団員たちが清虎を囲んだ。
「ええか、あないな音にビビることあらへん。応援合戦は、音の大きさ張り合うもんやない。今日まで練習してきた俺たちの心意気は、あないなもんで簡単に掻き消されたりせぇへん」
清虎が、一人一人の顔を順に見ながら訴えかける。その目は燃えるようだった。その熱につられ、俯いていた団員たちの頬にも徐々に赤みがさしていく。
「俺たち応援団がオドオドしとったら、白組全体にその空気が伝染してまうぞ。不安なヤツも歯ぁ食いしばって笑え。赤組の応援も青組の応援も、余裕シャクシャクの顔で高みの見物させて貰おうやないか。大音量も上等や。迎え撃って一泡吹かせたれ!」
清虎の言葉を受けて、白組から鬨の声が上がった。
それは問答無用で押さえつけてくる青組からのプレッシャーを、勢いよく跳ね返すような雄叫びだった。
突然上がった威勢の良い声に気を取られ、ギターの音がピタリと止んだ。放送委員がその機を待っていたかのように、マイクを通して午後の部がもうじき始まると告げる。
興を削がれたのか準備のためか、そのまま青組は練習を終了させた。尖った音の消えたグラウンドには、昼下がりの気怠く平和な空気が流れ始める。
やがて午後のプログラムがスタートし、トップバッターである赤組がグラウンドの中央に移動を始めた。委縮してしまっているのが遠目でも解る。円陣を組み掛け声をかけたが全く揃わず、かえって空回りした印象を与えてしまった。
「飲まれちゃってるね」
陸は気の毒そうに眺めたが、他人事ではない。清虎が叱咤して断ち切ってくれなければ、白組も同じような結果になっていのだから。
「持ち直せるとええな」
視線をグラウンドの中央に向けたまま、清虎は憂いに満ちた表情を浮かべる。
元々応援合戦は、単なる余興だった。休憩を挟んで緩み切った緊張感を引き締め、気合を入れ直すための意味合いが強く、そのため応援の出来が各組の得点に反映されることはない。
それでも、比べられればどこの組より秀でていたいと思うのは、人の性だろう。いつの頃からか、応援合戦単独での勝敗が付くようになり、それに伴って応援団の発表も年々過熱していった。
「応援団決めの時は、来たばっかの俺を団長に推すくらいやから、みんなやる気ないんかと思ったわ。実際はめっちゃアツイねんな」
「まぁ、何だかんだ言って祭好き多いしね。三社祭の宮出しなんか、前歯や肋骨折ることもあるくらい本気になるよ。だからさ、みんなちゃんと、清虎が団長なら勝てると思って選んだんだよ。面倒を押し付けたわけじゃないからね」
清虎が、照れくさそうに一瞬だけ目を伏せる。
結局赤組は立て直せないまま発表を終え、逆に勢いづいた青組は、チアリーディングを取り入れた華やかな演舞を見せつけた。流行歌を奏でるギターの音色と相まって、見る者たちを魅了する。
「青組の後にやる白組は可哀想に。やり難いだろうね」
そんな声がどこかから聞こえて来たが、陸たちが狼狽える事はもうなかった。清虎の言葉がお守りとなって、強い心を保たせてくれる。
青組の演舞の興奮が冷めやらぬまま、白組の準備を促すアナウンスが流れた。グラウンドの中央へ向かおうとした団員たちを、清虎が手招きで呼び寄せる。それから応援席を振り返り、応援団以外の生徒らに向かって笑いかけた。
「今から行ってくるけど、俺たちの背中、ここで支えてな。頼りにしとるで」
急に声を掛けられた一般の生徒らは、初めはキョトンとしたまま固まっていた。けれども清虎の放った言葉の意味を理解すると、徐々に誇らしそうな表情へ変わっていく。
「よっしゃ。折角やし皆で声出して行こか。お前ら全員応援団やで。ええか、腹から声出せよ」
清虎が応援席を左から右へ、ぐるっと指さす。
「行くぞ!」
清虎の号令に応えた白組全員の声が、地鳴りのように響いた。「お前ら最高や」と笑いながら駆け出した清虎の後を、陸は興奮気味に追いかける。
青一色だった空気を、清虎の白が塗り替えていくのがハッキリ見えた。
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